15.分断
時は戻ってシキ達。拘束されていたヴァーミリオンの手下スワンプを助けようと、ネオンはその手で触れようとした。しかし、寸前のところで獣のような大型の魔物が突如出現し、シキ達へと襲い掛かかった。
「なんだこいつは……ッ!!」
「この姿は……スワンプの魔術、なのか!?」
襲い掛かってきた魔物は、両の腕が異様に発達した獣のようであった。しかしその姿には、どこか面影があった。今助けようとした、スワンプの面影が。
「砂漠の地下で戦った時は泥で出来た分身体だった。だったら何? この魔物も、分身体って訳?」
「……んふっ、ただの分身じゃないみたい。魔物になる魔術って、入口で戦った職員達の事思い出さない?」
「それだけではありません! 皆さん構えて……ッ、氷結精製:氷河の盾ッ!!」
不気味な違和感を覚えたエリーゼは、慌てて氷の壁を作り出す。複数生み出された氷の壁は同時に砕かれ、違和感の正体が姿を現す。
「スワンプが……いや、魔物がさらに居るぞ!!」
「まさかこいつ、魔物の分身体を何体も作り出せるとでも言うのか!?」
「…………!!」
腕の発達した魔物の他に、屈強な胴体を持つ個体と、四足で佇む爪と歯が鋭利に尖った個体の二体。スワンプの面影を持つ魔物が、合計三体立ちはだかった。だけではない。
一体、また一体と、泥で出来た魔物は増え続けていた。
「あの拘束! この設備!! ヴァーミリオンめ、スワンプを利用して魔物を生み出していたのか!!」
「分身体だからエーテルさえあれば、いくらでも試せて使い捨てられるって訳ね。こんな研究法、よく思いつくわ」
「んふふっ。……ほんとに、最低だね」
最初に現れた三体の大型の魔物を筆頭に、研究室内は魔物で溢れシキ達はじりじりと後退を迫られる。
そして大量の魔物はギロリと睨みつけ、シキ達へと止まらない暴力を振るう。
「クソッ!! スワンプ本体から離されるぞ!! このままでは魔物が溢れ続ける!!」
「私達の後方には、解放してきた研究員達の研究室があります!!」
「か、彼らはほとんど戦う術を持っていません! そちらへ近づけさせる訳には……!!」
スワンプの居た部屋から追い出されたシキ達は、次第に通ってきた通路の分かれ道まで戻されていた。分かれ道の一つ、細い通路の先にはエリーゼの懸念した、非戦闘員の多い研究室が連なっている。そんな場所へ管理の効かない魔物を近づけてはならないと、エリーゼとウィスタリアは防ごうとする。だが二人だけでは、当然無数の魔物を相手取るには分が悪い。
「エリーゼ!! ウィスタリア!!」
「シキさんこちらへは私が防ぎます! だから……!! 氷結精製:氷柱の監獄ッッッ!!」
「わ、私も戦えないけど、足止めをするだけなら……! 星々を導く暗闇よ、星成る夜っっっ!!」
エリーゼの魔術によって強固な氷の檻が何重にも作られ、魔物の侵入を妨害する。
そしてウィスタリアの初めて見せた魔術、星の魔術によって通路は夜中のように暗い霧で覆われ、細い通路ごとエリーゼとウィスタリアの姿を消し去った。
残されたシキ達は、増え続ける魔物を減らしながらも依然として後退を強いられる。
細い通路側こそ塞がれたが、後退している先は動物や魔物を扱った実験場へと続く広い通路だ。
ヴァーミリオンの支配下にあった職員達こそ解放したものの、職員達に管理されていた動物や魔物は、管理者を失ったまま放置されている。
「クソ……!! だからと言って、助けたいのはこっちも同じなんだよ!! 砂乱の翼ッッッ!!」
「レンリ貴方だけじゃ無理に決まってるじゃない! 数を相手取るなら……集団狩りーーーッ!!」
広い通路に押し込まれ下がっていった先にあったのは、またしても分かれ道だった。レンリは研究所内の構造と入ってきた場所を考え、片方の道が自分の向かおうとしていた実験室に続いていると感づく。
エリーゼ達がそうしたようにレンリもまた、守りたいものを守るために広い通路を塞き止めた。そしてレンリの考えを知り、今の戦況とそれぞれが扱える魔術を考慮したオームギは、このままではレンリが危険と判断し、彼の加勢に入る。
「レンリ!! オームギ!! 私達も今すぐ向かうぞ!!」
「シキ!! 俺達はいい、ネオンを連れてスワンプのやつに触れさせろ!!」
「アイヴィも、その短剣の事一番知ってるんでしょ!? だったらその力で切り開いて!!」
応戦するだけでは終わらない。だから二人は、希望を託す。
「う、うんっ、分かってる! シキくん、この魔物達を止めるには、やっぱり本体に触れて洗脳から解放しなきゃ!」
「ああ!! だが、最初の三体がこちらへ来るぞ……っ!!」
レンリとオームギは増え続ける魔物を駆逐し通路を防衛する。一方で最初に生まれた特徴的な三体の個体はシキ達を追いかけ、別方向に繋がる通路へと進む。
分散した敵と応戦しながら後退するシキ、ネオン、そしてアイヴィ。三人は猛攻を凌ぎながら、まるで巨大な何かが暴れたような、荒らされた痕跡の残る広大な通路に辿り着く。
「なんだ……ここは?」
「んふふっ、気を付けた方がいいよシキくん。ここよりさらに後ろは、研究所で一番大きな実験場があるの。さっきも警報が鳴ってたくらいだし、これ以上下がるとさらに厄介な敵が待ってるかも」
これ以降の退路は無い。そして、耐え凌いだ先にも果てが無い。ならば。
「であれば、ここで反撃するしかないな! ネオン、アイヴィ、奴らを倒してスワンプを止めるぞ!!」
「んふっ、もちろん☆」
「…………!!」
あの日。ネオンによってシキが目覚め、そしてアイヴィと出会ったことにより、記憶を取り戻す旅は始まった。対立、離反、そして逃避行を経て、今一度アイヴィはシキとネオンに肩を並べ、共通する敵を倒すために協力している。
あの日々のように再び集まった三人は、今度こそ真に信頼し、互いの背中を預ける。覚悟を決めた三人は、相対する敵を睨みつけるのであった。




