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アウトローズ  作者: 豚しゃぶポン酢
商業の街ドゥンケルスと魔王の影
8/23

第六話 襲撃

前回のあらすじ

オムニバスやってご機嫌


バトル回でござんす

 着替えを買い、オーレルから聞いた宿を武具店の店主に道を尋ねながら探すと、丘の上に小綺麗な建物が見えた。


「ここか、金貨亭って宿は」

「ああ。ったく、武具店を道案内に使う奴がどこにいるんだよ……」

「近かったからな、これ案内料な」

「要らねぇよ。じゃあな」


 とりあえず引っ張ってきた店主は丘を下って帰った。ともあれ、ようやく金貨亭に着いた。小高い場所に立っており、景色がいい。自然に囲まれているのも中々に味がある。オーレルが荷物は運ぶと言っていたが、いつチェックインするかなんて言ってない。どうやって運び込むつもりだ?と、思っていたら向こう側から誰か来た。


「やあ、エミール」

「オーレル……お前が来るのか」

「個人の用事に部下を使うわけにもいかないからね。あと、部屋は取ってあるし話も通してある」


 なんと準備のいい男だ。アリスやラナにも見習ってほしいもんだ。


「それはありがたいな。じゃあ運び込むか」

「手伝おう。そういえばあの二人は?」

「まだ来てない、アリスには手伝ってほしいんだけどな」

「アリスって、赤髪の子かい? 彼女、そんなに力持ちなのか?」


 そうか、アリスのことはまだ知らなかったか。


「グーパンチで大人が吹っ飛ぶくらいには力持ちだな」

「……恐ろしいね。人は見かけによらないってことか」




 オーレルの手伝いもあって、思ったよりも早く終わった。しかし、終わってもなおアリスたちは来なかった。いったい何をしてるんだか。


「じゃあ、私はそろそろ帰らせてもらう。あと部屋は205号だよ」

「ああ、ありがとよ」

「それと失礼かもしれないから言わなかったけど……風呂に入った方がいいよ」

「分かってる」




 部屋に入ってみると、床に絨毯が敷いてあり、ベッドはふかふかだった。なるほど、この時点でいい宿だと分かる。オーレルの奴もいいセンスしている。ただ、部屋が一つ分しかとられていない事、ベッドが複数あるということはやはり相部屋なのだろう。そちらの方が金がかからないから良いが、一緒の部屋だと主にアリスがうるさいので少し困る。酔って暴れられたら高くつきそうだ。とはいえ贅沢言ってられる身分でもないから仕方ない。

 それにしても二人とも遅い。道くらいは聞くことができるだろうから大丈夫だろうが、どこで道草を食っているのやら。まあ来ないなら来ないで先に温泉に入ればいいだけの話だ。




 温泉に入って部屋に戻ると、俺の物ではない荷物があった。恐らくアリス達が来たんだろう。だが部屋には居ない。まあ来たのであれば別にいい。1階に食堂があるので飯でも食いに行こう。今思えば、ここに来て口にしたものと言えばパッサパサの保存食ばっかりだった。そろそろまともなものを口にしないと精神が持たない。・・・元から正常でも無いか、なんて思いつつ食堂に入る。きれいな大部屋の中には多くのテーブル席と厨房が見えるカウンター席があり、テーブルには白いクロスが引かれている。テーブルの上にはナイフと呼び鈴が置いてあり、明るい室内できらめいている。


「……ん?何で明るいんだ?」


 考えれば馬車で移動するこの世界で電気などあろうはずもない。ロウソクやオイルランプでここまで明るくなるとは考えづらいが……どういうことだ?


「あの魔力灯がどうかしましたか?」


 後ろから声がして、振り返るとラナが居た。法衣に着替えており、湯上りで髪を濡らしている。


「おお、ラナか。魔力灯ってなんだ?」

「魔力灯というのは、魔法の力で動いている照明ですよ」

「……魔法と言われてもピンと来ないな」


 それに現世に魔法なんかよりヤバい連中がうじゃうじゃいたせいか、あんまりすごいものには聞こえない。


「魔法をご存じではないのですか?」

「見て分かるようなもんでもないと思うが……アリスは?」

「まだ温泉の方です。何か落ち込んでいましたけど、どうしたんでしょうか?」


 俺に聞かれても困る……と言いたいところだが、何となく心当たりがある。


「命令違反でお叱りでも食らったんじゃないか?」


 だとすれば半分は俺のせいだな。


「お叱り? 誰からですか? それに命令違反って……?」

「気にするだけ無駄だろ、もう半分はあいつの責任だしな。さぁ、飯でも食おう」

「はぁ……まあ、そうしましょう」




 テーブルに着き、メニューを見る。メニューは豊富にあるが、独特な食材を使っている料理があるせいで何を頼むべきか分からない。こういう時アリスが居ないと不便だ。いや、あいつの持つ資料さえあれば困らないのだが。しかし腹も減っているので、一か八か適当なメニューを頼む。

 料理が届くと、ステーキのようなものが出てきた。ラナの方は……何だあれ。正面を見ると、異様にごついステーキが見える。本人は目を輝かせながら目の前の肉を見ている。


「すごくおいしそうですね!」

「お、おぉ。そうだな」


 馬車の食料が異常に早く減っていたのはこいつのせいか。


「……? どうかしましたか?」

「いや、馬並みによく食うな~って思ってな」

「うぅっ」


 少し恥ずかしそうにうつむいている。むしろこんな真似しておいて乙女の恥じらいみたいなのがあったことに驚きだ。


「食料、もっと買っておくか」

「……はい、食べ終わったら買ってきます」




 飯を食い終わり部屋に戻ると、アリスが居た。自分のベッドの上に座っているが、さっきまで温泉に浸かっていたのか、髪が随分濡れている。そして相変わらずファッションセンスは謎で、ロイヤルネイビーみたいな恰好をしている。ミリタリー趣味なのか?様子を見ると、ラナの言う通り元気が無い。髪と一緒に性格まで湿気たか、などと思いつつ声をかける。


「かなり絞られたようだな」

「……」


 答える気力が無いのかそれとも無視か分からない。


「舌まで抜かれたわけじゃないだろ? 口を利かないと社会性を失うぞ」

「……」

「……本当に舌を抜かれたのか?」

「黙ってて」


 そうではないらしい。まあ話せるなら問題ない。


「腹が減ったら下の食堂で食えよ」


 それだけ言って俺は自分のベッドに入った。




 門の方から轟音が響く。爆撃か何かしらの魔法かと思い、荷物を持って急いで外に出る。丘の上から門の方を見ると、煙が上がっている。うるさくて眠れないので、門の方へ向かうことにした。


「な、何ですか? 今の音は?」

「爆発音? 門の方からしたけど……」

「行ってみましょう! エミールさ……あれ?」

「どうしたの?」

「エミールさんが居ません。どこに……」

「門の方じゃない? 私たちも行きましょう」

「は、はい!」




 門の方に来てみると、鎧を着た豚かイノシシみたいな顔の魔族が街を破壊して練り歩いていた。図体はデカいが、幸いにもばらばらに行動している。近くの通りを見ると、一般人を襲っている。首は入らなかったのかはみ出しているが、兜を着用しているので新武器を試すことにする。一から銃を密造した際のノウハウを応用して作った特製クロスボウだ。これを作るのに丸太三本無駄にした。矢をセットして引き金を引けば撃てる。矢は一般的なものだが、ドローウェイトが非常に重く、金属板を撃ち抜くレベルなので、大概の鎧は意味を成さなくなる。狙いを魔族の頭に定め、引き金を引く。・・・ヒット!頭をぶち抜かれて、魔族は地面に倒れた。


「生きてるか?」

「おお、あんた。助かったぜ!」


 武具店の店主だった。なんで外に出てるんだか。


「店主か。ところで何だこいつら?」

「装甲オーク隊だな。鎧を付けたオークで魔王軍の兵士だよ」


 そう言えばここに来る前に、魔王が何とかとアリスが言っていた気がする。


「早いとこ安全なとこに逃げろ。見つからないようにな」

「ああ、分かったけど……あんたはどうすんだ?」

「安眠妨害されて腹立つから皆殺しにしてくる」

「お、おう。気をつけてな……怖えや」




 どれだけ時間が経っただろうか。街に入ってきたオークは粗方始末したはずだが、残党が居ないか一応見回ってみる。すると、向かいの通りにオークが見えた。誰かを襲っているらしいが、石を投げてこちらを注目させ、頭を撃ち抜く。襲われていたやつは警告だけしてさっさと作業に戻ろう。


「おい、危険だからさっさと安全なところに……ラナ? それにアリス」

「エ、エミールさん! ありがとうございます!」

「やっと見つけた、せめて一声かけて欲しいんだけど?」


 何してんだこいつら。


「危ないから宿に戻ってろ、少人数の方が動きやすい」

「私、一応監視役なんだけど?」

「嫌です、私も同行させて」

「駄目だ、さっさと宿に戻れ」


 護衛はアリスだけで足りるだろう。同行させるメリットは無い。


「…せめて最後まで聞いてくださいよ」


 誰かが近づいてきた。敵かと思ったがよく見ると見知った顔だった。


「君たち、大丈夫か!?」

「オーレルか、遅いぞ。もうほとんど片付けた」

「さっき門の外から新手が200体ほど来た。今兵士たちをかき集めて迎撃している」

「装甲オークが200体って、かなり大規模な襲撃じゃないですか!」


 その状況を把握しながら何してるんだこいつ。


「まともに相手してたら矢が不足するな。それで、戦況は?」

「芳しくないから君の手を借りようかと思ってね」


 何を言っているのか一瞬理解できなかった。


「それは新手の冗談か? あいにく集団戦は得意じゃない」

「分かっている。君に頼みたいのはそいつらの隊長を倒して欲しいってことだ」


 つまりいつもの仕事か。異世界に来てまでやることが現世とほとんど変わらんとは……


「それで、報酬は?」

「20万ダールでどうかな?」


 フィザーク兄弟の片割れより安いが、悪くはない。


「乗った、案内頼む」

「私も同行します!」

「……勝手にしろ」




 門の前まで来てみると、既に戦闘が始まっていた。混戦になっているが、一つの戦闘に目を向けると確かに劣勢だった。よく見るとオークたちは統制された動きをとっている。間違いなく指揮官が居るな。久々の仕事にしては中々にハードな依頼だが、引き受けた以上やるしかない。


「弓矢をいくらかくれ」

「分かった、ここにあるから持って行ってくれ。私も戦ってくる」

「あの、スチュアート様はどちらに?」


 誰だそいつ。


「あ、スチュアート様はこの国の伯爵で、途轍もない強さの持ち主なんです」

「武闘派貴族か、まあ珍しくも無いな」

「スチュアート様は西門の方だ。単独で向かわれたが…まあ大丈夫だろう」


 単独? これと同規模の部隊相手に?


「……それ、本当に大丈夫なのか?」

「スチュアート様は王都の上級冒険者より遥かに強い。単独で竜も狩れるからな」


 化け物じゃねえか。まあそんなに強いなら大丈夫だろう。


「じゃあパパっと行ってササっと終わらせるか」

「これが金目的じゃなかったら手放しで喜べるんだけど……じゃあ私はここを食い止めるから」

「面倒になるから兵士を巻き込むなよ」

「わ、私はエミールさんに同行します!」


 結局ラナはついてくるのか。まあいい、正面からは行けないので外壁から降りて回りこもう。上から撃とうとしても威力が減衰して使い物にならない。見た感じ20mはあるが、そこくらいしか道はない。




 外壁に上ってみると、兵士はいない。下の方で応戦しているのだろう。


「あの、外壁に上ってどうするんですか?」

「ここから降りるんだが……それがどうかしたか?」

「えっと、冗談ですよね?」


 まあそう思うだろうな。


「他にルートも無い。木も生えてるし衝撃を和らげてくれるはずだ」

「いくら何でも無茶ですよ!」

「そんなこと分かってる。文句言うなら置いてくぞ」

「うぅっ……分かりました、でも私はどうすれば?」


 確かに俺はともかくラナは死ぬかもしれない。いや、それが普通なんだが。


「分かった、じゃあちょっと失礼するぞ」


 そう言いつつラナの肩と足を持つ、いわゆる「お姫様抱っこ」という状態にする。


「え!? ちょ、ちょっと何を」

「黙って大人しくしてろ。しっかり掴まってろよ、でなきゃ死ぬぞ」


 そう言って、外壁から飛び降りた。


「キャアァァァァ!!!」

「うるせぇ黙れ」


 少しして木に引っかかった。もっとも、すぐに枝が折れて木の葉で手や顔を切ってしまったうえに、着地時に足を捻ってしまった。それ以上に全身が痛い。


「痛ってぇなあ畜生」

「キュー……」

「起きろ、寝たら冗談抜きで死ぬぞ」

「うぅ……天使になった気がします」

「くだらないこと言ってないで、早いとこ……っ!」


 痛い、色んな所が痛い。まぁいい、このままクロスボウで指揮官をぶち抜きに行こう。


「ちょっと待ってください……《ヒーリング》!」


 何だそれ、と思ってたら体中の傷が癒え、痛みも消えていった。


「どうですか? 私、役に立ってますか?」

「……ああ」

「やった!」

「喜んでないで仕事するぞ。当座の生活費を稼がにゃならんからな」

「はい!」

「でかい声を出すな、気付かれる」




 少し木立の中を進むと、野営の後ろに出た。豪華な兜のオークが見えるが、あれが隊長だろう。ただ、周囲に護衛のオークがいるのは少し面倒だ。……と思ったら何かを話し始めた。


「何故だ、想定より大幅に遅れているぞ!」

「第二陣も半壊しかかっています」

「ええい! 先に突撃した第一陣はどうした!」

「分かりません」

「報告です、西門部隊が壊滅! スチュアートがこちらに向かっています!」

「グッ……これではまずい」

「隊長、いかがいたしましょうか?」

「第三陣突撃! 速攻で落とせ!」


 矢をつがえ狙いを定め、引き金に手をかける。……当たったが、兜を破砕しただけで仕留め損ねた。威力が足りなかったらしい。改良が必要だな。


「何者だ! 私の兜をよくも……」

「バレちゃいましたよ! どうするんですか!」

「まあバレたら出るしかないだろうな。思いっきりこっち見られてるし」


 矢をつがえながら木立の中から出て、大仰に挑発してみた。


「ようオーク諸君、ご機嫌いかがかな?」

「貴様、誰だ!」

「お前らの第一陣をほとんど殺した男ってところか」


 そう言うと表情が怒り顔に変わった。人以外とは話したことは無いが、案外分かりやすいもんだな。


「何だと!? 名を名乗れ!」

「これから死ぬ奴に名乗る名は無い、とっととくたばれ」

「ちょっとエミールさん!? 挑発しすぎですよ!」

「下がってろ、ラナ」

「こいつらを殺せ!」




 いの一番に突っ込んできたオークの頭をクロスボウで撃ち抜く。


「ぐあっ! 姑息な!」


 突っ込んできたオークは二手に分かれた。次に回り込んでナタを振り上げたオークの攻撃を右側に避けて、東洋の「居合」とかいう技法の要領で長剣を鞘から出す際に、むき出しだった首に刃を叩きこんだ。刃が止まるかと思ったが、案外スムーズに斬れた。


「がっ……かはっ……」


 三体目と四体目は同時にかかってきたが、右から来た三体目の横なぎをかわし、もう片方に毒を仕込んだダガーを投げる。


「ゴファッ! カハッ……」

「ひ、ひえぇっ」


 悶え苦しむ仲間を見て怯んでいるオークの隙を突き、首を叩き斬る。これで全部らしく、次は来なかった。この暇に矢をつがえることにする。




「装甲オークを四体同時に相手して勝った……? 無茶苦茶ですよエミールさん……」

「お前隊長だろ。何で護衛がこんな少ないんだよ?」

「な、何なんだ貴様は!」


 質問に答えて欲しかったが、まあそんなに興味も無いしいいか。


「とにかく、あとはお前だけだ」

「何故だ、何故我らの邪魔をする!?」

「最初はうるさいから殺して回っただけだが、今は仕事だし金にもなる。そうなりゃやる気も出るってもんだ」

「……王国の犬が!!」


 そう言って、オーク隊長は巨大な剣を抜いた。


「そうか、なら犬の餌にしてやる」


 布で血を拭いて、構える。相手はやや防御向きの構えをしながら様子を伺っている。毒やクロスボウを警戒してそう構えているのだろう。こちらは現状の武器を全て出した。あとは真っ向から戦いつつ隙を見るしかなくなる。

 しびれを切らしたのか、突進してきた。


「うおぉ! あぶねえ!」


 左側に避けてボウガンを構えるが、すぐに防御態勢に移行してしまった。見た目に反して冷静かつ的確な判断力の持ち主のようだ。突進ばかりされても困る。ただ、こちらから仕掛けようにも鎧と剣が邪魔をしてまともに斬れない。ガタイがいいので首に剣が届かない。やはりクロスボウくらいしかまともに頼れないだろうが、後頭部は鎧で隠れて狙いづらい、どうやっても剣か胴体に当たるだろう。……胴体?そうだ、いい手を思いついた。


「貴様の持つ武器は分かっている。それさえ対策すれば貴様なぞ……」


 あとはどうにか時間さえ稼げれば良いが……


「やあぁぁぁぁ!」


 ラナが杖でオーク隊長を叩いた。だが、鉄の板を叩いた音がしただけで終わった。ただ、それでも諦めず二度、三度と叩いたところで、注意をひいてしまったらしい。今がチャンスだ。


「女、いったいどういうつもりだ?」

「あ、うぅ……」

「死にたいのか?」

「うぅ……えーいっ!」


 また叩いた。こちらの準備ができたのでクロスボウを奴の背中に向けて構える。


「貴様! お望み通り叩き殺してくれるわ!」


 横に薙ごうとする直前に、背中に矢を撃ち込んだ。


「がぁっ! 貴様……ガファッ!?」


 オーク隊長は血を吐いて倒れた。


「ダガーの毒を矢に塗った。やっぱり毒矢も作った方が良いな、これ」

「き・・・さま・・・!」

「ああ、首は貰ってくよ。証拠無いと金くれなさそうだしな」


 そう言って、長剣で首を斬り落とした。首の骨が硬くてえらく時間がかかった。




「あの、エミールさん」

「なんだ? 腰でも抜かしたか?」

「あ、それもあるんですが……」


 あるのかよ。


「あの、私……役に立ちましたよね?」

「ん? ああ、まあな」

「私、足手まといじゃありませんよね?」

「自己評価低いなお前。……まあ、そうだな」

「じゃあ、お二人と一緒について行ってもいいですか?」

「そんなことは勝手にしてくれ」

「エミールさん、私はそういう言い方ではなく、許可が欲しいんです」

「はぁ……ああ、分かった。ついてきていい」


 そう言うと、ラナは目を輝かせた。こんな状態は前にもあったな。


「ではエミールさん、大変申し訳ないのですが……」

「おぶって行けって? まぁ街の方もそろそろ片付いただろうし大丈夫か」

「ありがとうございます。おんぶされるのって何年ぶりだろう?」

「おんぶ? それは無理だ、先客がいる」


 現在進行形で背負っているクロスボウとオークの首を指差す。


「えっ、じゃあどうするんですか?」

「決まってるだろ、よいしょっと」


 本日二度目のお姫様抱っこをする。


「ええっ!? これで帰るつもりですか!?」

「嫌なら襟首掴んで引きずっていくぞ、どうする?」

「これでお願いします」

「よろしい」




 門前は炎の熱が未だに残り、多くの死体が散乱している。その光景に、生き残った兵士たちは皆、慄いていた。


「はぁ~……」


 そんな場所でため息を吐く赤い髪の少女、言うまでも無くアリスである。


「……少しスカッとした」


 そう言い、門の前から去って行った。




「まったく、後始末をするこっちの身にもなって欲しいね」


 アリスが去った後、黒い髪をしたオッドアイの青年がどこからか現れた。


「おい、危ないから下がっていなさい!」

「《神格変更(スイッチ)創造者(クリエイター)》」


 そう唱えた次の瞬間、青年は麦わら帽子と白のワンピースを着用した女に変わった。


「な、なあっ!? 何だ貴様!?」

「《権能発動(アクティベート)再生(リジェネレイト)》」


 女が手をかざすと、死体以外は元通りになっていった。兵士たちは腰を抜かしてその光景を目を丸くして見ていた。


「《神格変更(スイッチ)管理者(アドミニストレーター)》」


 また唱えると、女は青年の姿に戻った。


「さてと、ジャックのところに茶でもたかるかな」


 そう言い、青年はその場から一歩も動くことなく消えた。




「失敗しただと?」

「申し訳ありません」

「それはいい。だが何故失敗した?」

「…植物を使って視ただけですが、妙な男が先鋒隊を殺して回っていたようです」

「何者だ?」

「『エミール』と呼ばれていました」

「聞いたことが無いな・・・『異界人』か?」

「恐らくは」

「・・・警戒が必要だな、引き続き頼む」

「分かりました」

「やあ《探偵》、ご機嫌よう」

「君か、何か用事・・・という訳でもなさそうだな。暇だから来たのだろう?」

「まぁそうだね、でも減るものじゃあないだろう?客なんか滅多に来ないからな」

「一応、来てることは来てるんですよ」

「やあクラリス、来てるといっても《教授》と《大佐》あたりだろう?」

「…まあ、そうですね」

「まったく、知り合いは客じゃないだろう?」

「クラリス、変に絡まれないうちに下がりなさい」

「はい、御主人様」

「・・・人を酔っ払いみたいに言わないでくれよ、ロンドンじゃあんまり見たことないけど」

「酔っ払いなら叩き出すがね。それで?ジャックが不在だったのか?」

「まぁね、居ないと張り合いが無いからねぇ」

「前に愚痴を聞いたよ。勝手に茶を入れて飲むアホがいる、とね」

「アホとは失敬な、ちゃんと本人が居る時にしか飲んでないというのに」

「それは居直り強盗ではないのか?・・・まあいい、暇だし話し相手にはなろう」

「それはありがたいね、ちょうど暇だったんだ」

「そんなに暇な仕事ではない気もするが…まあいい、今日は依頼も無い」

「暇を潰す場所は出来たけど、ちょっとうるさい子の管轄でねぇ」

「うるさい?・・・ああ、ミズキか」

「そう、あんまり入り浸ると見つかるからね」

「見つかって働きづめにされれば、その性格も少しは矯正されるだろうな」

「過労死するから勘弁してほしいなぁ…」

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