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vs父

 さて。9歳になった私は、父から手駒にするかの如く、あちこちの茶会に出席させられていた。高位貴族の子息との縁談を結ぼうとしているのだろう。挨拶もきちんとこなし茶のマナーも9歳児にしては中々で、評判が良かったのか父の機嫌が良い。どうやら公爵家以外からは縁談の打診が来ているようだ。だが、おそらくあの父のこと。男爵家は縁談から外すだろうし、子爵家でも公爵家辺りと繋がりの有る家で無ければ無視だろう。


「お嬢様、如何なさいますか?」


 セプテルから縁談の話を聞かされ、彼はそんな事を尋ねて来る。私はニッと口角を上げてから言った。


「お父様には、オーガストと結婚したいですって言うわ」


「オーガスト様と?」


「きっと大反対するでしょうねぇ。さすがにあんな目先の事しか見えない自分勝手男でも、異母弟との結婚は認められないでしょうからね」


「それはそうですが」


「だって、オーガストはうちの子として届け出は出されていないのよ? あくまでも預かっている、というだけ。世間にはそうしているの。何故なら叔父夫婦がオーガストとの養子縁組を断っているから。オーガストは叔父の実子として貴族院に届け出られている。叔父夫婦が育てられないので有ればうちに引き取る理由は分かるけれど、育てられない事象は何もない。だからオーガストをうちの養子として届け出も出来ない。私はそんな事は知らない。だけどオーガストとずっと一緒に居るなら結婚したい、と言うのが一番よね?」


「しかし旦那様は反対される……」


「じゃあ何故オーガストをうちの子にするのかしら? 叔父夫婦に返すのが当然よね? だって何の理由も無いんだもの。その辺を話すのはセプテルが説得してね? 神の気紛れ子である私が、異母弟と婚約したら……それだけでリンリドル侯爵家は醜聞でしょうねぇ?」


「かしこまりました、お嬢様。必ずそのように」


「うん。あ、ちなみにオーガストには前もって、家に帰れるように私がお父様と話すから、お父様から帰っていいと言われるまでは大人しくしていてね? って話してあるから。お兄様にも同じ事を伝えてあるから、しばらくはお父様とお母様には関わらないと思うわ」


 そんなわけで、セプテルとの打ち合わせから数日後。どうやら目ぼしい縁談相手は出揃い、かといって大物からは打診が来なかったのか、微妙な顔をしながらリンリドル侯爵家当主のお父様が私を呼んだ。


 ちなみにオーガストを連れて来てからというもの、この屋敷によく居るようになってとても嗤える。あからさまなのよね。どうせ愛人である叔母に会いに行こうにも叔父様が居て会えないんでしょ。おまけに行けばオーガストを返せって言われるだけだろうし。ざまぁみろ。


「お父様、お呼びでしょうか?」


「あ、ああ。ジューン、最近、お茶会で知り合った男の子達の中で気に入った子はいたかい?」


「気に入った? 結婚相手、ということでしょうか?」


「そうだ」


 私が神の気紛れ子である事を信じているお父様は、私がそのように言えば話が早い、とばかりに笑みを浮かべる。


「私、結婚相手はオーガストが良いですわ」


「なっ! オーガストはダメだ!」


「どうしてですか? うちの子でも無いのに、うちの子として連れて来ているんですから、私はてっきりオーガストと結婚すると思っていましたが」


「それはっ……。オーガストはお前と結婚出来る相手じゃない」


「では、何故お父様はオーガストを連れて来たのですか? お父様がお仕事で居ない時に叔父様がオーガストを連れて帰りたいって我がリンリドル侯爵家を訪ねて来ましたけど? 連れて帰るという事は、叔父様はオーガストをお父様の養子にする気はないって事ですよね?」


「それは……」


 お父様が黙りになったので、此処ぞとばかりにお父様の傍らに控えていたセプテルに目配せする。セプテルは心得たようにお父様に近づくとそっと耳打ちをした。おそらく、私がオーガストと結婚する事を諦めなければ、リンリドル侯爵家が醜聞に塗れることになる、とでも言ったのだろう。


 代々続く侯爵家を自分の代で醜聞塗れにしてしまえば、親戚からどんな目で見られるか判らない。おまけに私が神の気紛れ子である事を自分からあちこちに言いふらしているようだ。その私が醜聞に……お父様はゾッとしたのか、蒼白な顔色になった。


「お、オーガストとは結婚出来ない……。弟夫婦が病気だったから預かっていたが、明日にでもオーガストを弟夫婦の元へ帰す……」


「そうなんですか。オーガストとは仲良くなったのに残念です。でも叔父様の所に帰っても別に従兄弟ですから婚約出来ますよね?」


「いや! ダメだ! オーガストとは親戚付き合いだけにしなさい!」


「かしこまりました。でしたら、別の男の子達とはもう少し交流してみないとお返事出来ませんわ。だって私、オーガストと結婚するつもりでしたもの」


「わ、分かった! オーガストと結婚は出来ない! 他家にはもう少し交流してから返事をする、とこちらから伝えておく! だから、オーガストとの結婚は諦めなさいっ!」


「かしこまりました。では、もう宜しいでしょうか」


「あ、ああ。さがりなさい」


 お父様はソファーの背凭れに身体を預けて天井を見上げています。まぁ恥ずかしい。マナー違反ですわね。そんな事を思いながらお父様の執務室を退出しようとカーテシーをした所、セプテルがにっこりと笑ってくれた。いい出来だ、というところか。私もニヤリと笑って自室に戻った。


 翌朝、お父様はオーガストを叔父様の元へ帰したようだ。セプテルがついて行って一部始終を見てきたらしい。ついでに、叔母様がお父様の愛人だと知っているセプテルが、お父様に更に耳打ちをした、とか。


「もし、旦那様の弟君の奥方が、旦那様の愛人だと世間に知られたら……。それが万が一お嬢様のお耳に入られたら……お嬢様は、神の気紛れ子ですが、まだまだ男女の事は分からないお子様です。が、それ故に潔癖な所がお有りになられますよ? となれば、旦那様を軽蔑する事にもなりかねない……」


 お父様はセプテルの耳打ちに、慌てて叔父様に叔母様との関係は断つ、と宣言したらしい。叔母様にもそのように仰って、迷惑をかけた、と割と多めに迷惑料を支払ったとか。セプテルやりますね。これで、リンリドル侯爵家の次代はお兄様であるのは決定でしょう。


「お父様、もしも、ご自分が、今、窮地に追い込まれているのだとしたら……それは自分で撒いた種ですから仕方ないと思いますわ。同時に、誰かこの状況を助けてくれ、と嘆かれても、誰も手を伸ばしません。自分でどうにかしようともがくだけもがいて、それでもどうにもならなかった時。誰かが手を伸ばしてくれるかもしれませんけどね」


 愛人と手を切った上に我が子を手放す事になったお父様に、私はクスクスと嗤いながら諭してあげる。お父様は私の言葉を何故か怯えながら、身体を震わせながら聞いていた。あらあら。神の気紛れ子の存在が、今更ながらに怖くなってしまったのかしら……?


「ねぇ、お父様。楽をして助けてもらおうだなんて、随分と虫が良すぎますわ。今まで好き勝手して来たのですから、少しは苦労もしませんと。ご自分を救えるのは自分だけですわよ。苦労した方だけに手助けというものが生まれますの」


 クスクスクスクス嗤う私。

 何か人では無いようなもので私を見るお父様。


 さて、この状況から救ってくれる人は誰でしょうね……?


 そんな事を頭の片隅で考えながらもう1人のどうしようもない人、母親の事もどう始末を付けようか、悩んでいた。

お読み頂きまして、ありがとうございました。次話で完結します。

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