101.イベント「私のカツラを知らないか?」4
都の広場にて、二つの異形が数多の聴衆の視線を浴びている。
一方は派手なカツラをかぶった髪の化物。
カツラが本体だと思われるので、髪を従えるカツラの化物が正確なのだが、木村から見たところでは髪の化物である。
もう一方は、禿げたケモ耳のアコニト如来である。
怒りか歓喜かわからないが、ついにクスリもやってないのに狂った笑いを浮かべていた。
「くたばれやぁ」
神は多くを語らない。
アコニトは会話など要らないというように一言だけ告げて、思いっきり息を吸い込んだ。
「は?」
木村も彼女が何をするつもりなのかわかって唖然とした。
得意の毒を吹きかけるつもりである。あの吸い込み方は本気だ。
周囲一帯を毒で満たし、絶対に逃がさないという強い意志を感じ取れる。
その彼女の毒ブレスは風の影響を強く受けて広がる。
彼女たちのすぐ下には、多くの聴衆がいる。
当然、彼らに毒耐性はない。
――虐殺である。
アコニトは躊躇いなく毒を吹き出した。
薄紫色の煙が、彼女の口から髪の化物へと溢れ出てくる。
アコニトの毒に三者の魔法が対抗した。
二つの異形を箱で物理的に包んだのがフルゴウル。
風の魔法で地上から上空への流れで毒を寄せ付けないようにしたのがウィル。
聴衆へ念のための毒耐性を付与したのがモルモーである。
三者の対応もあって、聴衆に影響はなかった。
空中に浮かぶ金色の筺の中に紫色の煙が充満し、中が見えなくなっている。
仕留めたことを確信したのか、アコニトの高笑いがフルゴウルの箱越しに聞こえてきた。
「ふー」
木村も安堵の息を深く吐き出した。
さすがの彼も、アコニトが聴衆を巻き込んで毒を吐くとは思っていなかった。
逆に言えば、魔法で対応した三者はそれを予測していた。最初から決まっていたかのように綺麗に連携ができていた。
キレているアコニトが倫理観も道徳心もなく、攻撃をすると完全に読んでいた。
ある種の連係プレイと言えなくもない。
連携の結果として良い流れになっている。
毒の充満した箱に、毒耐性のあるアコニトと闖入者が閉じ込められた形だ。
闖入者も利用していた『聴衆を巻き込んでの攻撃はうかつにできまい』という心理を、逆に闖入者相手にもうまく利用できていた。
うまく決まった。狭い箱の中で充満した毒を回避する術はないと言える。
ただの毒ではなく猛毒だ。耐性も毒ほど持っている敵は少ない。
結果論としてうまくいっただけで、もしも失敗していたら洒落になっていなかった。
間違いなく木村たちが追われる側になっていただろう。
「殴ってやりたい」
「キィムラァ、なにもおまえさんが手を痛めることはないぞ。代わりに俺が殴っておこう」
おっさんはにっこりとしている。
絶対、自分が殴りたいだけだと木村は感じた。
同時に別の疑問が彼の頭に浮かぶ。聴衆を含めたほぼ全員が上空の箱を見ている中で、おっさんだけが別の方向を見ている。
木村もおっさんの見つめる方向を見た。
アルマークが演説をしている台の方向であった。
警護が取り囲むアルマークの後方に、髪の化物がいた。
アルマークも警護も完全に逆方向を見ているため化物に気づいていない。
髪の化物は自身に気づいた木村へと、髪の指を口付近に当てて「お静かに」とジェスチャーで示す。
「……え?」
木村は髪がいるべき箱の内側を、聴衆同様に見つめる。
毒息スキルの効果が消えたためか、箱の霧が徐々に薄れてきた。
箱の中にはアコニトだけがいた。
フルゴウルの筺により、宙に張られていた髪は切れ、アコニトが宙に浮かぶ箱に足を下ろしている。
一方で髪の化物は影も形もない。
目に飛び込む光景に聴衆もどよめきたつ。
「いやはや、わずかに遅れていれば死んでいました。まさに紙一重ならぬ髪一重。カミだけに、ええ」
演台の方向から声が聞こえてきた。
声から漂うのは安堵と言うよりも余裕である。
全聴衆の頭に浮かんだであろう――『闖入者はどこに?』という疑問を完璧に突いたタイミングだ。
全員の顔が演説と同様の方角を向いた。
そして、彼らは奇抜な色の髪をした好青年を見た。
王のお付きの兵士達もすぐに位置を移動して王を守ろうとする。
さらに他の兵士達も演台へと続々と上がっていった。
髪の化物は兵士達を気にした様子もなく、聴衆からよく見える位置に歩いて行く。
「さて、演目順が変更になりましたが紹介を続けてさせていただいてもよろしいでしょうか?」
髪の化物がアルマーク王に問いかけた。
王はすぐさま頷く。
「当然だ。続けたまえ。――武器を下ろせ」
兵士達は渋ったが、最終的に王の命令に従った。
もちろんすぐに構え直し、いつでも謎の闖入者を押さえつけられる位置にいる。
「ありがとうございます」
木村から見ると、髪の化物が礼をしているようで滑稽だった。
一方で他の人間からは、好青年が兵や聴衆、さらにはアルマーク王を前にしても堂々たる態度で礼の姿勢を見せたことに心が揺れた。
王としても本来ならば捕らえているところだが、すでに背後を取られている。
兵たちは慌てて動いたがあまりにも遅すぎた。闖入者に危害を加えるつもりがあったならすでに王の命はない。
逆に言えば、危害を加える気はないとアルマークは判断し、様子見に移った。
加えて、現れるタイミングも様子見を決定させる一因となった。
闖入者が現れたのは演説の終わりである。聴衆にアルマークの姿勢を擦り込み終わった後だ。
聴衆の心理が王に付くのを待ってからこの闖入者は現れている。
アルマークが怖れていた政治犯の線は薄い。
「改めまして――みなさま、ごきげんよう。わたくしはヅラウィ曲芸団にて名誉顧問を務めているヅラウィでございます。まずはこのような紹介の場をお借りできたことをアルマーク一世に深く感謝いたします」
髪の化物が演技めいた礼をアルマークにみせる。
王も一つ頷いて続きを促した。
「わたくし――わたくしたち、ヅラウィ曲芸団は世界を転々と移動して芸を披露している一団でございます。本来であれば、団員総出で日夜磨いてまいりました芸を、皆様に余すことなく披露するところでございます。しかしながら、誠に残念なことに曲芸団をしてなお曲芸じみた出来事が起こりまして、この場には、わたくし、ヅラウィのみがいる始末であります」
木村とその仲間は、曲芸じみた出来事が何かすぐにわかった。
ヅラウィを名乗る髪の化物が、カスィミウ神都からこのドライゲンに異世界転移してしまったということだ。
「見知らぬ土地、見知らぬ人々の中にわたくし一人が取り残された訳でありますが、何と言うことはありません。どこにいようとも、そこに人がいるのであればわたくしが為すべきことは一つだけです。それは――」
「死ぬことだろぉ!」
箱に閉じ込められていたアコニトが、箱を破壊してでてきた。
崩れゆく箱を思いっきり踏み込み、演台へと跳躍する。
「紫狐の剃刀」
アコニトが飛んでいる途中でアコニトが呟くと、紫色の煙が跳躍の軌跡を作った。
アコニトが演台に着地すると、弧を描いていた煙が分裂し、複数の刀の形状を取る。
紫色の刀が、ヅラウィの動きを封じるように地面に突き刺さっていく。
彼女の師であるリコリスと同じように使ってみせている。
その見事な芸当を見て木村は思う。
普段はまともに使いこなせないくせに、こういうときだけまともに扱うのはやめて欲しい、と。
「これで逃げられんぞぉ」
刀が完全にヅラウィの動きを封じ、アコニトもニタリと笑って得意の毒煙を彼に吐いた。
ヅラウィも刀に困惑しているようだが、どうにも演技くさいと木村は見た。
逃げられませんよ、とアピールを観客にしているようにも見える。
アコニトの煙が充満し、先ほどと同様に闖入者と迷惑神が箱で隔離された。
毒の強さは視覚的に明らかだ。毒を浴びた演台が溶け落ちている。
今回はヅラウィも逃げなかった。
毒のエフェクトが消えれば、髪の化物は溶けてしまっており、ドロドロのグダグダの状態で現れる。
「キヒィ! やった! やったわ! なぁにが為すべきことだぁ! とっととくたばれぇ! ボケがぁ!」
アコニトがまたもや高笑いをしている。もはやフラグだった。
聴衆の視線は彼女ではなく、笑う彼女の背後で熔け落ちようとしていた存在に向けられていた。
ヘドロ状の物体がぐにゅぐにゅと盛り上がっていき、アコニトと同じ高さまで伸びた。
「キヒヒィ! キヒィ……、キ、ひ?」
アコニトも聴衆の視線と反応に気づいたのか背後を見た。
そして、盛り上がったヘドロを見て動きを止める。理解が追いついていない。
ヘドロからきれいな腕がにょきりと伸び、その手がヘドロを掴み、まるでマントのようにヘドロの膜を投げた。
現れたのは先ほどと同様のヅラウィである。
「危ない危ない。カツラがなければ死んでいました。危機一髪でしたよ、髪だけに」
箱の内部に投げられたヘドロの膜は、いつ変わったのかカツラになっている。
木村も周囲の聴衆も意味のわからない現象に言葉を失った。
カツラと髪が溶けてヘドロになってカツラに戻り、カツラの下からカツラの存在が出てきた。
芸というよりは奇術であるが、奇術も芸であると言えなくもない。
一番最初に動いたのはやはりアコニトだった。
すぐにヅラウィを掴み、毒煙をぶちまける。近距離からの猛毒だ。
“猛毒無効”
無慈悲な文字列を木村は見た。
アコニトも自身の毒が効かないとすぐに悟った。
彼女は木村を見た。そして叫ぶ。
「坊やぁ! 自爆だぁ!」
「駄目に決まってるでしょ!」
さすがの木村もこれにはNoを示す。Noと言える日本人であった。
フルゴウルの筺の内部とは言え、アコニトを自爆をさせれば箱はひとたまりもない。
「ふぬけがぁ! 犠牲なくして髪は手に入らんぞぉ!」
得られるモノと犠牲にするモノのバランスが釣り合っていない。
自爆は広場一帯にいる万の住民と王、飛龍も見境なく巻き込んで、藻屑にしてしまう。
なんならフルゴウルやウィル、モルモーも消し去る可能性もある。
そうした犠牲の上に手に入るのがアコニトの髪だ。
バランスが悪すぎる。
もはやアコニトは錯乱している。
次に何かやらかしたらジャンプで視界の端まで飛ばそうと木村は決意した。
「なにやら物騒な話をされているご様子」
するりとアコニトの掴みを脱したヅラウィが、指をくるくると回す。
数本の髪の毛が彼女を巻き取り、身動きを封じてしまった。
フルゴウルの筺が消え、拘束されたアコニトは地面にベチリと無様に落ちた。
対するヅラウィは華麗に演台へと飛び上がり、聴衆に一礼してみせる。
「わたくしが為すべきことは、ただ皆様に芸を披露するより他にありません。すでに対価は頂いております故、芸により、皆様の心を揺り動かすことこそがわたくしの全毛髪を賭した使命であります」
アルマークはすでに気づいていたものの、聴衆にも理解をさせるため質問を投げた。
「我々の髪を盗んだのはよもや貴様か?」
「わたくしです」
「それ以前に我々の髪を抜けるように仕組んだのは」
「いかにもわたくし」
ヅラウィは悪びれた様子を見せない。
自らが脱毛、髪窃盗の犯人だと堂々たる返事で明かした。
アルマークは自身がヅラウィの仕組んだ演目の一部に組み込まれたことに気づいた。
舞台を整えたのはアルマークたちと考えていたが、全てが利用されていると悟ってしまった。
彼としては、どうやってそれらを成し遂げたか聞きたいところであった。
可能であれば早めに教えてもらいたいが叶いそうにない。
しかして、彼は彼に与えられた役割を果たす。
都を管理するものとして、その平穏を乱すものは取り除かなければならない。
「捕らえよ! 都を混乱に陥れた首班である!」
ヅラウィも頷いた。
アコニトの乱入により流れが乱れたが、ようやく彼の求めた演目に入った。
予定していた演目は、包囲された中からの脱出劇である。
捕らえるものと逃げるもの、二項の対比は聴衆からもわかりやすい演出だ。
王の命を受けた兵士達の動きは素早かった。
すぐさま王を安全な位置に移動させ、同時にヅラウィを囲う。
兵士達は三方向からヅラウィを襲うがするりとその剣と腕をすり抜けていく。
襲いかかる兵士も、見ている聴衆も驚いている。
本当に青年の体が剣をすり抜けたようだ。
木村も何となくだがやっていることの種はわかった。
髪の密度をうまく変えている。兵士達が集まったところで髪の一部を薄くして、包囲の外側に移動し、外側へ一気に密度を移動させた。
そうすることで兵士や聴衆からはヅラウィがすり抜けたように見えたに違いない。
ヅラウィは演題の縁に立つ。
兵士達が扇状に囲む。ヅラウィの背後は崖っぷち、下には幾十の兵士が集まっている。
ヅラウィは体を傾かせ、重力のままに演台から落ちる。
囲っていた兵士達は慌てて縁へ向かい、下で準備をしていた兵士達は得物を握りしめて、ヅラウィが落ちてくるのを待ち構えた。
ヅラウィの体は空中でピタリと止まり、そのまま聴衆の上へと滑空する。
多くの兵士達や聴衆が声をあげ、その声を全て聞こうとするようにヅラウィはあちらこちらの上部を飛行している。
これも木村から見れば、髪の塊が飛んでいるのでなかなか不気味なものがある。
おそらく最初の登場と同様に見えづらい髪を空中に張っていると考えた。
「……すごいね」
聴衆も叫んでいるが、木村が見たところかなり楽しそうに見える。
兵士達はもてあそばれて顔が真っ赤だ。
一人の魔法使いがタイミングを見計らって炎弾を放った。
住民の警備を担当する兵士の長が眼を見開いた。
「馬鹿者! 民衆がいるのだぞ!」
警備隊長が叫ぶ一方で、捕縛部隊の魔法使いらは一人の炎弾をきっかけとして、多くの魔法使いがその得意とする魔法を放つ。
彼らも第一線の警備を任せられる魔法使いであり素人ではない。
「これは危ない」
ヅラウィは空中の滑空を止め、優雅に歩いて魔法を回避していく。
時には空中でジャンプして、バク転すら見せ、しまいには土の魔法をキャッチして見せたりもした。
一発一発が確実に人間の意識を刈り取る一撃なのだが、ヅラウィの動きはそれを感じさせない。
聴衆も不思議な安心の中で、彼の一挙一動――芸に心を奪われている。
「やめろ! やめんか!」
警備隊長の声がようやく魔法使い達にも届き、彼らは手を止めた。
しかし、熱くなった魔法使いが最後の一発と、強めの魔法をヅラウィに放った。
同じ考えを持った者が放ち、強く放たれた魔法は相克し合い、思わぬ方向に飛んでいく。
「いけない!」
灼熱の火球がヅラウィから向きを変え、住民の方へと落ちていく。
ウィルがすぐさま魔法を放つが間に合いそうにない。
「おっと」
ヅラウィが片手を上に示した。
それだけで、落ちていった炎弾が急に向きを変えて上空へと飛んでいく。
「それ、もう一つ」
ついでと言わんばかりにヅラウィがもう片方の手も上に示す。
そうすればウィルの放った氷弾も向きを変えて上空へ飛んでいった。
氷弾が炎弾に追いつき、上空で火球は花火のように破裂する。
光と音が広場一帯を覆った。
聴衆が突如発生した花火に気を取られた。
先ほどまでいた位置にヅラウィの姿がない。
聴衆の一人が彼の位置に気づき指で示すと、他の聴衆もそちらを見る。
演台と反対側の建物、その屋根にヅラウィは立っていた。
「昼の部はここまでとしましょう。人々の多くいる場所こそ私のいる場所でございます。次の演目をお楽しみに。それではまた」
広場にいる全員に礼をしてヅラウィは背を向けた。
空中に溶けるように姿が見えなくなっていく。
「追え。逃がすな」
アルマークが命令すれば、兵士長も飛龍隊に命令を発する。
飛龍が一斉に空を飛び、ヅラウィの消え去った方へと飛んでいく。
「……見事なものではないか」
アルマークがぼやいたが誰の耳にも残らない。
彼は、残された民衆にヅラウィを必ず捕縛すると誓い、集会を散会させた。
城の最上部で王とその側近、それに木村たちが集まっている。
飛龍隊はヅラウィの痕跡を見つけられていない。
探している彼らには悪いが、探し出すのは無理だとメンバーの全員が考えていた。
「いやぁ、すごかったですね」
ウィルが唸っている。
魔法の軌道を曲げられたことに彼はひどく驚いていた。
「私も手を叩くところだった」
フルゴウルも自慢の筺から脱出された芸当の種がまだわかっていない。
それどころか空中を歩いて躱す芸当に、魔法がまったく使われていないことに驚愕していた。
「はっきり言ってしまいますが、ここの兵士達だけで捕らえるのはまず無理です。私たちでも難しいですね。魔法以外も使っていました。今回は見物に徹しては?」
モルモーが分析した事実を述べた。
ついでに彼女の思いも合わせて口にする。これが言いたかっただけかもしれない。
口にこそしないが木村の思いはモルモーのそれと同じである。
もしもゲーム内ならクソイベだろう。カツラが変なことをして鬼ごっこするだけに違いない。
しかし、異世界なら神イベならぬ髪イベだ。
言葉にすれば同じである。髪の毛と鬼ごっこをするだけ。
しかし意味合いはまったく異なる。
髪の化物は住民にまったく手を出さない。命を助けてすらいた。
それどころか兵士達にすら反撃をしなかった。
ひたすらに芸を披露するだけだ。
兵士達はコケにされて良い迷惑だろうが、死人が出ないならマシだ。
今までのイベントにあった「死ありき」のスタンスがない。楽しむ余裕がある。
おそらくこの点に関しては、パーティーメンバー全員(一人除く)の一致が得られるだろう。
それはそれとして、木村が気になっていた点を尋ねる。
誰に聞くのが良いか考えるが、やはり視覚情報で言えば彼女が一番だ。
「フルゴウルさんはヅラウィがどう見えたんです?」
「ん? ああ。人の姿を模していたが、人ではないね」
「やはりそうなんですか。見た目は人ですが、人の動きではなかったですよね」
ウィルもフルゴウルの言にどこか安心しているようである。
木村はウィルも人に見えていたと理解した。
「私にはカツラが一個体。下はなんだろうね。ぼやかされているが別の個体には間違いない。誰かに近いものがある」
そう言って、フルゴウルがおっさんを見た。
おっさんは無言。これは答えに近い時にする反応である。
実は木村も、ヅラウィのやることにおっさんに近いものを感じている。
意味のわからない位置移動や魔法のねじ曲げは、おっさんが何度かやっているのを見た。
「君はアレがどう見えたんだい?」
「髪の化物ですね。無数の髪が集まって動いてました。頭の派手なカツラだけは別だと思います」
この言葉にウィルを初めとしたパーティメンバー、王や側近達も驚いている。
どうやら木村とフルゴウル以外では、あれを魔物として見たものはいなかったようだ。
「私も驚きました。術技なら見破れるのですが、それも通すとなると、それ以外の芸当もありますね」
どうにも厄介な相手である。
性能に関して言えば、戦闘を抜きとして完全に格上と見るべきだ。
少なくともウィル、フルゴウルの攻撃は、初見であっさりと対応されてしまっている。
アコニトも同様だ。
パーティの精鋭である彼女の攻撃は全ていなされた。
悲しいことに猛毒無効なので、彼女の攻撃はほぼ無意味な行為になる。
ちなみにアコニトは髪で縛られ身動きがとれないところを、おっさんに腹パンされて意識を失っている。
ウィルとフルゴウル、ついでにモルモーも、彼女を呆れた眼で見ていた。
今回は木村も擁護できない。むしろ彼も殴りたかった。
ただ、時間が経てば怒りも薄れてくる。
今はパーティーで唯一禿げ散らかし、髪の化物にもコケにされ、口から泡をふいて倒れる無残な彼女に同情を覚えつつある。
木村は戦略家ではない。
今後の方針を決めるに当たってはほぼ無意味な存在だ。
席から離れて、ウィルやモルモーたちと一緒にお茶を飲んでいる。
王と側近、フルゴウルが主になって話しているが、どこか力が入っていない。
とりわけ王から気迫が欠けているように木村は思えた。
「ヅラウィを探しだし、捕らえる方向性は維持する。ただし、現れても深追いはするな。家捜しも中止とする。戦闘、捜索の両面において、民に手を出すことは固く禁じる」
午前中までに見られたあからさまな積極性が見られない。
どちらかと言えば、消極的な積極性だろうか。
「ストーリーが見えたね」
「どういうことです?」
方針が決まったのでフルゴウルが木村たちの元へ戻り、早々に告げた。
「アルマークは、現時点で、ヅラウィを捕らえることを諦めている」
「でも、捕らえると話していたように聞こえましたが」
「表向きはね。民草にあそこまで吹いたのなら、捕らえようという姿勢は見せなければならない。しかし、実力は広場で見たとおりだ。どうやっても捕らえようとあがけばあがくほど、民を圧迫し、ひいては自らの首も絞める構図になる」
離れかけていた人心が、演説により王に傾いた状態だ。
ここでヅラウィを必死に追う選択肢をとれば、人心はまた離れていく。
力量差もあそこまではっきりと見せられれば、この選択を採ることはできない。
「彼は戒厳令も解いた。人は以前のように外に出る。ヅラウィは人が集まるところに現れると言った。ヅラウィが現れてから無理せず追う。一種のショーだろうね」
木村もふと怪盗と警部が鬼ごっこしているアニメを思い出した。
鮮やかに逃げる姿はそれだけで人の心を湧きだたせる。
「逃げるだけでは芸がない。仕込みが髪だけとも思えない。おそらく別の趣向も凝らしている。『現時点で』と言ったのはそれだよ。わざと捕まる可能性もある」
「わざとですか?」
なぜそんなことを、と木村は感じる。
逃げ続ければ良いだろう。
「逃げて追うだけでは同じことの繰り返し。ヅラウィは今回の出来事をショーと捉えている。それなら王や兵士達にも見せ場を作るだろう。彼らもまた観客だ。ショーの臨時補佐役としてもやられるだけでは良い気持ちにはならないからね。彼らのためにわざと捕まる場面も作りうる」
そんなものだろうかと木村は首を捻った。
しかしながら、アルマークも積極性こそ見られないが、諦めた様子もない。
フルゴウルが口にするように、見せ場が作られたタイミングで全力を懸けようとしているのか。
「なんにせよだ。今回はさほど危険はないだろう」
「ですよね」
一番肝心なところである。
やはり今回は過去のイベントのように血生臭いものがない。
「今回は見物することにします」
木村もようやく自分の立ち位置を口にした。
モルモーは小さく頷いてお茶を飲む。
木村は残りの二人に告げる。
「それぞれが手を出したいなら出せば良いと思う。二人は彼の芸が気になってるんでしょ」
「ええ。彼の引き出しをもっと開けてみたいですね。新たな知見が得られるかもしれません」
フルゴウルも同様である。
二人の方向性を木村は否定しない。
「わかった。でも、全体的な方向性には従おう。住民に手出しはしない」
「当然です」
「もしも誰かが一般人に危害を加えるような場面に遭遇したら、被害を食い止めるよう動く」
「誰か」の部分で木村はアコニトを見る。
もちろん彼女もだが、広場の時のように一部の兵士が暴走することもあり得る。
ウィルとフルゴウルは頷いた。
ついでにモルモーも頷いてみせる。
彼らの頷きを見てから、木村は気づいた。
そもそもアコニトは戦力外なので、連れて来なければいいだけだ、と。
六日目である。
ヅラウィは昨日の時点で都の三カ所に現れた。
まるで自らの顔を売るように、あちらこちらで出没している。
噴水の水の上に立っていたり、壁をすたすた歩いてみせたりしていたとのこと。
どれも兵士が追いかけたが、軽くあしらわれている。飛龍相手ですら、髪の首輪をかけて空を飛んでおちょくっていたらしい。
木村たちも今日は外に出ている。
人通りの多いところに出没する傾向があると聞いたので、一カ所に絞ってヅラウィが現れるのを待った。
「……来ないね」
「そうですね。別の場所だったかもしれません」
すでに別の地区で出現したという情報は入ってきた。
そちらには間に合わなかったので、ここで待ち伏せしているが出てこない。
外に設けられた机でお茶をしているが、あまりにも平和だ。モルモーにいたっては寝ている。
あちらこちらでヅラウィの話が聞こえてくる。
昨日の広場での芸を始め、どこどこで見た、空を飛んだなどと話が飛び交っている。
木村の聞く限りでは否定的な意見はさほどなく、自らの髪のことも忘れてゴシップに飛びついて楽しんでいる様子だ。
「少し歩いてくるよ」
「僕も周辺の状況を確認してきます」
フルゴウルとウィルが席を立った。
どうにも彼らはヅラウィの登場を待ちかねている様子である。
座っているのが焦れったく、体を動かしていないと落ち着かないのだろう。
ただ、この二人に席を立たれると木村としては地味に辛い。
モルモーは寝ているので、無言のシエイとサシで飲まなければならなくなる。
彼女は受け答えはしてくれるのだが、いかんせん受動的かつ端的なので会話はまったく弾まない。
アコニトはクビになった。
荒れていたが、酒を与えればすぐに静かになる。
今はきっと、酒瓶を枕にしてイビキをかいて寝ているに違いない。
おっさんもアコニトがいなくなり、今日の笑顔は曇りがない。
なぜか空気椅子でお茶を飲んでいるが、もう木村には突っ込むという意識がなくなっている。
「ヅラウィをお待ちですか?」
沈黙を破ったのは男の声だった。
木村が振り向けばグランドが木村たちを見下ろしていた。
彼は早々に王の側近から外され、元の見回り兵士に戻されてしまっている。
「どうぞ。座ってください」
「巡回中でありますので」
グランドは手の平を見せて、席に着くことを拒んだ。
顔は和らいでいるので、気持ちだけ受け取っておきますということだと木村にも判別ができた。
「待ってますが、なかなか現れませんね。この地区は外れかもしれません」
「いえ、どうでしょうか。先ほどから気配を感じております」
木村も彼の言葉にピクリと反応した。
グランドは特殊な感覚を持っている。姿を消した状態の木村たちも見つけてきた。
巡回に戻されたのも城の上にいるよりも、ここに配置した方が価値があるからである。適材適所だ。
「え、いるんですか?」
「ヅラウィかは小官に判別できかねますが、周囲をうっすらと包み込む気配を感じています」
木村はおっさんを見た。
彼は昨日もヅラウィを一番に見つけていた。
「おっさんはどこにいるかわかる? そもそもいるの?」
「いるぞ。もっと周囲をよく見るんだぞ」
本当にいるようである。
木村とグランド、それにシエイも周囲を見渡す。
見渡せども見渡せども見つからない。
木村は早々に諦めた。
シエイとグランドはまだじっくりと周囲の様子を窺っている。
モルモーはすやすやと眠っており、おっさんは静かにたたずんでいた。
「わかんね」と木村は肩をすくめ、お茶に手を伸ばした。
お茶を口に含むと、視界に派手な色をしたカツラと髪の化物が見えた。
ぼんやりとした焦点を木村は合わせる。
ヅラウィがそこにいた。しかも、目と鼻の先だ。
まさにウィルが座っていた席に腰掛けて、木村を向いている。
「へあっ!」
木村は驚いて変な声を出した。
その声にシエイとグランドが反応し、視線を木村に落とし、同時にヅラウィに気づく。
「ティータイムです。どうかお静かに」
シエイとグランドの初動をヅラウィは一言で止めた。
カツラと髪の化物がお茶を飲んでいる。どこに液体が消えているのか木村は気になった。
少なくとも地面には液が垂れている痕跡はない。
「君はわたくしが見えている。違いますか?」
「……え、そりゃ見えてますけど」
「『正しく』見えている」
「正しくかどうかは知りませんけど、髪がいっぱいだなって」
おそるおそる木村は答えた。
唐突に異形から問いを投げられても、答えることができている。
彼も異世界で成長しているのだ。あまり嬉しさのない成長である。なにより彼自身に成長したという自覚がない。
ヅラウィが立ち上がった。
シエイとグランドが警戒する。
他の一般人も気づき、ところどころで声が上がった。
モルモーが目を覚まし、隣にいるヅラウィを見て、「夢か」と寝直した。
「見苦しい姿をお目に掛けてしまい、たいへん申し訳ありません」
ヅラウィは深々と頭を下げてわびた。
木村も急に頭を下げられたのは驚いたが、わびている理由はわかった。
「わたくしも日々の芸に胡座をかいてしまったようです。心を新たに芸も研きをかけていきます」
「あ、気にしないでください。おそらく特殊な魔法か何かで人の姿を見せているんでしょうが、僕はそういうのが効きづらい体質なので」
ウィルもこの点に関しては言及していた。
あくまで効きづらいだ。光学的なものや音、振動による魔法は通ることもある。
モルモーのように姿を変える、大きな音を出す、地面を揺らすといった魔法は木村でも影響をそこそこ受ける。
一方でアクティブな魔法。直接、肉体や精神に働きかける魔法はほぼほぼ通さない。
どう判別しているのか不明だが、特に害のあるものはまったく効かない。
空間移動や治癒、魔法により作られた薬はそこそこ通る。
今回のヅラウィの魔法あるいは術に相当するものがこちらだ。
姿を変えているのではなく、ヅラウィの見せたい姿を相手に見せている。
もしも、光学的な姿を自身に貼り付けるタイプなら木村でも姿を見通すことはなかった。
「関係ありません。舞台に立った以上、わたくしは芸人で、あなたは客。芸人は客に違和感を覚えさせてはなりません」
「そういうものですか」
話していて木村はわかった。
このヅラウィは職業意識を強く持っている。
仲間で言えばゴードン、リン・リーあたりと同じ感覚だ。
自分の役割に自信を持ち、その道において妥協を許さない。木村から遠い世界の住人だ。
「でも、もう見慣れてしまいました。尻尾が歩くところも見てますし、髪の塊が動いても不思議じゃないよなって。それと昨日の広場での立ち回りも楽しんでみさせてもらいました」
「それは重畳。それであれば残りの日程もわたくしの芸をとくとお楽しみください」
そこまで言うとヅラウィはくるりと振り返った。
どうやら話は終わりのようだ。
木村はヅラウィに出会ったら、「住民に危害を加えるつもりがあるのか」と尋ねるつもりだったが、すでに彼の中で答えは出た。
声にして尋ねるのも野暮なので座ったまま、ヅラウィが立ち去るのを見送る。
「もう良いかな?」
ヅラウィの立ち去る前方に、金色の髪を携えた女性がいた。
フルゴウルである。片手にご自慢の金筺を出し、臨戦態勢である。
姿は見えないがきっとどこかにウィルも待機していると木村は考えた。
「これはお待たせ致しました。わたくしに御用でしょうか?」
「昨日は逃げられてしまったからね。少しどの程度か試してみようかと思うがよろしいだろうか」
「ご随意に」と恭しくヅラウィは手を出した。
戦闘はその瞬間に始まる。
フルゴウルが手に出していた筺を飛ばし、同時にヅラウィの周囲に別の筺が展開される。
手から直接出した筺の方が、性能は高いと木村は知っている。
逃亡と被害を、外側に展開した筺で抑えてから、内部で攻撃用の手から出した筺を爆破か拡張させる寸法だろう。
爆破なら素早い攻撃になるし、拡張なら外側の筺と挟まれて動きを封じる攻撃となる。
「これはなんと摩訶不思議!」
投げられた箱が膨らむ。拡張である。
ヅラウィが膨張した筺に押され、外側の筺と拡張する筺との間に挟まれようとしていた。
「……なんだと?」
フルゴウルが驚きのあまり眼を見開いた。
木村も驚いている。
ヅラウィは内側の筺には押されたが、外側の透明な筺はスルーした。
まるで外側の筺などない様子で押された勢いのまま外に出てきて、数歩で勢いを殺して止まった。
「危なかった。髪が通る隙間がなければ圧死するところでした」
フルゴウルがまたもや筺を展開した。
今度は両手に筺である。
両手から筺を飛ばし、すぐさま生成し、それもまた飛ばす。
ヅラウィの周囲にブロックのように筺の檻が形成された。
筺が徐々にヅラウィへと狭まり、彼を圧し潰す。
「こ、これは髪一本の隙間も――」
ヅラウィが今度こそ圧し潰された。
木村から見れば、髪がプレスされただけである。
他のヒトから見れば、ヅラウィが筺の平面に潰され、広がったように見えていた。
「この系統では無理そうだね」
フルゴウルが筺を消した。
筺が消えれば、髪はまた密度を取り戻して元の髪の群体に戻る。
もちろん木村から見れば不思議ではない。しかし、一般人から見れば奇々怪々である。
潰れて平面にまでなった人間が、筺が消えるとまた元の人の姿にむくむくと戻ってしまったのだ。
「さてウィルくんは準備ができたかな」
返事の代わりに、石ころが飛んできた。
硬い音を立てて石ころがヅラウィの近くに転がった。
同時に、フルゴウルが筺を展開した。ヅラウィと石を囲むように数枚を急ぎ展開。
さらには手からも筺を出して壁のようにヅラウィを囲っていく。
いつの間に眼を覚ましていたモルモーも魔法を唱えた。
「こういう危ないのは事前に打ち合わせをして欲しいですね」
ぼやきつつもヅラウィの周囲に魔法が形成されていく。
「ムム」
投げられた石が赤く光を帯びる。以前見たウィルの魔法だと木村も気づいた。
赤の光がゆっくりと膨らみ、ヅラウィを巻き込んで筺いっぱいに広がり充満する。
真っ赤に近づいた光は筺数層を割って、筺の内部を灼熱に変える。
フルゴウルが手を動かし、同時にモルモーも何かを呟く。
筺が圧し潰され、赤は凝縮され、光も白に近づいていった。
「……化物め」
フルゴウルが苦々しく呟く。
筺が小さくなっていくとヅラウィが平気な様子で現れた。
筺の平面は彼を平然と通過し、ヅラウィの手元に炎の球体だけが残る。
その炎の球体を飲み薬かのように彼は飲み込んだ。
飲み込んでしばらくするとボフと音がして、わざとらしく開いた口から煙が勢いよく吹き出す。
古くさいファンタジーアニメ的な表現であった。
「あれ、どうやってるの?」
「キィムラァ、芸の最中にネタを聞くものじゃないぞ」
苦言を呈されてしまった。
もはや芸を超えていると木村は感じるが、おっさんが言うこともわかる。
もっと突き詰めれば、おっさんには種がわかっているようだ。
兵士達も現れたので、ウィル達も出番をそちらに譲る。
彼らも追うが、フルゴウルらでも無理なので彼らでは到底無理だ。
それでも、ヅラウィの逃げ方がいちいち一手間仕込みがあるので、周囲も驚きこそあれど恐怖や焦燥はなく、ワクワクした表情で見ている。
「もう少し追ってみようか」
フルゴウルが歩き始めた。
モルモーは追う気がないようでティーカップに手を付ける。
視界の端にウィルの姿も見えた。どうやらかなり遠距離から先ほどの攻撃を仕掛けたようだ。
他の部署から呼ばれた兵士もやってきて、空を飛龍が飛んでいく。
慌ただしい情景だが、木村は好ましいと感じている。
これだけ人が動いていて、それでいて彼らの中に大量の屍を作る意図を持つ者が誰もいない。
ただただ慌ただしいだけの催し。これこそが本来のイベントの在り方ではないか。
「良いイベントだね」
おっさんもモルモーも返事をしない。
それでも木村の心は悪くならない。同意を求めたものではない。
彼の心から湧き出た思いだ。
もうじきイベント期間も半分になるが、残りの半分も騒がしくなりそうだ。
騒がしくなっても、今までのような凄惨な未来が見えない。
こういう騒がしさが続いていくのだろう。
遠ざかっていく喧噪に耳を傾けながら、木村は目を瞑った。
緊張もなくなって眠気がやってきたのだ。
意識も薄らぎ、遠のいていく。
……おやすみ。
ピッピコーン!
遠のきかけた意識が一瞬で目の前にやってきた。
「グッモーニン!」と扉を蹴破って現れる最悪の目覚ましである。
眼を開くと、モルモーも眼を見開いている。おっさんはにこやかだ。
シエイはまだこの最悪の音に慣れ親しんでおらず、いつもどおり平静であった。
離れつつあったフルゴウルとウィルも聞こえてしまったのか、ピタリと足が止まっている。
「キィムラァ、手紙が来たぞ」
おっさんがタンクトップから手紙を出した。
もうちょっと出すところを考えろといった突っ込みも今はしない。
心を平静に保ちつつ、ゆっくりと封筒を手にする。
ざわざわとした手触りが、今後の展開を指し示しているようで背筋が気持ち悪くなった。
手紙を取り出し、折りたたまれた紙をじわじわと開く。
開ききる前に目を閉じて軽く息を吐き出す。
木村は考える。
おそらく事務連絡だ。
あるいは、イベント後半の案内だろう。
そうに違いない。
そう信じ込み、深く息を吸いつつ木村は眼を開いた。
手紙の題名はシンプルだ。
「“討滅クエストⅡ開催”」
心穏やかなイベントは、悲鳴と絶命のイベントに様変わりしようとしていた。




