15.目撃者はすぐ側に
人払いをしたはずの空間への侵入者。
路地裏で調査を進めていたオームギとレンリは、屋根上からの視線に気づきその身を捕えるのであった。
レンリは相棒である二羽の鳥ハロエリとハルウェルを先行させ、風を使った魔術により退路を断ち、そして正面を追いついた二人が立ち塞がる。
敵の存在を危惧し緊張の走る一瞬であったが、目の前に現れた相手を見て、レンリもオームギも戸惑いを隠せないでいた。
「野鳥……? 奴らに操られている様子も無い。オームギ、人払いをしたのではなかったのか」
「したわよ。してた。使う前に人が居ないのも確認した。けどどうして……」
二人と二羽の前には、赤い模様の入った鳥が四方を急に囲まれ慌てふためいていた。
ハロエリとハルウェルが落ち着かせレンリが声をかけたところ、話が通じると分かったのか、赤い模様の鳥は自身が立ち入った理由をレンリへと伝える。
「『餌場を見ていただけ』と言っている。国内にある赤のエーテルを探している内に、あの路地裏を見つけたらしい」
「でも眺めるだけで、なんで近づかなかったの?」
「『昨日はお前達がいて近づけなかった。今日は入る直前で何故か行けなくなり困っていた』と言っている」
「なるほど、近づこうとしてちょうど私達が来たって訳ね……。そして立ち入った瞬間に私が魔術を使ったものだから、半端に認識が阻害されて分かっているのに近づけず立ち止まっていたのね」
人払い。といっても言葉通り、人だけが払われる訳ではない。意識をして立ち入ったり近づこうとする相手を阻害するのが、オームギの使うエルフの魔術、認識の阻害である。
そのため彼女と関係なくただ同じ場所を目指した場合は、立ち入る事は出来なくても近寄るまでは可能なのである。そして鳥類の飛行能力であればオームギの対人を想定した事前確認の外に居ながら、魔術を使う瞬間に偶然立ち入ってしまう事があり得るのであった。
偶然訪れた危機と安堵に混乱しながらも、レンリは偶然を引き寄せた事象の中に引っ掛かりを感じ取った。
「まて、お前この辺りにはよく来るのか? ここへ出入りする人間に、心当たりは無いか?」
「……!! そうか。ここへ出入り出来るなら、少なくとも奴らの妨害は受けていないって訳ね! ねぇ貴方、長毛の猫とか物騒な武器持った女とか、ここへ誰が出入りしたか教えてくれない!?」
餌場として利用しているなら、何度か立ち入った事はあるはず。二人はひたすらに痕跡を探すという途方もない作業よりも、目撃者に聞いた方が早いに違いないと判断する。
予想通り、この赤い模様の入った鳥は出入りする人間を何度か見かけた事のあるようだ。前日シキ達が調査していた際に近づかなかったように警戒心が強く、いつも人が居なくなるのを遠くから見ていたという。
状況や見た姿の特徴をいくつか聞き出している内に、この鳥が見ていたのはヴァーミリオン達に違いないと確信する。
「無理やり連れて来られた連中を除くと、ヴァーミリアンとミネルバ、それにスワンプと俺は覚えているのか。何? 他にも居るだと……?」
「奴ら以外の関係者……!?」
ヴァーミリオン一行と彼らに捕らえられた人や動物、魔物達。
だがそれ以外に扉に近づく人物が居たと、赤い模様の入った鳥は伝える。
「『明るい髪色に一部紫が入った髪の女』と言っている。しかもそいつは、まだこの国に居るらしい」
「じゃあそいつを捕まえたら、扉の開け方が分かるって訳ね!」
「ああ、そういう事だ。他にも目撃者がいるはず。オームギ、エーテル回収は止めてそいつの聞き込みに行くぞ」
調査の手段が変わったため、オームギは急いで大鎌で塊化させたエーテルをその地へと戻す。彼女を待っている間少しでも手がかりをと、レンリは赤い模様の入った鳥から近隣に出入りする動物達の情報を聞き出した。
そして二人はいきなり襲い掛かった詫びと礼を告げ、重要人物となる女を探しに路地裏を後にしたのであった。




