第二話 フィザーク兄弟
前回までのあらすじ
ごろつき11人から略奪し、仲間?が増えた。
フィザーク兄弟に関する色んな情報が出る話
「フィザーク兄弟の懸賞金って……無茶ですよいくらなんでも!」
「無茶でもやるしかないでしょ。十分な食料が買えるか怪しいのもあるし」
確かに他の街に行きたいところだが、食料を買っていかなければならないのだが資金面の不安が残る。3人分の食料ならば2万ダールは欲しいところだ。だがそれよりも気になることがある。
「フィザーク兄弟って誰だ?」
「……私はよく知らない。懸賞金の張り紙見ただけだし」
「おい言い出しっぺ」
相変わらず仕事が雑な奴だ。
「それでしたら私が説明します」
「ああ、頼む」
「コホン、フィザーク兄弟というのはこの街を支配する双子です」
双子、か。嫌な思い出があるがまあ連中ほどじゃないだろう。
「嗜虐的かつ残酷な性格であり盗賊を束ねている兄バゼル。冷酷無比で合理的な性格の持ち主で薬の売人や情報屋を統括している弟バルト。両者ともに戦闘能力も高く王国軍すら一目置く程です」
「まあ両者ともに手段選ばずに金を稼いでるって印象だな」
無論、人のことを言えた義理ではないが。
「そんな方々の懸賞金を狙うなんてとても正気には思えません」
「そんなとんでもない奴らだったなんて……」
「懸賞金はいくらだ?」
「えっ? 二人で80万ダールだけど、なんで?」
結構な額だ、となれば話は一つだ。
「気にするな、明日は早くに出るからもう寝るぞ」
「? は、はい」
時刻が分からないと不便だがここでも朝には鳥が鳴く。盗人か何かが来るんじゃないかと思っていたが思った以上に快適に眠れた。いいベッドだ。寝ぼけ眼を覚ましたいが洗面台なんかあるわけがない。仕方がないので短剣を腰に携え階段を降り、井戸まで行く。鶴瓶も掃除されておりとてもきれいだ。井戸水を汲み顔を洗い、部屋に戻るが二人はまだ寝ている。ちょうどいい。宿の主人と話してくるか。
「朝早くからご苦労さん」
カウンターに肘を置きつつ挨拶する。白髪で常時眉間にしわが寄っている。
「……お客さん、なんか用か」
「フィザーク兄弟について聞かせてくれ」
あからさまに主人が顔を顰める。マフィアのボスを嗅ぎまわるなんて普通じゃないから当然だろう。もっとも、話を渋るのは間違いなく別の理由がある。
「一応言っておくが知らないっていうのは通用しないぞ」
「何故だ?」
「どういう繋がりかは知らんがこの宿、奴らと通じているんだろ?」
「……言いがかりだ」
「こんな街でこれだけ安眠できる宿があったら逆に怪しいだろ。宿なんて絶好の餌場だからな。それとも盗人や強盗はあんたがいちいち追い払っているのか?」
「そうだ」
「昨夜もか?」
「……そうだ」
「嘘だな。本当はそんなもの絶対に来ないんだろ? 来たんなら争う音の一つくらいするだろ。それにそんなことをすれば盗賊をまとめてるバゼルとぶつかることになる」
主人の顔が更に険しくなる。もう少しつつけばボロを出すか……?
「まだあるぞ。こんな街に来る気の触れたやつなんかそういるとは思えない。地元の住民なら宿屋なんか普通は利用しないだろ。だというのにいいベッド使っているじゃあないか。井戸もきれいだしな。でも客は来るはずがない。ならどこからそんな金が出てきたのか?」
「そんなこと、何の証拠にもならん」
簡単に揺さぶりにはかからないか。ならもう少し突いてみるか。
「そうか、なら悪かった。ところでいい宿だな、ここは。」
「なに?」
「綺麗でいい宿だって言ってるんだよ。井戸も鶴瓶がピカピカに掃除されててな」
「あぁ?」
「他所の宿は壁に大穴が開いてたりギャングのたまり場になりつつあったりしているんだ。井戸も所々崩れたものばっかりで顔も洗えそうになかった。随分都合のいい宿があったもんだ」
「……っ!」
よし、かかった。
「都合が良すぎるんだよ。他所があんな状態なのにこんなきれいな宿があるなんておかしいだろ。貧民窟に豪邸が建ってるようなもんだ。大方双子の庇護か何かを受けてるんじゃあないのか?」
そこまで話すと主人が卓上ベルをカウンターから取り出して振った。宿泊部屋と玄関の扉が開
き、武器を持った男たちが距離を詰めてくる。室内戦になることを想定してかダガーや短剣持ちばかりだ。出るのは分かっていたが思ったより多い。
「何も質問しなかったことにするのなら、命は助けてやる」
「一つ質問だが、あんた以外の全員を片付けたら質問に答えてくれんのか?」
「ハッ、ほざいてろ」
しかしどうしたものか。外に何人いるか分からない以上、外に逃げるのは悪手だ。かと言って部屋の方に逃げれば不利になるだけ。となればここは……
「おらぁっ!」
両側から刺しにくる男たちを直前で後ろに避ける。そのまま突っ込み互いを刺した男たちを裏拳でのけぞらせ、思わずダガーを手放した二人に刺さっているダガーを引き抜き両サイドの先頭にいる敵に投げる。
「ぎゃっ!」
テーブルに置いてあった花瓶を部屋の方にいる男に投げつけ、入口側から斬りかかってきた男の腕をとり、短剣を叩き落とす。そのまま入口の方に押し返し、テーブルを投げて入口を塞いだ。
「うおあぁっ!?何てことしやがる!?」
部屋の方から二人、仲間を押しのけ突っ込んできた。手前の男をとっつかまえて盾にし、仲間に刺された男のダガーを奪い後ろの男に投げる。
「ガッ…!」
部屋側は片付いた。テーブルを退かした男たちにさっきの男から叩き落とした短剣を投げる。不利を悟ったのか、残りは撤退していったようだ。ともあれ片付いたので主人に話を聞こう。
「何人か逃げて行ったが片付いたぞ。話を聞かせてもらおうか」
「……」
思ったより強情だな。
「そういえば隣に売人がいたな。もしかしてあいつはバルトの手下か?」
「……そうだ」
「あんたが言わないならあいつから聞くか」
「やめてくれ!」
「じゃあ聞かせてくれ」
すると上の階から足音がしてきた。新手かと思ったらアリスとラナが起きてきたようだ。あれだけ派手にやってたのに寝坊助な連中だ。
「なんか騒がしいけど何して……って何これ!?」
アリスが眠そうに枕を抱えたまま降りてきた。
「どうしたんですかアリスさん……な、何が起きたんですか!?」
ラナもアリスと同様の状態で降りてきた。こいつら普段ぬいぐるみでも抱いて寝てるのか?
「二人ともおはよう、とりあえず部屋に枕を置いてこい。説明はそれからする」
「う、うん」
「分かりました」
「すまん、少しだけ待っててくれ。あと家具は懸賞金で弁償するから許してくれ」
「……正気か?」
枕を置いて降りてきたので、事情を説明する。
「……事情は分かったけどいくらなんでもいちゃもんが過ぎない?」
「確信はあったけど実際半分はハッタリだったからな。引っかかってくれたのはラッキーというべきだな」
「チッ」
「でも何で声をかけてくれなかったんですか?言ってくれれば手伝ったのに……」
「閉所で戦闘することになりかねなかった以上人数は少ない方がいいと思ったからな。じゃあ聞かせてもらおうか、ご主人?」
「……お前の言う通り、この宿は双子、特にバルトの庇護を受けている。薬物や武器の売買や情報収集のための拠点、売春の斡旋に使ったりとかな」
「バルトに会ったことは?」
「ある。秘密裏に人と会うときにここを使っているからな」
「居場所は?」
と言ってもそうそう他人に居場所を漏らすとは思えない。
「拠点に使われているとは言ったが、一介の宿の主人にそんなこと分かるわけないだろ」
「まぁ期待はしてなかったな。じゃあ双子の側近とかは知ってるか?」
「バゼルの方は知らんが・・・バルトの側近なら売人のダカールってやつがいるな」
「どこにいる?」
階段を下りてくる音が聞こえる。二階の客だろうか。
「おう、ビリー。おはよう……って何だこりゃ!?」
隣の部屋に居る売人だった。
「おはよう、ダカール」
「へえ、ダカールってあいつだったのか」
「ん? 何だ兄ちゃん、クスリが欲しいのか?」
「要らん。欲しいのはお前のボスの首だ」
そう言うと驚いたような素振りを見せた。
「ボスってバルトさんのことか? 冗談だろ?」
「エミールさん!? 冗談ですよね!?」
「冗談に聞こえるか? うだうだ言ってないでさっさと話せ」
「分かった分かったよ! でも俺が言ったってばらすなよ?」
売人が息を整え話し始めた。
「バルトさんの居場所に関してだが……知らねぇよ? わりぃけど」
つい腰の短剣に手をかけると、慌てた様子をみせた。
「いやほんとに知らねぇって!冗談抜きでバルトさんの居所なんか知らねぇよ!ってか多分知ってる人なんてバゼルさんくらいじゃねぇかな?バルトさんって自分のこと全く話さないからな」
バゼルから倒すとなると面倒な方が残るな。だがバルトの居場所を知ることができない以上仕方ないか。それにバゼルを始末すればバルトを釣ることができるかもしれない。
「バゼルを殺しに行くのか?」
「まぁ、そうするしかないな」
「えっ」
「本気ですか?」
女性陣はドン引きしているが、他に手段もない。
「骨は拾えないけど精々頑張れよ~」
「お前が応援したら駄目だろ。で、バゼルは何処にいるんだ?」
「何処って…カルクス城にいると思うぞ。街の中心にあるでっけ~城だよ。よく城の前庭で酒盛りやってるよ」
「そりゃまた目立ちたがりだな」
「城内はきったねえからな、律儀に掃除する奴らでもないしな」
さすがにそれは組織としてどうなんだ。
「まあいい、さっさと行くか」
「あの、本当に行くんですか?」
「他に稼ぐ手段が無いしな。嫌なら来なくていいぞ」
「監視が仕事だから私は行くけど……」
「……うう、こうなったら私も行きますっ!」
本当は人数が少ない方がやりやすいんだがな。まあ人手があれば何かに使えるかもしれん。そう思いつつ、城の方へ歩を進めることにした。
「ハァ、片づけるか」
「手伝うぜ。しかし何だあいつ? こんだけの数を殺るなんて」
「さあな、とはいえバゼルの居場所を教えてよかったのか?」
「バゼルさんに勝てるわけねぇだろ。戦力もあれだけっぽいし……ん? 誰か来るぞ?」
「客か? 今は入れらんねぇな。少し待ってろ、応対してくる」
「おう。ったく、それにしても随分荒らされたもんだなぁ……」
「ぐあぁっ!」
「!? どうしたんだよビリー!」
「よう、ダカール」
「あっ……バルトさん、どうしてこんなところに?」
「分かってるだろ? 余計なことをベラベラ喋りやがって」
「ごっ……ごめんなさい!許して……」
「許す訳ないだろうが」
「そんな……嫌だ! 誰か、誰か助けてくれ!」
「やぁジャック、お邪魔してるよ」
「毎回言ってる気がするが勝手に上がって勝手に茶を入れて勝手に飲むな。せめて許可を求めろ」
「相変わらず茶菓子はなかったけどね」
「勝手に棚を漁るな」
「いいじゃないか、私と君の仲だろ?」
「『親しき中にも礼儀あり』って言葉を知ってるか?」
「知ったことじゃあないね。親しいといえばエミールの葬式行ったかい?」
「強引に話を逸らすな。……行ったよ。まあ誰かに殺されるだろうなとは思ってたが、こんなに早いとは思ってなかった。そういえばそっちに来たか?」
「来たよ。アリスが対応してた」
「へぇ、そりゃあまた……で、何を企んでたんだ?」
「えっ」
「素で驚いたな。まぁお前が何を企もうが知ったことじゃない。ただ少し前までと様子が違ったんでな、気になっただけだ」
「……君も鋭いね」
「人を見れないと交渉なんかの仕事ができんからな。ただ一つだけ聞かせろ」
「何かな?」
「エミールはどうしたんだ?」
「……嘘ついてもバレそうだから困るね」
「エミールの話を聞いたあたりから様子が変わったからな、普通に地獄送りになんてするとは思えん」
「ホント目ざといね君……アリスには異世界に送るよう言ったよ」
「へぇ、そういうなろう小説の話は腐るほど聞いたことあるな。一冊買って捨てたことがあるけどな」
「君が本を捨てるなんて珍しいこともあるね……一応言っておくけど本当の話だよ?」
「知ってるよ、目の前にそんくらいはできそうな奴がいるからな」
「でもあんな奴よく異世界に送ろうと思ったな」
「えっと、どういうことかな?」
「まさか碌に調べもせず異世界転生させたのか? あいつは一人殺すために爆弾でビルごと吹っ飛ばす狂人だぞ。なにせ手っ取り早く殺せれば何でもいいって男だからな」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「もしかしてやっちゃった?」