幕間Ⅱ 魔王軍幹部
前回のあらすじ
逃げるように街を出た
会話多めの幕間パート2
もう長いこと馬車を走らせているが、まだまだ着かない。まあそれはいいが、いい景色だろうと何日も見ていれば飽きる。
詰まるところ退屈だ。今のところ舗装路と平原しかない。他三人と話そうにも大概寝てる。運転を交代でやってる弊害だな。そもそもこいつら全員趣味が特殊過ぎて、話せるような話題などあろうはずがない。
ただ一番話せるダグが起きてる。アリスはアニメの話がどうの同人誌がどうのと、聞いてるだけで頭痛がしてくる。ロジーナは言葉が詰まりすぎて話にならない。
「ダグ、暇だからなんか話してくれ」
「いきなりだな……そうだな、魔王軍の話なんかどうだ? 幹部やっちまったし、この先争うことになるだろ」
そう言えば蟲毒の姫とかいう奴がそこの幹部だったな。確かにこれは宣戦布告したようなものだろう。いや、オークを私怨で殺して回った時点でとっくに喧嘩は売ってるな。
そうなると敵になる連中の情報は欲しいな。
「分かった、それを頼む」
「あいよ。まず、魔王軍には九名の幹部がいる」
後ろで解説し始めた。九名とは無駄に多いな。多すぎて覚えられるか不安だ。
「一人はお前が仕留めた《蟲毒の姫》ピュリア。まあこいつに関しては戦ったし、解説は要らないな」
「そうだな。で、二人目は? ……人って言うのもどうかと思うが」
「まあそこは他に単位も無いしな、匹って言うには人型の奴結構いるし」
ゴブリンやオークを見たことはあるが、幹部にそういう奴はいないのだろうか。種族的に弱いからか?確かに大したことは無いが……まあそれはどうでもいい。
「話を戻そう、二人目が《炎の虚言師》レイ。強力な炎魔法を使ってくるやつで、おまけに頭が切れる」
「いかにも面倒なタイプだな……」
「今ん所はバスチール王国に侵攻する気らしいが、未だに居場所が分からないらしい」
また新しい国が出た。バスチールか……監獄が多くありそうな名前だ。革命が起きて政治犯が放出されるところまで想像してしまうな。
「三人目が《魔王騎士団長》ファストウって言ってな、武勇と知略に長けたやつだ」
ほうほうファストウ……ん?
「魔王騎士団は魔王軍の最高戦力でな、今はどこにも侵攻してないらしいが、あいつが出てきたらぞっとするね」
……いや、まさかな。きっと気のせいだろう。
「そうか、そりゃ恐ろしいな。続けてくれ」
「ああ、四人目が《氷の王》スキリングって言ってな……」
名前が完全にどこぞのガス屋の経営陣じゃねえか。ファストウの時点でなんかそんな感じはしてたけど。
「どうした?」
「いや、何でもない。何でも無いから続けてくれ」
「え? ……分かった。スキリングは北の連邦国家ソフィアで行動してるな」
ソフィア連邦……略してソ連ってことか。なんとなく工業が発展してそうだ。トップの役職は『書記長』か?
「レイとは対照的に強力な氷魔法を使う。気を抜いてると氷漬けにされるぞ」
「どのみち防寒具が無いとソ連に行けないだろ」
「……あの国をソ連って呼ぶ奴は異界人だってすぐ分かるらしい」
そりゃあソで始まって連邦国家だったら誰だってそう呼ぶだろ。
「まあいいや、五人目が《巨人兵団長》バドライド。鎧を着こんだサイクロプス集団、巨人兵団の団長だ」
「サイクロプス……単眼の巨人って聞いたことあるが……」
「まさにそれだ。今はディルナに向かって進撃してるらしい。そんなに速くないから時間かかってるみたいだがな」
まあ巨人なんて馬に乗れそうも無いからな。鎧着てればなおさらだろう。
「六人目が《魔人教皇》ダスターって言うんだが……」
「どうした?」
「いや、こいつは情報が少なくてな……夢を司る力の持ち主らしいが、それ以外は何も分からないんだ」
「ふーむ……なら仕方ない、次行ってくれ」
まあそれ以前に他の幹部の情報が洩れすぎではないか?能力はともかく、名前は名乗ってくれなければ分からんだろ。……もしかして本当に名乗ったのか?
「七人目が《死霊魔女》モリー、ネクロマンサーだ」
「……つまりゾンビとか使役してくるってわけか」
「そうだ。ただ、こいつは本拠地魔王城近くにある墓場に引きこもってる。そのせいかあんまり脅威に思われていない」
まあそうだろうな。だが魔王が何かのはずみで死んだら、一体どうするつもりだ?
「八人目が《宮廷魔法師》フレイヤ。顔を隠して活動する魔女で、奴のせいで大勢死んだよ」
「ちゃんと危険な奴が来たな……」
今まで出てきたのはウスノロ巨人、よく分からん奴、引きこもり二匹、ガス屋の経営陣と、名前を出せるかどうか怪しい奴以外は危険さを感じない連中ばっかりだ。
「とんでもない魔法使いだが、どこから来てどこへ消えるのか分からないんだ。お陰で犠牲者は増える一方でな」
「滅茶苦茶危険だな……危険度がそいつに集約されてないか?」
「そうだな……」
さらっとダグが同意してきたが、それを現地人であるお前が言ったらお終いだろ。まあそう感じても仕方ないんだが。
「最後が《密林の魔戦士》ジャンパール、今から行く旧トールラント中央領に住み着く獣人だ」
仰々しい口調で語っているが、それもっと早く言えよ。
「こいつはそこの密林に住んでるやつだ。軽い強化魔法を使って戦うから、単体の戦闘能力は魔王軍随一だ」
「へえ、でも数的有利で攻めれば勝てそうだな」
「あいつ単体なら、な。ジャンパールは獣人の族長だからな、縄張りに入ろうものなら部族の連中が総出で襲い掛かってくるだろうな」
そう言い放っているが、随分呑気な奴だ。今からそこに行くんだがな……
「ついでだし魔王の話もしとくか?」
「ああ、頼む」
「おう。魔王はレフナードって名前でな、戦闘能力が非常に高いらしいが……戦った奴はほとんどいない」
「ほとんどってことは誰か挑んだ奴が居たんだな」
「まあ、な……人類側から腕の立つ奴らが挑んだが、大軍を差し向けられてな、それで消耗させられて負けたらしい」
無駄に賢いな。そいつらが単純に突っ込みすぎな気もするが……
「そんじゃ、いずれはぶち当たるかもなぁ?」
「勘弁してくれよ、俺はただの武具店の店主だぞ? 魔王と戦うなんてごめんだ」
まあ、俺だってそれは御免だ。
「クーレーアー! お腹空いたー!」
「はいはい、もうちょっと調べたらご飯食べましょうね?」
「もうちょっとっていつまでなのー!? ……あ! キノコ!」
パクッ
ドサッ
「へっ、神さまのくせに毒キノコでダウンしてらぁ」
「まったく……《権能発動・再生》」
「……死ぬかと思った」
「神さまが毒キノコで死んだら間抜けすぎて笑っちまうなぁ。ギャハハ」
「フフフッ、間違いありませんね」
「酷いなぁ二人とも……」
「で、森なんか探してどうすんだ? その双子って奴らが森にでも住んでるのか?」
「一応人里に居られる連中じゃないし、どっか人里離れたところに隠れ家があると思うんだけど……」
「ここでは無いみたいですね……」
「大体アランの奴どこ行ったんだぁ? ……お、なんかわらわら出てきたな」
「ゲッ、ミルマワーム……」
「あらあら、やる気満々みたいですねぇ」
ギシャアァッ!!
「気持ち悪……まとめてぶっ壊してやる」
「虫けら風情が俺と殺ろうってのか? 上等だ、殺り合おうぜミミズども! ギャハハハ!!」
「仕方ないですね、では私もやりましょう」




