18.彼らは何を求め駆け抜ける
盗賊団のアジトから命からがら逃げ出したシキとネオンは、とある魔術雑貨屋の前へと現れていた。
「エランダ! エリーゼ! いるか!? 私だ、シキだ! 急いで開けてくれ!!」
アジトのあった崖を下りどちらへ逃げるか悩んだ時、シキの脳裏にはふとアネッサに呼ばれた朝の出来事が浮かんでいた。
「アンタがくれたこの『蜃気楼の首飾り』。大いに役に立った。感謝するぞ」
「なに、礼には及ばないさ。私達を仲間に入れてくれたのだから」
「ああ、ちなみにだがその時アンタが言った事覚えているか?」
「言った事……?」
「この首飾りこそが、アタイらがあの雑貨屋で一番求めているものだったと」
もし仮に、このまま東の関所に向かうとしよう。機能の止まっている関所など、今ならたやすく乗り越える事が出来るはずだ。
だがその後、彼女らは何をするか。
「本当に、お前はこれがアタイらの求めているものだと思ったんだな?」
彼女ら盗賊団の本当の目的は何だったのか。彼女らは、あの魔術雑貨屋から何を頂こうとしていたのか。
アネッサの目的を察したシキは、迷う事無く彼女らが狙う魔術雑貨屋を目指していたのだ。
岩石に覆われた建物をシキは力強く叩く。
その声へ応えるようにして、気だるげな老婆の声が岩石で出来た建物の脇から聞えて来た。
「全く急に迷惑なやつらだねぇ……。今日は休みだって表に書いてあるだろうに」
出てきたのはエランダだ。騒がしい声の主を目にして、改めて声をかけ直して来た。
「ってアンタ、シキじゃないのさ。一体どうしたんだい。次の街へと向かったんじゃなかったのかい?」
世間話のような会話を始めようとするエランダを前に、シキは率直に問題となっている件について問いただした。
「盗賊団が探していたのは、あの首飾りではなかったのか!?」
「なんだいなんだい。もしかして返品かい? ところが残念。奴らがあの首飾りを欲しがっていたのは間違いないだろうさ。商売人としての勘がそう言っているんだから」
「商売人の勘。だぁ!?」
あんぐりと口を開け驚くシキを見て、流石に何かがあったと察したのかエランダはシキへと質問を返した。
「ちょっと待った、返品じゃないなら何だってんだい!? あの首飾りが聞いていたようなものじゃなかったとか、実はとんでもない欠陥を抱えていたりとかしたのかい!?」
「違うエランダ……あの首飾りは素直に素晴らしいものであった」
「じゃ、じゃあ何がいったいどうしたって……」
「見つけたぞ。シキィィィ!!」
大柄な男が一人、盗賊団の名を掲げてシキ達の前へと飛び出して来た。
裏切り者を狙う追跡の手はもう、鼻先のさらに直前まで伸ばされていたのだ。
「ストウム!! チッ、もう追いついたか『ノース・ウィンド』……!!」
「北の盗賊ども!? アンタなんて奴らを引き連れて来てんだい!!」
「私達などついでに過ぎない……! 狙いは別にあるはずだ!!」
「ああそうさシキ。えらく察しが良いじゃねぇか……!? 俺らがアネさんに命じられたのは、お前らの身と」
「この店のお宝ッス!! チャタロー!!虎の威を借りる猫……」
「させません!! 氷結精製:氷柱の監獄ッ!!」
「フンニャ!?」
デブ猫が大きな虎へと姿を変えようとした瞬間、氷の使い手はミルカとチャタローを氷で出来た檻へと閉じ込めた。
「無理やり変身しようとしないでくださいね。一緒に入ったミルカさんが圧死してしまいますので」
「くうぅぅぅ…………! ウチはまた戦えないんスか~!!」
「フンニャー……」
突然のエリーゼの援軍に驚くエランダ。なぜなら、エリーゼは今は店内にはいないはずだあったからだ。
「おやエリーゼ……。アンタまた調べ事をしに出掛けてたんじゃ……」
「雑貨屋を目掛けて走り抜ける一行を見たら引き返しもしますよ、もう。おばあちゃんはお店の防衛を。シキさんとネオンさんは今のところ味方で合っていますね?」
「ああ。詳しい事はこいつらの戦意を喪失させてから聞くとしよう。戦場に味方は四、敵は七と一匹。一部戦えない奴がいるが戦力差など覆して見せるさ。行くぞ、エリーゼ!!」
「当然、負ける気など微塵もありません。行きます。氷結精製:氷柱の槍!!」
向けられた切っ先へ鍔迫り合いを挑むように、氷の使い手による氷柱の槍は、戦場へと精製された。




