vs侍女(sideジュリー)
2話目より漢字が多めですが、ひらがな多めです。
生まれた時からいんちょうさまとみんなといっしょだった。それがわたしのふつう、だった。大きくなってみんなといっしょにまちへ買い物に行くと、まちでは【お父さん】と【お母さん】がいっしょなのがふつうだとしった。いんちょうさまは、女の人だから【お母さん】? じゃあ【お父さん】は? いんちょうさまに聞いたら【お母さん】じゃないって言われた。【お父さん】もいないって。でもみんながいっしょだからねって、いんちょうさまは言ってた。
その時、わたしはふつうじゃないってしった。わたしは赤ちゃんの時、ここにやって来たらしい。わたしだけでだれもいなかった、ということはだれかがおいていったんだろう。
いつか、【お父さん】と【お母さん】に会えるかもしれないって思ってまいにちいんちょうさまとみんなといっしょにいた。そうしてある時、いんちょうさまがいなくて、わたしがみんなの1番上になっていたら……ぐあいのわるい子が出た。いんちょうさまから聞いていたくすりばこにくすりがなくて。どうしていいか分からなくて。ほかの子にその子を見てもらってわたしは、いんちょうさまから聞いていたお金のあるばしょからお金をもってくすりやさんに行こうとしていた。
あわてていたから、馬車にひかれそうになって、すごくおこられた。だけどなんだかよく分からないうちに、女の人とくすりやさんに行ってた。くすりを買うお金が足りなかったけど、女の人が足りない分をくれた。
ありがとうって言ったら「その言葉はお嬢様に言いなさい」って言われた。おじょうさまは、さっきの女の子らしい。馬車までもどったらおじょうさまに「ありがとう」って言った。おじょうさまは、何かあったら「リンドルこうしゃくけに来なさい」って言って馬車は行ってしまった。
あわててこじいんに帰ってくすりをのませたら、ぐあいのわるい子が元気になった。夜、いんちょうさまにお話したら、まっ青になった。そして。
「明日にでもリンドル侯爵家へ行きますよ!」
と、こわい顔で言った。わたしはこわくてうなずく事しか出来なくて。年に一回しか着ないきれいな服を着て、いんちょうさまといっしょにリンドルこうしゃくけに行った。木がいっぱいで家はない。おうちのない子だったのかなって思ってたら、門ってところにきのう見た女の人がやって来て、その人のうしろをずっと歩いていたら、大きな大きな大きな何かが見えた。それが、あの女の子のおうちだって。
わたしのしってるおうちとぜんぜんちがった。きぞくというみぶんの人たちは、みんなこんなおうちにすむらしい。いんちょうさまが話をしたのは、しつじという人であの女の子の【お父さん】じゃないって。よく分からないけど、ごめんなさいって言うようにいんちょうさまに言われてごめんなさいって言ったら、しつじという人は、あやまらなくていいって。いんちょうさまは何度もあやまったけど、気にしなくていいみたい。
いんちょうさまとしつじという人の話はむずかしくて分からない。だから、あの女の子に会いたくて「あの子は?」って聞いたら、いんちょうさまが「これ!」っておこってきた。何でおこられるの? しつじという人はなかなか会えないんだよ、と言う。なかなか会えない。
「じゃあどうしたら会えますか?」
って聞いた。だってあの子、けられそうになったわたしをたすけてくれたんだもん。ぜったいいい人。やさしい? 人だと思う。それにわたしをけろうとした人を子どもなのにおこってくれた。それってすごいと思う。しつじという人が「会いたい」のか聞いたから、「うん」って言ったら、「ここで働けば会える」って教えてくれた。働く?
「いんちょうさまの言うとおりにおかいものする、とか?」
「そういうことだね」
「じゃあ働きます」
「ここで働くなら、もうここからほかに行けないよ?」
このおやしきで働くと、こじいんにも帰れないし、ほかの家やほかのお店にも勝手に行けないって言われた。それも、ずっとずっと、わたしが大人になっても働くみたい。それでもあの子に会えるなら。
「こじいんにも帰れなくていいです。大人になっても働きます」
わたしがそう言えば、明日からここで働く事になった。いんちょうさまとみんなにお別れして、持ち物を持って明日来なさいってしつじという人が言った。
「そういえば名前は?」
「ジュリーです」
いんちょうさまが言ってた。わたしがこじいんの前におかれた時、この子は女の子でジュリーと言いますって紙が有ったって。だからわたしはジュリーという名前なんだ。
そうしてわたしは、リンリドルこうしゃくけで下働きとして働く事になりました。
あの子には、「今日から働きます」ってごあいさつした時に会った。ジューンって名前なんだけど、わたしは「おじょうさま」って言わないといけないってしつじという人が言ってたから「おじょうさま」ってよぶ事になりました。