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27.降り注ぐ光

 ヴァーミリオンへと繋がる扉を開くため、レンリとオームギはある人物を追っていた。


 赤の国グナラートのために優秀な人材へ近づいては、記憶を消しその身ごとさらうかつて忘却の通り魔と呼ばれた存在。オームギの預かる大罪武具が内の一つ『大食らいの少身物(グラットン・ダガー)』の持ち主であった少女が、ついに目の前へと現れたのだ。


 少女は全身から植物のツルを生み出し、建物を荒々しく叩きつけながら宙を舞い、目的地へと一直線に突き進む。敵が向かう先は一つ。レンリ達も怪しいと睨んでいた路地裏であった。


「向かわせるものかッ! 砂乱の翼(サンドストーム)ッッッ!!」


 相手へ気づかれるよりも先に、レンリは吹き荒れる風の魔術を放つ。砂煙の乱れる嵐は敵へと直撃し、空を舞っていた少女を撃ち落とした。


 レンリとオームギは急いで少女の落ちた建物の間へと駆け寄るも、そこに少女の姿は無い。

 どこへ隠れたのかと辺りを見渡していると、何かを見つけたオームギが建物の影を指差した。


「レンリ、アレってどういう訳!?」


「攻撃か!? いや、違う!!」


 レンリは風を足元へと放ち、最短距離を取りながら影の先へと突き進む。そこには植物のツルが巨大な塊となり、魔物のように建物間をうねっていた。うねりの塊はレンリ達へ見向きもせず、扉のある路地裏を目指し縦横無尽に突き進む。


 四方八方を足場と捉え空間を駆ける敵を追いかけ、レンリは再び狙いを定めて風の魔術を放つ。細かな砂を巻き込んだ嵐は、無数の小さな切り傷と共に相手の自由を奪っていく。しかし直撃したはずの砂嵐からは、またしても少女の影が見えない。


 レンリは魔術を止め、消え去った少女の影を追う。魔術を放った場所から隠れられそうな空間を探し、右へ左へと視線を揺らす。すると、突然レンリに対しオームギが叫んだ。


「そっちじゃない、上!!」


 何もいない視界のさらに外。渦巻く砂嵐の勢いを利用して上空へと飛んだ少女は、咄嗟にツルを編んで帆を作り、滑空しながら風のような速度で襲い掛かった。


 鳥のツメやクチバシのように振り被られた短剣が、帆の影から芽のように刃を見せる。

 レンリは寸前のところで風を発生させ、迫り来る少女の軌道を逸らした。だが少女はレンリの魔術すら踏み台にして、自身の身体をぐるりと捻らせる。レンリの真下に滑り込んだ少女は彼の足を掴み、そのまま無数のツルを発生させレンリの全身を拘束してしまった。


 身動きの取れないまま地面を転がるレンリは、無理やりにでも魔術を放ち抗おうとする。


「う……っ、さ、さんろ……!」


「んふっ、ツルが邪魔で喋れないでしょ?」


 口元を覆うツルが、綴る言葉の邪魔をする。辛うじて呼吸だけが出来る完璧な拘束を受け、レンリは反撃の手段を失った。

 にやりと笑い声を上げながらもふざけた様子の無い彼女を前に、手の無いレンリは降伏し抗っていた力を抜く。へたりと重力に負ける彼を見て、観念したかと少女は胸を撫でおろした。


 その瞬間。光に紛れ姿を消していたオームギが、大鎌を振り被る。


「……憂鬱狩り(ブルー・ベリー)ッ!!」


 認識を阻害し姿すら消していたエルフの生き残りが、完全なる意識の外から襲い掛かる。始まり魔術師クリプトが作り出したとされる魔道具『集断刀(クラン・グラン)』に橙のコアからエーテルを注ぎ込み、空間ごと真っ二つに出来るほどの巨大化した刃が敵を薙ぎ払う。

 そのはずであった。敵の少女は動じる事なく、足先からツルを伸ばし人一人分上へと飛び上がる。


「うそでしょ!?」


「ほんとっ♪」


 少女はオームギの大鎌を華麗に回避すると、飛び上がった勢いのまま上空で一回転し、着地の直前に両手からツルを伸ばす。狙う先はオームギの構える大鎌であった。

 オームギが咄嗟に手を引き刃を消した大鎌ごと後ろに下がると、敵の少女は行動を読んでいたかのように伸ばしたツルを屈折させ、オームギを大鎌ごと拘束してしまう。


 身動きの取れなくなったレンリとオームギは、それぞれ限りある手を駆使して巻きつくツルを剥がそうとする。レンリはがむしゃらに魔術を自身に浴びせ、砂嵐でツルを切り刻もうと。オームギは大鎌の形状を変えて、ツルの隙間からエーテルの刃を生やし切断する。だがそれでも、間に合わない。


 少女の足が、扉があるとされる路地裏の一角へと踏み入れる。

 そしてにやりと笑っていた唇を離し、そっと呟く。



「んふふっ……。お願いエーテルコア、わたしを連れてって」



 扉を開く条件は、やはりエーテルコアであった。少女はヴァーミリオンの元へと戻るため、国庫から流れたコアを探し出し回収していた。赤の国グラナート内でも有数の強さを誇る少女は、コアを手に入れた事により、限界を超えるエーテルを扱えるようになっていたのだ。


 少女の言葉と同時に、彼女の身を黄色い光が包み込む。

 溢れ出るエーテルの光の中。少女は黄色く輝く結晶体を懐から取り出し、強く、強く握り締めるのであった。

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