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アウトローズ  作者: 豚しゃぶポン酢
獣人住まう亡国の地
21/23

第十八話 VS.バルマ族 先鋒・祭司長ヌァル

前回のあらすじ

全員大暴れ


ロジーナ視点スタートや

 結構長いこと暴れたけど、結局捕まってしまった。単純に暴れて逃げるつもりが、逃げ道を塞がれてうまくいかなかった。これからどうなるんだろう……昔聞いた話だと、火あぶりにされたり食料にされるって聞いた。ああ、なんか意識が……


「あれ、大人しくなった?」

「どれ……泡吹いて気絶してるな」

「こんな体も気も小さい奴、ホントに闘技場に出す気ですか戦士長?」

「族長命令だ。いいから運んで縛り付けておけ」




 目が覚めると、木の格子で区切られた小部屋に居た。どうやら牢屋に入れられたらしい。なんか縄で肩から膝まで巻かれてる。ここまでされるほどやったっけ、私。確かに家を何軒か壊した記憶があるけど……と、思っていると、足音が近づいてきた。音の重さを聞くに獣人のものだ。


「なんだ、やっと起きたか」

「ピィィィッ!」


 思わず巻かれた状態で後ずさりしてしまう。昔から誰かと話すのは苦手だ。怒らせて殺されないといいけど……


「……呆れた奴だな、貴様」


 ため息を吐かれただけで終わった。助かったぁ……


「貴様、名は?」

「えっと、あの……ロジーナです」

「そうか……貴様は集落の半分を吹っ飛ばしてくれた。怪我人も大勢出たから、本来ならば貴様は火あぶりに処される」

「え!? わ、私ってそんなにやったんですか!?」


 自分でも分かるくらいに声が上ずってしまった。無我夢中で暴れていたせいか、どれだけの被害を与えたのかはよく分かっていなかった。


「つくづく呆れた奴だ……だが、貴様のその強さを族長が気に入ってな、貴様を解放する代わりに条件を出したぞ」

「じょ、条件ですか……?」


 解放されるのは予想外だったけど、条件とはなんだろうか。


「我が集落には闘技場があってな、本来は我らの強さを高めるための場所だが……」


 既に嫌な予感しかしない。


「我らバルマ族の腕利きを三人出場させる。その三人に勝てば貴様はその場で解放、自由の身となる」


 とんでもない無茶を言ってくれる。


「いやいやいやいやいや、そんな無茶な!?」

「断るなら貴様は火あぶりだ。だいたい選べる立場にあると思うな」


 そう吐き捨てて、牢番らしい獣人はどこかに行った。牢番にしては飾りが豪華だったけど……とにかく、選択肢は無いらしい。戦えば文字通り捻り潰され、拒否すれば火あぶり。どうしろというのか。……闘技場で勝つ?いやいやいや、獣人の腕利きなんて間違いなく強いに決まってる。私に勝てるはず訳が無い。でも、やらないと即座に火あぶりにされる。


「やるしか無いんだよね……何でこうなっちゃったんだろぉぉぉ! ウワァァァン!」




 武器のハンマーが返され、闘技場に出る。すると大歓声が巻き起こり、大声の実況が響く。


「さあ、今宵の挑戦者は集落を襲った命知らずのドワーフ! 《小心者の戦槌使い》ロジーナァァァァ!」


 言い終わると同時にまた歓声が起こり、直後に正面に見える門から獣人が入って来た。観客の象たちに比べ、随分と小柄で腰の曲がった獣人だ。異様に大きな杖を持っている。見たところどうやら老人らしい。


「先鋒はこの方、我らが祭司長! 《大地の守り人》ヌァル・ニースゥゥゥゥゥゥ!」


 私の時よりも大きな歓声が響きわたり、思わず耳を塞いだ。


「……本当にやるつもりかね?」


 しわがれた声で不安そうに言われた。そんなこと言われても……


「うぅぅ……でも、他に道は無いし……」


 未だに煮え切らない私の態度に呆れてか、ヌァルは嘆息をこぼした。


「まあ良い。儂はともかく、彼らは闘技場(これ)より他に楽しみの無い連中でな、済まぬが手を抜くことは出来ん」

「そんな……」

「……『人生はどちらかです。勇気を持って挑むか、棒に振るか』」


 ヌァルがそう言い、私へ向き直った。


「儂が若い頃に会った異界人が気に入ってた言葉だ。異界の偉人の言葉らしいがな」

「……」

「覚悟を決め全霊を持って戦うか、全てを諦め機会を棒に振って死ぬか……それはお主が決めろ」


 それだけ言って杖を構え始めた。何だかんだでやる気だ。


「それでは……始めぇッ!」


 宣言と同時に、ヌァルが呪文を詠唱し始めた。慌てて止めようと殴り掛かると、地面が盛り上がって来た。


「アースインパクト!」

ズガァン!

「キャアッ!」

「おーっと! 挑戦者、祭司長の魔法をもろに喰らったあッ!」


 地面が爆発し、後ろに吹っ飛ばされた。背中が痛い。


「うぐっ……ぐぅ……」


 ハンマーを杖代わりにして立ち、ふらつきながらもヌァルを見ると、呪文を詠唱するでもなく、ただこちらを見ていた。どういうことだろうと思っていると、呆れたような声で話し始めた。


「どうした? まさか諦めて死ぬことを選んだのか?」

「そんなこと……」

「ならば少しは考えて戦え。先程のお主はただ死に急いでいるだけにしか見えぬぞ」


 考えてと言われても、そんな余裕は無い。だってこっちはロクに戦ったことは無いし、それなのに命がかかっているとなればなおさらだ。

 ただ、突っ込んでも勝てないことは痛いほどわかった。改めて構え、ヌァルを見据えた。


「では、仕切り直そうか」


 そう言い、また呪文の詠唱を始めた。今度は喰らわないよう、用心しつつ様子を見ることにした。


「アースインパクト!」


 先程と同じ魔法が使われたものの、間一髪で回避できた。


「おおっ! 挑戦者、今度はしっかりと避けた!」

「クハハ、そう来なくてはな」


 余裕の笑みを浮かべつつ、また詠唱を始めた。突っ込んだところで間に合う気はしない。


「ほう、慎重になったか。では喰らうがいい、ロックハンマー!」


 岩で出来た巨大なハンマーが形成され、杖を振り下ろす動作と共に振り下ろしてきた。直感でヌァルの方へ避け、攻撃するために近づいた。


「隙あり!」

「……アースウォール」

「ッ!?」


 隙を見せたと思いハンマーを振りかざそうとしたら、()()()()()()()()()()()()()()。詠唱した様子はない。


「これで少しは本気が出せるというものだ」

「……まさか、無詠唱魔法!?」


 そんな……無詠唱魔法なんて高位の魔法使いでなければ使えないはず。それ程の魔法使いがここにいるなんて、予想外が過ぎる。


「なに、これくらい出来んと祭司長なぞ務まらんよ」

「なんとヌァル様が本気を出した! さあここからが本番だぞ挑戦者!」

「さあて、久方ぶりにやろうか」


 そう言うと曲がった腰をまっすぐにし、両手で杖を地面に突き刺した。すると、ヌァルの周囲に岩が浮き始めた。


「ロックバレット!」


 その岩がこちらに向かって飛来し始めた。まずい、あれが当たったらアザだけでは済まない。逃げようとすると、目の前を岩が掠めた。


「キャッ!」


 怯んで足を止めたのはまずかった。避けられない────!


「ああああああっ!!」


 体中を岩の塊で殴打され、全身に激痛が走る。


「おおっと! 挑戦者にヌァル様の魔法が直撃したぁ! 痛い、これは痛いぞお!」


 ハンマーの柄を地面に当て、杖のようにしてようやく立てる。それでも足は震え、激痛は止まない。痛い、とにかく痛い。土埃と切り傷と痣が混じり、めまいまでしてきた。


「ほう、まだ立てるとは……感心感心」

「うぐっ、うぅ……」

「だが、結局はこれまでか」


 嘆息を吐き、ヌァルは杖をかざし始めた。まずい、今の私には避けられない────


「これで終わりだ、アースインパクト!」


 地面が爆発しようとしていた。ああ……私、死ぬのかなぁ……


 そう思っていると、今までの記憶が頭の中で流れた。故国の両親、ドワーフの村長さん、近所の人たち……ダグ……!そうだ、こんな所で死ぬわけにはいかない。彼を悲しませるわけには……!

 

「おぉーっと! 挑戦者、ヌァル様のところへ突撃しだしたぞ! 自棄になったのか!?」

「何と愚かな、今攻めたところでどうにも……!?」


 地面が爆発する直前に飛び上がりながらハンマーで地面を叩き、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。傷口から風が染みる。ただ不思議と痛みは感じない。


「おおぉぉりゃあぁぁぁ!!」

「クッ、アースウォール!」


 ヌァルが土壁を展開したものの、高所からのハンマーには耐えきれずに崩壊、裏に居たヌァルごと吹っ飛ばした。


「ガアァァッ!」


 直後に着地すると、激痛が走り立てなくなった。


「あがっ! うぅ……」


 片膝つきつつもヌァルの方を見ると、ピクリとも動かない。


「……しょ、勝者、挑戦者ロジーナァァァァ!」


 歓声が上がって勝利を宣言されたところで、私の意識が薄れていった。




「親父がやられるとはな」

「まったくだな」

「ああ、族長」

「……昔のように『兄貴』と呼んでも構わん」

「それは……いや、それよりロジーナはどうする? あの状態では満足に戦えないぞ?」

「治癒師に治療させて一日置いておく。疲労も少しは取れるようにベッドも変えさせる」

「人間相手に随分な待遇だ、文句が出ると思うが?」

「例え相手が何であろうと、戦士に敬意を払うのが我の矜持だ」

「……そうだった、あんたはそういう奴だったな、族長」

「……次戦はお前の番だ。頑張れよ、ディクル」

「ああ、任せておけ」

「風音、モルモットを大量に捕獲したぞ!」

「……ならそれ持って移動して。私たちのことが時空の神どもに勘付かれてる」

「なに? それは本当かい?」

「少し前に異常なエネルギーの変動を検知したの。《ヴァルキリー》たちの搬出もしないと……」

「ふぅむ……なら私の可愛い《継ぎ接ぎの聖女(ジャンヌ)》と《青髭の怪物(ジル・ド・レェ)》も連れ出さないとねぇ」

「あんな目立つものをどうやって持ち出すのよ……そっちで勝手にやって」

「言われなくてもそうするさ、元々そういう約束だからね……さぁおいで、私の可愛い実験体、私の愛しい化け物たちよ」

「目立たないように行動してよ、私が動きづらくなるから」

「分かってるさ、さぁ行こう」

「まったく……あー、腹立つけど、手がいるし連れ出すかぁ……《ヴァルキリー》プロト-1、手伝いなさい」

「了解しました」

「……ホント腹立つわ、あんた見てると瑞希のこと思い出すもの」

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