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アウトローズ  作者: 豚しゃぶポン酢
商業の街ドゥンケルスと魔王の影
12/23

第十話 鍛冶師ロジーナ登場

前回のあらすじ

人手不足とサボり魔


武具店の店主と鍛冶屋の話がメインになった

 洗濯と着替えを済ませ、街を見て回る。普通なら観光したいところだが、ワニを倒す手段を考えなければならない。武具店にでも行って情報を集めるか。


「いらっしゃい! ……おお、あんたか。ここは女連れで来るところじゃないと思うけどな」

「そんなことは分かってる。沼地のワニ公を仕留めたい、何か使えそうなものは無いか?」

「沼地のワニ? もしかして『暴君』か? また無茶なことをしてんなぁ……」

「矢が通らない。もっとドローウェイトを上げるか矢じりの硬さと鋭さを上げないと攻撃が通らない」


 店主は少し考える様子を見せると、案を出してきた。


「じゃああいつに頼むか」

「あいつ? 誰だ?」

「鍛冶屋が居るって言ったよな? そいつだよ」


 確かに、鍛冶屋ならそういった矢も作れるだろう。


「ただ、引き受けてくれるかは分からないな」

「どういうことだ? 人を選ぶとか言うのか?」

「いや、昨日坑道をあんな風にしちまったろ? 兄ちゃんのせいじゃないとは言え……なぁ?」


 そう言えばその話をしたら卒倒したとか言ってたな。確かに不安だ。


「あんな風って……エミールさん、何をしたんですか?」

「燃やした。とにかく、場所は?」

「うちの裏だ」


 随分近いな。とりあえずダメもとで行ってみるか。




 確かに裏にあるとは聞いていたが、真裏にあるとは思っていなかった。店の横にある通路を進んだらそれらしい石造りの建物があった。看板は立ってないが、白を基調とした街並みにこれは異色すぎる。こんな街並みにそぐわない建物に住む奴なんて……いや、一人廃墟みたいなとこで働いてるやつがいたな。あれも相当な物好きだが、あいつ並みの物好きとくれば嫌な予感がしなくもない。他に頼る先も無いので入ってみるか。


「お邪魔しますよ」

「ピィィ! 誰ですか!?」


 ケトルみたいな声を出して何かが隠れた。気の小さい奴だと聞いたことがあるが、これはもはや対人恐怖症ではないのだろうか。こんな状態なのになんで鍛冶屋をやっているのか分からないが、とりあえず依頼だけしよう。


「矢を作ってもらいたい。なるべく硬く、鋭い矢を」

「あっああああああの! い、依頼なら外の箱に!」

「……少しは落ち着け」


 話にならないので箱を探すと、壁についていた。名前と希望する品を書いて投函すると、鍛冶屋が話しかけてきた。


「……エミール? 待って、もしかしてダグの言っていた冒険者さんですか?」

「あいつダグって名前なのか……そうだ、坑道をぶっ壊した張本人だ」


 そう答えるとドアが開いて、手招きをされた。この体たらくでどうやって生活してるんだこいつ。


「改めて……お邪魔するよ」

「お邪魔します」

「ど、どうぞ」


 鍛冶場から恐る恐る出てきたのは、作業着を着た小柄な少女だった。銀髪の長い髪を纏め、口元にソ連の書記長みたいなひげを生やし、片手にはハンマーを持っている。信じられないが、件の鍛冶屋というのはやはりこいつらしい。


「私はロジーナ・バレンシア、鍛冶屋ををやっています」

「エミールだ」

「私はラナと言います。よろしくお願いします」

「は、はい!よろしくお願いします!」


 緊張からか、小刻みに震えている。


「本当はここにもう一人、アリスって奴がいるんだが…今は働き過ぎて寝てる」


 しかし、こんな少女と店主が仲が良いなんて信じられん。


「あの店主って親父さんの飲み仲間とかか?」

「えっと、ダグは私の婚約者です……」


 ……今、何て言った?とんでもない発言が聞こえた気がするぞ?いやいや、まさかな。あの店主とこの子が婚約者同士?異世界だからこういうこともアリなのか?いや、ラナも怪訝な表情をして引いている。異世界でもナシらしい。


「……あの店主ってペドフィリアか何かか?」

「えっ!? ……もしかして、ダグから何も聞いてないんですか?」

「聞いてたらこんなに驚いてるわけないだろ」

「私はドワーフだから、こう見えても彼より年上なんですよ。って言っても彼も34歳ですけどね……」


 結構いい歳してるなあの店主。しかしドワーフか。昔ジャックが、そんな本を読んでいた気がするが、小柄で女性もひげが生えてる種族だと言っていた。創作通りの奴が出てくるのは想定外だが。


「なるほど、分かった。とりあえず店主の名誉は守られたな。で、依頼に関してだが・・・」

「鉱石が足りなくて作れません……」

「だろうな。で、鉱山以外ならどこに行けば手に入る?」

「商人から買うくらいしか……でも依頼内容を考慮すると結構高くつきますよ?」

「いくらぐらいですか?」


 宿代でだいぶ消えたが、それでも余裕はある。五万くらいあれば五十本くらいは用意できるだろうか。


「……十本五万ダールです」


 訂正、一気に余裕が無くなった。とはいえ半分は俺のせいだが。


「五万って……高すぎませんか?」

「そ、そんなこと言われても……」

「鉱山が崩落したらそりゃあ商人は値上げするだろ。他に鉱山はないのか?」

「無いですよ、ここは鉱山街じゃないんですから」


 確かに、あったら少しの値上げで済んでいるだろう。


「まあいい、とりあえずこのクロスボウに規格を合わせてくれ」


 背負ったクロスボウを降ろし、ロジーナの前に置いた。


「……このクロスボウ、どこで手に入れたんですか?」

「丸太と弦から作った」

「ずっと使っていましたが、作ったんですかこれ……てっきりどこかで買ったものかと」

「自分に合うものが置いてなかったからな」


 ロジーナは黙ってクロスボウをじっくり観察している。早いこと矢を作ってワニ公をカバンにしてやりたいからさっさとして欲しい。


「これ、全部木組みですね」

「製鉄の知識は無かったから仕方なしだ。それがどうかしたか?」

「逆になんでこれは作れたんですか?」

「建築学と武器製造の知識を生かして作った。それでも丸太を三本も無駄にしたがな」

「エミールさんに失礼ですけど、建築学に興味がありそうな人には思えませんが…」


 ラナに怪訝な顔をされながら聞かれてしまった。確かに、自分でもそういうタイプじゃないのは分かっている。本当のことをいえば効率的な建造物爆破と銃の密造のためだ。その過程で色々知識を得ただけだが、さすがにそれを伝えるのはどうかと思う。どう弁明したものか。


「……まあ、俺も色々やってたってことだ」

「?」

「でも木組みだけでこれだけのものが良く作れましたね、ドワーフでも中々お目にかかれない出来ですよ!」


 それほどの物が作れたのか。褒められるのは悪くない気分だ。しかし冒険者で食っていくより、これ売った方が生計立てられそうだな。


「……一応言っておきますけど、開業許可証が無ければ露店も開けませんよ。それに許可証は身分証明書が必須ですからね」


 アリスはともかく、とうとうラナにまで読まれるようになってしまったか。


「図星なんですね?」

「まあ、そうだな」

「これに合わせると……ここをこうして……ここの素材が……」


 なにやらぼそぼそ言っているが、話しかけて文句を言われても困る。しばらく放っておこう。




「一応まとまりましたので見てください」


 やっとか、十分くらい待たされた気がする。相変わらず時計が無いから分からないが。


「シャフトをミラド材、矢じりをレジー鋼で作ります。羽の部分は予算の都合上普通のものになりますが、問題はないでしょう」

「よく分からんが、それが現状で一番強い矢か?」

「そうなります、あとこのクロスボウを少し預からせてもらえますか?」

「なんでだ? それは依頼してないし、どうするつもりだ?」

「個人的な興味ですよ。このクロスボウ、改造すればもっといいものが出来ますよ」

「……金が無い、またいつかな」


 そう言うと、とんでもない勢いで食い下がってきた。


「いえいえいえいえ! お代は結構ですとも! いやもうこれを改造できるだけで十分ですよ! ああ、この滑らかな造形がとっても……あっすいませんちょっとよだれが」

「汚いなオイ。あとお前早口すぎて何言ってるのかよく分からなかったぞ」


 そういえばジャックが、「日本には基本口数が少ないが、好きな物やことの話になると早口になる『オタク』という人間がいる」と言っていた。何でそんなことを知ってるんだあいつ。まあ、つまりはこいつもオタクということか。


「私の服を選んでる時のアリスさんにそっくりですね……」


 あいつもだったか……いや、違うな。


「あれはただの変態だ、こいつと一緒にしてやるな。分かった、改造も任せたから落ち着け」

「本当ですか!」

「本当だからちゃんと依頼の方もこなしてくれよ。頼むから……」

「分かってますよ! よーし、俄然やる気出てきた!」


 それで空回りされても困るが、やる気があるならまあいい。武具店に戻って時間を潰そう。




 戻ると、何やら大荷物を抱えた男がいた。大方商人あたりだろうが、邪魔はしないでおこう。


「じゃあなダグ、嫁さんとしっかりな」

「ああ、またなベンス」

「おっと、すまねぇ……ん?」


 なにやら顔をじっくり見られている。商人の知り合いはそこの店主以外居なかったはず……あ。


「おお、カルクスで会った兄ちゃんじゃねえか! ここに来てたんだな!」

「あんた、盗品店の店主! 生きてたのか!」

「何だ二人とも知り合いだったのか?」

「まあ少しな。しかしあんたらは親しそうだな?」


 そう言えばビリーってカルクスにある宿の主人のことだったな。正直この三人に何かしらの接点があるようには見えない。


「そうだ、自己紹介がまだだったな」


 確かにまだ名前を少し聞いただけだ。


「俺はヴェンスター・フィンク、今は行商人やってる。長いからベンスって呼んでくれ」


 案外いい名前をしているな。


「俺も正式にはまだだし、ついでにやらせてもらう。俺はダグラス・バレンシアだ。ダグでいい」 

「俺とダグ、それにビリー……ビリーってのは宿屋をやってたやつなんだが……」

「知ってるよ、続けてくれ」

「ああ、俺ら三人はもともとカルクス生まれでな、ダグが親の都合でこっちに来たんだっけか?」

「離婚でな。お前らがあの街で商売始めたのは知ってたが……ビリーの奴が死ぬなんてな」


 まさかその責任の半分が俺にあるとは口が裂けても言えない。


「そうか。それで、あんた今は何してんだ?」

「俺か? 今は行商をしてんだ。あんたこそ、ここで何やってんだ?」

「戦闘に役立つものが欲しいんだが……なんかあるか?」


 さほど余裕も無いが、一応何か役立つものが欲しい。


「今あるのだと……粗悪品の『魔法石』くらいだな」

「魔法石? 何だそれ?」

「魔法石っていうのは簡潔に言うと、砕くと魔法の効果が発動する石のことです。回復魔法の石なら回復効果が、火炎魔法の石なら火が出ます」

「へえ、便利なもんだな。折角だし回復の石を買い込むか?」


 そう言うと、ラナが泣きそうな顔をしてきた。分かってて言ったけど。


「そんな……私はもうお役御免なんですか!?」

「冗談だ、でも攻撃魔法の石は役に立ちそうだな」

「今は爆炎石くらいしか無いが……これでもいいか?」


 爆炎石……爆発でもするのか?だとすれば便利だが、効果の分からないものを買えない。


「爆炎石はよく発破に使われる石ですね。鉱山でよく使用されています」

「なるほど、つまりダイナマイトか。削れて暴発はしないだろうな?

「いくら粗悪品っつったってそれじゃ使えないだろ」


 確かにその通りだ。


「よし、幾つかくれ」

「毎度あり、他には?」

「他は……おっ、あとはこれを頼む。他は特に無いな」

「毎度あり。んじゃ、俺はそろそろ行くよ。また会おうぜ~」


 本当にまた会いそうで怖いが、まあ顔見知りが居れば何かと便利になるだろう。


「……ん? あいつも開業許可証持ってんのか?」

「開業許可証があれば店なら何でも出来るぞ」


 ギルドの件と言い、この国本当に大丈夫か?




 行商人のベンスが去った後、店主のダグは裏口から出て行った。ロジーナの様子でも見に行ったのだろうか。確かに結構話し込んでいたからそろそろ進展があってもいい頃だが・・・


「あの、エミールさん」

「なんだ、腹でも減ったのか?」

「そうじゃありません! ……確かにお腹は空きましたけど」


 若干ばつが悪そうな表情になった。なんか面白くなってきた。


「じゃあ仕事済ませたら飯でも食いに行くか、アリスも誘ってな。それで、何の用なんだ?」

「……エミールさんって、何者なんですか?持っている知識もそうですが、人を殺すことに抵抗が無いことだって。……正直に言わせてもらいますが、普通じゃないですよ」

「……それを教えるには条件を付けたはずだが?」

「っ! それは……」


 俺の素性を教えることは、ラナの正体を教えることと交換だった。こいつに関しては未だに本名すら知らない。


「それを教えない限り、絶対に素性を明かすつもりは無い」

「……」

「アリスに関しては本人から聞いてくれ、勝手に言う訳にもいかんからな」

「……分かりました」

「まあ、聞いても信じられるようなもんでもないがな。にしても店主遅いな、何してるんだか」

「食事の席で、私の素性を教えます。だから、約束を守ってください」


 ……聞き間違いかと思ったが、本気らしい。言わないものだと思っていたから非常に困る。


「エミールさん」

「分かった、言う。言うからこの話は終わりだ」

「……はい」




 裏口が開いて、店主とロジーナが入ってきた。クロスボウと矢を持ってきている。


「はいよお待ちどうさん!」

「ずいぶん遅かったな、何してたんだ?」

「いやちょっと改造前のクロスボウをじっくり見てたら結構時間が経っててな」


 お前もか、お前もオタクなのか。いや、これはマニアか?どっちでもいいがとんでもない理由で時間を使ってくれたもんだ。


「クロスボウ自作する冒険者なんか聞いたことねえ。しかも滅茶苦茶出来がいいしな」

「どうも……へぇ、幾つかの部品が金属に変わってるな」

「木材じゃ長持ちしませんからね。頑丈になるよう改造しておきました」

「そいつはありがたい。矢の方は?」

「もちろん、出来てますよ。今回はとても楽しい仕事でした」


 そう言うとロジーナが矢を出してきた。ちょうど十本ある。


「どうも。そんじゃあラナ、ちょっと待っててくれ」

「えっ? どうしてですか?」

「良いものが手に入ったからちょっとコイツを改造してくる」


 あからさまに店主とロジーナが動揺し始めた。なんと面倒な連中なんだ。


「そそそそそのクロスボウをですか!?」

「おいおい! あんまり変な事するとこいつの仕事が無駄になるぞ!?」

「いいから待ってろ」




「改造って……もしかしてあれを使うのかな?」

「なんだ嬢ちゃん、あの兄ちゃんが何するか分かんのか?」

「いえ、でも……さっきの人から小型の単眼鏡を買っていたので、もしかしたらって」

「ベンスのことか。でも単眼鏡? 何でそんなもの……」




「待たせたな、終わったぞ」

「一体何をしたんだ?」


 クロスボウをカウンターの上に置いて、全員に見せた。


「これは……」

「レール部分の上に単眼鏡が付いてるな」

「狙撃できるように改造してみた、あれに近づきたくないからな」


 ロジーナが単眼鏡を覗き込んでいる。矢をつがえていないとはいえ、こっちを向かれると少し警戒してしまう。


「なるほど……これは中々……悪くないですね」

「怖いからその状態でこっち向くな」

「へえ、どれどれ……おお~こりゃあいいな!」

「だからその状態でこっちを向くな」


 こうなると二人そろって話を聞かないな。ある意味お似合いではあるが。


「じゃあ俺たちはそろそろ……行くぞ、ラナ」

「あ、はい!」

「んじゃ、うちもそろそろ店じまいにするか」

「あ、じゃあ私夕飯作ってくるね」


 そう言ってロジーナは裏口の扉に消えて行った。


「鍛冶屋の方も店じまいすんのか」

「え? あいつは普通に夕飯作りに行っただけだぞ?」

「……ん? そこって店の裏口じゃないのか?」

「そうか言ってなかったな、そっちの扉は俺たちの家なんだよ。あいつの作業場とも繋がってるんだ」


 それは予想してなかった。むしろそっちから行けば良かった気がする。




 沼地に戻り、ワニが居ないか警戒するが、もうどこにもいない。また沼に戻ったのだろうか。だとすれば、下手に動いて見つかるわけにはいかない。何か囮を使いたいが…


「ラナ、周辺の警戒をしておけ。ちょっと行ってくる」

「ちょっと待ってください! 危険ですよ!」

「知ってるよ。まあ見てろ、新兵器もあるしな」

「新兵器……?」


 警戒しつつ、沼地を進む。静かだ…恐ろしいくらいに。……ある程度進むと、嫌な水音がした。


───来た!


 豪快に飛びついてきたワニを間一髪で避け、こちらを向いた際にクロスボウを撃つ。…矢は、ワニの口の中に飛び込んで爆発した。全速力でその場を離れ、木陰に隠れて貰った矢をつがえていると、ワニがこちらを見失ったらしい。その隙に木陰からスコープを覗き、眉間を狙撃した。……矢はワニの眉間を貫いて、しばらくするとワニは動かなくなった。途轍もない威力だ。この矢は大切にしよう。念のため爆発矢をもう一発ぶち込むと、何の反応も無かった。


「……仕留めたか」


 一応反対側から回ってラナのところに帰ろう。飯の時に話をするって言っていたが、宿で食ったから飯は要らない。約束したものは仕方ないが、冷やかしで店に入るわけにもいくまい。適当なものを食っておこう。そんなことを考えていると、ラナが居た場所に戻ってきた。だが……


「どこ行ったんだあいつ?」

「ミズキ、あの野郎は?」

「見つかってない。どこに行ったんだか……」

「お前は向こうを、俺はあっちを探す。あいつぶっ殺してやる」


「ああ、怖いねまったく」

「人を盾に使わないでよ。だいたいなんでジャックがここにいるの?」

「いやちょっと話し相手に呼んだだけなんだけどねぇ、ちょっと息抜きに外出したらこれだよ」

「外出の許可は?」

「取ってないけど?」

「じゃあぶっ殺されてきなさい」

「そんなご無体な、ちょっと魔がさしてサボっただけなのに」

「それが問題なんでしょ……あっ」

「ようアラン、お前に二つ言いたいことがある」

「や、やあジャック。言いたいことって?」

「一つ、俺を帰さず逃げるとはいい度胸だ褒めてやる」

「ど、どうも。それで……二つ目は?」

「二つ……くたばりやがれ」

 ガギィン!

「いやいやいやいや本当に死ぬから頼むよ許してくれ」

「ああ、アリス。久しぶりだな」

「ひ、久しぶり~」

「ちょっと待ってろ、このクソッタレを片付ける」

「ここは……逃げる!」

「あっ! 待ちやがれ!」


「ギルドの近くで何やってんだか……」

「あ、ギルドマスター」

「誰かと思えばアリスか。アランの奴はまたサボりか?」

「……え?」

「呆けた顔してどうした? それとも元からそんな顔だったか?」

「いや、なんで……アランのことを知ってるの?」

「ああ、言ってなかったか? 俺もエミールと同じ、転生者ってやつだ」

「そういえば、ラウム・リーって名前……」

「そう、元は香港出身でな。ある組織にいた」

「ある組織?」

「……おっと、ジャックが帰ってきた。あいつからでも聞いてみればいい」


「ったく、どこ行きやがったあいつ」

「ねえ、ジャック」

「アリスか、まだここにいたのか。で、どうした?」

「……ラウム・リーって名前に聞き覚えはある?」

「ラウム・リー? ……『幽鬼街』のボスだった奴か。よくそんなの知ってるな?」

「幽鬼街? 何それ?」

「香港のマフィアだ。とにかく素性の知れない不気味な奴らが多くてな、ボスのリーですら本名かどうかが怪しいくらいだ。で、なんでそんな話を?」

「……いや、何でも無いから! でも何でジャックはそんなに知ってるの?」

「ああ、それか。結構前にリーの暗殺を依頼されてな、色々調べたんだよ」

「……それ、本当?」

「こんな嘘つくわけないだろうが。あっ! アラン、待てコラ!」

「私は知らないんだけど……まさか、アランが? 一体なんで……?」

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