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37.もう一つの記憶

 夢を見ていた。


 自分ではない誰かの夢を。


「兄上! やっと俺達も幹部になれたな!!」


「オーキッド、喜び過ぎだ。これは始まりに過ぎぬ。我らが民のために、俺達はもっと強くならなければならないのだからな」


 左の額より角を生やした男は、しかめっ面で否定しながらもほんの僅かに微笑んでいるようであった。


「ほっほっほ。二人とも強くなったのう」


「じいさん!」


「これオーキッドよ、ここでじいさんは止めんか」


 今よりも少し若い見た目をしたアランブラと話をしていると、柔和そうな紫の肌をした老人が寄って来た。


 どことなく誇らしげな老人は、二人の気を締め直すように二人の顔をまじまじと見つめる。


「幹部になるというだけでも、十分に強くなっておる。民の数も減って今は幹部級は十と少ししかいないのじゃ。その数が増えるだけでもワシは嬉しいわい」


 そういうと、老人はアランブラと共にオーキッドを抱擁し、ぎゅっと二人の肩を抱き締める。


「ティーブル殿、早速俺達にも任務を与えられました。王国と関りのある貴族の監視を頼まれたのです。そしてゆくゆくは我らの手中に納めろと、この国のために使命を与えられたのです」


 アランブラはティーブルと呼ばれた老人に、それは嬉しそうに与えられた使命を伝えた。しかしその内容を聞いた老人は、顔色を曇らせる。


「ふむ……。ちなみに、与えられた部下は何人じゃ?」


「はい、今回は我らが双子のみで行う予定です。我らの相性であれば、部下は逆に足手まといになるのではないかと。それで魔物を使用する事により、民の損害を減らす算段なのです」


 国を相手取るというのに、その作戦に当たるのは新人二人に魔物のみ。老人は二人の肩をもう一度抱き寄せると、囁くように胸の内を語った。


「アランブラ、オーキッド。我らは常に人手不足。歴史の内で行われた忌まわしき狩りにより生き残った我らは、より一層団結せねばならん。上の連中も無茶な命令を出しおって……。二人とも、必ず生きて帰ってくるのじゃぞ」


 老人の真剣な言葉に、アランブラは深く受け止め、逆にオーキッドは老人を励ました。


「なに言ってんだじいさん。何年かかろうがこの任務は必ず成功させる。我ら二人がダーダネラ再興の切り込み隊長となるのさ! 任務が終わったらまた酒でも飲みながら新しい術を教えてくれよ。それまでくたばるんじゃねーぞ!!」


 あっけらかんとした様子に、老人の笑みを零す。


「全くお前は、幹部になっても変わらんのう。だがそうじゃな。わしが育てた弟子たちじゃ。わしが信じなくてどうするという話じゃのう。ただでくたばる老いぼれと二人とも思ってないじゃろ。約束じゃ、また酒を酌み交わしながら任務の話でもしてくれい」


「おう!」


 老人の背中が小さくなっていく。その後ろ姿がどことなく寂しく見えたのは、ただの勘違いだったのだろうか。


 老人の姿が遠く消えていくと同時に、意識は薄れていく。ゆっくり、ゆっくりと遠くなっていく老人の笑みが、胸に深く残り続けていた。


 ……………………。


 …………。


 ……。


 シキは、目を覚ました後も胸の辺りが熱かった。

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