10.キャラ重ね
カクレガは地面を潜行する機能もついているようで、安全に移動することができた。
途中で外に出て、曜日クエストを片付けたのだが問題が発覚した。
「キィムラァ、パーティー編成を見直すべきだぞ」
同時に外へ連れて行けるのが四人とわかり、木村はバランス良く編成をおこなった。
なお、この四人の中におっさんは含まれていない。
一人目は主戦力のアコニトである。
専用武器も手に入っており、間違いなく一番強い彼女を中心にパーティーを組み立てていく。
アコニトとセットにしておかないと危ういセリーダが二人目だ。
彼女の補助魔法は、効果が微妙ではあるものの種類が多いため意外に汎用性が高い。
☆2のためか成長に費やす素材が少なく、スキルテーブルが一番進んでいるキャラでもある。
最初は目を離せなかったためパーティーに入れていたが、普通に使えるキャラなので重宝している。
三人目は防御役のフィルクだ。
動きこそ遅いものの、彼の防御スキルで敵の足止めができるようになるのは大きい……はずだった。
さらに四人目には攻撃役☆3の戦士ベイを試しにいれてみていた。
これで挑んだのだが前衛二人はまったくいる意味がなかった。
アコニトの毒にやられて戦闘不能に陥り、消滅し、カクレガで復活していた。
カクレガで復活できたことに木村はひとまず安堵の息をもらす。
もしかして永久消滅なんじゃないかと考えたほどだ。
「あやつら、なぁんの役にもたたんのぅ」
戦犯アコニトは何の反省もしていない。
木村もまさか味方の攻撃にも当たり判定があるとは思っていなかった。
「毒煙の範囲をコントロールできたりしないの?」
「向きくらいしかできんな。無論、風の影響も受けるぞ」
いっそアコニトをパーティーから外すことも木村は考えたが、投資したコストを考えれば、その選択肢を選ぶ踏ん切りが付かない。
それに、ただの毒ダメージかと思っていたが、弱体化の効果もあり、デバフとしても使えるのは大きい。
むしろ味方に毒の耐性を付けることのほうが良さそうだ。
セリーダが持っていたはず。
さっそくカクレガの訓練室でやってみた。
駄目だった。アコニトの毒があまりにも強く、セリーダの補助魔法では耐えきれない。
ちなみにセリーダは王家のアクセサリーをつけることで、毒から彼女の身を守っている。
ただし、催眠状態の上から付けているので、催眠状態が固定され常にテンションが突き抜けていた。
「毒に強い耐性を持つキャラがいないのかな……」
いっそ全員を後衛にして、やられる前にやる戦法でも良いのだが、バランスが悪いことは否めない。
陣形ボーナスで攻撃力は上がるようだが、耐えきれる敵と戦えば一瞬で壊滅だろう。
まさに現状で苦戦している相手というのが、そういった強敵なのだ。
もちろん雑魚を殲滅するときには全員後衛攻撃陣形でいける。
ボス戦用にせめて一体でも敵の注意を引きつけ、耐える足止め要因が欲しかった。
攻撃もできればなお良いが、そこまで期待するのは欲が深すぎるというものだろう。
木村はカクレガ内を歩き回り、一体ずつキャラを見ていく。
☆の数と見た目だけでパーティーを組んでいたが、セリーダのように実は使えるキャラがいるかもしれない。
素材の問題もあるので、注目していなかった☆の低いキャラが案外盲点だ。
機械的に片っ端からキャラのステータスを確認していく。
やはり条件に合ったキャラは見つからないものだ。やっぱり無理か。
木村が諦めかけたそのときである。
“毒無効”、“麻痺無効”、“精神攻撃無効”
「うおっ! いた!」
木村は思わす歓声をもらした。
要件にぴったりのキャラが見つかった。
ステータスを閉じてキャラを見る。
キャラの方も○の目でジッと木村を見つめ返していた。
「……お前かぁ。よりにもよってお前なのかぁ」
☆3の手抜きロボだった。
名前はボロー。
詳しくステータスを見てみると、いちおう防御タイプのようだ。
スキルテーブルを見ても、防御アップや味方単体を守る防御スキルがある。
名前も、デザインも間違いなく手抜きだが、ステータスはなかなかのものだと木村は感心した。
詳しくステータス一覧を調べて、高ステータスの謎が解けた。
「覚醒」の項目で、他のキャラよりも数値が大きい。
どうやら覚醒というのは、ソシャゲでよくある二体目以上の同キャラが重なり、スキルやステータスが強化される類いのものだ。
突破とか潜在、星アップとか呼ばれ方は様々だが、覚醒がそういったシステムであることは間違いない。
記憶は定かではないが、このボローはけっこう出てイライラさせられたなと木村は朧気に覚えている。
さらに専用武器まで手に入っているので能力がさらに上乗せされ、挑発スキルすら手に入れている。
なおこの専用武器は股間につける棒状のパーツで、つけてみるとどうみても男性器にしか見えない。
見た目はとてつもなく最悪だが、前衛防御役としては優秀だ。
さっそく訓練室で、仮想モンスターを相手に戦闘シミュをしてみることにした。
この訓練室では戦闘シミュ以外でも、キャラのスキル熟練度を上げることもできるようだ。
ボローとアコニト、セリーダのひとまず三人で戦闘をしてみる。
「おぉい、坊や。ほんとにこんなガラクタを使うつもりなのかぁ。儂の知るぼんくらカラクリ遣いのがよほどマシなものを扱うぞぉ」
「女狐よ。見た目で力を判断するのは三流のすることだぞ。自分を省みろ。お前だって戦闘以外はゴミそのものだろう」
おっさんがアコニトの悪口を諫め、さらに上乗せして返している。
なお、このおっさんもボローがガチャで出たとき、言葉を濁していたことを木村は忘れていない。
ただ、おっさんは何も言ってなかったが、木村は心の中でボローをクソミソに言ったので責める権利など微塵もない。
木村は忘れているようだが、心の中どころか実際に口に出していた。
「ふん。良いわぁ。坊や、さっさと支度をせんか。儂が見極めてやるぞぉ」
「わかった。……うーん、どれにしよう」
訓練室は、やろうと思えばかなり細かい設定ができる。
ただしそのぶん設定が煩雑になってしまう。
「悩んでいるな。俺が選んでやろう」
「任せた」
おっさんは訓練室で、木村や他のキャラの特訓にもよく付き合っている。
木村もおっさんの設定なら問題ないと判断した。
「よし。行くぞ」
「遅いわ! はようせんか! 何をやっておる」
アコニトは鼻息荒く、像を結んでいく仮想敵に向かう。
像が結ばれていくにつれ、アコニトの鼻息はか細くなり、顔色は青に変化していく。
「わ……、わわわ」
彼女たちの目の前に現れたのは、帝都を滅ぼした竜の一匹。赤竜だった。
訓練室用の大きさに合わせてサイズは小さくなっているものの、炭にされた経験が消え去ったわけではない。
「それじゃあ戦闘を開始するぞ」
「待てい! 葉っぱを吸ってからにしてくれぇ! 後生だぁ!」
おっさんは首を横に振った。木村もそれは認められない。
カクレガ内は全面禁煙である。このルールに喫煙派が立った一人でデモを起こしている。
赤竜はすでに口を開け、かつてのように口の周囲が赤く光を放ち始める。
その様子をみて、ボローが守るようにパーティーの先頭に立った。
ボローのスキル発動の光と、赤竜の火のブレスは同時だった。
赤竜のブレスをボローが受け、その体……体と言うよりフレームが熱により赤く色づいている。
ボローの後ろにいるセリーダはボローにより熱波が分かれているためか、ブレスの直撃は免れていた。
――セリーダは、である。
「きさまっ! なっ! あ、ああああぁぁぁぁ……っ」
ボローの防御対象は一人である。
セリーダが守られたなら、当然のこととしてアコニトは守られない。丸焼きの黒焼きだ。
赤竜の見た目は以前よりも小さいが、炎の威力は変わっていない。
またしても炭となってアコニトは光に消える。
「素晴らしい防御だな。耐えきったぞ」
半壊ではあるが、ボローはまだ戦闘不能になっていない。
もう一撃は防ぎきれないだろうが、壮絶な一撃には耐え、後ろにいるセリーダは無傷である。
ボローはなおも赤竜と向き合っている。
「すっご……」
ゲームの画面越しでは防御スキルなんだから攻撃を防いで当然だ、と木村は思っただろう。
目の当たりにすると印象は変わる。
赤竜の炎は、都を焼き払うのに十分なものだった。十分どころかオーバーキルも良いところだ。
あの炎に耐えきった存在は、帝都ですら誰一人、何一つとしてなかった。
そのイカレた威力の炎を、あの骨格だけの手抜きデザインで守り抜いたのだ。
たとえ、
――防御スキルがあったにせよ。
――竜が小型だったにせよ。
――戦闘シミュにせよ。
ボローは極限の炎の前に屹然として立ちはだかり、最後まで耐えぬいた。
あまつさえ次の攻撃も防いでみせるといった体で、ボロボロなままセリーダの前に立っている。
木村の足は自然とボローへ動いた。
すぐ近くまで行って、しばし無言でボローと向かい合う。
「……ごめん。僕、君のことを馬鹿にしてた。ダサすぎだろって。でも、間違ってた。かっこいい、本当にかっこよかった。――これからも僕達の前衛として一緒に戦ってくれる?」
ボローは迷いなく頷いた。
木村とボローは互いに手を握り合う。
おっさんも木村とボローのやりとりを見やり満足げに頷いている。
アコニトが絶叫とともに復活し、その様子を見てセリーダがゲラゲラ笑う。
ボローとの信頼度レベルが一つ上がった。




