13.一撃必殺
シキ達がヴァーミリオンの部屋に立ち入る、少し前の事。
見知らぬ研究所へと迷い込んだアルパイン達は出口を探していた。エーテルコアを追い立ち入った先に待ち受けていたのは、研究所の主である長毛の猫ヴァーミリオンと赤い給仕服の女ミネルバ。そして十数を超える大型の魔物であった。
前方には魔物達が広い通路を塞ぐように立ちはだかるが、後ろへ戻ったとしても出口はない。
そして人一倍エーテル感知に優れる仲間ヅッチは、外部と繋がったエーテルの痕跡が見えると言った。
ヅッチの言葉を信じるアルパイン達は、迷いなく目の前の魔物達へと襲い掛かる。
「ガン首揃えてゾロゾロとォ! 全員まとめて喰らいやがれ! 必殺、不揃い巨人の右ストレート ォォォ!!」
「おやおや困りますねぇ。魔動体などとうの昔に研究済み、そして私はこう結論付けました。我が研究の劣化に過ぎないと。取り押さえなさい、ルミナスケイル達よ!!」
ルミナスケイルと呼ばれた魔物達は、一斉にアルパイン達へと襲い掛かる。
初めの数体がアルパインの攻撃を防ぐと、攻撃後の隙をついて他の個体がその腕を掴む。
エーテルコアによって強化された巨大な岩石の拳でさえ防ぎ、あろうことか取り押さえようとする魔物達を前に、アルパインはいら立ちを隠せない。
「クソォ、かってぇなオイ! ヅッチ、こいつら何なんだよォ!?」
「ルミナスケイルといえば、黄の国のナルギット領の鉱山に住む魔物です! 鉱山のエーテル結晶を食べて強固な鱗を作るトカゲのような魔物ですが……そんな魔物がどうしてここに!?」
「そうじゃねェ!! こいつら普通こんなに硬くねぇだろォ!? それに動きだって……触んじゃねぇよォ!!」
「やらせないヨ! ガブッ×3!!」
隙の出来たアルパインへと掴み掛かるトカゲ型の魔物ルミナスケイルを、スリービーは後方から竜巻の魔術を放ち吹き飛ばす。吹き飛ばされた個体もアルパインに殴られた個体でさえも、決め手となり得る傷を負っていないようだった。
押しているはずなのに手ごたえのない状況へ、歯痒さを覚えるアルパイン達。どうすれば攻略出来るか考えようとすると、ふと意識の外れた瞬間を狙ったかのように、赤い給仕服の女ミネルバが現れ斧槍の斧を振るい槍を刺す。
「まず一人♪ 欲深き双武器ッ!!」
「スリービー避けろォ!!」
「ビュン×3ッ!! って、ナ……!?」
スリービーは竜巻の魔術を使い、斧槍の振るいから逃げ延びる。しかし後方へ避けたスリービーを、斬撃の一部が真っ直ぐに伸び刺突のように貫いた。
刺突を受けて宙を舞うスリービーを、ミネルバは執拗に狙い続ける。振るった斧槍の反動をそのまま追撃に加え、新たな一振りが斬撃となり放たれた。受け身すら難しいスリービーの危険を察知して、ヅッチはすぐさま防御魔術を発動する。
「させないです! 魔術規律:ドババガバザバ!!」
「あら残念♪ だからって、止まれないから欲深いんですの。欲深き双武器ッッッ!!」
「ボク達の方に!? カンパネラさん伏せて!!」
「ほえ?」
ミネルバはさらなる追撃のために振り上げていた斧槍を、空で回転させそのまま地面へと叩きつける。そして深く抉れた地面からは斬撃が発生し、アルパインやスリービーよりもさらに後方で支援をしていたヅッチとカンパネラへ襲い掛かった。
吹き飛ばされたヅッチ達を見てミネルバはニヤリと笑みを作る。そのまま振り返り、最後に一人立つアルパインへ、その笑顔を見せつけるのであった。嫌味ったらしい表情を向けられたアルパインはミネルバを睨み返し、眼帯をした片目の奥から緑のエーテルを増幅させる。
「これで三人♪ さぁて、残るは一人。コア一つ♪」
「こんの長物女が……ぶっ潰してやんよォ!!」
「おやおや、この子達が健在なのをお忘れですか? 殲滅なさい、ルミナスケイル……!」
巨大な岩の右腕をミネルバへと振り被るアルパイン。しかしトカゲ型の魔物ルミナスケイル達が岩の腕へと群がり、片腕ごとアルパインの封じ込める。勝機を見つけるや否や、ミネルバは身動きの取れないアルパインへと斧槍を振り回し刺突を放つ。
だがアルパインは動じない。腕を掴まれようが封じられようが、殺意の籠った刃物と視線を向けられようが、その隻眼の瞳は鋭く、ただ襲い掛かるミネルバの顔を睨み続ける。
今度は、アルパインがニヤリと笑う。
アルパインは群がり掴まれた岩の右腕を軸とし、右足で地面を蹴って下半身を空へと浮かした。
そして布地が少なく大胆に露出した左脚を軽く引き、左脚へと緑のエーテルを注力させる。
「ぶっ潰れろォ。必殺、不揃い巨人の左キックッッッ!!」
左脚は強固な岩へと姿を変える。だけではない。
巨大な岩の右腕のさらに倍ほどの大きさまで肥大化し、急速に接近するミネルバを蹴り飛ばしたのだ。
倒れているスリービーの、ヅッチのカンパネラの頭上を通り抜け、音が追いつかないほどの速さでミネルバは通路の奥へと消えていく。ゴッ、と鈍い音が通路へと響き渡り、それでやっと一同はミネルバの戦線離脱を理解するのであった。
だが、それだけでは終わらない。
蹴り上げられた脚ごと下半身は浮き上がり、掴まれた腕との間で関節は今にも捻じれようとしていた。
だから、それだけでは終わりではない。
浮いた下半身との天地が入れ替わる瞬間に、アルパインは首を真上へ振り上げ、視界を逆さにしながらも目の前の魔物共を睨みつける。
右腕の魔術を解き、微動だにしないトカゲ型の魔物から腕を引き抜く。
同時に身を捩り、岩化していない右脚を伸ばす。そして────。
「消え失せやがれェ! 不揃い巨人の右ステップゥゥゥ!!」
突如として、巨大な岩の柱が現れる。
アルパインの右脚は肥大化した岩の左脚の、さらに倍ほどの大きさまで巨大化を続ける。
柱のような岩の右脚は天井を擦り、それでも延長を続け目前の敵へと降り掛かる。
アルパインの腕を掴んでいた個体をはじめ、強固な鱗を持つルミナスケイル達のほとんどはアルパインの一撃で潰され消滅していた。
地鳴りのような振動に包まれながらも、アルパインは高らかに笑い声を上げる。
「はっはっは、後はてめぇだけだな毛玉野郎。コアを置いて消えるってんなら見逃してもいいぜェ?」
「全く、ルミナスケイルの中でも上質な個体を用意させたというのに……。だが今の魔術は興味深い!! 身体を複数の魔動体として別々に操っていた……? いや違いますね。コアの魔力を考慮しても性能が魔動体のソレとは比べ物にならない! であれば今のは魔物そのものだとでも……? なるほど。スフェーンの連中め、魔動体に固執していたのはそれが理由ですか……!!」
特大の岩の魔術を発動したアルパインは、攻撃が直撃した直後に両脚の魔術を解き、背中から地面に倒れこんでいた。ひっくり返って無防備な状態でもヴァーミリオンを挑発したのは、今の攻撃の衝撃で仲間達が意識を取り戻したと気づいていたからだ。
思惑通り仲間の三人がアルパインへと寄り添うが、彼女の思惑に反していたのはヴァーミリオンであった。アルパインの挑発などに耳も貸さず、ぶつぶつと何かを呟きながら生き延びたルミナスケイルを近くへと集める。そしてちらりとアルパインを見ると、ひょいとルミナスケイルの肩に乗り、広い通路の奥へと逃げ出したのだ。
「おいおい逃げるのかよォ! コアを渡せつってんのが分からねぇのか!?」
「アルパインさん、逃げ先は外部と接触のあった場所のはずです! 今すぐ追いかければもしかしたら……!」
「やっとここから出られるヨ!」
「コアも一緒に来てくれるなんて親切ねぇ。あぁ、なんて嬉しいのかしら。こんなに嬉しい時は~~~喜びの~~~カンパネラ~~~!!」
「今だけはどんどん使っちゃってください! 皆さん急ぎましょう!!」
喜びの舞を踊るカンパネラによって、一行はみるみるうちに元気を取り戻す。
アルパインはすぐさま立ち上がると、ヴァーミリオンを追って研究所のさらに奥深くへと進むのであった。




