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アウトローズ  作者: 豚しゃぶポン酢
商業の街ドゥンケルスと魔王の影
10/23

第八話 初仕事と酔いどれコンビと怪物と

前回のあらすじ

タイトル回収


初仕事ですよ初仕事!(某アイドル並みの感想)

               『アウトローズ』


「アウト……ローズ?」

「どういう意味ですか?」

「『無法者たち』って意味だ」


 若干不満そうな顔をされた。


「私たちを勝手に無法者呼ばわりしないで」

「確かに俺は重犯罪者だが……お前らはお前らで命令違反やら経歴詐称やらやってるだろうが」


 ウッという声がして押し黙ってしまった。


「ってか経歴詐称してても登録できるのか?」

「名前の欄が『マ』だけで登録できた前例があるぞ。偽名なんか今更だ」


 管理体制が重篤すぎる。ザルとかそんなレベルの話ではない。いや、そもそも目の前で偽名であることが明かされたにもかかわらず訂正を求めないのも駄目だろ。


「まあそいつももう居ないけどな。あ、これメンバーカードな。それで、折角だし依頼を受けてくか?」


 板に紙を貼り付けただけの簡素なものが手渡された。身分証明……になるかは怪しいが、ようやく身分証を手に入れた。

 しかし依頼か。ここに来る物好きの顔を拝んでいたいものだ。


「むしろ依頼が来てるのか? こんな廃墟みたいなボロギルドに?」

「ボロいのは認めるが来ることは来るぞ。少ないけどな」

「そうか。で、どんなのがあるんだ?」


 ラウムが書類を取り出して並べて見せてきた。


「薬草採取、猫探し、荷運びに昆虫採集ってところだな」

「雑用ばっかだな。それに、昆虫採集? ……いや、そんなことはどうでもいい。なら練習で何かやってくか」 

「薬草採取は知識が必要ですからやめた方がいいですよ、似てる毒草も多いので。」

「猫探しはエミールからする血の臭いで逃げられそうね」


 そんなに臭うのか。少しショックだ。


「昆虫採集は……お前らそんな涙目で見るな」


 そんなに虫が苦手か。まあ俺も嫌いだが。そうなると選択肢は一つしかない。


「仕方ない、荷運びをやる」

「分かった、連絡しておくからさっさと行きな。俺は寝る」


 やっぱりイメージ悪化は半分こいつのせいじゃないのか?




 荷運びと聞いたから店の搬入か何かかと思っていたのだが、資材の荷下ろしだったか。港湾地域じゃないから油断していた。周りには屈強な男ばかりでこちらが少し浮いている。アリスは問題無いが、ラナは大丈夫だろうか。どう見ても力があるようには見えないが……


「あんたらか、あのボロギルドに入った変わり者って」


 一際屈強そうな男が声をかけてきた。現場監督か何かだろうか。


「そうだが、あんたは?」

「あれ、あのクソ野郎から聞いてなかったか? ……現場監督のグリットだ」


 サラッとラウムの悪口が飛んできた。あいつ何したんだ。


「どうも、エミールだ。こっちの赤いのがアリス、黄色いのがラナだ」

「色で判別しないでよ……」

「あの、お仕事って?」

「馬車から資材の箱を降ろすんだよ。ってか嬢ちゃんたち出来んのか?」

「私は出来るけど、ラナは?」

「大丈夫ですよ、これくらい……ぎゃふっ!」


 箱を持ちあげようとしてラナが潰された。まあそんな気はしてた。


「……嬢ちゃんは事務員やろうか」

「はい……」




「これで全部か。ったく、肩と腰が痛い」

「ホント、美少女にマッサージしてもらいたいわ」

「前半はともかく、マッサージは受けたいな」


 駄弁っていると、現場監督がこちらに来た。


「ようあんたら、お疲れさん。ほい、これ今日の駄賃」

「どうも……結構少ないな」

「まあ荷運びの仕事だしな、魔物退治とか高いが……あのギルドじゃ、なぁ?」


 まあそれは否定しないが、これでは困る。


「商業の街ってだけあって商人の護衛が多かったんだけどな、昔ギルドがやらかしちまったからな」

「それは聞いてる」

「あんときゃギルドの受付嬢へのセクハラが酷かったからなぁ。みんな辞めちまった」


 そんなことまでやってたのか。なんて呆れていると、ラナが戻ってきた。こっちはこっちで疲れている。


「お疲れ様です……あうぅ……」

「お疲れ、って大丈夫か?」

「計算がとても多くて疲れました……」


 とりあえず報告して宿に戻ろう。




 相変わらず不愛想なラウムに報告を済ませ、宿に戻った。非常に疲れたので、荷物を置いて温泉に入ることにする。相変わらず武器を外すのが面倒くさい。早い時間に入っているからか、人がいない。温泉に入ってあわや寝そうになる。危ない、また寝たことが原因で死ぬところだった。すると、仕切りの向こうから声が聞こえてきた。アリスとラナの声だ。というかアリスの声がでかい。


「いやぁ疲れたね~」

「ええ、早く夜ご飯を食べてゆっくりしたいです」


 食堂に行くのは後にしよう。


「いやぁははは……そうだ、ラナって結局ついてくるの? まだ答えを聞いてなかったけど」

「ああ、そういえばアリスさんにはまだ言ってませんね。……ご一緒するつもりです」

「あ、そうなの? ……また物好きだね、あんなのについて行くなんて」


 ボロクソ言ってくれるなあいつ。何も間違ってはいないが。


「あはは……でもアリスさんだって、エミールさんと行動してるじゃないですか」

「私の場合は仕事だからねぇ」


 ボロを出すなボロを。


「仕事? そういえば監視って以前言ってましたね。お仕事って一体?」

「あ~……それはちょっと機密事項ってことで」

「機密事項? ……もしかしてエミールさんって、出奔した貴族か何かですか?」


 温泉の中なのに少しずっこけた。むしろ流刑にされた犯罪者なんだがな。なおアリスは爆笑している。あいつぶん殴ってやろうか。


「貴族? あれが? 冗談言わないでよあっはははは!」

「まあ、確かに自分で言ってておかしく思ってしまいました」


 半笑いで何てこと言いやがる。結局笑い声が収まるのにしばらくかかった。


「いや~笑ったねぇ。笑ったら疲れが吹っ飛んじゃった」

「そうですね、そろそろのぼせてきたし上がりますか」




 二人が湯から出た音がした。こっちはもう少し入っていよう。ゆっくりして疲れを取りたい。


「いい湯だねぇ」


 聞き覚えの無い声が隣からした。見ると見覚えのない男がいる。黒の短髪、オッドアイ、中性的な顔立ちをした男が隣でニヤついた顔をしている。


「誰だお前? いつからそこに?」

「誰……かぁ。彼女の上司といった感じだね」

「彼女? ああ、アリスのことか。死神の上司ってことは……何か居たかな? 創造神か?」

「そんな小さな神と一緒くたにされては困るね」


 そんなことを言われても情報が無さすぎる。


「って言ってもそう簡単に分かるものでも無いか」

「当たり前だ、ノーヒントで分かるわけないだろ。神だけでどんだけ種類があると思ってるんだよ」

「まあ、そうか。じゃあ自己紹介をしなければいけないね」


 男は湯から出て、自己紹介を始めた。……出た途端体が乾いて茶色のコートが生成されたのは目の錯覚か?


「私はアラン・フレイラース、あらゆる時空の《管理者》さ」


 一瞬冗談を言っているのかと思ったが、さっきの事象と言い死神の上司であることと言い、そこそこの説得力があった。相変わらずニヤついた顔をしているが、先程と違いそこに不気味さを感じる。


「どうかしたかな、エミール?」

「そうだな、まず一つ聞きたいんだが……何でわざわざ俺の前に?」

「気まぐれかな」


 いかにも神らしい理由だ。いや、こういう奴らしいと言うべきか。


「まあちょっと様子を見に来たっていうのもあるかな」

「……仕事をサボるためじゃないよな?」


 ニヤついた顔をしているが、目を少しそらした。図星か。


「そんなことないよ?おっと、ジャックのところでお茶する時間だ。それじゃあ頑張ってねぇ~」

「逃げるんじゃねえよ。また変わった知り合いがいるなあいつも……ジャックによろしく伝えてくれ」

「ああ、分かったよ。それじゃあ」


 男はそう言うと、その場を動くことなく消えた。本当に変な知り合いが居るなあいつ。変な奴の相手をしてたらなんだかんだでのぼせてきた。そろそろ上がらないと。




 いつも通り武器を仕込み直し食堂に行くと、アリス達は居なかった。食事を終えて部屋に戻ったのだろうか、厨房には大量の食器が見える。適当に注文し、食事を摂った。腹を満たして部屋に戻るとアリスが居た。今度は親衛隊みたいな恰好をしている。アリスの手元には酒瓶が見える。いったいどこから調達してきたのか知らないが、嫌な予感しかしない。


「あ、エミールちょうど良かった。一緒に呑まない?」

「いただくけど呑み過ぎるなよ、前に散々なことになったからな」


 ラナが部屋に戻ってきた。セーラーの次はメイド服か。どこに行っていたのか聞こうとしたら、その前に答えた。


「アリスさん、おつまみ買ってきましたよ~」

「おっ来た来た♪」

「おっさんかお前は。で、何買ってきたんだ?」

「よく分からないので適当に買ってきましたが……」


 チーズっぽい何かと魚介っぽい何かが出てきた。実際は何かよく分からないが、見た目はいい。


「それじゃ、はいこれグラス」

「どうも……ってラナは酒飲めるのか?」

「失礼ですね、こう見えても成人しているんですよ」


 それは結構意外だった。


「そうなのか?いくつだ?」

「……21ですけど」

「女の子に年齢を聞いちゃダメって言われたことないの?」


 確かに失礼に当たるが、流石に気になるだろう。


「仕方ないだろ、見た目は10代に見えるんだからな」

「あうぅ……確かに童顔って言われますけど、そんなにですか?」

「まあ確かに20代には見えないかも」

「そんなぁ……」




 駄弁りながら吞んでいくが、やはりというべきかアリスがべろんべろんに酔っぱらった。それだけならまたラナを置いて逃げようかと思ったが、質の悪いことにラナまで酔っぱらった。なお、泣き上戸である。絡み上戸のアリスとのコンボが決まっているせいで部屋の中は混沌としている。


「エミールさぁん! 私だって10年後には顔だちも大人になって、体型だって……ズビッ」

「分かった、分かったから俺の体を揺するな! ぐぁっ! おい、鎖骨のあたりに指が食い込んでる! 痛いからやめろ!」

「アツアツじゃないのエミール~?」

「セクハラ親父かお前は!」


 アリスに絡まれた後、ラナがようやく手を放してくれた。と思ったら膝に顔をうずめてきた。待て、お前さっきズビッとか言ってただろ。


「なのに年が二つ下の妹は私より大人っぽいし! うわぁぁぁん!」

「うおぉぉぉやめろ! 涙と鼻水で服を汚すな!」

「ウヒャヒャヒャヒャ! いいツッコミするねぇ~」

「笑ってんじゃねぇよアリス! ああもう何てことするんだ! もう嫌だ、外に出てくる!」

「行ってらっひゃ~い、ウヒャヒャヒャヒャ」

「うわぁぁぁん! ズビッ」


 このままあの部屋に居たのでは死んでしまう。服が汚れたし着替えて外にいこう。宿を追い出されないといいが……。しかしどこに行こうか。武具店は閉まっている、オーレルに絡む訳にもいかない。となるとギルドで時間を潰すか。どうせラウムの奴も暇だろう。




「……で、ここに来たのか? 大変だなぁお前」

「暇なギルドマスターに言われてもな……なんか依頼は無いか? 今はあそこに戻りたくない」

「分かったよ、じゃあこれはどうだ? 害虫退治だ」


 害虫退治?そんな知識は無い。そもそも虫は嫌いだ。


「害虫って言っても普通の害虫じゃない」


 何だそりゃ、巨大ゴキの退治か何かだろうか。そう考えたらおぞ気がしてきた。


「怪物2578番『ビッグマザー』、巨大な蜘蛛の怪物だ」

「怪物? 魔族とは違うのか?」

「何だ知らないのか? 怪物って呼ばれる奴らはな、人間どころか魔族も襲う凶暴な奴らだな。魔族と違って種族って括りが無い」


 魔族とも違う上に見境無しとは面倒な連中だ。というか2578番ってどんだけ怪物が多いんだ。


「なるほどね……待て、『ビッグマザー』? まさか……」

「ああ、大量の子蜘蛛もついてくるぞ。あと他に依頼は無いからな」

「……仕方ない、受ける」

「毎度~。場所は東門近くの武具店だから頑張れよ~」


 あの店か。なんたって店の店主とこうも因縁が出来るんだか。




「なんだあんたか、ギルドの依頼で来た冒険者って」

「あの後生き延びたんだな。で、どこに行けばいい?」

「ああ、実は近くの鉱山に前から居てな。馴染の鍛冶屋が困ってるんだ。あいつが武器を作れなきゃ俺が食っていけなくなるしな」


 鍛冶屋と鉱山があったことを今知ったのだが。


「何で鍛冶屋が直接依頼しないんだ?」

「どうにも気の小さい奴でな……あそこの受付が苦手らしいんだ」


 あいつのせいか。正直分からなくは無い。


「ああ、鉱山の場所は俺が案内する。ついてきてくれ」

「そいつは助かる」




 街からそこそこ離れたところに、鉱山があった。しかし、入り口が蜘蛛の巣に覆われていた。これに突っ込むのは流石に無茶がある。


「少し準備した方がいいな……」

「だろうな、場所は教えたし準備が出来たら勝手に入っていいぞ」

「どうも。……さてと、どうするか」


 虫が相手なのだから煙と火を持っていけばいいだろう。明かり兼蜘蛛の巣撤去に松明が必要だ。しかし松明では敵を捌き切れる気がしない。火炎放射器か大量の焼夷手榴弾があれば簡単に丸ごと灰に出来るのだが、そんなものが異世界にあってたまるか。一旦持ち物から何かないか考えよう。クロスボウ、矢、長剣、大量のダガーナイフ、毒。相手は蜘蛛だ。毒が意味あるとは思えん。そうなれば火矢を用意しよう。必要なものは油と布か。街で調達しよう。




 街で必要な品を買い集め、小さな油壷に矢を差し、松明を作る。準備はできた。矢に火を点け、蜘蛛の巣に矢を撃ち込む。……豪快に燃えているせいで入れない。しばらく待つと、火は消えたので、念のためもう二発撃ちこんだ。松明を持って侵入してみると、床に何かの焼死体がそこら中にあった。見ると、子蜘蛛だった。形を見ると、どうにもタランチュラに近い種のようだ。とすると毒を持っているかもしれない。念入りに火矢を撃ち込む必要があるだろう。




 壁に松明を差しつつ奥の方まで進むと、巨大な空間が見えた。火矢を三発撃ちこんで様子を見るが、何故か燃えない。想定外の事態に少し焦るが、落ち着いて警戒しつつ侵入する。すると、叫び声が聞こえた。人の叫び声のように聞こえるが、こんな所に人がいるわけがない。そう思っていると、天井から壁にかけて何かが降りてきた。

 ……それは、おぞましいと形容するのに十分な造形をしていた。確かに下半身は蜘蛛だ。だが上半身特には人間の女性のような胴体が見える。ただ、顔には目が一つしかない。おまけに部屋の半分を埋め尽くす巨体を持っている。いや、それ以上に目を引くのは、人の部分を含めて全身にびっしりと見える人面瘡だ。その全てが苦しそうな顔をしている。


「キヤアアァァァァァァ!!」


 気付かれたらしい、叫び声をあげてこちらに向かってきている。そりゃあ突っ立っていれば見つかるだろうな。試しに火矢を撃ち込んでみるが、効いている様子がない。どう見ても剣が効くようには見えない。糸を吐いてきたのを全力で避け、どうしたものかと考えながら逃げ回っていると、右側に何かが落ちてきた。見てみると、蜘蛛だった。天井から結構な数の蜘蛛が落ちてきている。


「おいおい、嘘だろ?」


 母蜘蛛ほどではないが普通の蜘蛛より図体が大きい。こちらを視認すると全速力で向かってきた。タランチュラに似て毛むくじゃらの見た目なので、余計に気持ち悪い。さすがに吐き気がしてきた。逃げながら矢を撃って数を減らそうとしたが、思ったより数が多い。これでは矢が足りないが、母蜘蛛にはそもそも矢が通用しない。火でこの空間ごと燃やしてしまえば簡単に始末できるのだが、残念なことに糸束に飲まれて火が消える。これでは手の打ちようがない。

 ……いや、一か所に火をつけて燃えないなら、油を撒いて全体を燃やせばいいのではないか?どの道何かしなければ死んでしまう。一か八か、逃げ回りながら油瓶を投げて回り、空間の入口に差した松明を投げ込む。

 ……成功だ。火は瞬く間に広がり、空間全体を包もうとしていた。全速力で入り口に逃げて様子を見てみると、子蜘蛛は足をばたつかせながら息絶え、母蜘蛛は断末魔なのか爆音で叫んでいる。


「キヤアァァァァァァァァァァ……アアアアアァァァ!!!」


 息絶えたと思ったら、全速力でこちらに嚙みつこうとしてきた。体を燃やしつつ壁に激突した直後、坑道が崩落して潰されていった。どうにか鉱山を脱出したが、散々な目に遭った。空を見てみると、夜が明けたようだ。空が明るくなっている。疲れたから少し休んでいこう。報告は後でいいだろう。




「なるほど、それで坑道が崩落してしまったと」

「ああ、やっちまった。まさか最期に突っ込んでくるとは思わなかった」

「……まあ、倒せたんならいいや。鍛冶屋には俺から言っとくよ。ほい、これは依頼料だ」

「どうも……」


 休憩して報告に来たらもう日も高くなっていた。さすがに疲れたから宿に戻って寝よう。




 宿に戻ると、ラナとアリスが床で寝ていた。二人とも半分服がはだけながら寝ている。幸せそうな寝顔に思わず殺意を抱きかけたが、もう怒る気力もない。ベッドに入って寝ようとしたら、アリスが起きてきた。


「んんー! ……あ、エミールおはよう」

「……何がおはようだボケナス、もうそろそろ昼だぞ」

「ふわぁ……あ、エミールさん、おはようございます」

「だからそろそろ昼だっつってんだろ……もう駄目、眠い……」


 猛烈な眠気に襲われ、布団に顔をうずめる。


「大丈夫?」

「頼むから……起こさないでくれ……」

「随分お疲れですね……アリスさん、起こしても悪いので外出しましょう」

「そうね、ちょっと寝かせておきましょう」


 瞼が重くなり、勝手に閉じるようになってしまう。二人もどっか行ったからゆっくり寝よう。

「ジャック、温泉に興味は無いかな?」

「行ってみたいが時間がない。行きたいなら一人で行け」

「むう、読まれてたか。でも休みを取ればいいじゃないか」

「休めたらこんなことは言わん。で、何に影響された?」

「いやぁちょっとエミールの様子を見に、ね?」

「サボりのついでにか? で、温泉に入ってたから自分も旅行したいと」

「全部見透かされたか。参ったねこれは」

「当たり前だ。お前との付き合いがどれだけ付き合いが長いと思ってる」

「かれこれ八年くらいかな? 長いものだねぇ……そうだ、エミールから君によろしく伝えてくれって言われたよ」

「……そうか、分かった」

「まあ、部下に関する苦言を呈されそうだったけどね」

「アリスか。あいつは昔から発言にトゲがあるしな」

「半分君のせいだろう? 記憶を封印した後に連れてきたのが間違いだった」

「ここが一番マシだろ、他は頭のネジとかいう概念がなさそうな奴ばっかりだしな」

「確かに、そうだねぇ……そういえば、私たちの出会いはどんなものだったか」

「いきなり襲い掛かってきたくせに忘れんなよ」

「ああそうだった、いい死神候補がいると思って殺そうと思ったんだ!」

「何が『思ったんだ!』だ。あの時は必死で抵抗したって言うのに」

「抵抗しすぎだと思うけどね……殺されかけたのはあれが初めてだったよ」

「こっちも重傷負ったんだからおあいこだ」

「一応、私は神様なんだけどね……」

「そんなもん関係あるか」

「大有りだよ。神様が人間に片腕落とされたとあっては沽券に関わるからね」

「命があるだけありがたいと思え」

「酷いなあ……でも今なら勝てると思うんだけどなぁ」

「……試してみるか?」

「乗ってくれるなんて嬉しいじゃないか。……《黒剣召喚(コール)》」

「便利だな、それ」

「羨ましいかい? あげないけどね」

「晩飯の準備があるしササっと終わらせるか」

「言ってくれるねぇ。……残念だけど、本気で行かせてもらう。死んでも文句言うなよ?」

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