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アウトローズ  作者: 豚しゃぶポン酢
はじまりの街 カルクス
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第三話 酒と薬の宴

前回までのあらすじ

宿を見つけて宿屋で暴れた。

VS.バゼル戦 戦闘描写って難しい

 あれだけ暴れれば妨害の一つくらいあるかと思ったがスムーズに城の近くまで来てしまった。遠目に見ればテーマパークにありそうな城だったが、いざ近づいてみれば手入れがされていないのか、外壁は薄汚れておりツタが好き放題に生えている。どう見ても現代にもあるような廃城にしか見えないが、本当にこんなところに居るのだろうか。居なかったら宿に戻ってあの二人を手荒に尋問するだけだから別にいいか。城壁も本城と似たような状態だが、壁に人骨が吊るされているのは大きな違いだろう。門が開いていたので入ると、門の周囲を囲むように大量の盗賊らしきごろつきが出てきた。


「……予想はしていたけど随分多いな。100人くらいか」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ、どうすんの?」

「二人ともよく落ち着いていられますね……」


 ラナの足はガタガタ震えている。武者震いはありえないから単純に怖いんだろう。


「バルトんとこの奴が言ってたのってお前か? 確か、エミールって言ったか?」


 一団を割って現れた男が酒焼けした声で話しかけてきた。袖の無い服を着ており、妙にニヤついている。


「そうだ。予想はついてるがお前は?」

「バゼルだ。バゼル・フィザーク。探してたんだろ? 来てやったよ」

「バゼルって……」

「双子の兄で盗賊の頭領です」


 まあ見るからに盗賊って恰好は置いとくとして、思ったより若い。俺より年下じゃないのか?


「そっちの嬢ちゃんたちは? もっと成長してりゃあいい感じになってるだろうに」


 頭領のくせに見る目が無いなこの男。


「ガイドと迷子だ。あとそうはならないと思うぞ」

「雑過ぎだし酷くない?」

「誰が迷子ですかっ! うぅ、私だって……」

「・・・・・・へぇ、随分仲が良さそうじゃないか。いたぶってやりたいところだが、今日は忙しい。大人しく帰るんなら見逃してやるよ」


 腹立つ物言いだが、今は何もできない。


「……なら、厚意に甘えようかな」


 大人しく門をくぐって城から遠ざかる。バゼル一人ならともかく、盗賊たちがあれ以上いるとすればこちらの戦力が足りない。あくまで監視役のアリスを抜くと、震えるくらいしかできない奴と半端な強さの元殺し屋の二人。それに対し、相手は盗賊40人以上と戦闘能力が高いと噂のバゼル。真っ向勝負する気は最初からないが、まともにやりあうのは自殺行為だろう。


「……で、どうすんの? あの数は無理でしょ」

「今からでもいいので街を出ませんか? これ以上は殺されちゃいますよ」

「いや、手は考えた。お前らちょっと手伝え」


 相手は盗賊、ならばあれを使うか。問題は必要なものが手に入るかだが。


 宿に戻ると主人が殺されていた。分かり切ってはいたが存外早くにやられたな。まぁいい、主人が死んだなら宿は勝手に使わせてもらおう。井戸の鶴瓶を外し、部屋に入る。


「有り金でお酒買ってきたけど、これで宴会でもするの?」


 アリスが酒瓶の入った箱を抱えながら帰ってきた。


「そこに置いといてくれ」

「その鶴瓶に入った水、すごく濁ってますけど何ですかこれ?」

「そこらの売人が持ってた数種類の薬を適当に混ぜて溶かしたものだ。飲むなよ、多分死ぬぞ」

「何でそんな危険物を部屋に置いてるのよ!?」


 黙々と酒のコルクを開け、捨てるのはもったいないと言うので少しの量をアリスに分け与え、空いた分に薬水を入れて混ぜる。それを一箱分済ませ、日暮れまで待つことにする。




「ラナぁ~」


 少し飲ませすぎたらしい。ベロベロになってラナに絡んでいる。


「ち、ちょっとアリスさん!悪酔いしすぎですよ! エミールさん助けてください!」

「嫌だ。絶対とばっちり受けるだろうし俺は避難させてもらう。すまんな、ラナ」

「ええっ!? そんな殺生な……」


 死にはしないだろ。


「ウェヒヒヒヒ」


 なんだその笑い声。


「じゃあ頑張れよ」

「ちょっと待って! 助けて……って何してるんですかアリスさん!? よだれを付けないでください!」


 箱をもって下の階に移動する。直後にラナの叫び声が聞こえた気がするが、気のせいということにしておこう。箱をカウンターに置き、売人の着ていた服を着る。盗賊くらいならこれで騙せるだろう。ふと外を見ると、日が暮れる頃合いになっていた。随分長いこと作業していたものだと思いつつ、箱を持って外に出た。




 盗賊たちは城の前庭で酒を飲んでいた。酒を渡し、足早に去る。どこかから略奪でもしてきたのか、妙に上機嫌だった。第一段階は成功した。後は結果を見守るだけだ。


「おい、どうしたんだてめぇら!?」


 盗賊たちが胸を抱えながら倒れこむ。どうやらうまくいったようだ。変装を解き、バゼルの前に姿を見せる。


「ようバゼル。ご機嫌いかがかな?」

「エミール……! 酒に何か入れやがったな!?」

「薬は嫌いだったか? てっきり好きだと思ったから大量に入れたんだがな」

「……いい趣味してるじゃねぇか? ええ?」


 笑ってはいるが顔が引きつっている。


「真っ当にやりあうのは下策だったんでな、やれることで一番効きそうなことをやっただけだ」

「下策だぁ? じゃあてめぇは下策を選んだなぁ。俺に姿を見せるなんてよぉ! ヒャハハハ!」

「酒を飲まなかったのは計算外だが……殺せば何の問題もない」


 そう言うと表情が激変した。


「ふざけんじゃねぇぞクソ野郎!!」


 短剣を抜きつつ叫ぶが、そのセリフはどっちもどっちだろ。


 こちらも短剣を構え、様子を見る。不意を突けなければ投げても意味がないだろう。そうなれば真面目に戦うしかないが、相手はこちらの手札を聞いたのか、警戒しつつ様子を見ている。


「怒ってる割には冷静だな」

「黙りやがれ!」


 睨みあっても始まらないのでこちらから仕掛けるかと思ったその時、相手が先に仕掛けてきた。一瞬で間を詰められ、短剣を眼前に振ってきたが、そのまま回転し足払いをかけてきた。無駄にこなれているなと思いつつ、払われる前にバックステップで回避する。


「ちくしょう、ちょこまかしやがって!」

「お前に言われたくない」


 こちらからも仕掛けるか。体勢を立て直そうとした隙に距離を詰め、短剣を下から突き上げる。躱されたが、振り上げた短剣を逆手に持ち、刃を下に向け振り下ろすが、これも避けられた。すかさず短剣を持ち直して突くが、バックステップで躱された。いやに身軽だな。

 突っ込んで来ようとしたので死体を蹴り飛ばして妨害したら、それが逆鱗に触れたらしい。一気に表情が変わった。


「なめやがってクソが! 死ぬ寸前までいたぶってやるよ!」


 あからさまに本気を出したようで、攻撃速度が異常なまでに速くなった。どうにか防ぎきれてはいるが、このままでは攻撃に転じることができない。ならばと思いつつ、わざとらしく弾き飛ばされる。奴は頭に血が上りすぎて演技に気づいていない。


「いってぇなおい」


 背中に硬いものが当たっている。こいつを使えば……


「てめぇタダで死ねると思うなよ?」


 そういいつつ歩み寄ってくる。もう少し……


「なんか言い残すことはあるか?」

「ある……くたばれ!」


 そう言って、背後にある酒瓶を顔面めがけて投げつけた。


ガッシャーン!!


「があぁぁっ! 畜生!」


 顔を抑えつつ、悶えている。この瓶は確か……


「この野郎! そんなに死にてぇなら今すぐ……!?」

「気に入ったか? 安酒と薬のカクテルは」

「グゥッ……カッ……ハァッ……」


 しばらく悶え苦しんでいたが、ついには動かなくなった。一応心臓を刺しておこう。ともあれこれで片方は始末した。首は酒の箱にでも詰めて宿に戻ろう。




 一階に箱を置いて部屋に戻ると、荒れ放題の部屋と布団の中でめそめそしているラナ、法衣にしがみついたまま寝ているアリスの姿があった。おまけに悪臭まで漂っている。


「どうなってんだこりゃ。虎でも暴れたか?」

「うぅ、グシュッ」

「スヤァ」


 よくこんな場所で寝られるなこいつ。


「おい、起きろアリス」

「んん~? あ~エミール。おはよう」


 全身が恐ろしく臭い。悪臭の元はこいつか。


「おはようじゃない、それ洗ってラナに返してやれ」

「えぇ?……あぁ~、そうだね」


 寝ぼけながらそう答えるアリス。よく見たらよだれどころかゲロまでついてる。道理で異様に臭うわけだ。


「汚えなオイ。ラナは……替えの服はあるか?」


 そう聞くと、ラナは布団から顔を出し首を振った。




「ラナの服? 別にいいけど……自分で買いに行かないの? それにお金は?」

「俺には女物の服なんぞ分からん。金はツケか神の力で何とかしろ」

「まぁ、私の責任だから買ってくるけど……この街だしあんまり期待しないで」

「それは分かってる。そいつは干しておくからとっとと行ってこい」


 アリスは少し俺に対する文句をたれつつ買いに行った。まったく小生意気なやつだ。死神だと本人は言うが未だに信じられん。……待てよ? 軍の将校みたいな恰好したあいつのセンスを信じていいのか? 他人の服なら真面目に選ぶと思いたいが不安だ。しかしラナの法衣をどこに干そうか。外は論外、二階はゲロ臭い、共用スペースでも盗まれかねない。そうなると一階の宿泊部屋に干すしかない。一室だけまともな部屋があったので、棒切れを適当に見繕って干す。アリスが服を買ってくるまで時間があるだろう。こんな時に寝てしまうとまた殺されそうなので、本か何か欲しいところだ。選ぶ気力もないので本棚から適当に取った本を読むことにする。


「『花の姫』? おとぎ話かこりゃ? まあいいや」


 とりあえず読み進めることにする。おお、文字がどんどん翻訳されて……何でフォントがComic Sansなんだよ。ともかく、思った通りこの世界の寓話らしい。森に住むアルラウネとその信徒たちの話のようだが……こんなものを読む歳でもないが選び直すのも面倒だしこれでいいか。




バタンッ


 ある程度読み終わったとき、何かが倒れる音がした。アリスなら声をかけてくるだろう。とすれば侵入者かと思い、短剣を抜いて慎重に扉を開ける。覗いてみると誰かが倒れているらしく、足が見える。警戒しつつ近づくと、青ざめた顔をしたラナだった。どうやら箱の中を覗いて気絶したらしい。そう言えばまだバゼルを始末したことを話してなかった。なぜ下に降りてきたのかは分からないが、下着姿で歩き回るという奇行の方が意味分からん。放置するわけにも行かないし、また奇行に走られても困るので目の届くところに置いておこう。両手で持ち上げると、思ったより軽かった…が、あんな部屋にさっきまでいた所為か物凄い悪臭がする。よく考えればアリスのよだれやらゲロやらが直撃していたのか。さっさとこいつをベッドに放り込んで換気したい。


「う……ん?」


 もう一冊本を読んでいると目を覚ましてきた。


「起きたか?」

「あ、エミールさん。えっと、確か私は下に降りて……」

「まず聞きたいんだが何故降りてきた?」

「それは……泣き止んで鼻が通るようになったら強烈な臭いがして」


 どれだけ泣いてたのか知らないが、反応が遅すぎるだろう。とはいえ、露出癖がある変態でなくてよかった。でなければまともな人間が居なくなってしまう。


「アリスには二度と酒を飲ませないようにしよう」

「あはは……そうしてもらえると有難いです」


 その言葉に一抹の違和感を感じたが、その正体はすぐに分かった。


「ついてくること前提なんだな」

「えっと、駄目ですか?」

「今は駄目とは言えないけどな。だいたいついてきてもロクなことにならんが?」


 実際、ここに来て早速40人以上殺している。この調子では一生を終える頃に1000人は殺してそうだ。


「・・・私は戦えないので、護衛してくれる人が欲しいというのもあります」


 ならもっと人を選べよ。なんでこんな胡散臭さの塊みたいな連中を選ぶんだか。


「でも、私の旅は長くなるものなので、自分で選びたいと言いますかその・・・」


 だとすれば人を見る目が無さすぎる。これはまた先行きが心配な奴だ。


「アリスさんは優しいですし、エミールさんは私を助けてくれたから、その恩を返したいんです。だから、私もお二人について行きたいんです」


 正直な話、報酬が割に合わないから護衛なんて勘弁してほしい。どうにかして突き放せないだろうか。


「……盗賊を襲ったのは金目的だからだが?それに散々人を殺しまくってもいる」 

「それでもいいんですよ、助けてもらったことには変わりありませんから」

「良くないだろ、連れて行くのもアリスに殴られたくないからだぞ」

「あはは……そう言えば、アリスさんはどこかに出かけてるんですか?」


 すっかり忘れていた。


「お前の服を買いに行かせてる。もう随分経つんだがな」

「ただいまー」


 噂をすれば帰ってきた。




「おかえり。で、何を買ってきた?」

「探してもまともな服が売ってなかったから私物を持ってきた」


 嫌な予感がする。


「コスプレ衣装とかじゃないだろうな」

「そういうのもあるけど……とりあえず合いそうなものを全部持ってきた!」


 パッと見た感じでは、頭痛がしてくるようなコスプレ衣装ばっかりだ。


「本人の希望は聞いてやれよ?」

「わかってるって。ラナ~入るよ~」


 しばらくすると、暴走したかのように言葉をまくし立てているアリスの声が聞こえてきた。ラナは今頃振り回されているのだろう。可哀想に。




「おーい、ビリー? 居るか?」


 スキンヘッドの男が宿に入ってきた。客だろうか。


「……ん? 兄ちゃん、昨日うちの店に来たよな?」


 盗品店の店主だった。


「宿の主人なら殺されてたよ。下手打ったんだろうな」

「……本当かそりゃあ?」

「で? 店主に何か用事か?」

「ああ、王国軍がここに派遣されてくるから潮時だって言いに来たんだ。バゼルも死んじまったしな」


 王国軍が派遣だって?


「本当かその情報?」

「ああ、手下もろとも誰かに殺されてたんだと。誰がやったんだろうな?」

「そっちじゃない、その前だ」

「王国軍のことか? バルトが確かな筋から掴んだ情報らしいから本当だと思うぞ。っと、俺も店畳んで逃げるか。バルトも逃げたしな。」


 そう言って足早に去っていった。重い腰を上げたかバゼルの死が知られたかは知らないがちょうどいい、到着したらバゼルの首を引き渡すか。しかしバルトは逃げたか。面倒なことにならないといいが。




「……兄貴が死んだって本当か?」

「ほ、本当です、信じてください」

「誰がやった?」

「あいつです、最近街で暴れてる……」

「エミールか?」

「は、はい」

「……そいつが知られたのか王国軍が動き出してる。俺らも手じまいだが、俺は仇を取りに行く」

「ならついていきますよ、バルトさん」

「勝手にしろ。……エミール、絶対に殺してやる」

「で、依頼は? 便所掃除から特殊清掃、書類整理に殺しと手広くやってる」

「殺しだ! 前金で全額払うから早くしてくれ!」

「落ち着け、ターゲットの名前も分からないんじゃ何もできん」

「あ、ああ。すまない。実は、ある男に命を狙われているんだ」

「事情は知ったことじゃない、ターゲットの名前と金さえもらえりゃそれでいい」

「いやでも……分かった。ターゲットはエミール・コルトバーグだ。知っているだろ?」

「……ああ、よく知っている」

「なら話は速い! これで全部だ、持ってってくれ!」

「まあ、いいだろう……ん?待て、誰か来る」

「ええぇっ!? 嫌だっ死にたくないっ!」

「あっ、おい!」

バァン!

「いないな……あれ? ジャックじゃねぇか。何してんだ?」

「ようエミール。ドアを蹴飛ばして開けるな」

「そりゃすまん。それで、お前も仕事か? お互い大変だな」

「まぁ、な」

「どっかに隠れているはずなんだが……逃げたか。仕事中だしまたな」

「ああ、またな」




「……さてと、やるか」

「・・・・・・」

「これも仕事なんでな……許せよ、エミール」

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