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19.もう一人の存在

 人通りの無い路地裏を離れたレンリ達は、動物達へ聞き込みを続けながら建物の上へと移動していた。

 人目を避けるために屋上を通っていたが、不意に目の前へカンパネラと名乗る女性が現れる。


 レンリが彼女の暴風のようにまくし立てる喋りに圧倒されていたところ、彼女の仲間らしき少女が止めに入った。だがその少女の髪を見て、レンリは動揺していた。


「明るい髪色に、一部紫が入った髪の女! まさかコイツらが赤の国の関係者なのか……?」


 噂に聞いていた、路地裏へ出入りしていたという女の特徴と一致する少女。

 屋上などというあり得ない場所へ現れた二人に対し、レンリは一層警戒を強める。


 だがそんなレンリはあまり視界に入っていないのか、二人は言い合いをしながらお互いの意見をぶつけていた。


「わぁ! もうヅッちゃんたら。せっかく一緒に探そうって楽しい雰囲気になっていたのに……。そうだ、ねぇ聞いてヅッちゃん。さっきビーちゃんを見つけたのに、逃げられちゃったのよ」


「さっき走って逃げたのは野良の猫で、そもそもスリービーさんは狼です! というか彼女は狼の恰好をしているだけですし……」


「そうだったかしら? でも人探しも一緒にやった方が楽しそうじゃない? あぁ、こんなにワクワクする時は~楽しみの~~~」


「だからダメですって!!」


 屋根の上で小躍りを始めるカンパネラを、必死に羽交い絞めして止めようとする少女。

 だが二人は頭二つ分ほど対格差があり、少女は振り回されている形に近かった。


 警戒されていないのなら話を伺うか、それとも隙をついて攻撃に移るか。

 レンリが風の魔術を使おうと構えたところへ、ふと攻撃を制止する声が届く。


「レンリ、一旦引くわよ! あの二人のエーテル、何かがおかしい!」


「だがアイツの姿は……!!」


 現れた探し人らしき人物を前に、レンリはどうにか情報を聞き出せないものかと考えていた。

 だがオームギは二人を覆うエーテルを見て違和感を覚える。賢人の記憶に該当するものは無いが、一般人のソレとも違う何か。二人して屋根の上へ現れた背景も重なって、未知の魔術の存在をオームギは警戒していた。


 そしてオームギの提案を後押しするかのように、長身の女性を静止する少女も離れるように警告していた。


「さぁお二人とも! ボクがカンパネラさんを抑えている内に行ってください!」


「レンリ!!」


「あ、ああ。分かった!」


 レンリは構えていた風の魔術を自身に使用し、二人の居る建物の上から遠ざかっていった。

 後を追うようにオームギも建物の隙間から姿を消し、屋上には後から現れた二人だけが残された。


 安堵した少女はカンパネラから手足を離し、屋根の上に着地する。

 そしてそっと胸を撫でおろすと、再び長身の女性へと怒りを向けた。


「ふぅ……危なかったです。全くもう、カンパネラさんの魔術は影響が大きいのですから、すぐに使おうとしないでください!」


「だって、ワクワクしたんだもの……。あぁ、哀しいわ。みんなどこへ行ってしまったの。私はとっても哀しいわ。あぁ、こんなに哀しい時は~哀しみの~~~」


「カンパネラさん!!」


「あうう……」


「早いところ二人と合流しますよ。魔術で飛ぶので、よく掴まっててくださいね」


 カンパネラは勢い良く抱き着き、少女へズシリと体重がのしかかる。そして少女が軽く魔術を唱えると、彼女の頭を彩る十数個のヘアピンが輝き、エーテルの力により二人の身体を宙へと浮かばせた。


「ところでヅッちゃん……さっき言ってた事なんだけど」


「もう、何ですか」


 のしかかっていたカンパネラが出発を前に、また思いついたかのように口を開く。

 その下で少女が面倒くさそうに返事をすると、カンパネラはずっと気になっていた事を口にした。



「……二人ってなぁに?」



 レンリに加えてもう一人。

 ずっと隠れていたはずのオームギの存在を、少女はその眼に捉えていた。

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