幕間 身の上話
会話多めの幕間じゃけん
「そう言えば、ラナの身の上話とかは聞いたことないな」
手綱を握りつつ話しかける。特に意味は無かったが、ただ少しだけ気になっただけの話だ。
「確かに、カルクスの住人には見えないけど…」
「旅をしてるっていうのは聞いたが、何で旅なんかしてるんだ?」
「えっと、実は・・・お恥ずかしながら、その、家出しまして。親には「国内一周してやる」って言ってしまって」
「家出?金も着替えも持たずにか?」
だとすれば準備不足が過ぎる。
「いえ、準備はしていたんですが・・・家に全部忘れてきちゃって」
違った、ただのドジだった。
「でも、お陰でこんなに素敵な服を貰えたんですから良かったんですよ!」
アリスが持ってきたセーラー服を見せつつ言い放つ。
「はぁぁ、ラナ、とっても可愛いよ!!」
当人は気持ち悪いくらい興奮している。
「ドジに変態に殺人鬼か、目も当てられん集団だな」
「誰がポンコツですって?」
「そうじゃないなら今すぐ資料を全部燃やしてガイドしろ」
「あぅ……」
押し黙ってしまった。
「まぁまぁ。そういえば、お二人はどこに住んでいるのですか?」
「家なんか無い」
「私も監視でついてきてるだけだからね」
「なるほど、どこかに定住する予定とかは?」
定住か。そう言われても、そもそもどんな土地があるかをほとんど知らない。となるとみて回った方がいいだろう。
「それも無いな、とりあえず世界を一通り見て回るつもりだ」
「……今回の仕事は長引きそうね」
「あはは。そうだ、お二人のこととか聞かせてくださいよ」
本人に悪気はないのだろうが、一番の地雷を踏み抜いてる質問だ。
「ん~……説明に困る、かな」
「世の中知らない方がいいこともある、そういうことだ」
「その言い方だと余計気になりますよ」
勿体ぶってるわけではなく、実際二人とも説明に困る身の上だからなのだが。しかしこちらも気になることがある。それを聞いてから話すかどうかを見極めよう。
「じゃあお前が本名と実際の身の上を話してくれたらこっちも話す」
「えっ」
「……」
やっぱりか。最初に名乗った時から違和感があった。
「エミール、何を言ってるの?本名とか実際の身の上とか」
「ラナって名前は偽名だろ?」
「……まぁ、そうですね」
「嘘……」
アリスは本気で『ラナ』が本名だと思っていたらしい。短い付き合いだが割と単純なポンコツだというのは何となく理解していた。だが、まさかあんなあからさまな違和感に気づかなかったとは。
「どこで分かったんですか?」
「最初名乗ったとき少し詰まっただろ? 本名ならこんな短い名前で詰まるわけが無い」
「……迂闊でした」
「今に始まったことじゃないだろ」
今は後ろを向けないが、少し押し黙ってしまった。これ以外に思い当たる節が多くあるんだろう。
「偽名を使っていたことは謝ります。でも、まだ…」
「話したくないか?それならそれでいい、無理には聞かん」
「……すみません」
「なぁに、誰だって知られたくないことがあるもんだ」
実際、こちらも下手に知られたくない情報が山のようにある。
「それはそうとお前、まだ俺たちについてくるつもりか?」
「えっと、そのつもりですけど……」
「……正直に言おう、俺たちについていくことはお勧めできない。家に帰るか別の仲間を探す方がいい」
「……っ!」
正直な話、得体の知れない奴を連れて行きたくないというのもある。得体が知れないのはこちらが言えた義理でもないが。
「まぁ、そうかもね。巻き添え食らって兵士に追われないうちに関係を絶つ方がいいよ」
「……」
「カルクスの時と態度が随分違うな」
「あの時は街に放逐する訳にもいかなかったし、状況も違うからね」
「まあいい、街まで時間はある。ゆっくり考えるといい」
「……分かりました」
「いい加減勝手に茶を入れて飲むな」
「もう何度目だろうね、そのセリフ」
「お前が勝手に茶を飲んだ回数分だな」
「じゃあ計測不可能かもね」
「かもね、じゃないだろ。いい加減許可くらい取れ」
「いいじゃないか。私と君の仲だろ?」
「腐れ縁だけどな。それと何だその紙袋?」
「ああ、これかい?アリスに頼まれて買いに行った同人誌だよ」
「上司を使いっ走りにする部下がどこにいるんだ」
「うちには結構いるけどね。あとR18作品も入ってるから開けない方がいいよ」
「開けるわけないだろ。上司になんてもの買いにいかせてんだあいつ」
「もう10回以上行かされてるから慣れたかな」
「中身によっては風評被害を受けると思うが…」
「幼女ものと百合ものだね。ソフトな奴からハードなものまで」
「・・・趣味嗜好は否定しないが、アリスは少し矯正した方がいいんじゃないか?」
「それはうちに来た時に散々やった」
「なるほど。でも失敗したと」
「だから諦めて買いに行ってるのさ。呆れたもんだよまったく」