10.お喋りは誰のため
肌を燻るような太陽の下、シキ達はオームギの案内で砂上にあるというエーテルの反応を巡っていた。
エルフ型の魔物と戦っては、ここでもないそこでもないと言いながら、一つ一つコアを求めて手がかりを潰していく。
「ここもハズレ。まぁ、そう簡単に見つかるとは思ってないけどさ」
「エルフの反応というのは、いったいどれほどあるのだ?」
「十か二十か、もしかしたら百以上かもね。なんてったってこの地そのものがエルフの亡骸だもの。いくら減らそうが、気が付けばまた増えている。貴方達も見たでしょう?」
白の魔女と共にシキやエリーゼも砂上の亡霊と戦うが、彼女の持つ大鎌でなければ魔物はただ消え去るのみ。
そんな彼女が百年以上続けて減らしてもまだ見つけられないと言うのだから、コア探しは相当骨の折れる作業であった。
「でも、このコアを始め多くの遺物は見つかった。それらを回収しているうちに、あの魔物は段々とエルフの姿から離れていったの」
「……? 最初からあの姿形では無かったのか?」
「ええ、最初なんて同胞と瓜二つだったわ。私の仲間は生きている。奴らと初めて会った時そう思ったのに、それらは全て過去の残滓でしかなかった」
慣れた様子で回収したエーテルの球をコアに吸収させ、オームギは再び大鎌を担ぐ。
「でもそんな光はもう無いわ。奴らのエーテルや遺物を回収していくうちに、段々と今の姿に近づいていったの。それは奴らを構成するエーテルの純度が変わった事を意味している。ならば、この地に眠る最後の遺物を回収する事が出来れば」
「エルフ族の魂は、蘇る事無く眠る事が出来る……。だからあなたは、コアを探し続けているのですか?」
「可能性の話、だけどね。あ、まぁもちろん、私が平和に暮らせるためってのが大前提よ。当たり前じゃない」
大真面目に語り気恥ずかしく思ったのか、オームギは照れ隠しをするように本来の目的を口にする。そんな彼女を見て、エリーゼはふと、思った事を呟いた。
「オームギさんって、意外とお喋りですよね」
思いがけない一言に、オームギは口をわなわなと震わせ驚いた。
「はぁ!? なっ、なにを急に……!!」
「だって、用が済んだら私達から記憶を消すのですよね? なのに、エルフの事やこの砂漠の事、魔物の生態から自分の目的まで、何から何まで喋ってくれるではありませんか」
「確かに。そんなにベラベラと喋って、消す記憶を増やしてどうする? 手間が増えるだけでなく、万が一消し忘れた内容があればそこから思い出すかもしれんぞ」
「…………」
コクコクとネオンも頷き、旅人達の意見が一致する。
殺すか殺されるかの危うい協力を取っている中、そんな事を言われるとは微塵も思っていなかったオームギは、図星だったかのように大きく取り乱した。
「べっ、別にそんな事私の勝手でしょう!? 最終的には必ず忘れさせるのだから、何を言ってもいいじゃない!!」
「あっ、シキさんネオンさん。私、聞いた事があります。エルフ族って賢人と呼ばれる通り知識を豊富に持ち合わせていて、その多くは仲間や尋ね人に知識を共有する事を生業にしていたとか」
「それ以前に、ただ単にこいつがお喋りなだけだと思うぞ。もしくは久しぶりの会話に気分が高揚しているかだな」
「…………」
「こらそこ頷くな! それ以上言ったら今すぐ真っ二つにするわよ!! エーテルの吸収ってのは死体になっても効果があるのか、試してみようじゃない……!!」
大鎌を振り回し威嚇する、偉大な賢人ことオームギ。知性の欠片も無い感情的なふるまいをしていると、どこからともなく不穏な空気が漂うのを一行は感じ取った。
「動物の……臭い?」
エリーゼがポツリと呟くと、何もないはずの砂上に複数の影。エルフ型の魔物を刈り取った地にて、姿の異なる敵が周囲を囲っていた。
「グルルルル…………」
「獣型の魔物だと……!!」
目の前には牙を向き、殺意を持った鋭い眼光でシキ達を睨む四つ足の獣が七、八匹ほど。獣の姿を見たオームギは、信じられないようなものを見たように目を見開いていた。
「なんでこいつらが砂漠の中に……!!」
砂漠で出会ったのは、本来生息しないはずの魔物の群れであった。




