111.メインストーリー 8
討滅クエストⅡが終わり、イベントストーリーも最終日になってしまった。
ラケシスがドライゲンの運命を今日で終わりにした関係で、緩やかなイベントも地獄に様変わりしようとしている。
昨日、ラケシスが立ち去った後で対策をいろいろと練っていたのだが、そもそも何が起こるのかわからない。
予想その一として、イベントの主要キャラであるヅラウィが見つからないことから、彼に関連するイベントが考えられる。すなわちイベントストーリーのボスだ。
予想その二として、討滅クエストⅡのドタバタで、監視していた対象が行方不明ということからそちらの方面――おっさんの知り合いなので竜が何かを起こす。
予想その三は、女神関係のまったく意味不明な敵だ。
どれを引いても厄介だ。
それぞれがドライゲンを終わらせる力があるに違いない。
最悪な予想としては、これら全てが並行して発生する場合である。これは詰みだ。手に負えない。
木村の決意で運命を変えることはできるとしても限度ってものがある。
それぞれの予想に対しても対策を考えたが、やはりこれにも限度が存在する。
けっきょく、なるようにならないということだ。
朝も四時前から目を覚まし、朝食を食べてカクレガを出る予定だ。
イベントが起きるとしても六時以降と推測される。
三十分前には入城する段取りだった。
訓練室でメンバーの確認をする。
ウィル、フルゴウル、モルモー、シエイである。
決戦が考えられるのでシエイをアコニトにするつもりだった。
しかしながら、アコニトは禁薬初日の夜には酒でベロンベロンに酔い、そのままハッパを焚いてアウトとなった。
まさか、「ハッパをやめる」と言ったその日から破るとは木村も考えていなかった。
おっさんに捻られたが、木村もかける言葉がない。
「ちょっと早いけど行こうか」
そろったので出発する。
モルモーが眠そうだが、城で寝てもらえば良い。
問題が起きるのが6時とは限らない。いつでも動けるところにいるなら何をしていてもかまわない。
カクレガを出ようとしたところで待ったがかけられた。
おっさんである。
「キィムラァ。連れて行けるのは一人だけだぞ」
久々のメンバー制限である。
これがあるということはボス戦は間違いない。
ボス戦はわかるが人数がおかしい。聞き間違いかと木村は思った。
「え? 連れて行けるのが一人? 外すのが一人じゃなくて?」
「連れて行けるのが一人だ」
メンバー全員から血の気が失せていく。
ただでさえ強敵が予測される中で、連れて行けるのはたったの一人。
もし仮に栄えある一人に選ばれボス戦で負けて全滅する。そうなるとドライゲンは滅亡する。
その責任を一人に負わせようということでもある。
「時間はかかるが途中で変更は可能だぞ」
「いや、そうかもしれないけど……、一人。えぇ、一人って……」
変更が可能でも連れて行けるのが一人ということに変わりはない。
むしろ残りの三人枠が誰なのかが気になってくる。
それによって一人を決めるべきだ。
「残りの三人は誰なの?」
「グランド、ヅラウィ、…………創竜だ」
言っているおっさんが一番嫌そうな顔をしていた。
グランドはわかる。変な力を持っていた。それにドライゲンの兵士だ。
ヅラウィもイベントに絡むからまだわかる。
「創竜って、あの普通のおじさんみたいな人?」
「俺にはわからないな」
しらばっくれている。
普段は無言なので、珍しい反応と言えば珍しい反応だ。
わかったこともある。
ヅラウィと創竜が味方なら敵はそれ以外だ。
イベントストーリーのボス、女神の刺客、まったく別の何かの三択。
ここに来てまったく別の何かは出てこないだろうから、イベントボスか女神の刺客の実質二択と考えられる。
「あの存在が絡むなら私は出られませんね。上司から近寄るなとお達しが来ています」
モルモーがNGを出した。
どうやら冥府の導き手に共演不可を言い渡されたようだ。
一番多場面に適応できるキャラが排除されてしまう。
残りはウィルかフルゴウル、シエイである。
木村は消去法でシエイを外す。面と向かって言えないが、今のシエイはウィルの下位互換だ。
二人同時ならまだしもどちらか片方を選ぶならシエイは選べない。
ウィルかフルゴウルの二択。
攻撃力で言えば現状はウィルが強く、守備力も含めるならフルゴウルだ。
今回の場合はドライゲンをボスの攻撃から守るという点で、フルゴウルの方が良さそうと木村は判断した。
さらに広範囲で問題が起きるのであれば、王や兵士との連携も必要となる。
この点においてもより広い視野を持つ彼女に利がある。
「それじゃあフルゴウルさんにお願いしようかな」
「本当にフルゴウルで良いのか?」
おっさんが木村に一歩距離を詰めて尋ねる。
非常に珍しい対応である。いつもなら誰でも良いといった雰囲気を出している。
アコニトを選ぶと「後悔しないか」などの特殊対応があるが、他はどうでも良さそうなのだ。
ところが今日は、やめておけという強制力を木村は感じた。
「フルゴウルさんだと問題があるの?」
尋ねてみるがおっさんは返答しない。
システム的に答えられないパターンもあり得たので、木村は少し考える。
ボス戦との相性が悪いとかそういうのかもしれない。
「ボスがきついとか?」
おっさんはやはり無言。
戦闘中に敵情報の解説はたまにあるが、事前に教えてはくれない。
敵でないなら味方に問題があるのかもしれない。具体的にはおっさんがしらばっくれている竜の存在だ。
「創竜と相性が悪いとか?」
またもや無言。
どうしようもない。
「じゃあ、ウィルにしようかな」
「本当にウィルで良いのか?」
おっさんがさらに木村に一歩詰めてくる。
見上げるほどの距離になってきた。
「どうしろと……」
「私では駄目な理由があるようだね」
「僕の力が不足しているということでしょうか」
フルゴウルもウィルも今回の作戦には初期から深く関わっているので、積極的に参加しようという姿勢がある。
二人から事情を話せと責められ、おっさんもやや困ったような顔をしている。
口には出せない別の理由がありそうだと木村は感じた。
「逆に、誰かお勧めっているの?」
おっさんがにっこりと微笑む。
どうやら正解を引いたようだと木村も喜ぶ。
「女狐が良いんじゃないか。他のパーティメンバーはブリッジから補佐に徹したらどうだ」
全員が怪訝な顔になった。
同時に参加に対する意欲が数段階は落ちた。
おっさんはアコニトのパーティー参加をいつも嫌がっている。
その彼が、ドライゲンの運命を決するパーティー選抜でアコニトの名前を挙げた。
異例中の異例である。
「えっと……、どうしてアコニトが良いの?」
おっさん無言でにっこり。
全員が胸騒ぎを覚えた。いつもアコニトがひどい目にあう時の顔である。
間違いなく悲惨なことが起きる。
木村たちは事態を甘く考えていたことを自覚する。
ドライゲンの運命が決しているということは、木村の介入がなければ確実に滅ぶということだ。
木村も不安になってくる。特殊イベントで繰り返す時の中、ドライゲンはすでに何度か滅んでいる。
今までの滅亡で眉一つ動かさなかったおっさんが、今回の作戦では滅ぶ前に口を出す。
全員が確信した。絶対にロクな滅び方ではない。
木村も滅び方に思うところがある。
ラケシスが、木村を決心させるために定めた滅びの運命だ。
すなわち、木村に「神を犠牲にして世界を救おう」と決心させる悲惨な滅びに他ならない。
「カクレガなら安全ということかな?」
おっさんは無言。
木村もフルゴウルの言葉を遅れて理解した。
ドライゲンが滅びるだけではない。カクレガの外に出ていると復活できるキャラですら取り返しが付かない事態になり得るということだと。
もっと言えば、アコニトならどうなってもかまわないというおっさんの意図が見える。
いつもの木村ならさすがにアコニトを庇ったが、今日はかばうにかばえない。
あまりのクズッぷりに木村も呆れている。
「そういうことなら私はブリッジから補佐に徹しさせてもらおう」
フルゴウルはあっさりと辞退した。
復活してなんとかなるならまだしも、復活すら危ぶまれる場に足を踏み出す気はないようである。
「僕は……、途中まで参加して、状況を見て交代というのはなしでしょうか?」
「もちろんかまわないぞ。キィムラァ。戦況を見てメンバーを交代させることで、戦闘を有利に進めるんだ」
パーティー交代の説明チュートリアル口調に場違い感を覚える。
交代できるということは、初っ端から最悪の事態が起きるわけではないと察する。
ある時点で取り返しの付かない何かが生じる。
木村たちが城に到着すると、見覚えのある顔が一つ増えていた。
「やぁ、くーちゃん。僕だよ。創だよ! おひさー!」
手を挙げて示すのは、街を歩けば三人ぐらいすれ違いそうな顔をしたおじさんである。
おじさんは木村の横にいたおっさんに仲良さそうに挨拶をした。
「呼ばれたからやって来たよ! 黒ぴっぴとも会ったんでしょ! 喜んでたよ」
おっさんは完全に無視している。
おじさんとおっさんが混ざって木村は意味がわからない。
「えっと、あなたが創竜さんですか?」
「え? 聞いてない?」
「遠回しにしか」
「うっそー」
あの時のおっさんは全身から嫌な気分をかもしてぽつりぽつりと口にしていた。
創ることが得意な奴とも話していた気がする。
「キィムラァ、時間が押しているぞ。情報共有を早くおこなうべきだな」
露骨な話題逸らしであるが、おっさんの言うこともまた事実。
破滅イベントが6時からなら、残された時間は30分を切っている。
時間がない。アルマークたちに、今朝判明した事実を説明しなければならない。
木村はパーティーメンバーが一人に限定された話をした。
アコニトが推薦された点は省いておく。ウィル以外のメンバーについても説明した。
逆にアルマークからは創竜のことについて聞かされる。
討滅クエストⅡの途中から行方不明だったが、今朝早くに城を訪れてきたようだ。
監視対象が自らやってきて、「木村たちに呼ばれたから待たせて」と作戦室でお茶を飲んで待っていたとのこと。
「しかし、何というかすごい自由にさせているんですね」
創竜はお茶どころかご飯まで食べている。
とても監視対象とは思えない待遇を受けているように見える。
「過去にいろいろとあった」
「懐かしいねー。あそこは美術館にするんだっけ? 完成したら僕も作品を寄贈するよ」
美術館と聞いて木村も思い出した。
討滅クエストⅡの六日目。リコリスが暴走した更地である。
「どういうことですか?」
「過去に都民リストを作っていたところ、過去の経歴が一切不明の人物が浮かび上がった」
アルマークが説明してくれる。
彼が王になってから、日本でいうところの住民票を作ることになったらしい。
厳密に調べていく途中で、年齢不詳、往来不明、老若男女を問わず住民から知られているが名前も様々に呼ばれ、顔すら認識の変わる謎の人物が存在した。
兵士たちが問い詰めて、最終的に不審人物ということで殺したら爆発して辺り一帯を消滅させたという。
それが目の前にいる創竜ということである。
「人間の体は脆いからね。心身に異常が起きたら爆発して周囲を消し飛ばして、創り直す時間と余裕を稼ぐようにしてるんだ」
創竜はへらへら笑っている。
笑っているがやっていることはえげつない。
つまり、爆弾が都市の中で歩いているということになる。
「でも、それ以降はちゃんと話をして互いに深く干渉しないってことで手を打ったよ。監視は付けてたけどね。ほらあれだよ。何て言うんだっけ? 雨降って地固まる?」
創竜は笑っているが、他の誰も笑わない。
兵士からは怒りのこもった視線を向けられているがまったく気にしていない。
気にするどころか気づいてさえいない状態である。
木村はおっさんを真似て話題を変える。
「とにかく! 今日は予想できない事態が起きます!」
「そのとおりだ。これまでの諍いは横に置き、各々の力を存分に発揮し乗り切らなければならない」
アルマークも木村の援護をしてくれ、とりあえず場のギスギス感は薄まった。
グランドはいつもどおり見回りに出ており、今は現場から呼び戻されているがまだ来ていない。
パーティーメンバーの残り一人のヅラウィは昨日から行方不明である。
開始まで1分を切っているが緊張感はない。
主に創竜のせいだ。
「ねぇねぇ、くーちゃん聞いてよ。僕ねぇ。すごいの創ったんだ。久々にインスピレーションがわいてさ。昨日できあがったんだよね! 見たい? 見たいよねー? 見せたげる!」
はしゃいでいる創竜に対し、声をかけられているおっさんはガン無視である。
視界に入ってもおらず、声も聞こえていないかのように振る舞う。
「何を創ったんですか?」
みんな忙しそうなので木村が創竜の相手をすることにした。
創竜の見た目は人だ。しかし、本体ではない。創竜が創った人の形をした容れ物だ。
それでも都市の中に数年もいて特に問題なく生きているところをみるに、そこまで異常な性格をした竜ではなさそうだ。
人の見た目どおり話もかなりできている。爆発する以外ではもしかしたら一番まともな竜なのではないかと木村は感じる。
「おっ! よくぞ聞いてくれた! ほら! 昨日までここを騒がせてた生命体がいたでしょ! あれだよ! 仕組みがこの世界にはなかったからね。僕も同じようなのを創れそうだから創ってみたんだ!」
場が固まった。
全員がそれぞれの作業を止め、視線を創竜に向ける。
木村が代表して創竜の発言を確認する。
「昨日の特殊イベント戦の敵をパクって、創ったと言うんですか?」
「違う違う! パクりじゃない。オマージュ! ここ大切だからね! あくまであれらの存在を尊敬しつつ、僕の思い描く一つの完成形を創りあげたんだ!」
パクりかオマージュかが大切か?
大切なのだ。
パクりなら攻略法は同じである。
しかし、オマージュなら攻略法は異なる。
余計に厄介ということだ。
「しかし」を重ねて言うならば、やはり重要なのはパクりかオマージュではなく、創ったというところであった。
今回のボス戦の正体が木村にも何となく予想ついてしまう。
「えっと、それは今どこに?」
「昨日から誤作動を起こしちゃってね。今はどこに行ったんだろう? でも、すぐにわかるよ。もうちょっとで――」
コケコッコー
コケコッコー
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コケコッコー
コケコッコー
コケコッコー
コケコッコー
レアの出ないゴミ10連ガチャのように鶏の鳴き声が響いた。
わずかに時間差を開けて、東西南北から割れたスピーカーを通した馬鹿みたいな大音量である。
「これこれ! 誤作動の影響が不安だったけど設計どおり始まったよ! あー、よかったー!」
創竜は嬉しそうに告げる。手をパチパチと拍手までして喜びを表現している。
彼以外の全員が硬直してしまっていた。
時刻はちょうど6時になったところである。




