08.木枯らし
そびえ立つ巨大な扉を無理やり突破し、ヴァーミリオンの研究所へと潜入したアルパイン達。
エーテルコアを手に入れるため屋内に溢れるエーテルの反応を確かめながら、一同は真っ直ぐに最奥を目指し突き進んでいく。
「あぁ、向こうからコアが呼んでいる気がしますわ~~~!」
「カンパネラさんストーップ!! その先は危険ですから下がってください!」
動きにくそうな豪奢なドレスを振り回し、カンパネラは整備された通路へ踵を鳴らす。
不思議な事にカンパネラの感はよく当たる。仲間達も詳しくは把握出来ていないが、どうやら本人も無自覚で使っている空間魔術が関係しているらしい。
故に仲間達も彼女の感は頼りにしている。しかし衝動的に行動してしまう癖は別である。そのため普段は一際エーテル感知に優れた目を持つヅッチが、安全な道筋を判断して皆を案内していた。
ヅッチの注意を聞かずにひた走るカンパネラの前に、数人の影が落ちる。
「止まりなさいッ! 爆葉……ッ!」
「っ、カンパネラさん危ない! 魔術調律:ザババガバドバ!!」
現れた職員は躊躇いなく魔術を発動させ、宙へと大量の枯れ葉が舞い上がった。
ヅッチは合わてて杖を引き抜き、短い杖の先をカンパネラへと向ける。すると彼女の白髪の上で輝く十数のヘアピンは輝き出し、魔道具としての本来の役割を果たす。
「はぅ!?」
風をまとったヅッチが目にも止まらぬ速さで飛び込み、カンパネラを掴んで引き上げる。
だが直後、カンパネラの目の前で枯れ葉が連鎖的に爆発していく。
相手の職員達はこのまま勢いで爆発する枯れ葉を回避するのだと推察し、次の魔術を構える。複数の職員は爆発の中を潜り抜けて来た時のために近距離魔術を、そして先頭で指示するハキハキとした口調の女職員は、転回した時のために追撃用の中距離魔術を。
しかしカンパネラを掴んだヅッチの動きが変わる。急停止をするのでもなく、勢いのままな直進や転回をするのでもない。まるで別の魔術が介入したように、一連の動きとしてそのまま元に立っていた場所へと戻って行ったのだ。
転回時の溜めや振り回しの無い奇妙な動きに、先頭の職員も驚きを隠せない。
「かわされた……ッ!?」
「どこ見てんだよォ!!」
「いきなり攻撃なんて、危ないよネ……ッ!!」
一面を埋め尽くす爆発が、巨大な岩石の拳によって蹴散らされる。
息を呑む間もなく、竜巻で出来た複数の牙が現れ職員達へと噛みつく。
「魔動体を使った魔術……ッ、緑の国スフェーンの者達が何故グラナートの施設に!?」
「やべ、バレちまった」
相手の職員が、アルパイン達の魔術を見て気づく。
彼女らが扱うのは、エーテルから生成された『魔動体』と呼ばれる生き物を動かす魔術であった。
魔動体研究に盛んな国として有名なのが緑の国スフェーンであり、アルパイン達の持つエーテルが全て緑なのも含めて、彼女らがどこの所属であるのかは一目瞭然だ。
他国の者が侵入していると見るや否や、職員達の顔色がさらに険しくなる。
職員達に先頭の女職員が何か告げると、職員達は彼女一人を残して奥の方へと消えていった。
「おいおい良いのか? どう見ても劣勢だろ」
「だから……、ですよ」
「んあ?」
侵入者四人を前にして、一切の物怖じをしない。
醸し出す風貌も立ち振る舞いも一端の職員ではないと、アルパイン達は肌で感じ取っていた。
構え直すアルパインとスリービーの後ろで、ヅッチに捕まれたカンパネラが声を上げる。
「あ、ヅッちゃんヅッちゃん」
「はい?」
「コア、見つけたわっ♪」
喜びの声が指し示す先にあるのは、味気ない通路にポツンと佇む女職員がただ一人。
やたらと広い空間にカンパネラの声が響くと、かき消すように一歩、女職員は前に足を出す。
「グラナート軍団長補佐、ミクロフィラ。行きますよ……ッ!!」
瞬間アルパイン達と相手の間へ、空間を埋め尽くすほどの枯れ葉が吹き乱れる。
だが枯れ葉を使った攻撃は既に見ている。爆風を浴びるよりも先に、アルパインは巨大な岩石の拳を喰らわせようとした。しかし。
「甘い、ですよッ!!」
「なにぃ……!?」
枯れ葉の中を突き破るように、ミクロフィラと名乗った女職員が姿を現す。
そして驚くよりも先に、ミクロフィラの拳がアルパインの腹へと放たれ、宙を舞う。
強固なアルパインを吹き飛ばすほどの力と言えば、ただ一つ。
ミクロフィラの腕にある装飾が、眩い光を放ち侵入者達を圧倒させる。




