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チュートリアルおじさんと異世界巡り  作者: 雪夜小路
Ⅶ章.レベル61~70
113/138

113.イベント「私のカツラを知らないか?」15

 創竜がやる気になっての市街戦が始まった。


 しかし、創竜は戦闘に直接参加しない。

 彼の創った謎のアイテムを木村に渡すだけである。


「はい。これが“伝説の刃こぼれソード”。剣って使ってるうちに刃こぼれするでしょ。いちいち研ぎ直すの面倒そうだったからさ。それなら最初から刃こぼれを固定させとけば良いと思ったんだよね。ちゃんとヒビまで入ってるんだ」


 何が“それなら”なのかさっぱり木村は理解できない。

 ヒビの入った刃こぼれした剣を渡されてもどうしようもない。

 そもそも木村は剣が使えない。刃こぼれした剣ならなおさらである。

 なにより一番の謎は何が「伝説」なのかであった。


「そう! その顔が見たかった! いいねぇ。君は顔も正直だ! “こんなの渡されても”って気持ちが僕でもわかるくらいに伝わってくるよ!」


 創竜はウッキウキである。

 彼の喜ぶ顔が木村を苛立たせる。


「で、この壊れた剣が何なんです? すごい効果があるんですか? なぜ伝説?」

「大抵のモノは斬れるんだ。伝説は後付けでね。歴史の転換点で、とある人物に使わせたからだよ。すごい有名人なんだけど、君は歴史に詳しくないから面白くないなぁ。エルメラルダっていう帝国人ならみんな知ってる人なんだけど……」

「は?」

「まあ、彼に渡してみなよ」


 創竜がグランドを示した。

 彼も剣を持っているのだが、明らかに対人用である。

 耐性を付けた鶏相手にはまったく意味がなく、鶏を牽制するのがやっとであった。

 牽制と呼ぶのもおこがましい。剣の効力もなく脅威がないので敵対判定が鶏から消えて相手にされていないだけである。


「グランドさん。これを使ってみてください」


 木村は剣を渡し、説明する。

 説明する側もされる側も困惑した状態だ。

 伝説の部分を無しでこの困惑なので、伝説の話を付けると余計に困惑だっただろう。


 物は試しということで、フルゴウルが筺で鶏の動きを止めたところでグランドが鶏を斬りつけた。

 普通に斬れた。鶏の羽根が斬れて地面に落ち、体表から赤い血が滴り落ちてきていた。

 木村も驚いたが、斬ったグランドも剣を見て驚いている。


「耐性があったらこんなもんか。でも、なかなかのもんでしょ!」

「はい、素直にすごいです、けど、最初から普通の剣にあの効果を付ければ良かったのでは?」

「それじゃあ、ただの良く斬れる剣じゃない。何を言ってるの?」

「え? いや? ……え?」


 良く斬れる剣じゃ駄目なのか、という言葉が木村の喉まで出かかった。

 絶対に斬れないだろうと思わせて、すごい良く斬れるというところが大切なのかと木村も理解しかけたが、やはり理解にはまだ遠い。


「どう、くーちゃん。なかなかのもんでしょ!」


 おっさんは無視している、と見せかけてわずかに反応を示した。

 眉間に皺を寄せて、首を小さく横に振った。

 ダメダメと言わんばかりである。


「え? 何ソレ? 言いたいことがあるならはっきり言いなよ! 何のために口が付いてるのさ! そんな態度をしてるならもう一個、喋る口を創っちゃうよ! それもいいなぁ……」


 創竜がそこでピタリと黙ってしまう。

 口をポカンと開けて、焦点の合わない目を空に向けている。

 本気で口を創るのかと木村は怖くなって黙って見ていた。


 馬鹿げた会話をしているうちにフルゴウルとグランドが鶏と卵を片付けた。

 戦力が倍になったのは大きい。


『伝令――「鶏が三個目の卵を産みました。また、一個目の卵が孵り始めています」』


 こちらの戦力増加よりも鶏の戦力増加の方が大きい。

 これではが追いつかない。


「あの、創竜さん。他に何か使えるアイテムがないですか? できれば最初の卵をくしゃくしゃにまとめるやつがいいです」


 最初に卵をくしゃくしゃにした奴は使い捨てだったようで、一回で効果を失った。

 あれなら木村でも使えるし、さっさと効果がでるのでスピードが速い。


「……うん? うん。うんうん。うーん」


 創竜は取り込み中のようであるが、いちおう反応はしてくれた。


 羽根を木村に渡してくる。

 くしゃくしゃにまとめるやつではない。

 羽根の反対側が黒く滲んでおり、羽根ペンだと木村もわかった。

 アンティークショップで売られていたのを見たことがある。

 しかし、一番肝心なところがわからない。


「これはどうやって使うんですか?」

「うるさいな! 見たままだよ! それすらわからないなら好きに使いなよ!」


 逆ギレされてしまう。

 それがわからないから訊いてるんだと言いかけたところで、おっさんに止められた。

 おっさんは木村に「やめておけ」と首を振る。


「どう使うかわかる?」

「書いた効果が発動されるぞ」


 漫画でもありそうな効果だ。

 便利そうで地味に不便な効果だと木村は考えている。

 書けなければ意味はなく、どう書くかに焦点が当たってしまう系統の武器だ。

 しかも書いたところで、字が下手だったとかで効果にイチャモンが付くタイプの嫌な系統だ。


 木村は試しに鶏の産んだ卵に羽根ペンで文字を書いてみる。

 しかし、インクがないのか文字が出ない。


「インクとかってどうするんだろう」

「あれはどうだ?」


 おっさんが指で示す。

 その先には地面に零れた鶏の血があった。


「……いや、まあ、書けるだろうけど」


 血をインク代わりにするとか、もはや呪いの類いではないかと木村は思う。

 しかし、むしろ強そうになりそうではある。


 恐る恐る羽根ペンの先に血を付ける。

 そのまま卵に近づいて、表面に文字を書いてみる。


“こわれる”


 卵にヒビがぴしりと入り、殻が崩れた。

 中には鶏になろうとしていた生命の痕跡があり、それも潰れてぐしゃぐしゃになっている。

 周囲からは驚きと賞賛の声があがるが、木村は卵の中身が頭に出てきて喉に吐き気がこみ上げてきてしまう。


 次の卵の処理に移ったが、同じ文字を書くことに躊躇した。

 わずかに考えてからこう書いた。


“消滅する”


 最初に見たこの世界の竜が使っていた技をイメージしたものだ。

 目の前の卵が、上部からゆっくりと見えなくなっていく。あのときほど瞬間的に消えはしないが、十分に満足する結果である。


 卵の処理が終わるとすでにフルゴウルとグランドの姿がない。

 二人は生きている鶏の処理を最優先にして行動を始めた。

 動かない卵の処理なら木村でもできる。


 あちらこちらから悲鳴や魔法の音が聞こえてくる。

 処理は進んでいるが、それでもやはり鶏の被害の方が大きい。

 木村も周囲を気にしつつも卵に文字を書いていく。一つずつ確実に脅威を消していく。


「……え、君、何してるの?」


 木村が文字を書いていると、創竜が横から声をかけてきた。

 心底、何をしているのかわからないという表情が彼の顔に浮かんでいる。


「卵を消すために文字を書いているんです」

「え? くーちゃんが使い方を教えてくれなかったの?」

「書いた効果が発動されるって聞きましたが?」

「だから、えぇ?」

「え?」


 互いに相手を見て疑問符をあげる。


「うん、何だろうね。この前の戦闘の時はもうちょっと発想が突飛で面白かった気がするけど……。ま、いっか。返して」


 創竜が木村からペンを受け取り、地面に垂れていた血をペン先につける。

 空中にペンをすらすらと走らせるとインクが空中に残っていた。

 木村はまるで魔法の世界のようだと感じ、すぐに魔法の世界だったと思い直す。


「“この都にある僕の失敗作が壊れ――”、あ、これだと駄目だ。他の創作まで壊される」


 創竜がうーんと考えている。

 木村も彼がしたいことを理解して横から口を出した。


「“僕100%じゃない創作”でいいんじゃないですか」

「お、いいね。それでいこう。――君は、君自身が動くと駄目だね。視野が急激に狭くなる。一歩後ろに控えていた方が性能が良くなるよ」


 そう言って、創竜はまた文字を起こす。

 空中に残された文字が黒から赤に変わり、燃え尽きるようにまた黒に戻って文字の輪郭を失った。


『伝令――「鶏と卵が突如、砕け散った」とのことです』


 メッセから喜ばしげに伝令が入った。

 同時に、どこかから鐘のような低い音が響いてくる。

 木村はずっと鐘の音だと感じていたのだが、ひょっとして鐘の音ではないのではないかと疑い始めている。


 ヒルドの鐘ならまだしも、卵から鐘の音が鳴るのも変だ。

 地震の前兆のように地面全体から鳴る、唸りのようなものではないか。

 地震ではなく事象の巻き戻しなので、この鐘のような音はひょっとして空間か時間が揺れている音なのかと思って目を瞑った。



 目を開けると周囲の光景がまた変わっている。


 いよいよ最終周に入った。

 先ほどよりも強い鶏が出ているはずである。

 初っ端から問題が起きている。仲間が近くにいない。

 三周目の最後にバラバラで闘っていたのが良くなかった。

 木村が二回連続で聞いた、ウィルの「どうして僕はここに」が聞けない。


『伝令――「フルゴウルさんが消えて、ウィルさんがブリッジにいます。スプリンクラーも作動しています。意味がわかりません!」』

「事象が巻き戻されたんだ。フルゴウルとウィルは交代した」

『はい? 何を言っているんですか? 頭は大丈夫ですか?』

「鶏から距離を取るよう伝令して。たぶんもう普通の人間が勝てる強さじゃない」


 メッセがすぐに伝令を飛ばす。

 そして、すぐに状況の報告が返ってきた。


『伝令! 「街中に鶏がいます!」』


 木村は説明が足りなかったと理解した。

 周回をこなすとどこまで説明すればいいかが曖昧になる。

 さっきも説明したからもういいだろ的な慣れが発生してしまうのだ。


「うん。十匹の鶏がいるから近づかないで」

『十匹どころではありません! 数十匹はいます! 兵士の数も減っていると報告が来ています!』

「……え?」


 木村は創竜を見た。

 創竜は驚きもせず「うん」とわかっている様子である。


「言ったでしょ。昨日のゲストが僕の創作に手を出したんだ。僕の創った段階だと周回を経れば人間に戻れたけど、あのゲストの設定だと鶏になったらもう人間には戻れないよ。禿頭状態の固定化を真似た設定を使ってる」

「それは……、もっと早く伝えて欲しかったですね」

「僕の見立てでは、倒せば全部解除される設定になってると思うよ。だよね?」


 創竜がおっさんを見る。しかし、おっさんは無言。

 創竜の読みはおそらく正しいと木村も思う。


 どうしておっさんがメンバーにアコニトを入れるように勧めたかが木村もわかった。

 鶏になったらおそらくもう戻れない。たとえパーティーメンバーであってもだ。

 そうなると現状は非常にまずいことになっている。


「おっさん! メンバー交代! フルゴウルをアコニトに!」

「わかったぞ! ……いや、駄目だな。アコニトはまだ復活していないぞ」


 どうやらウィルはしっかりアコニトを始末したようだ。

 スプリンクラーがなぜ作動しているかにもようやく理解が追いついた。

 時間の巻き戻しならまだしも、事象の巻き戻しでは死の巻き戻しまでは受けつけない設定になっているのだろうと木村も想像できた。


『フルゴウルさんがピンチのようです。いきなり戦場に立っていて、筺による攻撃は効かず、鶏の攻撃力も一撃で致命傷ものだと』


 さすがに最終周だ。

 鶏の耐性も攻撃力も遙かに高くなっている。


「とりあえず、フルゴウルさんを誰かに交代しないと。防御力重視でボロー。いや、万が一やられたらまずい。テュッポ? 近距離戦は致命傷を負いやすいし……」


 この時、木村の思考は危険な方向に走っていた。

 本来考えるべき「誰なら勝てるか」ではなく、「誰なら犠牲になっても良いか」を考えてしまっている。


「……あ、そうだ」


 そして後者の問いに一つの答えが生じた。

 偶然にもその答えが前者の「誰なら勝てるか」の答えにも繋がったのである。


「竜人にしよう。おっさん。フルゴウルを竜人に交代で」

「わかったぞ」

「竜人?」


 竜という単語に創竜も反応した。


「メッセ。フルゴウルさんに伝令を。竜人と交代させるから無理をしないでくださいって。他の人たちにも距離を取るよう指示を! それとウィルとモルモーに竜人をカクレガの入口に誘導させて」


 すぐにメッセが伝令を飛ばす。

 フルゴウルは飛龍に乗って木村の近くまでやってきた。

 ある意味で木村の近くにいるのが一番安全ではある。空から攻撃をしていれば最初の鶏なら反撃も受けない。

 グランドは戻ってきていないがどこで何をしているのかがわからない。

 もしかしたらすでに鶏になっている可能性もある。

 いてもいなくても変わらない。


 時間が経過し、カクレガの入口が開いた。

 中から一つの姿が飛び出してくる。


「わっちがやる! わっちがやるぞ!」


 わっち教徒の竜人が叫んでいる。

 リコリスにやられてからは大人しかったが、すぐに元に戻った。

 普段は訓練室で暴れておっさんに黙らされているか、園芸場でゴードンの畑仕事を手伝わされているかだ。

 手と足に土が付いているのを見るに、畑仕事を手伝わされていたようである。


 フルゴウルがカクレガに戻ると、竜人が鶏に攻撃を始める。

 鶏にも物理耐性があるはずなのだが、竜人の攻撃が通っているように見えた。


「あれは失敗作だね」

「やっぱりそうなんですか」

「あそこまでくると見なくても肌で感じちゃうよ」


 やはりそうかと木村も納得して頷く。

 哀れみを込めて竜人を見つめる。


「待ちなよ。失敗作だからって哀れむのは間違いってもんだ。あれは紛れもない失敗作だけど駄作ではないよ。……うん? あのゲスト、あれにも手を出してるの?」

「そういうのってわかるんですか?」

「そりゃあねぇ。それだけじゃなくて他にもいろいろ手が入ってるね。埋め込まれた殺戮衝動、ダイちゃんと似た死の気配、よくわからないほどの大きな歪み、文字の王から刻まれた自我の芽、一昨日来てた赤髪の崩壊の因子……、と大きいのだとこのあたりかな」


 木村は驚きを超えて一種の恐怖を創竜に感じた。

 ふざけた態度をしているが、竜人の鑑定は恐ろしいほど正確だ。


「失敗作だけど駄作ではないというのは?」

「いや、だって、これだけ混ぜられて活動できる生命体なんて他にいないでしょ。仮に僕が創るとしてもあそこまでの耐久性を維持したまま、一見まともそうに活動できるようにするのは骨が折れるよ。成功した失敗作だね」

「矛盾してませんか?」


 失敗作なのに成功しているとはこれ如何に。

 意味がわからないという木村の顔を見て、創竜は顔色も変えずに答える。


「創作してるとよくあることだよ。当初考えてるのとどう考えても違ったのができあがっちゃったんだけど、当初の想定とは違うってだけで出来自体は悪くないってやつ。失敗って言葉だけ取り出すとマイナスのイメージだけど、次の構想やステップアップには必ずしも失敗は悪いわけじゃないんだよ。この手法だとこんな結果になるのかって発見もあるからね。……君にもわかるよう言いかえよっか。あの竜人坊やは本来想定していた完成形から外れている点では間違いなく失敗作なんだけど、次の作品には今回の製作過程を繋げることができるという点では成功してる。次の作品がとっても楽しみだね」


 創竜は嬉しそうだ。

 一方で木村は嫌なことを聞いてしまったと後悔している。

 要するに、あの竜人は耐久性が取り柄という失敗作には間違いない。


 さらに、次の完成形とやらもあるということだ。

 その完成形とやらは間違いなく木村たちの前に脅威となって現れる。


「いろいろ混ざった属性で殴ってるから攻撃も効いてるね」

「攻撃が通ってるのってそういう事情だったんですか」


 木村の気になっていたところも創竜が説明してくれた。

 竜人の攻撃が物理耐性のある鶏にもダメージがあるのは、ヘンテコな属性が含まれているためだったようである。


「それより、その羽根ペンで今回の鶏も除去してください」


 木村も解説を聞いていたが、そんな状況ではない。

 さっさと鶏を消してもらうべきだ。竜人のダメージも通るが、逆に鶏からのダメージも大きい。


「無理だね。耐性もあるし、僕の設定よりも大幅に強化されてる。こんなおもちゃじゃ倒せないよ」

「他に何かないんですか?」

「あるよ! えい!」


 創竜がおっさんに近づいて背中をペチリとタッチした。

 タッチしたところに赤い口紅を塗りたくったような口がついている。

 木村もそれが何かをすぐに理解した。三周目の終わり付近で口を創るとか言っていた。

 本当に創ってしまったらしい。


「さてさてぇ、“伝説の刃こぼれソード”が駄目な理由を教えてもらおうか?」

「お前は何もわかっていないぞ」


 おっさんの背中に貼られた不気味な口がひとりでに動いてしゃべり出した。

 声はまさしくおっさんであるが、顔についた口は閉じている。


「お、いいじゃんいいじゃん。ふへへ、後ろの口は素直じゃないかぁ」

「氣の使い手に武器など不要。己の腕こそ――」

「ふん!」


 おっさんが背中に手を伸ばして、くっついた口を剥がしてしまう。

 口はシールのようにペラペラで、おっさんの手により圧縮され潰されてしまった。

 丸めたシールを創竜に投げつけ肩に当たる。ゴッとシールを丸めたとは思えない音がした。


「イッったぁ! でも、なるほどね。あの人間、くーちゃんと同じ力が使えたんだ。それなら僕はわかんないや」


 納得納得と創竜は頷いている。

 氣というのは木村もどこかで聞いた記憶がある。

 黒竜がウィルに対魔力の修行を付ける時に、おっさんがウィルには氣の才がないと話していた。


「氣って何なんですか?」


 ゲームや漫画では時々出てくる設定だ。

 己の内側から湧き上がる力だとかだろう。魔力との違いがあるのだろうか。


「君、氣って言うのはね」

「はい」


 創竜が珍しく真剣な顔を見せた。

 おっさんの力にまつわる話とわかり、木村も自然と居住まいを正す。


「実は僕もよくわからないんだよね! 創りたいけど創れないものリストにずっと入ってる!」

「えぇ」

「竜だと使えるのはくーちゃんだけでしょ。人間とかだとたまーに使える奴がいるんだよ、だいたい無自覚なんだけど。一時期、僕も力の正体を知りたくて躍起になってね。うまく使えるのを一人捕まえていろいろ弄ってたんだけど、なぜか、そう、なぜか! 赤やんの耳に入ってブチ切れされてさ。あの時はほんとに大変だったんだから! わかってる?! 僕の創造物が全部ぶっ飛ばされて、僕も消し飛ぶ寸前だったんだから!」

「大変だったな」


 おっさんはにこやかである。

 創竜の言う「赤やん」とやらに木村も覚えがあった。

 泡列車を爆発させて消し去った赤竜だろう。キレるとやばいのは竜同士でも変わらないようだ。

 そして、彼女に創竜のことをチクったのがおっさんだとも理解した。


「あ、ちょうど良いね。まだ僕の子たちにも氣の耐性はないんだから、くーちゃんがあの人間に使い方を教えてあげなよ。それなら残りの鶏も余裕で倒せるでしょ」


 今度は創竜がにこにこして、おっさんが露骨に嫌そうな顔をしてみせた。

 嫌そうというよりは渋っている顔である。


「おっさん、氣のチュートリアルをして欲しいんだけど」


 木村も創竜の意見を後押しする。

 創竜はただ力の出し方を見たいだけであり、木村は鶏を倒すためである。

 理由こそ違えど、手段は同じであった。


「わっちが! わっちがやったぞ!」


 竜人が鶏を倒して、次の鶏を目指して走り去っていく。

 木村もアレはほっといて良さそうだと考えた。鶏になったら交代させるつもりである。

 それよりも姿が見えないグランドが今は重要だ。


「条件が揃えばしてやるぞ」


 おっさんが観念した。

 どうやら氣のチュートリアルが見られるようだ。


「待った! 条件をちゃんと言ってよ! 後になって『条件が揃ってないから駄目だぞ』とか言ってやらないつもりでしょ!」


 創竜は疑り深い。

 かつて騙されたことがあるような口ぶりだ。

 おっさんは創竜の指摘を黙殺する。


「カァアアアー。くーちゃんはすぐそれだ! 都合が悪いことがあるとだんまりを決め込む! ずるい! ずるいぞ!」


 おっさんも見るからに創竜にイライラしている。

 アコニトと違って創竜の発言が間違っていないので、余計に苛立ちを感じているのかも知れない。


「条件は三つだぞ。一つ、鍛錬していること。これはクリアしているな」


 おっさんもついに口を開いた。

 チュートリアル的な口調で木村に向かって話している。


 氣のチュートリアルの条件で「鍛錬していること」の必要性が木村にはわからない。

 しかもクリアしているようだ。おっさんがいつも筋トレしていることを見るに条件だと思わなくもない。


「二つ、コミュニティを大切にしていること。これはその場で確認するぞ」


 木村と創竜がそれぞれ疑問符を浮かべた。

 氣を使うのにコミュニティを大切にしていることが必要なのだろうか。

 一つ目の「鍛錬していること」よりもさらに謎に深まってくる。


「三つ、一番重要なことだぞ。まだ鶏になっていないことだな」


 これには木村たちも賛同を示した。

 すぐに木村たちは飛龍に乗せられ移動する。




 一番生死を気にしていなかったグランドのところへと全速力で向かった。

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