16.火の粉 対 砂埃
立ち並ぶ露店と野次馬達で賑わう露店通りにて。
やたら威勢の良い眼帯女ことアルパインと腕を組み交わし、シキは何故か腕相撲を取る事になっていた。
経緯と言うには何ともしょうもない、エーテル結晶を先に見つけたのはどちらか。などと言う子供の喧嘩みたいな内容が発端である。
「一応言っておくが……手は抜くんじゃねーぞォ……?」
「馬鹿を言え。お前こそ後で言い訳などしようが聞かぬからな」
哀れにも勝負の舞台となってしまった木箱の上で、二人は固く手を握り合う。
友愛や親睦といった意味とは真逆の目的でその手は、互いの手のひらを強く掴み離さない。
そしてどこからともなく現れた行司こと露店の店主が二人の意思表示を確認すると、組み合った手の上に自らの手のひらを乗せ、勢い良く開戦の合図を口にする。
「では……勝負開始ィィィ!!」
「ふんッッッ!!」
「なんのォォォ!!」
ズンと、地面が陥没するような衝撃が二人を中心に放たれ、野次馬達はその圧に息を飲んだ。
勝負が始まってから数秒、互いの手は微塵も動かない。
「シキさん、無茶はしないでくださいよ……!」
「アルパイン? 遊んでる場合じゃ無いヨ……!」
「…………」
見守っている双方の仲間達も気が気ではなかった。
お互いにすぐ決着がつくと思っていたため、拮抗した勝負に色々と不安が募る。
しかしシキはまだ本気を出していなかった。
最初から最大の力を出してしまっては、勢いで勝ったと文句を言われかねない。そのため炎で炙るようにジワジワと力を入れて、付け入る隙もなく完膚なきまでに叩きのめそうとしていた。
「私に勝負を挑んだのが間違いだったな。次からはしっかりと順番を守るよう努めるのだな……!!」
「おいおい勝負ってのは勝算があって挑むモンだぜ……? あの結晶はアタシのだよォ!!」
シキがどんどん力を加えていくも、アルパインは微塵も動じていない。
確かにアルパインの腕は引き締まっており、また握った手も女性にしてはゴツゴツとしていてその自信には頷けた。
だがそれでも体格も筋力もシキの方が明らかに上であり、実際この勝負もアルパインの方が掛け率は大きかった。しかしそのような目算が付いていても、アルパインはシキへと勝負を挑んだのだ。
啖呵を切った手前、シキもむざむざと負ける訳にはいかない。
炙るようにジワジワと加えていった炎はいつの間にか業火へと姿を変え、本気を振り切った限界以上の力でシキも対抗する。全身の力を右腕に集約させ、ついには内に眠るエーテルコアからの出力も動員する。
それでも目の前の眼帯女は、同等以上の力で対抗する。
「まだまだァ! さっきの威勢はどうしたよォ!!」
「……ッッッ負けるものかぁ!!」
互いの咆哮がぶつかり合い、露店通りへと轟く。
シキは自然と身体から炎を灯し、火の粉を弾けさせながら腕への力を爆発させる。
一方でアルパインも不思議と緑のオーラを纏い、固く踏ん張った足場から暴風を起こして砂埃を撒き散らす。
熱と風が高揚した野次馬を包み、いつしか二人の姿が見えなくなっていく。
ミシ、ミシ、と軋む両者の音だけが聞こえ、群衆は勝負の結末をただただ待ち望むだけであった。
ただの腕相撲とは名ばかりの、莫大な力とエーテルの凌ぎ合いとなった二人の戦いは時間の感覚が分からなくなるほどに白熱し、そして思わぬ形で決着がつく。
バキィィィィィ!!
熱と砂埃の中から、微塵となった木っ端が一帯へと飛び出した。
二人の台となっていた木箱が耐えきれず、一瞬にして吹き飛んだのだ。
木っ端を巻き込んだ二人の衝撃は野次馬を越え、立ち並ぶ露店へと飛び散っていた。
「う、うわあー…………」
勝負は台無し、決着はつかず。そして辺りへの被害はもう考えたくない。
どうしようもなくどうしようもない戦いを繰り広げた馬鹿二人の仲間達は、驚きよりもドン引きが勝り、轟音の中でかき消されるように溜め息を吐いていた。




