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08.忘却の彼方

 溢れ出す記憶の中に、この森の出来事において不可解なものが混ざっていた。

 破裂音が聞こえた瞬間、爆発に驚き身を倒していた自身の姿が見えたのだ。


「見えた、だけではない。あれは……記憶そのものだ」


 伝わったのは姿だけではない。音や光に驚いた恐怖心。花弁や甘い臭いに困惑した不信感。

 化け物が駆けつけるまでに起きていた一帯の情報を、小型の獣は記憶に刻み続けていたのだ。


 無論、姿形は花弁へと変化していた。つまり少女に渡された未知の結晶のように、記憶は目に見えぬ何かとしてその場へ残されていた事となる。


「なるほど、だから大樹に登った私の存在にも気づいていたのか。全く、厄介な相手だな」


 だが、とシキは気づく。化け物の扱う記憶を蓄積する能力は、今自身にも宿った未知の力と同じであると。つまり自分も同じく、化け物のように人智を超えた力を扱えるのではないかと。


 直前の記憶が、疑惑を確信に変える。

 のしかかっていた大樹を払い除け、シキはその身一つで立ち上がったのだ。


 この力があれば、今度こそ。シキは拳を強く握り、溢れ出る力を確かめる。

 すると不意に、側にいた少女が片腕を上げ、前方を指差した。


「…………」


 まるで目覚めたシキを試すように、化け物は再び姿を現す。



 ────────────────────



 一触即発の空気の中、先に動き出したのは化け物であった。

 真っ直ぐと突っ込む敵を前にして、シキはネオンを抱え倒れた大樹の裏へと飛び移る。


 溢れ出る力は、軽い蹴りだけで身長以上の跳躍力を発揮する。

 ネオンを木陰へ避難させた後、シキは回り込んで来た化け物の不意を突く。


「お返しだッ!!」


 迂回して勢いを失った化け物へ、シキは弓矢のように鋭い拳をお見舞いする。

 強靭な筋肉の鎧を以てしても、化け物が仰け反ったのが目に入る。


 攻撃は通っている。不意を突いても歯が立たなかった相手に、互角の力で立ち向かえている。化け物が体勢を整える前に、二撃、三撃を。間髪入れずに襲い掛かるシキであったが、化け物も怯まない。


 身体の左右から十数匹の小型を生み出し、片側を体勢の補助に、そしてもう片側をシキへのけん制に利用する。大量の花弁と共に化け物はシキの視界から消え去った。


「どこに消えた……?」


 花弁は消えるが姿がない。右に左にと警戒するシキに対し、化け物は意表を突いていた。


「上空だと……!!」


 シキの仕掛けた作戦を真似るかのように姿を消し、真上から襲い掛かる。

 そして逃げ場を塞ぐように小型の獣を乱雑に生成。一面が影に覆われた。


 だがシキも負ける訳にはいかない。

 シキは咄嗟に倒れた大樹の下に滑り込み、化け物の爆撃を凌ぎ切る。


 花弁と土煙に森の中が染まり上がる。身長の倍はある化け物は、知能と未知を使いこなし臨機応変にシキの攻撃をいなしてしまう。単体では互角の相手でも、数と力量で劣る相手にどう挑めば良いのか。


 シキの出した答えは明瞭かつ豪快であった。


「これなら、どうだぁ!!」


 倒れていた大樹に、これでもかと目一杯の蹴りを加える。

 花弁と砂煙を蹴散らしながら、中に潜む化け物へ大樹の一振りを叩き込む。


 蹴った拍子に足へ激痛が流れる。身体能力が上がっているとは言えど、流石に森の目印となるような大樹を一蹴りで吹き飛ばすのは常人の成せる業ではない。だがシキは躊躇わない。今度こそ二人、生き延びると決めたのだ。


 そんな彼の覚悟へ呼応するように、胸の奥から溢れる力は出力を増幅させる。


 記憶を凝縮した無色透明の力は全身へと伝わり、シキの活力に還元される。

 激痛はすぐに収まり、身体は一瞬にして全快の状態を思い出した。


 すぐさま意識を戦場へ戻すと、地面を転がる大樹がピタリと止まったのが目に入った。

 化け物が小型を生み出し、多量の花弁と共に勢いを殺していたのだ。


 しかしそんなものは織り込み済み。いや、それこそがシキの狙いであった。



「これで、終わりだあああああ!!」



 化け物の動きは大樹で止めている。そして砂煙で隠れた位置は、相手の花弁で推測出来る。

 地面を抉るほどの蹴りで飛び上がったシキは、黄色い花弁のド真ん中へ拳を振り下ろす。

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