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26.残り火

 金と欲望の風が吹く国で、三つの影が揺れていた。


 シキ達はシャルトルーズから聞いた情報をもとに、エーテルコアの落札者が居るとされる場所を目指し、無我夢中で歩みを進める。


 別行動を取っているレンリ達との合流は、日が暮れた頃に国の入り口にて。それよりも先にコアを何としても手に入れるため、一刻も早くコアをお目にかかりたい。焦りを見せたシキの手を引くように、エリーゼとネオンは確認を取るよりも先に地面を蹴って応えてくれたのだ。


 シャルトルーズの店を出てからはや数十分。人混みを避けるために商店街から一本横へ逸れた住宅街を進み、そして目の前には目的地がゆっくりと大きく映り込む。


「見えて来ました! あの先にあるのがシャルトルーズさんの言っていた……、!?」


「店が半壊しているではないか!!」


 話に聞いていたのは鼻につくほど豪奢で悪趣味に片足を入れている、屋敷のような高級魔道具屋であった。しかし目の前に積まれているのは光り輝く瓦礫の山。宝探しにでも来たかのような野次馬達に囲まれ、見るも無残な姿と成り果てていた。


 呆気にとられながらも少しでも中の様子を伺おうと近づくシキ達。すると隣から、聞き覚えのある声が自分達を呼んでいる事に気づく。


「シキさん! エリーゼさん!」


「お前達はルックとカムカム! 何故お前達がここに!?」


「別件でギルドの方々を案内していたところ、騒ぎを聞きつけまして……。ここの店主は辺りの権利をほとんど持っていますので、何かあったのかと」


「店主が……? そうだ店主と言えば、ジョンブリアンは居るか!?」


「向こうで手当てを受けています!」


 ルックの指す先には複数人の仲間に囲われながら、座った体勢で壁に体重をかけもたれかかっている男が一人。やたらと心配をする仲間達に怒号を飛ばしながら、消耗しきった体力を使い果たしてでも怒りに狂っていた。


「ジョンブリアンさん落ち着いてくだせぇ!!」


「ワシの心配など要らんと言っているだろう……! それより直ぐに犯人を捜してひっ捕らえて来いッ!!」


「おい何があった? 傷が開くから一度落ち着いた方がいいぞ」


「これが落ち着いてなどいられるものか! この際誰でもいい、ワシのコアを取り戻して来い!!」


「コアだと!? 犯人の特徴は? どこへ向かって消えた!?」


「女だ。植物を操る女が、ワシのコアを奪って上に……ぐはっ!」


「ジョンブリアンさん!!」


 怒りに狂っていた男は血を吐き出すと、がくりと意識を失う。

 側で話を聞いていたシキは咄嗟に近づき、男の状態を確認する。


「……息はある、早く治療の出来る場所へ移せ。後は任せて私達は犯人を追うぞ!!」


「でもシキさん、上に逃げたってどう追いかけるんですか!?」


「そんなもの建物にでも登って……いや、オームギ達と合流した方が早い。待ち合わせの場所へ急いで戻る!!」


「…………!」


 シキはいつものように勢いと感情に任せて飛び出そうとした。

 そんなシキの袖を、隣で佇んていたネオンが掴み強い力で引っ張る。


 ガクンと勢いを殺されたシキは振り返り、ネオンに意見を聞こうとした。

 しかしそれよりも先に、ネオンはスッと人差し指を立て、真っ直ぐに前へと伸ばす。


「…………!」


「あれはハロエリにハルウェル! レンリの使いか!!」


「もしかして彼らも犯人を追っているのでは!? 私達もついて行きましょう!!」


 ネオンが指差した先には、シキ達も良く知っている赤と青の二羽の鳥が上空を羽ばたいていた。それは国の入り口で待っているはずの仲間が、まだ国内で何かを行っている事を示していた。


 ジョンブリアンの言う上と、空を舞う事の出来る仲間達の存在。目の前の状況を掛け合わせ、エリーゼは自分達の目線とは別の場所で何かが起きている事を察知する。

 示し合わせたかのように登場した仲間の使いから、この国で今起きている事件は一つに連なっていると仮定し、同じ人物を追っているのだと理解する。


 エリーゼの言葉を聞いたシキはすぐに二羽の鳥を呼び、上空を舞っていた二羽もシキ達を目掛けて一目散に飛び立った。


「ハロエリ、ハルウェル、私達を案内してくれ!!」


 二羽はレンリの言葉を伝えるよりも先に理解していた彼らに驚きつつも、すぐにシキの声に応える。

 シキ達はレンリとオームギに合流するため、そしてジョンブリアンを襲いコアを奪ったとされる犯人に追いつくために、今一度風を切り夕焼けをかき分けるのであった。


(あの店の壊れ方、昨日見た寂れた闘技場と似ている。それに女が植物を操っていただと? コアを奪った犯人とは、まさか……!!)


 シキの胸の内にある、赤のエーテルコアが熱を帯びる。

 目が覚めたばかりの鮮明な記憶に刻まれたとある少女の事を思い出し、エーテルは赤く、より赤く焔をまとい輝きを放つ。

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