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アウトローズ  作者: 豚しゃぶポン酢
商業の街ドゥンケルスと魔王の影
17/23

第十五話 離別、そして……

前回のあらすじ

王女様と会話&新たな仲間を強引に勧誘


ブチ切れエミール

 騎士たちに同行し、森を抜けてようやく街に帰って来れた。深夜だからか街は静まり返っている。いい加減ワニの分も報告しに行かなければ。

 そう思いながらギルドの前に行くと、酷く荒れた状態の……いや、元から廃墟同然だったが、前の舗装路までボロボロになっている。ドアも無くなっているギルドの中に入ってみると、ラウムが倒れていた。


「おい、何があったんだラウム!」

「う……あぁ?」

「なに、ちょっとばかり戯れてただけだ」


 聞きなれた声の方向に視線を向けると、ジャックが座って本を読んでいた。ラウムをぶっ飛ばしたのはこいつらしい。同時にラウムも起き上がってきた。


「ここいいな、静かで落ち着いていて。まあ埃が少し鬱陶しいけどな」

「……ったく、治療費もアランに請求しておくか」


 今こいつ「治療費も」って言ったな。ってことはここの修理費も請求するつもりだろうか。俺が言えた義理でも無いが、神様を何だと思っているんだこいつら。


「それ以前になんで喧嘩してたの?」

「腕が鈍ってないかちょっとな。まあ杞憂だったが」


 何でまたそんなことをしてるのかは知らんが、とにかく用事を済ませよう。


「報告に来たぞ、今日は大収穫だ」

「ああ、生きて帰ってきたってことは……やったのか?」

「まあな、とりあえずワニとゴブリン退治の分の報酬をくれ」


 無言で袋を渡された。まあ内容量は……結構あるな。


「全部で十万ダール、丁度だ。あとここは今日で閉めるから、冒険者として働くなら他所に行った方がいいぞ」

「閉めるって、嘘でしょ!?」

「……何故そんなことを?」

「ちょっとこいつに頼まれてな、しばらくここを離れることになった。んじゃ、準備してくる」


 そう言い、ジャックを指差した後に奥へ入って行った。いや、こいつはこの世界の人間でもないのに何の用があるんだ?流石に向こうの世界での用事はこいつ一人で済むだろうから、間違いなくこの世界での用事だろうが……


「正確にはアランが俺に頼んできたこと、だけどな」

「アランが? 何かあったの?」


 時空の神なんて大層な奴が、一応人間であるジャックに頼み事か。ほんと、大物になったもんだなこいつ。


「……こっちにあの双子が落ちのびてる」

「っ!」


 とんだ内容だ。話にしか聞いたことないが、その双子は話だけでも吐き気がしてくるレベルの邪悪な連中ではあった。


「な、なあ、双子って誰のことだ? フィザーク兄弟は死んだから違うだろうが……」


 ダグが理解が追っつかないという様相で話に入ってきた。まあこっちの人間は知らないだろうな。


「凪宮姉妹のことだ、風音と紫苑」

「なぎみや……? かざねとしおん……?」


 どうしたものか、日本人名は流石に通用しないらしい。あの言語意味が分からないくらいややこしいから、その気持ちは痛いほどわかる。ジャックが本を読むために学習していたことがあるが、「こんなもん分かるわけないだろうが!」と言って辞書をぶん投げていたことがある。実際、自分で学んだときにその気持ちが分かった。


「まあ、どうせ殺すから覚える必要はない」

「殺すって、そいつら何したんだよ!?」

「色々だ。本当に……色々な。って、お前は?」


 そういえばダグとは初対面だったな。紹介するのを忘れていた。


「ああ、済まねえ。俺はダグラス・バレンシア。長いからダグでいい」

「そうか。ジャックだ、よろしく頼む……あんた、戦い慣れてないな」

「……まあな。でもこいつのせいで嫌でも慣れるだろうがな」

「それはまた……お悔やみを言わせてもらおう」


 特に間違った点はないとはいえ、なんとも酷い言い草だ。あとお悔やみってなんだお悔やみって。そうこうしているうちに、ラウムが奥から出てきた。かなりの軽装だ。まるで山を舐めた素人とでもいうべきか……


「待たせたな、行くか」

「ああ。それじゃまたな、エミール」

「ああ、またな」


 そう言い、二人は出ていった。まあ欲しかった身分証も手に入ったし、ここで違う商売でもするか……


「あ、そうだ言い忘れてた」


 ラウムが入り口から頭だけ飛び出しながら話しかけてきた。妖怪か何かか。


「ギルドのメンバーカードは身分証明には使えねえぞ。偽名が通るくらいだから当然だろうけどな」


 ……そんな話聞いてないぞ。




 ダグと別れ、歩いて宿に戻って来た。今日はもう遅いから明日、この街を出よう。唯一の働き口が機能停止した以上、ここにいる意味も無い。というか生活できない。

 しかし参ったな。元々使えるかどうか怪しいものだったとはいえ、メンバーカードが身分証明にならないとなると、冒険者以外の働き口がない。堅気の仕事をやめてこちらでも殺し屋として活動することも考えたが、アリスに監視されているせいでそれも難しい。まあこの世界の冒険者も堅気には思えないと言ったらお終いだが。


「荷物整理終わりー! じゃ、おやすみー」

「……呑気だなお前」

「まあ他人事だし」


 確かにそれは間違ってはいない。間違ってはいないが、恐ろしいまでに利己的だ。ただ、考えてみればその兆候は前々からあった。ラナ……じゃない、レニアを守った理由も「自分好みの女の子」って理由だったから、もしかするとそういう性格なのかもしれない。

 そんなことを思っているうちに、荷物整理が終わった。色々危険物が多いせいで、気を張りすぎてしまった。そのせいか小腹が空いてきた。食堂で何か食べて来るか。




 もう夜中だというのに相変わらず明るい。むしろ眩しいくらいだが、魔力灯とかいうあの照明は明るさ調整は出来ないのだろうか。あったら複数の魔力灯を調整するのが面倒臭そうだな。

 しかし、こうして魔力灯を見ているとこの間のことを思い出す。天井を見上げていると後ろからラナに声をかけられて……その後にあの恐ろしい量のステーキを見たんだった。駄目だ、空腹感が一気に失せてしまった。


「あれは魔力灯ですよ、覚えてますか?」


 聞き覚えのある声に驚き、後ろを振り向いた。


「ご無沙汰しています、エミールさん」

「……レニア王女様って呼んだ方がいいか?」


 少し複雑そうな表情を見せた。どうやらそれは少し抵抗があるらしい。


「まあ呼びづらいしラナでいいか。で、何の用だ?」

「実は少しお話が、でも……」


 ラナは若干話しづらそうに詰まったが、その理由はすぐに分かった。


「場所を移すか」

「……ありがとうございます」

「部屋はアリスが寝てるから外行くぞ」




 宿の外に出ると、満天の星空が広がっていた。前の世界では夜も明るいせいで星一つ見えなかったが、これは中々いいものだ。周りに兵士が隠れていなければもっと良かったが、王女が抜け出したのだから仕方ない。

 しかし、話とは何だろうか。特に内容を予想できないが、人前で話せないということはかなり重大な話なのだろう。小腹が空いたままここに来たので、出来る限り早く終わる話だといいのだが。


「あの、こんなところまですみません」

「それはどうでもいいんだが……で、話って?」


 また言葉に詰まった姿に、少し苛立ちを覚える。いちいち急かさないと何も言えないのかこいつ。


「実は、よければ騎士団に入って私たちと一緒に行きませんかって話なんですけど……」


 一瞬何を言っているのか理解が出来なかったが、どうやら騎士になって欲しいと言っているらしい。思った以上にふざけた話だ。たかが知れてる給金のためにわざわざ自由の少ない方に転身する理由がない。


「お願いします、お助けいただいた恩を少しでも返したいんです」

「……騎士になれば戦争の最前線に放り込まれる、そうだな?」

「はい……」

「ならやるわけ無いだろ。話は終わりだ」


 そう言って踵を返そうとしたら、ラナが腕を掴んできた。


「それならせめて、前線に出ない近衛隊に……」

「冗談言うな」


 思わず苛立ちと共に口をついて出た言葉に、ラナは怯みつつ驚いていた。


「実際そうだろ? 自分の権力使って嫌がる奴を騎士にしようなんて、はっきり言って暴君のやることだぞ」

「で、でも……」

「でもじゃない。前から思っていたが、お前ちょっと独善的じゃないか?」

「そんなこと……」


 掴んできた手を振りほどき、歩を進めた。いい加減こっちも我慢の限界が近い。


「意見があるならはっきり言え」

「……」

「それともわがまましか言えないのか? ただでさえ何も出来ないのに」

「……酷いですよ、エミールさん」


 ようやく自分の意見をきっちり出したことは感心するべきだろうが、それで出た言葉がこれでは失望しか感じない。


「私だって自分なりに頑張っているんですよ! 父が教えてくれず、母も亡くしても自分なりに頑張ってきたんです! なのに、なのになんでみんな……」


ガシッ


「ウグッ! エ、エミールさん、苦しいです……やめて……」

「親を何だと思ってやがるテメェ! お前が頑張れたのは決してお前ひとりの力じゃないだろうが! それができる環境を作った親の力もあるだろ! 恵まれた環境に気づきもしねえで親の悪口ばかり言いやがって、酷いのはどっちだ!」

「……!」

「父が何も教えてくれない? 幼くして母が亡い? そんなに不幸自慢がしたいなら教えてやるよ!」

「おい、その人から手を放せ!」

「黙ってろ雑魚ども! いいかよく聞け、俺には父も母も居ねえ! とっくの昔に殺されたんだよ! 父親がいて、両親が作った恵まれた環境があって、そこからするのが不幸自慢か!? ふざけるのも大概にしろよお前!」


 色々溜まったものを吐き出し、少し冷静になれた。手を放し、それから周囲を見て見ると、剣を構えた騎士がこっちに近づいてきていた。面倒になるから殺したくはないが、もう止むを得まい。


「ま、待ってください。ゲホッゲホッ……剣を……収めてください……」

「レニア様、しかし……」

「ディルナ王国第一王女として命じます……剣を収めなさい……」


 困惑しつつも、騎士たちは剣を収めた。ずいぶんと物分かりのいい奴らだ。


「あの、エミールさん……」

「何も言うな。何言われても今は苛立つだけだ」


 そう言うと押し黙った。叫びすぎて腹が減ったし、食堂で飯でも食うか。




「あ、あの……レニア様……?」

「……ありがとう、大丈夫よ」

「とてもそうは見えねぇな?」

「スチュアート卿? 何故ここに?」

「様子を見に来たんだが……エレジアはどこ行った? あいつも監視につけたはずだが……」

「え? ……あれ!?」

「チッ、急いで探せ!」




 食堂に着くと、何かが後ろから近付いてきた。普通に近づくだけなら問題はないが、高速でこちらに向かってきている。足音もしないし、あからさまな敵意を持っているとしか思えない。ただでさえこっちは苛立っているというのに。死ぬのはごめんだと思い、右斜め前に転がって避けつつ背後を見ると、見覚えのある顔だった。紫髪の眼鏡をかけた女。


「エレジア? どういうつもりだ?」

「……レニア様にあんなことをしておいて、ただで済むと思うなクズ男」

「酷い言い草だなってあぶねぇ!」


 騒ぎを見たコックが逃げた。こっちは腹が減っているというのに……仕方ない、一応警告だけはしておくか。


「このまま帰るんなら何も無かったことにしよう。だがもし、どうしても俺を殺すって言うなら……」


 話している最中に片手剣を振られ、鼻先を刃が通った。どうやら話すつもりは無いらしい。


「……それが望みなら、くたばってしまえ」


 それだけ言って剣を抜いた。抜いた瞬間につばぜり合いになったが、エレジアのあまり力は強くない。力で押し返し斬りつけるが、後ろに下がられ回避された。またこういう素早い奴か。

 エレジアから少し距離を取ると、エレジアが屈み一気に間合いを詰められ、左から横なぎの剣が迫って来た。動きが読みやすかったために剣で防御したら、弾かれた反動を使って逆回転し、右側から斬りつけようとしてきた。エレジアが少し笑みを浮かべている。勝ちを確信したのだろう。

 ────甘い。斬りつけようとした瞬間に左足で思いっきり腹を蹴り飛ばし、攻撃を妨害した。痛みで腹を抱え、剣を落としてその場に倒れこんだエレジアに剣を刺した。


「がはっ……そんな……嫌……」

「エレジア!」


 それと同時にスチュアートたちが入って来た。面倒なことになった。どう説明するか……


「一応言っておくが、正当防衛だからな」

「……独断専行での結果だ、何も言わねえよ。ただ、一つ聞かせろ」


 独断とはいえ、副官を殺されても一応は許してくれるらしい。


「わざわざ殺す必要があったのか?」

「……」

「抵抗出来なくすればいいだけの話だったんじゃねえのか? なのに何で殺した?」

「さあな。強いて言えば、殺し(これ)が手癖になっているからだな」


 怒りを露わにし、拳を握りしめている。騎士たちの中には剣の柄に手を当てている。


「手癖になっているだと? ……お前、今までどれだけ殺してきたんだ?」

「十五年近くやってきたからよく覚えていない」


 小さくどよめきが起きる。


「もう行っていいか? 明日早いんだよ」

「……通してやれ」

「しかし、スチュアート様」

「通せ」


 渋々と言った様子で騎士たちが道を開けた。不意打ちで斬りかかってこないだろうなこいつら。まあいい、さっさと寝るか。


「……お前、《異界人》だろ?」


 ……異界人だって?まさかこの世界には何人も転生者が送られているのか?


「騎士団にも何人かいるからな、見れば分かるくらいには見てきた」

「……確かに俺はその異界人と言う奴だ。だかそれがどうした?」

「まあ結論急ぐな、本題はここからだ……この国では異界人も審査に合格すれば、国民の一人として扱うようにと法律で決まっている」


 そんな話聞いたことが無い。さてはアリスめ、あんまり資料読んでないな?あのポンコツ死神め。


「部下の独断専行が原因とはいえ、殺人を犯した者が通れるほど審査は甘くない。そして審査に落ちたものは再審査を待つか、犯罪に手を染め始めるか……」

「……」

「前者はともかく、後者は命令と共に騎士団が排除してる」


 なるほど、そういうことか。


「もし、お前の排除命令が出たら……そんときゃ真っ先に俺がぶち殺してやる。覚えとけ、エミール」

「……ああ、覚えとくよ」


 参ったな、完全に目を付けられてしまった。この国ではもう活動できないかもしれん。

 ────仕方ない、この国を出るか。

「やあ二人とも、取り敢えず武器をしまってくれないかい?」

「ギャハハハハハ!!」

「ヒャハハハハハ!!」

「駄目だ、二人そろって話が通じない……」

「まあ任せてくださいな・・・イセリア? やめなさい……!」

「ギャアアア! いだだだだだだってクレア!? なんでここにいだだだ」

「おい、水差すんじゃねえよクレア」

「君も少しは人の話を聞いてくれ、圭吾」

「ん? 居たのか、アラン」

「三十分前からずっと止めてたよ。両方から殴られたけどね」

「あらら、ご愁傷様」

「自分もやったくせに……急ぎの用事があるからこれで失礼するよ」

「急ぎの用?」

「いや、大したことじゃ……」

「人探しで異世界に行くんだよ、ドラゴンとかいるムグッ」

「イセリア、言うんじゃない!」

「異世界? なろう系とかでよくある、あの?」

「いや、それは……」

「面白そうじゃねえか。俺も行かせろよ、な?」

「そんなポンポン異世界に人を送るのはちょっと……」

「なら殺し合おうぜ」

「何でそうなるんだ!? それにどっちにしても君しか得しないじゃないか!」

「……じゃあミズキをこっちに来させたら足止めしてやるよ」

「……いいね、それ」

「交渉成立だな?」

「ああ、よろしく頼むよ」

「お仕置き終わりましたよ、うふふ」

「あうぅ……頭痛い……」

「よし、善は急げだ! 今から行こうぜ!」

「妙にせっかちだね?」

「いや、一度行ってみたかったんだよ異世界! 向こうでモンスターどもと殺し合い……ぞくぞくするなぁ!」

「……やっぱり、置いてこうかな」

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