109.イベント「私のカツラを知らないか?」12
とうとう討滅クエストⅡも最終日である。
イベントストーリーの最終は明日だが、今日を乗り切ればもう終わったようなものだ。
本日の助っ人は運命の女神の次女――ラケシスが来る予定となっている。
木村も彼女とは水の館で、水の人型を通して話したことはあった。
押しつけがましい相手で、半強制的な選択に辟易した記憶が残っている。
前回は人型を通してだったが、今回は本体が来ることも考えられ、目が覚めたら目の前にいたという状況を避けるため早めに目を覚ました。
訓練室にはウィルやフルゴウル、おっさんといつものメンバーが揃っている。
彼らも昨日のリコリスの魔力が印象的だったのか、今朝は随分と警戒をしているように見えた。
「時間になった」
5時になり木村が時刻を告げた。
10秒ほど経っても、特に変化が現れない。
「……神気を感じません」
「私にも見えないね」
ウィルとフルゴウルの感知には引っかかっていないようだ。
木村も本当に来ているか心配になってくる。ただ、別に来ていないなら来ていないでかまわない。
どうするべきだろうか?
「ん?」
景色が薄暗くなり、時の流れも緩やかになった。
“こちらから会いに行く”
“ここで待つ”
“それ以外”
懐かしの選択肢が現れる。
これを見て木村は助っ人が来ていると確信した。
とりあえず彼は“ここで待つ”を選んだ。
基本的に受け身な姿勢である。
「来てる」
ウィルとフルゴウルが木村を見た。
二人は、木村が彼らとは別の方法で来訪を察したと考えた。
「…………来ませんね」
「キィムラァくんはなぜ来ていると言ったのかな?」
待っているが本当に来ない。
木村も本当に来ているのか疑問になってきた。
「選択肢が――あ、また出た」
説明しようとしたら、また選択肢が出てきた。
先ほどと内容は変わらない。
“こちらから会いに行く”
“挨拶をしに行く”
“それ以外”
“ここで待つ”の選択肢が消えてしまった。
代わりに現れたのは“挨拶をしに行く”と上と内容が同じである。
木村は“それ以外”を選ぶ。
“こちらから会いに行く”
“挨拶をしに行く”
“行く”
どうやっても木村たちを来させたいという思いが伝わった。
木村も思い出す。水の館の時もボス部屋で挨拶に来るのを待っていたな、と。
神としての威厳か尊厳かはわからないが、自ら人の側へ出向くことを拒んでいるのだろうか。
木村はこの選択肢の対処法をすでに知っている。
無視である。選択肢から目を背けることで選択肢以外の行動ができる。
討滅クエストⅡの特殊イベント戦も、昨日の攻略でパーティと兵士たちだけでもクリアできそうと判明した。
助っ人はもう要らない。ましてやさほど会いたくもない助っ人だ。代理が来ているとしても関係者に変わりはない。会わないにこしたことはない。
「よし」
今日は助っ人をつけず、自分たちだけでクリアしよう。これが木村の選択だ。
来てもらっているであろうラケシス、もしくはその代理には悪いが部屋で待っていてもらうことにする。
木村は選択肢に背を向ける。
景色が元に戻りかけ、また暗転し始める。
“こちらから会いに行く”
“挨拶をしに行く”
“行く”
また選択肢が現れた。
さらに無視するとまたまた選択肢が現れる。
「めんどくさ」
さすがに疲れてきたので“こちらから会いに行く”を選ぶ。
ようやく景色の暗転が解除された。
「選択肢ですか?」
ウィルがいきなり呟いた。
木村も途中に選択肢が挟まれ、先ほどの流れを忘れかけていた。
どんな会話をしていたか慌てて思い出す。
「……うん。そう。そうなんだ。選択肢が出た。こっちから部屋に行かないと駄目っぽい」
木村は面倒な表情を隠すことなく、訓練室の出口に向かう。
おっさんはもちろんとして、ウィルとフルゴウルも彼の後ろに付いていく。普段とは逆の光景だった。
彼が先頭を歩くと言うことは滅多にない。
まるで主人公のようである。
木村は自室の前に立った。
ウィルとフルゴウルを見返したが、二人はやはり何も感じていないようだ。
木村も本当に部屋の中にいるのか不安になってきた。
いちおうノックをしてみる。昨日と同じだ。
「入りなさい」
声がした。
扉越しでもわかる。女の声だ。
驚いているのはウィルである。
彼はまだ部屋の中にいる人物の魔力を感じることができていない。
扉が開き、昨日と違って熱波が襲い来ることもない。
木村の部屋の中には女性がいた。
グレーのスーツ姿で、下はスカートではなく折り目のついたスラックスを履いている。
細身の眼鏡に、茶色がかった髪は後ろで一本に束ねられていた。
表情は真顔で感情を読み取ることはできない。
綺麗な女性ではある。
それ故にきつめというか厳しい印象を受ける。
彼女は木村の椅子に座り、扉越しに立つ木村たちを見ていた。
面接官のようである。
「近くに来なさい」
発言は命令なのだが、あまりにも姿と合っている。
これで“こちらへ来てください”などと丁寧な言葉を使われれば、逆に違和感があったに違いない。
「失礼します」
木村は一礼して入った。自分の部屋なのに。
ウィルとフルゴウルも彼らなりの礼を女性に示して部屋へ入る意志を見せた。
女性もわずかに頷くことで彼らの同席を許可する。
女性の命令に従い、木村たちは女性に近づいた。
しかし、女性は発言することなく黙って木村たちを見ている。
気まずい。いたたまれない雰囲気だ。叱られているときの空気に近い。
少なくとも木村は、彼女の雰囲気が悪い理由を知っている。選択肢を無視したのが良くなかった。
「木村くんに質問しましょう」
いきなり質問。
本当に面接のようになってきた。ある種の圧迫面接だ。
空気は気まずいが、さほど恐怖は感じない。スクルドとワルキューレ一行に比べればまだ可愛い。
あの時は本当に殺されることを覚悟した。
「以前に会ってから幾十日と経ちましたが、自身に課せられた役割を理解しましたか?」
前にもされた質問である。
あの時は木村は「理解していない」と答えた。
今も理解していない。ただ、問われると質問が自らの心の底に淀む。
淀みがしばしば声となって自らに語りかけてくるのである。
これが自身の役割ではないか、と。
全ては可能性と想像の産物であり正解かどうかはわからない。
木村は正直に答えることにした。
「理解していません。その問いの次に問いだった『主人公の自覚』もまだはっきりと浮かび上がっていません。――ただ、『カゲルギ=テイルズ』の意味を知り、また今回の討滅クエストⅡを通して、あなたがたが僕に何をさせたいのかは感じとる、と言いますか、推測はできるような気がします」
「よろしい。あなたの思うところを聞かせなさい」
女性が木村に続きを促した。
その顔からはやはり思惑を読み取ることができない。
「カゲルギ=テイルズの世界はあと半年足らずでサ終によって消える。消えてしまう世界を継続させるために大神オーディン、それにあなたの妹……と思いますが、スクルド神たちは奔走していた。そして、彼らは未来に繋ぐ可能性をもぎ取った。前回のイベントがそれです」
女性は頷きもせず木村の言葉をただただ聞いていた。
ただ聞かれて反応が何もないというのが、随分と心地よくないものだとヒルドの時に木村も知った。
この時点ではまだ事実の再確認である。木村の感じているところは入っていない。
女性が反応を示していないのはそのためである。
「あなたがたは僕に、世界の住人を犠牲にさせたいのではないですか?」
やはり女性に反応はない。
木村は先を続ける。
「今回の討滅クエストⅡで、大神オーディンやクロートー神はこの街の住人を殺そうとしていたように思えます」
大神オーディンはヒルドを助っ人に送った。
彼女の力があっても言葉は足りず、木村たちだけでは都の住人は全滅していた。
クロートーはリコリスという半ば狂キャラを送ってくれた。しかし、アコニトと会わせることにより暴走した。
結果的に上手くいったが、下手をすれば街の住人や建設物を崩壊させることだって考えられた。
クロートーは助っ人にみせかけて、実は破壊のための刺客を送ったのではないか。
もちろんリコリスに刺客という自覚はなかっただろう。
「もしも、あなた方の行為が僕に『主人公の自覚』を芽生えさせるためのものだとすれば、主人公の自覚とは『僕が世界の住人を犠牲にする存在』だとわからせることなのではないでしょうか」
言うべきことは言った。
実は討滅クエストⅡよりもずっと以前から思っていた。
木村の通るところで犠牲が次々に生じる。アコニトに自覚するなと戒められたがどうしても考えてしまう。
ここ数日のイベントでその気持ちはさらに強まり、確信とまでは言わないが口にできるようにまで膨れ上がってしまった。
女性は反応しない。
睨むようにジッと木村を見つめている。
間違っているなら間違っているでいいから反応をしてほしい。
「木村くん。あなたの思うところは正しい」
女性が口を開いたかと思えば、あっさりと木村の発言を正解と認めた。
木村としてもあまりにもすんなりと認められすぎて、肩すかしを食らった気分である。
「本来であればその思いには推測により至るべきでなく、己が内側よりわき上がるべきなのです」
ここで女性がため息をついた。
まっすぐ木村を見つめていた目もやや伏し目がちになる。
「――大神とスクルドは未来を切り拓いたという美酒に酔っている。今さら鋏を納めたところで幾千の過ちの上に築いた虚ろで不確かな未来であることに変わりはないというのに。――ウルズ姉様は考えが浅はか。因縁で人形を揺さぶるなどと……。過去のか細い糸を繰り出すことこそが姉様の務めであり、操ることには慣れていないだろうに。とうとう糸は切れ、人形は自らの意志で歩み始めた。もはや、彼の者は人形ではなくなってしまった」
女性がぶつぶつと呟きながらこめかみ付近を指で押さえていた。
ようやく彼女の感情が見て取れた気がする。姉と妹に挟まれて苦労しているようだ。
「『僕が世界の住人を犠牲にする存在』というのは事実としてそうではないですか? ごくごく最近でこそ住人たちは死を免れていますが、そもそもそこに自覚と推測との違いは必要なんでしょうか?」
犠牲になるならどちらでも同じだ。
死ぬ側からすれば、木村がしているのが推測か決意かなど関係ない。
「大いに必要です。推測による行動は選択であり、自覚による行動は決断になります。あなたの行動はもはや決断になり得ない」
木村は女性の発言がやはりいまいちわからない。
選択だろうが決断だろうが同じ行動をして、同じ結果になるのなら変わりがないのではないか。
「決断でなければまずいんですか?」
「あなたが決断をしなければ、私の選択は覆らない」
木村はますます意味がわからない。
「あなたもご存じのとおり、本日より172日後、サ終により『カゲルギ=テイルズ世界は消滅する。世界の滅亡とともに、あらゆる命もまた滅ぶ』――これこそが私の割り当てた運命です」
なんてことをしてくれたんだ、この女神、と木村は思った。
木村だけでなく、後ろにいた全員も同じである。しかし、運命の女神としての務めなので彼女も役割を果たしているだけである。
「それって、取り消しとかできないんですか?」
「一度定められた運命は覆りません。故に運命なのです」
「でも、前のイベントで大神は未来を掴んだって喜んでいましたよ。一緒に乾杯もしました」
「いかにも。あなたが決断をしたからです。私の運命決定の力を無視しうるあなたが、未来の存在を助けると決断したから世界の運命が変わってしまったのです。ああ、慎重に動きなさいとあれだけスクルドに告げたのに。いったい、大神にどうやって伝えたのか……」
スクルドは口下手だった。たぶんうまく伝えていない。
木村も悪いことのように言われているのだが、普通に考えて良いことではないのか。
そもそも木村は何が問題なのかわからなくなってきていた。
「世界の運命が変わったのなら、カゲルギ=テイルズの世界も続くということでしょう。大神ではないですが、良いことではないのですか」
「木村くん。あなたは誤解している。大神にとって世界が続くということがどういうことなのかまるでわかっていない」
伏し目がちだった女性の視線がまた木村とかち合った。
「大神がのたまう『カゲルギ=テイルズの世界が存続する』とは『世界の因子がわずか一欠片でも残れば良し』です。何か一つでも残るなら後は全て消え去ってもかまわないということになります。事実、スクルドやワルキューレはおろか大神も滅ぶという私の割り当てた運命は依然として変わりがありません」
「ぉぅ……」
木村も言葉を失った。
オーディンやスクルドは助かるんだろうと思っていたが、そんなことはないらしい。
さすが神と言うべきか考え方がぶっ飛んでいる。
そこで木村はふと思い返す。
「でも、全滅ではないでしょう。ロゥが未来にいるんですから、少なくとも彼が過ごした街はあり、そこまで発展するくらいの人は残るはずです」
「正しい。話を付け加えましょう。私の割り当てた運命に変化はありました。『世界は消滅を免れる。世界は壊滅するとともに、あらゆる命もまた滅ぶ』。免れたのは世界の消滅であり、世界の壊滅と命の全滅は免れていません。大筋は変わっていないのです。大神の勝ち取った世界とは、カゲルギ=テイルズ世界の残り滓程度のものになるでしょう。ましてやロゥなる子も果たして二世界により生じる人かは怪しい」
最後の意味はよくわからない。
とりあえずわかるのは、思ったよりも救いのない話だということだ。
木村はふと思うのだ。もともと運命を割り当てたあなたが悪いんじゃないですかと。
「木村くん。私はですね。あなたに覆してもらうのならば、私の割り当てた全ての運命を覆して欲しかったんです。そのために多くの手を打ってきました。しかし、全て水泡に帰してしまいました」
切実な声だった。
神としての務めに従って運命を決めた。
それでもその定めを変えて欲しいという女神の思いは伝わってくる。
木村も彼女の思いの丈を聴いて、ようやく罪悪感らしきものが芽生えつつあった。
「壮大な話をしているところ申し訳ない」
木村が女神に同情を覚え、沈黙していると後ろからフルゴウルが声をあげた。
「質問をしてもよろしいだろうか?」
「僕も疑問があります。彼女の後でかまいませんので聞かせてもらいたいです」
「許しましょう」
二人とも質問を許された。
先にフルゴウルが女神に問いを投げる。
「キィムラァくんに『自身が世界の住人を犠牲にする存在』と自覚させようとしたのはわかったんだがね。『その自覚』と『カゲルギ=テイルズ世界に割り当てた運命が覆ること』との因果がわからない。彼が『世界の住人を犠牲にする覚悟を抱く』と、なぜ『カゲルギ=テイルズ世界に割り当てた運命が覆る』のだろうか?」
「僕も同じところに疑問があります。おそらく神聖術を行使するのでしょうがどのような術式ですか? 付け加えるなら、世界の住人を犠牲にすることへの言及が何もないのですが、そのところあなたはどう考えているのでしょうか?」
女神が二人を見据えた。
彼女は嘘偽りなく女神としての彼女の言葉を告げる。神託である。
「サ終により、この世界とカゲルギ=テイルズ世界とは衝突します。この衝突の直前に、両世界の地表に生きる命を犠牲にして、カゲルギ=テイルズ世界とこの世界を融合させる力と変換させます。命を力へと変換する術式はすでに知っていますね。私たち神々の力を結集させ、我々の力をあなたの言うように『神聖術』と呼ばれる位にまで昇華させます。この犠牲術式に木村くんの決断による力が加われば、どのような運命とて撥ね除けることがかないましょう。そして、世界は一つの形となって存続することになるはずだったのです」
女神は答えた。
明らかに後ろ二人の雰囲気が変わったと木村は察する。
「疑問だね。彼の決断の力がそこまでの効力を持つのだろうか」
「僕も疑念があります。あなた方の力を結集させるだけでも可能ではないですか」
遠回しに木村の力をディスっているが、彼としてもそこまでの力が自分にあるとは思えない。
女神は眼鏡をあげる。そして発言した二人を見てポツリと告げる。
「172」
いきなり数字を言われて二人は面を食らっている。
つい先ほど聞いた数字だった。世界が滅ぶまでの日数だ。
「奇しくもあなた方二人に共通する数字です。何の数字かわかりますか?」
「世界の終わる日に私たちが揃って死ぬと言いたいのかな?」
「違います」
女神は首を横に振った。
「あなた方二人の本来の命日です。――金の筺のフルゴウル。私の割り当てた運命ではあなたの終わりは172日後。世界の終末とともに何一つ果たすことなく朽ちる定めでした。――グランツ神聖術学園のウィル。あなたの終わりも私は割り当てました。172日前です。無の力に飲み込まれ、あなたは何も残さず世界から消え去る定めでした」
二人が沈黙する。
彼女の言葉は淡々としており、毒こそ混ざれど感情と呼べるものは含まれていない。
「私があなた方に割り当てた運命はすでに変わっています。なぜか? あなた方が木村くんの側にいたからです。片や定めた期日よりも前に死に、片や定めた期日を過ぎても生きながらえている。木村くんが決断と呼べる決断をせずとも、ただ一緒にいるだけで私の――運命の神の絶対的な割り当てを変えるのです。もし彼が決断をおこなえば、どれほどになるかもうおわかりですね」
木村としては自らの力に驚くばかりだが、どれほどかはいまいちよくわからない。
それよりも木村は女神の当初の予定に疑問があった。
「あ、あの、すみません。『世界は消滅を免れる。世界は壊滅するとともに、あらゆる命もまた滅ぶ』って運命があって、これを覆したいんですよね。言われたことを考えると、世界を神の御技でくっつけて壊滅を防げるとして、『あらゆる命もまた滅ぶ』がクリアされていないんじゃないでしょうか? 地表の命は犠牲にするんですよね?」
「否。神々は世界に残ります。神以外の者は死に絶えますが、さほどの問題もありません。私たちが新たな生命を新たな世界に誕生させれば良いだけの話ですから。しかしながら、このプロジェクトは木村くんの自覚を促せなかったため、中止にせねばならないでしょう。悔やまれます。より慎重に進めるべきでした」
木村もようやくわかった。
この神々は人の命など何とも思っていない。
討滅クエストにより滅びた帝国、同じく滅びた獣人の郷の人々、他に失われた多くの命をただのエネルギー源と捉えている。
そして、滅びたらまた作れば良いとまでも明言した。
こんな存在をのさばらせておいていいのか?
こいつらのさじ加減一つで穏やかな生活が脅かされてしまう。
彼の漠然とした疑念が確信に変わった。この神々は到底、人がともに歩むべき存在ではない、と。
このとき木村はついに自覚した。
自分の果たすべき使命が克明に己が内側から湧き上がる。
もしもこの場にアコニトがいたら、彼が使命を自覚したことを戒めただろうか?
また、その内容に言葉をかけただろうか? タバコを吸って小さく笑うに留めたかもしれない。
「えっと、ラケシス神。すみません。そろそろ時間なので討滅クエストⅡに行きたいんですが、よろしいでしょうか」
「良いでしょう。ともに今日という一日を乗り越え、新たな運命の割り当てと切り拓き方を、思考並びに実践することにしましょう」
「はは……」
木村は言葉にしない。
言葉にすれば聞かれて邪魔が入る。
怒りこそあれど、怒りの逸らし方はアコニトで上手くなった。
今はなんとか話を逸らすに留める。
彼は極めて静かに、しかし明確にカゲルギ=テイルズの主人公としての意を決した。
決意させよう暗躍した運命の女神の行為は水泡に帰したわけではない。
彼女の言動なしに、木村の決意は生じなかったであろう。
決意の方向、あるいは矛先が変わっただけである。
すなわち、
――この無自覚で尊大な神々を犠牲にして、世界の人々をどうにかして救う。
前半はともかく、後半はやや荷が勝ちすぎているなと木村は苦笑する。
それでもやらねばならない。彼の決意にそれだけの力があることは他でもない目の前の女神が示してくれた。
神々の御技の代わりになる存在は、他ならぬ彼の仲間達が務めてくれると信じている。
ただ……、この時の彼はまだ、犠牲とすべき神々の中にアコニトが入っていることに気づいていなかった。




