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17.変わらぬ目覚めと変わる朝

 翌朝。


 慌ただしい出会いから一夜明け、ほんのりと肌寒い屋内にてオームギは目を覚ます。


「あれ……。ああ、そうだった。ウチに泊めさせたんだった……」


 布一枚掛け横になる旅人達を見て、昨晩の出来事を思い出す。

 ひとしきり悶え終わったオームギは我に返ると、溢れぬばかりに作っていたはずのサンドイッチはもう既に胃袋の中。作った本人が一つも口にする事なく、全て食べられてしまっていた。


 全部食べる奴があるかと旅人達へ問い詰めると、彼らはあまりの美味さに手が止まらなかったと答えた。

 最初こそ大半を食べられ怒りを覚えていたが、そこまで言われては折れるのが料理人としてのオームギであった。なにより、作った料理を美味しいと言われ、オームギは心の奥深くが暖かくなっていたのだ。


「……人に料理を振舞ったのなんて、いつ振りだっけ」


 はるか昔、それはまだエルフ族が滅んでいなかった時代の事。何がきっかけだったか、しばらく行動を共にしていた旅人に、オームギはよく料理を振舞っていた。


 オームギはその人物が起こす不思議な術の虜になっていた。エーテルという名称すら広まっていなかった時代に、その者は様々な魔術を扱い、世界へ平等をもたらすため奮闘していたのだ。


 今思えば、魔術を教えて貰ったお礼として料理を振舞っていたのかもしれない。


 時代が進むにつれ、世界中へと広がり根付くエーテルという未知なる力。旅人の教えによって同族より何歩も先にエーテルの術を覚えたオームギは、種族が滅んだ今も一人ひっそりと生き続け、誰に知られる事も無く変わりない平穏を過ごしていた。


 幸か不幸か、故郷を離れ旅人と行動を共にしていたオームギは、種族の滅亡に巻き込まれなかったのだ。


「…………消失する(インビジブル・)白光(ホワイトライト)


 ぐっすりと眠る此度の旅人達を起こさぬよう、オームギは姿を消しひっそりと外に出る。

 やる事はいつだって変わらない。朝になれば外に出て、一日の食材を収穫する。そうやって彼女は百年以上もの時を過ごして来たのだから。



 ────────────────────



 朝霧の立ち込めた湖の畔にて。


 青々と実った植物は今日も湖の水を肌に伝わせ、水気に込められたエーテルを吸収する。賢人作りしオアシスは、エルフ特製の水をふんだんに使う事で独自の生態系を保っていた。


 眠気覚ましに軽く顔を洗った後、オームギは湖の周りで実る植物を眺めながら、本日の朝食は何にするか考える。


「適当にフルーツをカットするだけでもいいけど……。昨晩あれだけ食べたのだから、胃に優しい野菜のスープでも作ってあげましょうか」


 生い茂った果物の木々から背の低い畑へと視線を移し、オームギは足を運ぶ。そして刃を納めていた集断刀(クラン・グラン)を握ると、くるくると回し天へと振りかざした。


「収穫モード、セカンド!」


 オームギの掛け声と共に、集断刀(クラン・グラン)の先へエーテルが集まる。しかし形状は普段の鎌ではなく、平たい板の先に刃の付いた、クワのような姿へと変貌した。


 天へ突きあげた刃を、そのまま野菜の埋まる土へ振り下ろす。刃の刺さった周辺の土は水を被ったように柔らかくなり、まるで自ら出て来たかのように、土へと埋まっていた根菜が顔を覗かせた。


「色艶良し、サイズは上々。うん、今回も良く育っている」


 地表へ現れた根菜を軽く抱き上げ、一つ目の収穫を終える。次のスープの材料に必要な材料は……と考えたその時、何かが地面を擦る音が近くから耳へ入った。


「誰っ!?」


 咄嗟に収穫した根菜を土へと置き、刃先がクワとなった集断刀(クラン・グラン)を音のした方へと振り向けた。そこには。


「あっ……、すみません。お邪魔するつもりは無かったのですが……」


 厚手のローブに手には青いエーテルコアの取り付けられた豪奢な木の杖。オアシスへと迷い込んだ旅人の一人、エリーゼが木陰からばつが悪そうに姿を現す。


「貴方は……こんな朝早くに何の用? お仲間はまだ眠っているのでしょう」


「はい、その……目が覚めたらオームギさんの姿が見えなかったもので」


「それで、探しに来たって訳? わざわざ?」


「いえ、違います」


「え……? じゃあ何のために」


 突然現れたエリーゼに、オームギは困惑を隠せない。そんな彼女を前にエリーゼはにっこりと、懐からあるものを取り出し答える。


「お手伝いをしようと思いまして」


「…………は?」


 新たな武具の類いでも取り出し襲い掛かって来るのかと身構えたオームギだったが、彼女の目に映ったのは持ち手の先に何やら鉄の板が二枚重なった奇妙な道具。


 なんとエリーゼは、オームギの用意する朝食の手伝いをしたいと言い出したのだ。

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