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04.岐路

 魔物へと変わった研究所の職員達を、元の姿に戻したシキ達。

 彼らが目覚めたらまた戦いになってしまうと、一同は足早に研究所の中へと潜入した。


 怪しく光る赤いエーテルに包まれながら、より深くへ繋がる通路を進んで行く。入ったばかりはまだ岩肌も多く洞窟の一部といった様子であったが、足場が舗装されるにつれ足音の反響もはっきりと耳に入って来る。


 不気味な緊張感に襲われながらも一歩ずつ、確実に目標へと近づくシキ達。気配を隠しながら歩みを進めた先に待っていたのは。


「二手に……分かれているな」


 巨大な扉の奥に現れたのは、大小の分かれ道。

 捕えた搬入物の送られる先は、どちらを選んでも救いがない。


 奈落の底から這いあがって来た者達が、先に続く暗闇に記憶という光を灯す。

 まず話し始めたのは、生き物の声が分かるレンリであった。


「大口の先は、主に魔物や動物が運ばれる実験場だ。人以外のエーテルに着目したヴァーミリオンが、次の身体となる器を作るための場所。……要するに、俺が助けたい者達が待っている」


 レンリがシキ達と行動を共にした理由。それはヴァーミリオンの研究所で聞いた、助けを呼ぶ動物達の声に応えるためであった。

 彼の目的を果たすためなら、当然大口の通路へと進むべきである。だがこの研究所を知るもう一人は別の通路を勧める。


「悪いんだけどさ、進むなら小さい方が良いよ」


「なんだと? 他の命などどうでも良いって言うのか……!?」


「待てレンリ!」


 掴み掛ろうとするレンリの前に腕を伸ばし静止するシキ。レンリは咄嗟にシキを睨んだが、彼と目が合うと視線をそのままアイヴィへと向け、彼女に注目するように誘導する。


「理由があるのだろう? 話してくれ」


「うん。ちょっとだけ長くなるけど、聞いて」


「クソッ、内容によっては俺達だけでも勝手に行くぞ」


 乗り出そうとしていた身体を一歩下げ、レンリは片手を上げて合図を出す。

 近くを飛んでいた二羽の相棒達がレンリの両肩に乗ると、彼と共に聞き耳を立てた。


「わたしだってみんな助け出したいよ。でもだからこそ、進むなら小さな通路の方が良い。だってこの施設にいる生き物は、全てヴァーミリオンとその手下の管理下にあるの。連れ出そうとしても途中で操られたら戦わなきゃいけない。だから行くべきなのは、研究所側だよ」


「管理者達を制圧する。という事でしょうか?」


「うんっ。でもちょっと違うかな?」


「どう違うって訳?」


「わたし達が今からやるのは……、解放だよっ☆」


 にこりと笑みを作り、アイヴィは手に持った魔道具『大食らいの少身物(グラットン・ダガー)』を片手で遊びながら説明を続ける。


「ここの職員ってさ、純粋なヴァーミリオンの部下は一部だけで、実は集められた研究者やエーテル使いが多いの。特に研究員はね」


 突然の暴露に驚く一同。真実であれば無視出来ない事象であるが、軽率に信じてしまえば足元をすくわれるかもしれない。だが彼女が何者であったか思い出し、その情報に真実味を持たせていた。


 共通の敵を前に協力関係にはあるものの、彼女も本来グラナート側の人間だ。

 意見の対立するアイヴィを相手に、レンリはどこまで信じて良いのか未だ疑いの目を向け続ける。


「おい、その話本当に裏は取れているのか? まさか全員お前がさらったとか言わないだろうな?」


「流石に全員は無いよっ!? こう見えてわたし、入って数年の新入りなんだから。でもずっと探りは入れてたし、何より理由だってあるんだもん」


「理由だと?」


「『さらった人員』と『出れない研究所』、さいっこうに相性良いでしょ?」


「なっ……」


「国だって当然大っぴらに出来ないから、表立った場所には極力真っ当な人員を配置させて、見えない裏は余所者だらけなんだよ。本当に、最高で最低の考えだよねぇ」


 赤の国グラナート。大陸最大の国家にして、この世界の先導者も担っている。その歴史は古く、始まりの魔術師クリプトが現れるよりも前に存在し、世界を先導していたと言われている。

 クリプトが世界中にエーテルや魔術の存在を言い伝えてなお、先導者として世界を引っ張っていたのは、この国のたゆまぬ努力の結果だとも言えるだろう。


 グラナートという国を示し、グラナートという国へ住ませ、グラナートという国を信仰させる。そうして拡大を続けた最大国家は、衰えを知らぬままあらゆる分野で先頭に立ち続けた。だが、国を形成する中で生まれた焦りが、歪な成長を見せるのであった。


「アイヴィ。お前が通り魔などやっていたのも、秘密裏に全て事を済ませるためか」


 シキ達は知っている。この国が他の村や町を侵害し、民や物を奪い去っていた事を。

 連れ去られた者を脅して、より非道な悪事に手を染めさせていた事を。


「……わたしが頑張らないと、家族や友達を守れなかったんだもん」


 シキ達は知っている。抗って侵略された民の怒りが、新たな戦争を始めようとしていた事を。


「あの時ダーダネラの方々が怒りに震えていたのも、グラナートとの戦いがあったからなのでしょうか」


 シキ達は知っている。そして一つの国が、グラナートによって滅ぼされていた事を。


「それで、邪魔者になった相手は消し去るって訳ね」


 これまで戦ってきた記憶が、グラナートという国の裏の顔を認識させる。

 止めなければならない。だが、止めるだけでは終わらない。ならば。


「わたし達には助け出す力がある。でもそれだけじゃみんなは救えない。だから開放するんだよ。この空間を支配する、ヴァーミリオンから」


 この施設に囚われた生き物や人々を解放し、ヴァーミリオンの、そして赤の国グラナートの悪行を断罪する。そのためには、まず彼の手駒にされている職員を減らし、管理下にある魔物や動物の使用を未然に防ぐ。


 この場に居る全員の目的を果たすために、一行は研究所を目指すのであった。

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