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チュートリアルおじさんと異世界巡り  作者: 雪夜小路
Ⅶ章.レベル61~70
112/138

112.イベント「私のカツラを知らないか?」14

 木村たちは会議室を出た。

 飛龍の飛び口から現場へ向かう。


 すでに戦いは始まっている。

 それは同時にドライゲンの終局の一端でもある。


「出し惜しみなんてしない。最初に鳴いた鶏が十羽。それで全てだよ! でもね、それぞれが卵を産むんだ! 何が産まれてくるのかな? とっても楽しみだね!」


 兵士に縛られ抱えられた状態で創竜が楽しそうに話している。

 自らの創ったものの解説をしているが、全員がその声に苛立ちを感じていた。


 すでに現場の兵士から報告が上がっていた。

 街の中を、飛龍並みの大きさの鶏が走り回っている、と。




 鶏が街並みを走っていた。

 色は真っ黒か真っ白だと木村は思っていたのだが、普通の鶏が大きくなっただけである。


「すでに攻撃を加え、一羽を消滅できたようです」

「あれ、もうやられちゃったの?」


 しかもすでに一羽を倒していると報告も来た。

 兵士たちで倒せるとなると、考えていたよりもずっと弱い。

 創竜もやられたことに小さく驚いている。


『さらに一羽の消滅を確認と報告があります』


 残りは八羽。

 まさに今、ウィルが魔法で攻撃して一発で仕留め、七羽になる。

 それ以降は報告が徐々に遅くなった。


「数が減るごとに硬くなってるのかな」

「正解! 君たちが闘ったヒヨコも数が少ないほど耐久値が上がってたよね。それだよ」


 木村の予想に創竜が飛びついた。

 解説をしてくれるのは助かるのが、嬉しそうに説明するのはやめてほしいし、最初から説明して欲しい。


 残り二体までのところに来て問題が発生した。

 鶏が卵を産んでしまった。


「親鶏は撃破しましたが、この卵は……」


 鶏はウィルで削りきった。

 問題は卵である。こちらも討滅クエストⅡと違い、普通の卵に見える。

 卵が別の地点に二個。こちらには手が出せない。攻撃していいのかどうかが不明だ。

 木村は初日の黒兵誕生を思い出し、背筋に冷たい汗が流れていくことを自覚する。


「これはどうなんですか?」

「卵だよ」

「見ればわかります。攻撃しても良いものですか?」

「ふふふ~、どうかな~?」


 創竜がうざったく笑う。

 木村もいい加減に腹が立ってきた。

 片方の卵に攻撃を加え、様子を見るという結論に落ち着いた。


「え? ええっ? 攻撃するのぉ? 大丈夫かなぁ?」


 木村は実力行使で創竜を消し去ってしまおうかと考え、おっさんに相談することにした。

 今の創竜はパーティーメンバーだ。木村でも消し去る方法が存在する。

 それができるかどうかを確認しておく。


「この創竜も召喚者スキルで自爆できるの?」

「できるぞ」


 できるようだ。

 創竜もおっさんを見て、「え、本気で言ってる?」と焦った様子で声を返してきた。


「で、創竜さん。卵を攻撃するとどうなるんです?」

「やってみればわかるよ」

「やってみてから取り返しがつかない、というのを避けたいんです」

「大抵の物事は取り返しがつかないし、事前にどうなるかわからないよ。あの卵も同じ。攻撃したら、卵の中にいる未知の生命体がどうなるかわからないだけだね」


 答えになっていない。

 とりあえず予定どおり、一つの卵に攻撃を加える。

 炎で殻が黒くなり、ヒビが入っていった。ヒビが徐々に大きくなって卵が割れる。

 中から液体がドロリと零れてきて、地面に広がった。卵の中にはまだ固形的な生物の姿がない。


「誕生できなかったね。残念」


 創竜はやや残念そうにしている。その姿に今までの演技らしさを木村は感じなかった。

 割れた卵は消滅もせず、生ゴミのようにそこにあり続ける。

 創竜はその生ゴミを見つめていた。


「もう一つの卵も壊してしまいましょう」


 卵を破壊する旨の伝令がもう片方の部隊に届き、攻撃音が聞こえてくる。

 音のする方へ木村たちも飛龍に乗って飛んでいく。


 木村が最後の卵に着くと、兵士たちの攻撃によりちょうど卵が割れるところだった。

 小さなヒビが入り、そのヒビが徐々に大きくなっていく。


「何かおかしいぞ」


 兵士の一人が呟いた。

 木村たちも気づく。卵のヒビの入り方がおかしい。

 通常であれば地面のひび割れのようにデタラメな線になるはずだが、まるでヒビが文字のように浮かんできている。


 見覚えのある文字だ。

 ルーン文字のどれかだったはず。

 文字がくっきりと浮かび上がると卵の中から音が鳴り響く。


 まるで鐘の音である。

 低く重く木村たちの体へ伝播し、さらにはドライゲンの都全体に響き渡った。

 この頭に響き渡る感覚に木村は覚えがある。ヒルドの持っていた鐘を思い出してしまう。


「これってまさか」

「うん、そのまさかだね。僕がオマージュしたのは、何も君が闘った相手だけじゃないよ。ここを騒がせた全ての存在が対象なんだ」


 木村が瞬きをすれば周囲の景色が変わった。




 兵士たちの姿が消え、割れた卵が消え去っている。

 近くにいたウィルが訳がわからないといった様子で周囲を見渡している。


「……なぜ、僕は街にいるんですか?」

「時が、巻き戻されたんだ」


 メニューを開いて時刻を確認する。

 いったいどのタイミングから再開なのか知るためだ。


 “6:35”


「……あれ? 巻き戻ってない?」


 時が巻き戻されたのなら6時ちょい過ぎか、それより前に戻っていなければおかしい。

 ウィル同様に木村もよくわからなくなっていた。


「時間の巻き戻しは僕の創造じゃ難しくてね。しーやんに手伝ってもらえればだけど絶対無理だし、事象の巻き戻しが精一杯だよ。リソースの約半分がここにかかってるね」


 創竜が渋い顔をしている。

 しかし、時間が巻き戻らなくても十分に恐ろしい効果である。


 ウィルが言うところでは、鶏の声が鳴り響いたところだったようだ。

 アルマークからも急にどこかへ消えてしまったと伝令が来た。


「伝令――『とりあえず鶏を撃破していってください』」


 事象が巻き戻るのでとりあえず木村は鶏の全撃破までは先ほどと同じように進めるつもりでいた。

 卵の取り扱いに気をつければ良い。おそらく割ったら巻き戻される。


『伝令――「一体目が撃破されました。負傷者が出ましたが何とか倒せそうです」』


 伝令が入る。

 1回目の流れとやや違いがある。

 1回目では負傷者などいなかった。それどころか攻撃もしてこなかった。


「ふふふー」

「どういうことですか?」

「君と同じだよ。君が白黒鶏のパターンを覚えて対策を打ったように、僕の創造物も君たちの行動を覚えて学習していくんだ。君が攻撃するなら鶏も攻撃をする」


 すなわち、鶏たちが木村たちとの戦いで経験値を得ているということだ。

 そして、レベルアップした鶏になっていく。


「どうしてそんな設定を入れちゃったんですか?」

「おもしろそうだったから!」


 創竜は満面の笑みである。

 逆に木村の顔は露骨に引き攣ってしまう。

 絶対にこの竜はボコボコにしてやる、と木村は誓った。

 そして、彼は考えてしまう。人や神を犠牲にせずとも、竜を犠牲にすればいいんじゃないかと。


「それとね。君たちと同じで、あと二回は巻き戻せるようにしてるから!」


 木村の顔がまたもやひきつる。

 とにかく、まだ二回繰り返すことはわかった。

 すなわち、創竜製の鶏はあと二回パワーアップの余地があるということだ。

 速く倒す必要がある。長引けば長引くほど相手にこちらの攻撃パターンが知られる。

 ウィルをフルゴウルに変更することも視野に入れなければならない。


 鶏も卵も硬くなったがやることは変わらない。

 とにかく攻撃して、倒して、卵を割っていくことである。

 この過程で、鶏がどう成長しているのかわかった。見てすぐに異常に気づく。


 鶏が炎や物理攻撃の耐性を得ていた。

 卵も同様だ。ウィルの炎魔法ならまだ効くが、兵士の魔法はまったく効かない。

 物理耐性も兵士からの攻撃を弾いて非常に厄介である。


 ウィルも氷や岩で対応するが、やはりあまり得意ではない魔法なので効きが悪い。

 さらには鶏の強化もあって攻撃が通用しない。最終的には炎のごり押しで落ち着いている。


『伝令――「郊外地区にて卵がもうすぐ孵る」とのこと』

「間に合いませんでしたか」


 ウィルもかなり本気でやっているのだが、対応が間に合わない。

 パーティーの他三人があまりにも使い物にならない


 ヅラウィは行方不明である。

 グランドはやってきたものの、攻撃手段が物理攻撃だ。しかも威力はしょぼい。

 創竜は解説役であり、戦闘に加わる気はまったくない。どちらかと言えば敵役に近い。


「ここはもうすぐ割れるよ。兵士に任せて孵る卵に向かおう」


 ケルピィの助言に従い、木村たちはすぐに飛龍で移動する。

 三日目の池がある地点の近くだ。卵はヒビが入っており、中から力を受けて割れたところである。


「ヒヨ、コ……?」


 最初は色が黄色だったのでヒヨコかと思った。

 大きさも増殖ヒヨコを思い出させてくるので少しドキッとする。


 しかし、どう見てもヒヨコとは違う。

 ヒヨコに腕はない。ツノも生えていない。

 目の前の卵から出てきたヒヨコもどきは首の側面から腕が生えている。

 頭からは細く長めの角が一本伸びていた。夢に出てきたら飛び起きそうなほど嫌な姿である。


「これは?」

「すごいでしょ! 最初の十体が生み出すヒヨコはね。僕の知ってる要素をランダムに組み合わせて誕生するようにしたんだ。ランダムと言いつつもここ数日で見た要素を優先的に出すようにはしてるんだけどね!」


 木村も腕と角が何かがわかった。

 討滅クエストⅡの最初の二戦である。

 すなわち、ヒヨコの腕と角は、白ゴリラと緑鹿のものだ。


「討滅クエストⅡと同じ対応をしてみよう」


 距離を取り三地点からの遠隔攻撃。

 まず兵士から攻撃することで兵士の属性を吸収させる。

 その後でウィルが攻撃、すかさず兵士で攻撃し、またウィルが攻撃。この繰り返しである。


 ヒヨコが小さいことと、速いことは面倒であったが攻撃力はさほどでもない。

 攻撃された兵士が数メートル飛んだが死にはしない。

 キャラならなおさら被害はない。


「この組み合わせはさすがに手慣れてるぅー」


 創竜が「お見事お見事」と手を叩いている。

 ヒヨコが倒れ、ヒヨコの内部から奇妙な音が響く。

 心臓の鼓動のようにヒヨコから低温が響き渡り、周囲の景色が変わっていく。


 全ての鶏とその副産物を倒したのでまたもや事象が巻き戻されていった。



 またもやウィルが周囲を見渡していた。


「……なぜ、僕はここにいるんですか?」

「事象が巻き戻されたんだ」


 木村がウィルに事情を説明する。

 ようやく三周目である。これを突破してもまだ一周ある。


 それより場所が地味に厄介だ。

 郊外で街から離れており移動がしづらい。


 近くにいた鶏にウィルが攻撃するが、まったく効いている様子がない。

 それどころか鶏が露骨に反撃してくるほどである。

 他の地点でも苦戦の報告が来ていた。


「おっさん。ウィルをフルゴウルと交代で」

「わかったぞ」


 フルゴウルの筺は爆破するものが多いのだが爆発属性ではない。

 よくわからない独特な属性である。逆に言えば鶏もまだ耐性を付けていないということだ。


 炎は完全耐性を得たようでまったく効いている様子がない。

 炎以外の攻撃で鶏を攻撃するが、他属性も効きが悪くなっており倒せない。


 それでもカクレガが来るまではウィルで削れるだけ削ってもらう。

 どこにあるかわからないが、戦闘メンバーの交代は地味に時間がかかる。


『伝令――「鶏に倒された兵士が鶏になっている」とのことです』

「えっ? ごめん。なんだって?」


 伝令の内容が理解できず木村は聞き返した。


『鶏に倒された兵士が鶏になっています』

「はい?」


 やはり理解できない。


「あっちゃあー、伝えてなかったー。鶏が人間に致死ダメージを与えると鶏にするから気をつけてねー」


 わざとらしい口調で創竜が警告した。

 遅すぎる警告である。


「は? 待ってください。鶏にするってどういうことです?」

「言葉のとおりだよ。死なれると困るから鶏にするんだ」

「死なれると困る? え?」


 木村は混乱している。

 創竜から「死なれると困る」なんて言葉が出ることが木村の予想外である。

 でも、なぜ鶏にすればセーフなのか。


「次の周回で元に戻るし、ドライゲンの人たちが全滅しても鶏状態なら元に戻せる。人間は死んじゃうとダイちゃんのところに行って帰ってこられないでしょ」


 後半は理解できないが、前半は木村も理解した。

 要するにほぼ死にかけたら鶏に姿を変えて、人間に戻す処置をするということだ。

 やること、言うことはめちゃくちゃで神経も逆なでしてくるが、この処置にはありがたみを素直に覚えた。

 同時に不安もある。鶏から元に戻るなら全滅はしない。もしかしたらこの戦闘は女神の決定づけた破滅の運命とは別関係ではないか、と。

 とりあえず最初に感じた疑問を木村は口に出す。


「意外です。どうしてそこまで? 人の命なんて何とも思ってないものかと」

「モノをはっきり言う子だねぇ~。お返しとして僕もはっきり答えてあげる。人の命そのものは何とも思ってないよ。でも、生きている人間集合体は価値がある。僕も考えつかない物を作ったり、僕の創った物を利活用してくれて、そこから新たなアイデアが生まれるからね。それにあるるんは僕を見つけ出して、事情をある程度わかった上で話ができるから便利だ。あと、王国との間のゴミも黒ピッピに消してもらったから、また遊び場でいろいろ楽しませてくれるでしょ」


 徹底的に自分本位な考えだった。

 それでも突き抜けている分だけ粘っこさを木村は感じない。

 この創竜はアコニトと似たところがある。むかつくし殺してやりたいが、その怒りは表面的ですぐに発散する。

 おそらくこの創竜も自爆させれば怒りを忘れるだろう。少なくとも現時点では、だが。


 彼としては過去の女神のクロートーのような粘っこいやり口の方が嫌いである。

 もちろんラケシスのやり方も苦手だ。まどろっこしい。


 ここで疑問が一つ木村の中に生まれた。


「それではどうして白黒鶏の時は戦いに参加しなかったんです?」


 この都を創竜なりに大切(?)に考えていることはわかった。

 便利だから壊したくないという利己的な発想だが、結果として都市が守られるなら良い。

 問題はその都市が守られないことが何度かあったことを木村は知っている。

 討滅クエストの特殊イベント戦でこの竜は姿を現さなかった。


「遠くで見てたよ。でもさぁ、創作意欲が湧いてくると他はどうでもよくなっちゃうんだよね!」


 どこまでいっても自己中だ。

 すでに終わったことでもあり、開き直られると木村としても問い詰めようがない。


「はっきり答えると言った手前、もう一つの事情も言っとくかな。――いろいろモノを創ってると、『これは失敗したなぁ』ってのもわかるんだよね。これって、他のヒトが創ったものであってもわかるんだ。あの白黒鶏は失敗作だよ。で、余所様の失敗作に僕の創作物をぶつけるのも嫌だなぁって感じて手が出なかった」

「どうしてそう思われるんですか?」

「えぇー、嫌じゃない? 他人の失敗をどうして僕が拭わないといけないのさ? 他人の尻についたクソを、君は自分の手で拭えるの?」

「あ、いや、そちらじゃなくて白黒鶏が失敗作って方です」


 創竜は白黒鶏を失敗作だと断定した。

 逆に木村は完成度の高い難敵だと感じていた。

 その差異がどのあたりかが彼は気になったのである。


「君はあの白黒鶏をどんな奴が創ったか想像できる? 顔とか、臭いとか、体格、あと性格とかだね」

「どんな人が創ったかですか?」


 木村は目を閉じた。

 しばらく考えてみたが、ただ一敵キャラだ。

 設定をいろいろと取ってくれば、別に誰が創ったとかは関係ない。


「想像できないでしょ。一応ね。『卵と鶏のどっちが先だったでしょうか』ってテーマはうっすら読み解けるよ。わかるのはテーマだけ。その先がねー。創り手がまったく見えない匂わない聞こえない届かない。意味不明な設定と頭でっかちなテーマだけが前に出すぎて、テーマの先がない。創り手の個性、ここを見て欲しい、僕はこの感情をこの作品で伝えたいだって熱がまるで感じない。――だから、あれは失敗作。なんで黒と白をぶつけたら壊れるの? 君は、この設定に創り手の輪郭が感じられる?」


 客観的に見れば、普通の姿をした人間が普通に問いかけているだけである。

 それだけなのに木村は創竜の問いにたじろいだ。


 彼自身がなぜ自らがたじろいだのかが理解できていない。

 たじろぎながらも彼は考えて返答した。


「いや……、感じないですね」


 白と黒で相殺というのはゲームの慣習みたいなもので特に創作と言えることもない。

 そこから作者までたどりつくことはないが、別に木村としては作者がどうこうよりも被害を減らせればそれでいい。


「それでは創竜さんの創られたあの鶏は違うと?」

「痛いところだねぇ。あれも似たようなものかな。でも、失敗作というよりは習作。君たちを参考に生命の成長と次世代への繋がりを込めたんだけど、もうちょっとやりようが……うん?」


 そこで創竜は今までのトークが嘘のように黙ってしまう。

 ウィルが削っている鶏を静かに見つめる。その横顔には今までのようなふざけた感情が浮かんでいなかった。



 鶏が卵を産んだところでカクレガがやってきた。


「待たせたね」


 フルゴウルがやってくる。

 ウィルも鶏一匹すら倒せずにやや悔しそうだ。


「頼みがあるんだけど」


 木村はカクレガに入る寸前のウィルに話しかける。

 やってもらわなければならないことがあった。


「アコニトをカクレガの入口近くまで連れてきて。クスリで飛んでたらやっちゃっていいから」


 今回でフルゴウルの筺にも耐性が付く。

 そうなると次はさらに強くなった鶏を倒さなければならない。

 物理、魔法一般、筺と耐性が付くのなら、有効な攻撃ができるのは限られる。

 猛毒に耐性はまだ付いていないので、鶏を集めることができれば範囲攻撃もできるアコニトが有効だ。

 それもまともなアコニトだ。クスリで正体をなくしていたら使い物にならない。


「やるのが辛かったら俺がやるぞ」


 おっさんが腕を回している。

 自分がアコニトを殴りたいだけだと全員が思った。

 ウィルが控えめにおっさんの申し出に辞意を示しつつカクレガに入っていく。



 交代するとフルゴウルはすぐさま鶏を攻撃し始め、鶏がのけぞっている様子からやはりこちらはまだ有効だとわかる。

 鶏を倒し、卵も攻撃していく。やはり卵も硬い。


『伝令――「鶏が二個目の卵を産みました」』


 木村の中に焦りが生じた。

 鶏はまだ一体しか撃破していない。

 他の九体鶏がまだ生きており、それぞれが卵を二つ産んだ。

 すなわち未確認の卵は十八。このままいくとその十八の卵からさらに厄介なひよこが出てくる。


 もうすでに詰みに片足を突っ込んでいると推定される。

 倒すべき対象が鶏も含めると三十に近く、それをほぼフルゴウル一人で削りきることが可能なのか。

 しかも時間経過とともに卵はどんどん増えてくる。卵から産まれるランダムヒヨコも厄介な相手であることは確定だ。


 木村は考えないようにしていたが、状況がここに至れば考えなければならないことが一つある。

 横で思案している創竜に彼は尋ねる。


「産まれたヒヨコも卵を産むんですか?」


 創竜は語らない。

 フルゴウルが攻撃する卵を見つめている。


 木村の中に諦めが生じてきた。

 鶏になっても復活するなら全滅しても良いんじゃないかと。


「ねぇ。くーちゃん」


 創竜がおっさんを呼んだ。

 くーちゃんがおっさんだと木村はわかるが、なぜくーちゃんなのかがわからない。

 他の竜にしたって変な名前で呼んでいる。それよりも創竜の喋りのトーンが先ほどよりも低いことが彼は気になった。


「答えなくても良いけど、答えた方が面倒は少ないとは言っとくよ。――僕の創作にゴミを混ぜたのはくーちゃんかな?」

「違うぞ。昨日のゲストだな」


 おっさんが初めて創竜に対応した。

 真顔で応えている。


「あ、そう。あのゲストはまたここに来るのかな」

「もう来ないだろうな」

「くーちゃんがまた会うことは?」

「あるだろう」

「じゃあ、僕の代わりに殺しといて」

「俺は手出しができないからな。キィムラァに頼むんだぞ」


 そこまで会話が済むと、創竜が木村を向いた。

 喜怒哀楽が抜けた創竜の顔が木村を見る。創作物を語っている楽しげな時との落差が大きく、木村はやや不気味さを覚える。

 彼の心境を伝える表情が人間の顔には存在しないから、今の彼に表情がないのではないかと木村は考えたほどである。


「君。昨日のゲスト、潰しといてね」

「あ、はい」


 ドスがきいていた。

 木村は無意識にイエスと答えてしまった。


「はぁ……、自分の手で創作を壊すのは嫌なんだよなぁ」


 創竜がポケットに手を突っ込んでごそごそと漁り、その手に何かを取りだした。

 木村が見た限り、くしゃくしゃにされた紙切れである。


「これ、あの卵にくっつけて。君以外が触らないようにね」


 木村はまるめた紙切れを受け取る。

 ゴワゴワして触り心地はあまり良くない。小学校の頃に掃除の時間、こういった紙切れをボール、ホウキをバットにして野球をした思い出が蘇る。


 これでどうしろと言うのかわからないが、フルゴウルに攻撃を止めてもらい卵に近寄る。

 そして、紙切れを卵にくっつけた。


「うっわ……」


 卵が紙切れのようにくしゃくしゃとまとまり、木村の手に持っていた紙切れを包み込んでしまう。

 木村は驚いて手を離したが、紙切れが地面にコロリと落ち、風で転がる。


「ふふ、すごいでしょ。名付けて“アイデアころころ”だよ。何となく創ってしまった失敗作をまとめとるんだ。見た目からは想像つかないほどの技術が使われてるんだよね。紙に織り込むのがすごい大変だったんだよぉ!」


 ネーミングセンスが悪い。

 本物の紙に織り込んでいるようだが、わざわざ紙にする必要はあったのかと木村は考えた。


「えっと、どういうことです。昨日のゲスト(ラケシス)が何かしたんですか」


 作品を語るだけだった創竜が卵の撃破を手伝っている……ように木村は見える。

 ありがたい話なのだが、どういう風の吹き回しなのかを彼は聞いておきたかった。


「昨日の奴が、僕の創作にゴミを混ぜたんだ。いくつかの設定が弄られてる。これはとうてい許せることじゃないね!」

「えっと、弄るのが許せないんですか?」

「そうだよ! 僕の創作は僕が全て手ずから創る。僕100%なんだ。他人の手が入ったらもう駄目だ。それは僕の創作じゃない!」


 木村にとってはわかるようなわからないような話である。

 木村たちが闘って壊すのは別にかまわないのに、創る過程に手を出したら駄目なのか。


「それで卵を壊すのを手伝ってくれるんですかね?」

「自主回収だよ! こんなのを世に出しておくわけにはいかない。恥ずかしいよ。あのゲストは僕がどれだけ手間と労力をかけてこれを創ってるのかわかって欲しいね!」


 創竜はわかりやすく怒っている。

 最初の時と比べれば、かなり落ち着いてきた怒りだ。


 こうして三周目の半ばにして創竜が正式にパーティーに入った。


 手伝ってくれるのはありがたいことだと木村は思う。

 しかしながら、やはりこの創竜はアコニトと似ているとも思ってしまう。


 元を辿れば原因はほぼ全て創竜にある。

 リコリスほどではないが、木村も似たような考えが生じつつある。



 やはりこいつは生かしておくべきではないのではないか、と。

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