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26.真実を認識せよ

 ミルカが見たという、北にある謎の屋敷。

 その全貌は全てを隠す術にかけられた隠密の地であると、エーテルに疎いシキは読み解く。


「まさか。……まさかあの屋敷そのものが。いや、あの土地そのものに認識を阻害する術がかけられているとでも言うのですか」


「しかも、人知れずそこには屋敷が出来ている。つまり数日や数週間などと数えられる範囲を超えたレベルで、持続してかけられている。かもしれないのだ」


 その場に居た全員がシキの顔へ振り返った。


 シキには事の重大さが分かっていないが、彼の口走った出来事がもし本当なら、それこそ国家魔術クラスの事がこの魔術雑貨屋の目の前で行われていた事になるのだ。


 唖然と話を聞いていたうちの一人、ミルカは勇気を振り絞って声を上げる。


「詳しい事はよく分からないッスけど……不気味な屋敷があの洞窟と同じ仕組みで出来ているってなら、アネさんも関わっているんスよね。アネさんを操っている悪者が、その屋敷にはいるって事ッスよね」


 氷の檻の中で。一人の少女は、心を焦がす。


「だったらウチは行くッス。みんなが止めようが、ウチはアネさんの力になりたいッス!! 今度こそ、団長と下っ端だからじゃなくて、兄弟と言ってくれた仲間を助けるために!!」


 少女は一人、覚悟を決めた。大切な人を助けるために。その身を犠牲にする事に。


虎の威を借りる猫(メタモル・タイガー)!!」


 ミルカは決意を胸に、チャタローへ術の発動を施した。氷の檻に閉じ込められた彼女は強い力に押し潰される事を分かっていてでも、彼女は一瞬の迷いも無かった。


「なっ!? ネオン、檻に触れろ!!」


 寡黙なる少女はシキの一声と共に、エーテルを吸収するその華奢で不可思議な腕を氷の檻へと伸ばす。


「ミルカァ!!」


 盗賊達も慌てて動けない身で彼女へと近づこうとした。だが氷の拘束が引っ掛かり上手く立ち上がれなかった。


 諦めきれず歯を食いしばろうとした直前、彼らを拘束していた氷に変化が起きた。氷は水へと姿を変え、彼らの縛りを解いたのだ。


 そして、ミルカを覆っていた氷の檻は役目を終え、自然と背景へと溶け込んだ。


「もう檻なんて必要ありません。それに、私にだってその屋敷へ行く理由がある。兄が消えた時感じたあのエーテルの正体がその屋敷の中にあるというなら、私の取る行動はもう一つしかないです」


 それに、突然消えた兄と突然現れた屋敷、その二つには強い関りがあると彼女は睨んでいた。だから彼女の敵意は既に盗賊団から離れ、まだ見ぬ紫の炎の先へと向けられていたのだ。


 そしてもう一人、その屋敷を目指す男がそこにいた。


「アネッサの身に着けていた腕輪。あの宝石は恐らくエーテルコアだ。そしてそれはそう簡単に手に入る物ではない。つまり、アレは誰かによって施されたものである可能性が高い」


「あの宝石が……アネさんの身に着けていたアレがエーテルコアだってのか!? もっとデカい岩の塊かと思ってたぜ……」


 シキの読みを聞いたストウムは声を上げ驚いていた。

 ただエーテルコアが何なのかも知らず、ただやみくもに魔術雑貨屋へ襲い掛かった彼らを見て、シキは思わず溜め息を漏らす。


「なんだ、そんな事も知らずにエーテルコアを探していたのか。私が手に入れたコアはこの短剣に埋め込まれていた。彼女の力とその宝石の使い方。ほぼ間違いないと言って相違ないだろう」


「では、シキさんもあの屋敷に向かうという事でしょうか?」


「もちろんだ。それに、紫の炎の先に居た奴にも用がある。あの様子、ただの屋敷の主にしてはやけに必死に見えた。それこそ知られた事実ごと炎に飲み込もうとするような……。とにかく、私にも屋敷に行く用はいくつもあるのだ」


「分かりました。では私にシキさんミルカさん。そしてチャタローさんでその屋敷へと向かうとしましょう」


「いや……」


 シキは指先を振り、エリーゼの提案へ補足を入れる。


「一人忘れていないか。ネオン、お前も一緒に行くぞ。洞窟の扉が開いた時、その鍵となったのはお前だった。私達が真実の底へとたどり着くには、確実に必要な存在だ」


 その場にいた皆の注目がネオンへと集まる。

 エーテルの見せる偽りを見破るには、エーテルを飲み込む力を持つ少女の力が必要不可欠であった。


「…………」


 ネオンはコクリと、シキの誘いに同意する。


「そうですね。それに私はまだ屋敷については存在を知れていない。ネオンさんがいなければ入れないかもしれません。そうと決まれば早速向かいましょう」


「チャタローも変身して準備オッケーッス!!」


「フン、ニャー!!」


「その前に一つ、確認しておきたい事がある」


「どうしたんスか? これから向かおうと息巻いていたというのに……」


 シキには一つ、不気味な屋敷へと乗り込む前に確認しておきたい事があった。


「『ノース・ウィンド』の皆! 預かっている首飾りの一部を見せて欲しい。右手で胸の前に差し出せ」


「……? ほらよ。ちゃんと六つここにあるぜ。それがどうかしたのか?」


(右手に指輪をしている人物はいない。アネッサのアザを見るにアレは指輪をした手で打たれた跡だと思っていたが、やはりアネッサを打ったのは屋敷にいる紫の炎使いという事か)


 アネッサの頬へ残っていたアザ。その正体に盗賊団が関わっていないか、最後の確認を取っておきたかったのだ。


「いや、揃っているなら問題ない。何かあったらエランダとこの店の事を頼む」


「一つはウチが借りて行くッスー!!」


 ミルカはストウムの持っていた首飾りの一部を奪い去ると、大切そうに懐へとしまった。


「あっ、ミルカてめぇ!! ……クソッ、そいつは持って行け。だから絶対にアネさんを頼んだぞ!!」


「もちろんッス!!」


 ストウム達だってアネッサの元へ行きたいが、襲撃の際に皆著しく消耗していた。だから彼らは、唯一元気の有り余った仲間に想いを託す。それが彼らの出来る精一杯であった。


 「では……」


 これで準備は整った。


 兄を探す氷の使い手と、姉貴分を追う無邪気な癖っ毛少女とデブ猫と、炎の先にいた兄弟が持つ記憶を求める旅人達。


「北にある屋敷へ向かうぞ!!」


 それぞれが望むもののため、彼らは新たなる戦場へと足を運ぶのであった。

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