13.盗賊団の朝は早い
長い長い宴を終えて翌朝。
「おーい! 聞こえてるッスかー? そろそろ起きるッスよー!!」
朝日も差し込まぬ洞穴、もとい盗賊団のアジトにて。
「うぅ……違う、私は断じて変態などでは……うぅ! ……ぐがぁ~」
「分かったから起きるッスよー!!」
癖っ毛少女ことミルカはぐったりと倒れている男に対し、何度も大声を張り語り掛けていた。
「チャタロー、やるッス」
「フンニャー!」
しびれを切らしたミルカは、そういうと頭の上からデブ猫を下ろし男の顔の前に近づける。そして。
「フニャニャ!!」
「うぐっ!? 違うと言っているではないか……私はただ酒に酔って気持ち悪くなっていただけで、決してそのような事は…………ぐぅ」
顔に爪痕を付けられようが、一向に目覚める様子の無い赤髪の酔い潰れ。とうとう諦めたミルカは、見限るように盗賊団の頭首へと冷静な報告を入れるのであった。
「アネさんダメッス。この男完全に酔いつぶれてるッス」
「……全く。とんだ期待の新人が入ったもんだねぇ」
「酒に弱いとはだらしねぇ野郎だぜ。ったく、ネオンの嬢ちゃんもそう思うよなぁ?」
こくりと、ネオンは酔い潰れた男のそばで小さく頷く。
宴からまだ一夜明けたばかりだというのに、忙しなく準備を進める盗賊団。そんな彼らを前に、ネオンは不思議な様子で伺っていた。
「おやおや、ネオンちゃんは勉強熱心ッスねぇ~。日の光があるうちに準備を進め、太陽と入れ替わるように行動へと移るのがウチら『ノース・ウィンド』のやり方ッス。夕陽を後ろ背に颯爽と現れ闇夜に紛れ込む。カッコいいと思わないッスか!?」
何やら一人熱くなっているミルカをよそに、ネオンは自らの元へ飛び移って来たチャタローとじゃれていた。
「おいおい何を言ってんだミルカ。カッコいいからやるんじゃない、その方が夜の時間を最大限に使えて作戦がやりやすいからそうしているだけさ」
「アネさんそうだったんですかい!?」
大柄で屈強な男ストウムも、刀の手入れの手を止めて大いに驚いていた。
「ストウム……お前までそう思っていたのか。言っただろう。アタイらが盗みを働くのはくだらない戦争で困っている奴らを助けるためだ。カッコいいからとか面白いからだとか、そういう下らない理由でウチに所属している奴がいるなら、ここで今すぐ脱退してもらうぞ。いいな!!」
へい!!
盗賊団の掛け声がアジトへと響き渡る。
それでも起き上がらないシキを見て、アネッサは一つ作戦へ変更を付け足した。
「それに……ミルカ、アンタは今日留守番だ」
「ええーっ!? ウチの出番は無いんスか!?」
意気揚々と準備を進めていた盗賊団の少女に対し、リーダーの女性は目の前に転がっている酔っ払いを気にしながら、新たな作戦の内容を伝えた。
「今日アンタにはシキの様子を見ていてもらう。ついでにネオン、お前もだ」
「…………」
「でもそれじゃあ、いつものようにチャタローで大胆突入が出来ないッスよー!?」
「そいつは心配ないさ。なんたってシキが良い物を持って来てくれただろう? コイツがあればアタイら全員で突入出来る。いつものチャタロー頼りな作戦じゃなくても良いって訳なのさ」
「そんなぁ……。ウチらはもうお払い箱って事ッスか……。ウチらも戦いたいッスよねぇ? ねぇチャタロー?」
「フンニャ~?」
ネオンにその大きな腹を見せたチャタローは、完全にリラックスモードでくつろいでいた。
ミルカの熱意など気にもせず、ネオンの優しく撫でる指先を堪能していたのだ。相棒だと思っていた眠れる獅子は、今はもうただのデブ猫であったのだ……。
「…………この、裏切り者。裏切り者ぉ!!」
悲しさのあまり、ミルカは勢いで目の前に怒りをぶつける。
「うぐぅ!? …………やめてくれ……変態じゃないんだ……裏切り者でもないんだ……本当なんだ……ぐぅ」
たまたま横たわっていた酔いどれ男にクリーンヒットしあわあわと慌てるミルカ。それでも起きないシキに、盗賊団の一味は呆れ返っていた。
「…………」
「フンニャ~」
……じゃれつく一人と一匹を除いては。




