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11.遠征

 待ちかねていた詫びの詫びが入り、ガチャチケットがまたしても返ってきた。

 木村は躊躇いなくガチャを回した。


 ガチャからおっさんがまったく出なくなり、☆3以上のみの排出となった。

 素晴らしい調整がおこなわれたと木村は感激している。


「やぁっはー!」


 しかも最初の10連でいきなり虹色の扉が出たのである。

 ☆5だ。幸先が良い。木村は誰が出てくれるかとうきうきで待っている。

 最悪、アコニトや専用武器でも重ねられるし、他のキャラや武器でも良い。何でもウェルカムだ。

 木村は性能を求めているのではなく、最高レアという価値を求めていた。


 虹色の扉が開き、木村の目の前に何かがズドンと落ちてきて、木村の視界は真っ黒になる。

 その何かは文字通り木村の目と鼻の先に落ちた。壁かと木村は思った。


「なんで壁が急に?」


 またバグかと木村は壁を避けて扉を見る。

 控えめに言って、超絶な美少女が虹色の扉の先にいた。

 現実にもいるのかもしれないが、少なくとも陰キャの木村が接点を持つことはない。


 少女は目に見えない壁に阻まれ、その壁を怖そうと叩いているようだがびくともしない。

 彼女の目に、みるみるうちに大粒の涙が浮かんでくる。


「どういうこと? どうして? 返してよぉ……! お父さんからもらった私の剣! 持って行かないでっ! お願――」


 虹色の扉が閉まった。

 ☆5らしきキャラは最後まで扉の向こう側にいた。

 漆黒の鎧を着た黒髪の美少女は、泣きながらこちら側に来ようとあがいていた。

 どうやら専用装備の演出だったらしく、名も知らぬ少女の武器だけがこちら側にやってきたようだ。

 後味の悪さに木村は思わず立ち尽くした。


 なお落ちてきたのは壁ではなく剣だった。

 飾り気の一切ない無骨な剣が床に突き刺さっている。

 ちなみにここは訓練室であり、今までここの床を壊すどころか傷を付けることができた奴すらいない。


 本当にこれは剣なのか、と木村はペタペタ触ってみる。ひんやりと冷たいが、どこかぬくもりを感じた。

 大きさは木村の身長よりもなお高い。彼の頭より上にある柄を握るが、ピクリとも動かない。

 校舎の鉄骨と説明されても納得してしまうところだ。


『ゾルの剣』


 剣の情報が木村へ流れ込んだ。

 名前もシンプルすぎて逆に怖さがある。

 ゾルという名にも、剣の方にも余計な修飾が一切ない。

 「名前など飾り、実さえあればいい。違うか?」という力強い主張を感じる。


「立派な剣だ。いつか彼女を出迎えたときのため、大事に取っておくべきだぞ」

「そうだな」


 しかし、この剣はどうすればいいのか。

 よくある便利な収納アイテム箱に入れれば体積は関係ない。

 あくまで入れればだ。入れることすらできそうにない。持てないどころか動かせない。


「俺が運ぼう」


 おっさんが片手で剣を引き抜いた。

 移動のために横にして両手へと持ち替える。

 そのまま廊下へ出て、アイテム箱のある部屋へ向かう。

 途中でゴミ捨て場から出てきたアコニトの顔に剣をぶつけつつも、なんとか部屋にたどり着き、アイテム箱に無事収納された。


 その後も木村は10連ガチャを何度か引き、ゾルこそ手に入らないものの☆5を二体手に入れた。

 嬉しいのは常に一瞬で、問題はその後から付いてくる。


 ――素材がない。


 育てたいキャラはたくさんいるのに、素材が追いつかない。

 ソシャゲのあるあるだ。ちなみにこれは中盤でも終盤でも起こりえる。

 素材が足りないと感じているうちが、楽しみどころとも言われているくらいだ。


 問題は素材不足にとどまらない。

 部屋がキャラでいっぱいである。さらに食糧問題も出てきた。


「悩んでいるな。キィムラァ、あいつらを遠征に出してみないか。見ろ。みんな、外に出たくてうずうずしているぞ」


 みんな部屋の中でごろごろしている。

 とてもうずうずしているようには客観的にも見えない。


「こっちへ来てみろ。俺が地図をかけておいたぞ」


 おっさんは部屋の壁へと向かう。

 そこには前から何かがかかっていると木村は知っていた。

 地図だったらしい。地図はほとんど埋まっておらず、白地図も良いところであった。


「今いるのがこのあたりだな」


 おっさんが中心からやや右の部分を指で示す。赤い点があった。どうやらこれが現在位置のようである。

 少し左に帝都と書いてあり、×で文字が潰されている。帝都の実状をよく示していた。


「地図が埋まってない地域に仲間を送り込むことができるぞ。仲間達は遠征した地域で経験を積み、成長してくれるからな」


 よくあるシステムだな、と木村はうんうんと頷く。

 おっさんの話はまだ続く。


「それにだ。彼らがその地域のアイテムを手に入れてくれる」


 それもあるあるだ、と木村は頷いた。

 むしろ、その機能の方がどのソシャゲでもメインかもしれない。

 ある程度、キャラが育てばあとは消耗アイテム回収という役割が遠征システムに残される。


「しかも地図を埋めたり、地域の情報を集めてくれるぞ」


 木村はそういうこともあるのかと、こちらにはじっくりと深く頷いた。

 この世界の情報が木村達には欠如している。仲間達がそれを補ってくれるというのはありがたい。


 情報の確保、アイテムゲット、材料無しでの成長、カクレガの飽和状態の解消と良いこと尽くめである。


 木村はさっそくおっさんの指導の下、遠征チームを決めていく。

 キャラには戦闘スキルの他に、カクレガ用のスキルというものが設定されていた。


 遠征で特殊ボーナスがつく奴もいる。

 特に☆が低い奴に多い。完全に使われないキャラとなるのを防ぐ役目もあるのだろう。


 遠征スキル持ちの奴に加えて、☆5や将来的に使えそうな奴を入れていく。

 五体一組として二組を遠征に出せるようなので、さっそく遠征へ向かわせる。


「キィムラァ、期間はどうするんだ?」


 壁の地図にチームのリーダの顔印が現れている。

 さらにその横に数字が出た。これを変更すると期間が変更できるとおっさんは言う。

 よくわからないが、しばらく使えそうな余裕もないので、木村は数字を設定できうる最大値にしておいた。


「よし。それじゃあ見送るとしよう」


 基地の外に出ると、時刻は朝であった。

 夜のうちに雨が降ったのか地面がほんのりと濡れている。

 周囲に人もいない中で、木村とおっさん、遠征に出る十人の仲間達、また、彼らを見送る多くの仲間が集まった。


「頼んだよ」

「任された。役目を果たすとしよう」

「そこそこにやってみせるさ~」


 木村の声にそれぞれのリーダーが応えた。


「長旅になる。途中で飲むと良い」


 おっさんが二組に持たせたのは、好感度がアップする酒だった。

 大げさなと木村は思ったが、見送られた二組はおっさんに一言感謝を告げる。


 キャラ達がそれぞれの別れを済ませていく。

 ☆3のテイは留守番組だが、旅立つ彼らに泣きながら抱きついていた。


 彼らは去った。

 別々の方角へ向かう二組を木村達は見送る。


「寂しくなるな。心が引き裂かれるようだ」

「……うん」


 大げさなと思いつつも木村は言葉短く返答する。

 木村も初☆4のフィルクが遠征でいなくなるのは、もの悲しいと思う部分もある。

 彼はカクレガでも木村にちょこちょこ話をしてくれていた。


 漢詩の授業で友人を見送る詩があったな、とふと思い出した。

 詳しくは思い出せないが、あれも雨が降った朝ではなかったか。


「渭城の朝雨……」


 その後が木村には思い出せなかった。

 もっと授業を真面目に聞いていれば、と悔やむ気持ちを抱いたのはテスト以外では初めてだった。


「彼らが帰るまでの一年間。俺達も彼らに恥じないよう強くなるとしよう」

「うん。…………は?」


 木村はぼんやりと聞いていた。

 話の後半部分から理解していき、強くなろうという部分は理解した

 前半の部分に戻ったところで、理解できない部分に突き当たった。


「一年?」

「そうだぞ。遠征だからな。しっかり情報を集めてくるに違いない」

「途中で帰って来たりはしないの?」

「キィムラァ。別れた直後で寂しいのはわかる。だがな、見送ってしまった以上は『途中で帰らせる』などと、軽々に口にすべきではないぞ。決心して旅立った彼らへの侮辱だ」


 そんな話ではない。

 いや、おっさん達にとってはそうだったのか。

 木村にとっては数日くらいの感覚だったのだが、彼らにとっては一年だった。


 なぜここまで大げさに見送りをしたのかようやく木村にも理解できた。

 一年の別れならこれくらいはするだろう。


 しかし一年……、もうサービス終了してるんじゃないかと木村は思った。


 そして、「サービスが終了したとき、自分はどうなるのか?」という命題を、今の木村が心に抱くことはなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 短い尺で話を連ねる形式だと話の中に毎回ネタを仕込んでこられるんでコメディ寄りの作風になってきますね 木村くんはこれは……アホかな? 善良なふつうのDKだったのが頭の方が足りてないDKな感じし…
[良い点] >設定出来うる最大値 あっ 3年くらい飛ばされるんかと思いました、流石にサ終するかな… 仲間上限あるかわかりませんが帰ってくるまで変更できなさそう
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