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アウトローズ  作者: 豚しゃぶポン酢
商業の街ドゥンケルスと魔王の影
7/23

第五話 苦悩と進歩

前回までのあらすじ

会話パートばかりの幕間


今回はラナの話が見どころだわさ

 さっきの話が影響してか、空気が重い。無言のままでも別に構わないのだが、アリスがガイドを放棄したら話にならない。そもそもまともにガイドされたことがほとんど無い。


「アリス、この道を行くとどこに着くんだ?」

「えっ!? ああ、このまま行くと……」


 そう言いつつ、資料をペラペラめくっている。


「あったあった。『ドゥンケルス』って言う交易の街に着くよ」

「今度はダンケルクに似てるな。で、それ以外の情報は?」

「えっと……何でも通商の街として栄えてて、宿もいいところが多いんだって」

「そりゃいいな。ようやく風呂にありつけるな」


 思い返せばここに来てから風呂に入ってない。そろそろ体臭やらが気になる……いや、後ろが未だにゲロ臭い地獄の様相だからずっと気になっているのだが。まぁそんなことはどうでも……よくはないのだが、ようやく職にもありつけるのではないか?そう思うと急ぎたくもなるが、それをやると馬車が持たない。その上ついさっき食料が異常に減っていることを確認した。そこを考慮すると急ぎたいのだが、移動手段を失ってしまうと大変まずい。仕方がないので周りの草原や森を眺めつつゆったりと行くことにした。


「あっ! ゴブリンが!」


 飛びかかってきたのを殴って弾き返した。ゆったり行こうとしたらこれか。


「結構数が多いですね……」

「馬車が壊れるから降りて戦うか」


 小柄で緑の体色をした、様々な武器を持った長耳の生き物がいる。貰ったラノベでもこんな感じだったな。


「アリスはラナを守りながら戦ってくれ、こっちは気にしなくていい」

「いいけど……大丈夫なの?」


 正面から飛びかかってきたゴブリンを掴み投げ飛ばし、他のゴブリンも巻き込ませた。


「見れば分かるだろ」

「お二人とも余裕ありますね……」


 大した物持ってなさそうなのに喧嘩売りやがって。三匹襲い掛かってきたが、一番近かった右のゴブリンの頭を掴み、左側のゴブリンを蹴飛ばし、同時に中央の奴にさっき掴んだゴブリンをぶつけた。ナイフを右腕の袖から取り出し、逆手に持って新たに右から殴り掛かろうとするゴブリンのこめかみを刺す。

 すぐに抜いて正面からくるゴブリンを左に躱し、攻撃が外れたゴブリンの頭を全力で踏み潰す。隣を見ると、炎の竜巻が巻き起こっていたり氷柱がぶっ刺さっていたりしている。なんだあれ。




 アリスを怖がったのか全員逃げて行った。燃やしたら何も残らないだろとは思ったが、それがどうでもいいくらいさっきの光景が衝撃的だった。


「何ださっきの地獄絵図」

「私の魔法だけど?」


 目の前にいるのが死神だと再認識させられた気がした。強すぎだろ。


「あくまで監視が仕事だから戦うつもりは無かったんだけど、自分好みの女の子を守るためなら、ねぇ?」


 もはや何も言うまい。


「舐め回すようにラナを見てないでさっさと……は?」

「どうしたの?」

「馬が……いない」

「……」

「「ええっ!?」」


 馬車から馬だけが居なくなっていた。その一方で馬車本体は見るも無残な姿になっていたあたり、無理矢理逃げて行ったのだろう。


「あんだけ派手に暴れれば逃げるだろうな」

「落ち着いて言ってる場合じゃないでしょ、どうすんの?」

「食料だけ持って移動しますか?」

「三人分の食料が数日分だぞ……どうやって運ぶ気だ?」


 途方に暮れつつ考える。どう考えたって手作業で運べるものでもない。というか距離的に途中で尽きる。それにそんな状態で襲われてはたまらん。


「カルクスに戻ろうにももう結構移動してるからな……」

「収納魔法は持ってるけど、同人誌とかコスプレ衣装でいっぱいなんだよねぇ」

「ツッコミ入れる気力も起きないな」


 しばらく考えていると、カルクスの方向から騎士の一団が来た。


「なんだこの瓦礫……おや? エミールじゃないか、こんな所でどうしたんだい?」


 確かにそう見えるとはいえ、人の馬車を瓦礫呼ばわりとはずいぶんなご挨拶だ。


「オーレル? カルクスの警備に当たってたんじゃないのか?」

「ドゥンケルスに用事があるのだが……なるほど、馬車が壊れたのか」

「幌を引っぺがした挙句森に突っ込んだからな、耐えきれなかったんだろう」


 今更ながら随分な無茶をしたものだ。


「それなら私たちの馬車に乗って行くといい」

「そいつはありがたい。ではお言葉に甘えて……」

「無遠慮にも程があるでしょ」

「他に手も無いしな、荷物も積んでいいか?」

「構わないよ」

「ありがとうございますオーレルさん」

「いえ、カルクスでは悪いことをしてしまいましたからね。お詫びと思って是非」




 どうにか移動手段は確保できた。しかも前の馬車より広い。馬車に揺られながら今後の予定を考えよう。まずは宿を決める。これはアリスに聞くよりオーレルに聞いた方が早いかもしれない。


「オーレル、ドゥンケルスにおすすめの宿ってあるか?」

「宿? ……『金貨亭』とかはどうかな? 料理は美味しいし温泉もある。値が張るけどいいところだよ」

「温泉? 何でそんなものが?」

「研究者が地熱が何とかって言っていたけど、専門家じゃないからよくは知らないかな」

「なるほど、教えてくれてありがとう」


 宿は決まった。道は街の人間にでも聞けばいいか。さて、次は武器だ。短剣やダガーでは火力が全然足りない。アリスはそもそも監視が仕事なので、最初から俺と共に戦う義理はない。ラナは論外。だからこそ戦闘面は大部分はこっちがカバーしなければならない。ただ商業の街にあるだろうか。


「度々すまんが武器屋って向こうにあるか?」

「武器屋? 街に入ってすぐのところにあるけど……」

「そりゃ良かった」


 しばらくはこんな所か。金は貰った懸賞金を使ってどうにかなるだろうが、それも無限じゃない。定職に就かないと話にならない。未だに身分証一つ無いのだから冒険者一択だが。


「ねぇ」

「なんだアリス?」

「私一応ガイド兼監視役なんだけど?」

「お前に聞くより早い」

「……」


 涙目になりながら膨れっ面をしている。正直、資料さえ渡してもらえればガイドの必要性がないと思う。ラナがぐっすり眠っているからか、怒りたい気持ちを抑えているのだろう。実際それは事実なのだから仕方あるまい。


「そろそろ着くよ。それと、荷物は宿に持っていくから安心してくれ」

「世話になったな、オーレル」

「いいさ、機会があればまた会おう。あと馬車は新しく買った方が良いよ」

「分かってる」




 オーレルたちの馬車から降り、別れる。大変な目にあったが、何とか街にたどり着いた。ルネサンス建築は相変わらずだが、壁に穴は開いてないし、ガラスもちゃんと入っている。井戸もきれいで死体も無い。ようやくまともな街に来たという実感がする。街に入ってすぐに武器屋があると言っていたが……あった。『ダムド武具店』という看板を掲げており、どうやら営業しているらしい。


「ここからは自由行動にしよう。夜になったら『金貨亭』に集合な」

「監視が私の仕事なんだけど?」

「店見て回るだけだ。それだけの用事でいちいち暴れてたら身が持たん」

「……まぁ、それもそうね。ラナは少しゆっくりしてきたら?」

「……分かりました」


 ラナはまだ結論が出ないらしい。これに関しては口を出すことじゃないだろう。とりあえず用を済ませるか。




「いらっしゃい!」


 入ると黒い角刈り頭のガタイのいいオヤジが出迎えてきた。そこそこの広さをした店内には剣をはじめとして槍や斧、フレイルなんかの近接武器から弓などの遠距離武器も売っている。武器を試せるというので少し試して回るが、槍は小回りが利かない、斧は片手斧でも振りが遅く感じる、フレイルは癖が強すぎる。剣を見て回ると、大剣は重すぎるが長剣は悪くなかった。ナイフを何本か買いつつ長剣を選ぶ。あとで毒薬も買ってくるか。

何本か見てみるが手に馴染まなかったり重かったりするが、軽くて手に馴染む物を見つけた。砥石と一緒に買うことを念頭に置きつつ、弓を見て回る。・・・駄目だ、扱いなれてないのもあるが、それ以前にどれも合わない。


「オヤジさん、もっといい弓はないのか?」

「そう言われてもなぁ……店中の弓はクロスボウ含めもう試したろ?」

「だよなぁ、じゃあ自分で作るか。とりあえずこのクロスボウと矢をくれ」

「ああ、毎度あり」


 木こりから丸太を買い、場所を借りてナイフで削っていく。日本の確か……大工、とか言ったか。対象を効率よく爆殺するために建築学を学ぶ際、その技法をついでに学んだ。日本家屋はさほど頑健じゃないから爆弾一個で済むため、勉強の必要は無かったわけだが……あれを応用できないだろうか。


「あ痛ってえ!指切っちまった、絆創膏……あるわけないか。せめて消毒液ないかな……」




 エミールたちと別れたけど、特にすることも無いので街をぶらつく。お金は貰ったけれど、使う用事がない。とりあえずお昼ご飯にしたいから近くの店に入る。


「ミラドキノコのソテーとカマナ(牛のような生物)のステーキください」

「あいよっ!」


 店の外から漂ってきた匂いで分かっていたけど・・・予想よりも美味しい。思わず顔がほころびる。


「随分幸せそうな顔だねぇ」


 右隣から声がする。


「この人と同じものを」

「あいよっ! ……あの兄ちゃん、いつ入ってきたんだ?」

「……いきなり隣に出てこないで」

「そうは言っても、そういう力の持ち主なのでね、諦めてくれ」


 確かに、今に始まったことではない。


「で、何の用?」

「冷たいねぇ、覚えはあるだろうに」

「はいよっ、お待ちどうさん!」

「どうも。……へぇ、これは美味しそうだ」

「それで、用って?」

「……本気で言ってるのかい?」


 一気に空気がヒリつく。顔はいつも通りヘラヘラしているが、目が全然笑っていない。


「一応聞いておくけど、君に出した命令は何だったかな?」

「……エミールのガイドと監視」

「分かってるじゃあないか。……ならここで何してるのかな?」


 更に空気が凍る。それなりに熱気のある店内で寒気すら覚えるほどに。


「監視対象からの提案を簡単に飲んだ上に、危機感皆無で呑気にランチか。あまり褒められたものじゃないね」

「えっと……」

「まぁ、君との仲だから容赦はするけど……」


 彼はいつの間にか食べ終わっており、席を立ち私の頭に手を置いた。


 いつか見た記憶が流れ込む。死んでいく仲間、取り残される恐怖、永遠とも思える孤独。


「あ……あぁ……」


 涙が止まらない。喋ることさえままならない。あれは確か、封印されたはずの記憶。


「次は、全部思い出させる」

「……!それだけはっ!」


 懇願を聞く様子も無く彼は去ろうとしてる。


「まったく、人に記憶を封印させておいてこれはないだろう。ああ、店主。お代はここに置いておくよ」

「お、おう。でも兄ちゃん、この嬢ちゃん、知り合いじゃねえのか?何かすごい顔になってるけど……」

「しばらくすれば元に戻るさ。では」


 そう言って、彼はその場を動くことなく消えた。


「なあっ!?なんだあの兄ちゃん!?」

「……」

「えっと、嬢ちゃん、大丈夫か?」

「……ごちそうさま、お代置いていきます」

「えっ、ああ、毎度あり」




 別行動になったけれど、行くところがない。だから広場のベンチに座り、考える。私は彼らについていきたい。助けてもらった恩を返したいけど、今のままでは足手まといにしかならない。行動を共にするのは危険であることは間違いないだろうから、今のままではいけない。でも、自分には力が無い。私はどうすればいいんだろう。


「ん? あんたは……」


 声をかけられた。視線の先にいたのは帽子をかぶり、ボロボロのコートを羽織り、大きな戦斧を背負った男。この人は確か……


「スチュアート卿?」

「覚えててくれたか、大昔に一回会っただけだが」


 忘れるはずがない。スチュアート伯爵と言えば……


「『戦争卿』、『戦場の暴龍』、『王国最強の貴族』……これだけ異名がある人なら誰だって忘れませんよ」

「俺そんな風に言われてんのか?」

「30年間無敗で叙勲式も戦場に行って欠席した人ならそう言われるでしょうね」

「そんなもんか。それで、何してんだ? こんな所で……というかなんだその恰好?」


 そう言えばアリスさんから貰った服を着ていたけど、確かにこれは目立つ。


「友人から貰ったんです」

「友人? へぇ、昔っからかなりの引っ込み思案で人見知りだったのにな。進歩したもんだ」


 そう彼は感心したが、実際は今も治っていない。


「あはは、恐縮です……」

「何か元気無ぇな?」

「……実は」


 誰かに相談すれば気が楽になると思ったけど、正直どんな答えが返ってくるか不安だった。彼は極度のバトルジャンキーであり、最前線に飛び込んでは血まみれで帰ってくるという話を聞いたことがある。もしかすると相談相手を間違えたかもしれない。彼は話を最後まで聞いて、それから口を開いた。


「なるほどねぇ。自分はそいつらについていきたいけど、戦うこともできず足手まといになる、と」

「はい……」

「それが何か問題か?」

「え?」

「この世の生き物全てが同じ才能を持って産まれる、なんてことがあるか?」

「それは……」

「俺だって、兵站とか戦術なんかは副官のエレジアに丸投げしてるんだ。俺には出来ねぇからな」


 彼は立ち上がり、こちらに顔を向けながら答えた。


「出来ねぇことをしないってのは悪いことじゃない、自分にやれることをやらないってのが悪いことだ。あんたはまず、自分に何が出来るかを探しな。それが今あんたのやれること、いや、するべきことだ」

「スチュアート卿……」

「おっと、俺はそろそろオーレルのところに行く。エレジアもそうだが、あいつもうるせぇからな」

「……ありがとうございます」

「お礼なら妹君に『職場まで押しかけてくるな』って言っておいてくれればそれでいい」


 予想外に良い答えを貰えたことには驚いたけど、何だか心が一気に晴れやかになった気がした。確かに、私には戦うことができない。でも、それ以外なら何か私にできるかもしれない。そう思うと、私の中で一つの決心が生まれた。


「よしっ、じゃあ宿に行かないと。確か『金貨亭』だったよね……」


 もう一つ、大きな問題に直面した。


「……『金貨亭』って、どこにあるの?」

「ピュリア、居るか?」

「ここに」

「ドゥンケルスにスチュアートが来ている。お前を討伐するためらしい」

「……では、戦力の少ない今のうちに」

「早まるな、装甲オーク隊を貴様にくれてやる。奴らを使い街を破壊し、スチュアートを引き付けろ」

「奴をここで始末しないのですか?」

「真向正面から奴とやりあえば兵を無駄に消耗する。そうなれば他の戦線が崩壊しかねない」

「なるほど、ここに留めて他の都市を攻略しやすくするためですか」

「ああ、では頼んだ」

「仰せのままに」

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