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05.白の魔女

 エルフを名乗るピンク髪の白い魔女は、正体を看破されるもニヤリと笑っていた。


 急な来訪者を前に警戒を解く事なく、笑みを作り冷静さを保とうとしていたのだ。


「って言うか、私の正体を知られたからには生きて返せなくなったんだけど、貴方達その辺りをしっかりと理解してる訳?」


 その表情に喜びなんて微塵も無い。あるのはただ一つ。動き出そうとする秒針を壊し、永久の中へ己を閉じ込める。歴史から消えた存在を、永遠のものへと定めるように。エルフ族の生き残りは、開きかけた運命の扉へ施錠する。


「ちょっと待って下さい! 確かに正体は暴きましたが、だからって別にあなたをどうこうする訳ではありません!」


 エリーゼは慌てて誤解を解こうと必死になる。エルフ族が何故賢人と呼ばれているか。その理由を知っているのは、当人を除いてこの場には彼女しかいなかったのだ。


 そんな事などつゆ知らず、シキは普段の調子のままオームギに対して淡々と己の目的を語った。


「エリーゼの言う通りだ。私達はコアを手に入ればそれで良い。エルフだとか賢人だとか、そういったものには興味などない」


 あくまで目的はコアであり、このオアシスや住人の存在はシキにとっては通過点に過ぎないのだ。だが事の本質を理解していない彼を前に、オームギは一層警戒を強める。


「仮に貴方達が言っている事が本当だとして。それを私が信じたとしても、事は貴方の思っている以上に必ず発展する。断言するわ」


「なに……?」


 意味深な物言いに、シキは怪訝な表情をした。そんな物分かりの悪い彼を見て、オームギは少し考えた後、隣で杖を握るエリーゼに視線を向ける。


 一触即発な空気を前に、鋭い眼光を向けられたエリーゼは何が理由で対立しているのか察した。


「エルフのエーテル、ですね……」


「そう。私達だけが持っていたエーテル。何故エルフが賢人と呼ばれるか。それはね、私達が何世紀も超えて生きて、膨大な記憶を蓄積出来るから。人のそれとは比べものにならないほど、多くのエーテルを扱えるから。だから私達は、滅んだの」


 白のとんがり帽子を深く被り、オームギは奥歯を強く噛み締める。


「ただの人が扱える訳ないのにね。だから恨まれ妬まれたのか、私達の力を求め多くの血とエーテルが流れた。流れ過ぎて、もう一滴も残らないほどに。そんなものが現代にまだ残っていると知られたら。もう分かるでしょう」


「…………しかし、しかしだ。私達はお前の存在に干渉しないし、ここを去っても言い広める事などしないと言っている。ならば、命を取る必要がどこにある……?」


「だから言ったでしょう。私がそれを信じたとしても、貴方の思っている以上の事に発展すると」


 シキの説得にも応じず、オームギは殺さなければならない理由を冷酷に口にする。


「貴方達はこのオアシスに住む私の存在を知ってしまった。貴方達のエーテルに、もうその事実は刻まれてしまった。たとえ口外などしなくても、知った以上はもう覆らないの。この世界は、そういう風に出来ているの」


 知ってしまった以上は頭では忘れ去ろうとしても、エーテルの一部として必ずどこかの記憶の断片に留まり続ける。そしてもし、刻まれたエーテルが第三者の目に触れ解読されたら。


 オームギは諦めを受け入れるように溜め息をつき、もう一度大鎌を振り被る。


「さて、お喋りはもうおしまい。私の安息のため、残念だけどその命、貰い受けるよ……ッ!!」


 白い魔女が消える。光の中に消えた訳でもなく、記憶の中から消された訳でもない。大鎌は真横から伸び、魂を舐めるように首の周りをぐるりと這いずる。


 置き去りにされた音が遅れて聞こえて来た時、大鎌は終わりを告げるべく、シキの目の前から真後ろへと強く引かれるのであった。

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