20.一家の主として
岩盤に覆われた魔術雑貨屋を囲むように、借り物の風馬へ騎乗した盗賊の一味は縦横無尽に建物へと攻撃していた。
「隠しているのは分かってんだ、さっさとお宝出しやがれ!!」
「早くしねぇとこの店、どうなっても知らねぇぞ!!」
「だからそんな物、ウチじゃ扱ってないってんだよ!!」
負けじと雑貨屋の店主エランダも岩盤を生み出し、盗賊団の攻撃を凌ぎ続ける。
「アネさんから頼まれてんだ。でっかいエーテルの結晶がこの店にはあるはず。だからそれを奪い取ってこいってな! 風馬二閃、双陣演武ゥ!!」
風馬に乗った盗賊の一人は、両手に槍を持つと風馬の上へ立ちバランスを保つ。そして突進する風馬と共に、その双槍でエランダへと攻撃を仕掛けた。
「蜃気楼の首飾り……! その馬はアンタ達の団長のものだねぇ。だったらこれはどうだい! 岩盤精製:土竜の頭!!」
「あ……ん? 何も来やしねぇじゃねぇか!」
「ハッタリだ、そのまま突っ込め!!」
エランダが術を発動させるも、特にこれといった変化が現れなかった。ハッタリだと決めつけた仲間の言葉に背を押され、槍を持った盗賊は風馬を蹴り突進させようとした。
その時だった。
「ガッ……!?」
両手に槍を構えた盗賊は強い衝撃と共に宙へ突き飛ばされ落馬する。それと同時に、足元を詰まらせた風馬も脚を絡ませながら無へと消え去った。
「お、おいっ!?」
「いっ……てて……。一体何が……?」
両手の槍を離した盗賊は急いで立ち上がろうとした。立ち上がろうとして、目の前の異様な光景に気が付いた。
なんと目前には、板切れほどの小さな岩盤がニョキニョキと無数に生えていたのだ。
「馬に乗ったのは初めてかい? こちとら仕事でずっと昔から荷馬車引いてんだ。奴らが怪我しないように常に注意を払っているアタシが、昨日今日乗馬したばかりのアンタ達なんかに負ける訳にはいかないんだよ!!」
吐き捨てるように言い放った老婆は、次の標的とする盗賊を探していた。目を合わせようとすると盗賊達は、視界から逃げるように建物の周辺を移動する。
「ったく、根性というもんが足りてないねぇ」
全く襲っておきながらと呆れる老婆へ、標的外からの攻撃が放たれた。
「上ばっか見て足元がお留守だぜばあさんよっ!!」
落馬し倒れていた盗賊は槍を一本拾うと、彼女の足元を目掛けて地面を這うようにその槍を投げつけた。
だがそんな事、老婆にとっては大した問題ではなかった。
「アンタに馬鹿にされるほど年老いた覚えはないよ! 岩盤精製:土竜の頭!!」
地面から生えた板切れほどの岩盤は、ピンポイントで空を裂く槍を受け止め静止させる。
「アンタには特別お仕置きが必要なようだねぇ! しっかり反省しな!! |岩盤精製:通行禁止!!」
「ひ、ひぃぃぃ!!」
一定方向からの衝撃に滅法強い岩盤が、生意気な盗賊を囲むように何枚も出現する。盗賊の断末魔も絶え絶えに、岩盤は盗賊の男を捕らえ封じ込めてしまった。
「さぁて、次はアンタだ。逃がしはしないよ!!」
「チッ、何て強ぇバアさんなんだクソッ!! 俺だってアネさんに頼まれてんだ、だから……!! 風馬一閃、疾走迅雷!!」
目の前で仲間が閉じ込められた様子を見て盗賊団は怖気づく。それでも、団長のために、アネッサのためにその敵意を振りまくのであった。
「ただ突っ込むだけが馬の使い方じゃないよ!! 岩盤精製:土竜の頭!!」
地面から小さな岩盤がいくつかニョキりと生えて来る。そしてその岩盤から新たな岩盤がニョキりと生える。さらにその岩盤からも、次の岩盤からも、その次からも。
「な、なんだそりゃあ!?」
盗賊の前には岩盤で出来た空中行きの階段が出来上がっていた。
エランダは小さな岩盤を無数に生み出し、噛み合わせ、そして連ねて風馬の軌道を完全にコントロールしていたのだ。
「これで終いさ。岩盤精製:通行禁止!!」
「う、うわああああああ!?」
天へと昇り詰める風馬はその先にある岩盤で出来た馬のための小屋にピタリと収まる。そして勢いが失ったのがわかるや否や、その四方八方を岩盤で覆いつくした。
「全く、アネッサと言ったか。アンタの盗賊団は教育がなってないねぇ。さて、他の奴らもとっとと捕らえるよ、覚悟しな!!」
岩盤で囲まれた魔術雑貨屋を中心に、大地は蠢く。
エランダの手によってあらゆる場所から岩盤が生まれては消え、襲い掛かって来た盗賊達を蹂躙して行った。




