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04.忘れたくない忘れ物

 化け物を倒す。そのために、今ある情報を捻り出す。


「化け物本体は脅威だが、厄介さで言えば小型だ。逃げようが飛ばそうが奴らは居場所を正確に伝える。見つからないようにするのが賢明だ。しかし……」


 少女の力を借りれば、小型に見つからず本体まで辿り着く事が出来るだろう。しかし直接対面したところで到底敵う相手では無いのは、火を見るよりも明らかであった。


 だがそんな化け物でも、何とか逃げ延びる事は出来た。

 そのきっかけとなった出来事を、シキは今一度思い出す。


「ケープを顔へ投げつけた時、奴は私達を見失っていた。目隠し、視界か。だとすれば小型も同じ可能性がある。そうであれば、辻妻が合う……!」


 投げようが逃げようが関係ない。その姿を見られていたならば全ての情報は筒抜けだ。自爆時に起きる音も臭いも舞い散る花弁も、全ては注目を集めるためのフェイク、または補助効果に過ぎない。


 猪の化け物を欺くには、小型の獣の視界を奪う必要がある。

 小型を騙し、偽りの情報に釣られた化け物なら、あるいは。


 しかしながら肝心の視界を奪う道具が無い。手ごろな物はシキもネオンも持っていない。

 森の中には様々な自然物や植物が自生するも、ケープのように扱いやすいものなど見当たらなかった。


「かくなる上は……」


 シキは自らの衣服へ手を掛ける。

 扱える物はもう、自身の衣類ぐらいしか思いつかなかった。


 だが、剥ぎ取ろうとするシキの手が震える。服の構造が分からない訳でも、人前や森の中で脱ぐ事に抵抗がある訳でもない。シキは数少ない過去に繋がる手がかりを失う可能性に、恐怖していた。


「……今最も大事なのは、過去より命ではないのか!?」


 日和る自身に嫌気が差す。


 ケープを投げ捨てた際は必死だった。それに少女を助けるという目的もあった。だから咄嗟に事へ移れた。

 それは今も変わりないはずだ。自身が動かなければ、今隣に立つ少女をまた危険に晒す事となる。


 そうだ。怯えている場合では無いのだ。シキは一度離した手でもう一度服を掴み、躊躇いを捨て去ろうとした。そんな彼の手を止めたのは、他でもない側に立つ少女であった。


「…………」


 男の震える手にそっと片手を添え、空いた片手で森の奥を指差す。少女が指差すものは小型の獣でも化け物でもない。もっともっと森の奥、さらに木々の隙間から見える、灰色の葉を付けた大樹であった。


「あれは、私の眠っていた……」


 どうして大樹を少女が知っているのかは分からない。だがそこから少し進んだ先で化け物に遭遇し、ケープを投げ捨てたのをシキは思い出す。そして直後、再び遭遇した化け物はケープを被っていなかったと振り返る。


「獣を避け、大樹の場所まで進めるか?」


 少女は、敵の居場所を察知出来る。男は、ケープの用途を見出している。

 二人は、この森を巣食う化け物を倒そうとしている。


 少女が小さく頷くと、男は彼女の示す道を突き進むのであった。

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