11.風の噂に揺蕩う
日の光もすっかり落ちた頃。迷えるシキの大捜索が終わり、何とか食事にありつけた一行。
美味しいものという曖昧な指定の結果、オームギとネオンの意見により出店通りで各々好きなものを買って来るというまとまりの無い食事を終え、一行は一度宿泊するべくナルギット内にある宿屋へと移動していた。
「宿まで手配してくれるとは、シャルトルーズとやらは相当に手厚い奴だな」
「旅の途中で立ち寄ったと伝えたら、長話のお詫びにと紹介して頂けました」
「こうやって四方八方囲い込んで、取引先を一任させようって魂胆ね。中々やり手じゃない」
「お前達を待っていたら、結局食事を取るだけで夜になってしまったぞ。明日の予定はどうするつもりだ」
何でも屋に乗せられ長話へ夢中になったエリーゼが悪いのか、店先から勝手に離れたシキやネオンが悪いのか。はたまた入店を拒否し、先に食事を見に行ったオームギ達が悪いのかはお互いに考えないようにして、一行は室内の机を囲み、現在の問題点とこれからすべき行動を話し合う。
「シャルトルーズさんから聞いた話によると、ナルギット内でも行方不明者が出ているようです。もう少し調査を進めれば、何か手がかりが掴めるかもしれません」
「だがここで足止めを喰らっていては、時間だけが過ぎてしまうだろう。扉を越える事が出来ないのであれば、直接赤の国へと乗り込み、住処を探し出す方が確実ではないか」
「待った」
黄の国ナルギットに残って調査を続けるか、赤の国グラナートへと素直に向かうべきか。二つに一つの選択肢を示した二人に対し、白の手袋に覆われた華奢な手が一個の前へと突き出される。
「明日一日だけ、この国に留まってみない?」
意外にも第三の選択肢を示したのは、橙のエーテルコアを奪われ、一刻も早く取り返したいであろうオームギであった。一日だけ留まるという攻めにも守りにも聞こえない提案に対し、シキは不思議そうな顔でその真意を聞き出す。
「一番急いでいるのはオームギ、お前だろう。そんな悠長な事を言っていて大丈夫なのか?」
「何をするにも準備は必要でしょ。それにちょっと考えがあるの」
「考えだと?」
「明日は二手に分かれて行動しましょ。レンリは私と来なさい」
「なっ……勝手な奴め」
「二手にか。では私達はどうすれば良い? 必要なものがあれば私達で揃えるが」
「そうねぇ。敢えて言うなら、私達と別行動を取っていればそれでいいわ。ネオンと居ると、私の認識阻害が十分に使えないのよ」
「なるほど、そういった理由か」
「…………」
周囲のエーテルを吸収するというネオンの体質上、周りへエーテルを張り巡らせ、その認識をすり替えるオームギの魔術は相性が悪いのだ。実際砂漠のオアシスでもネオンの存在が災いし、隠れていたオアシスの位置を知られてしまったという過去がある。
見た目を誤魔化すのではなくそれ以上の魔術を使おうとすると、どうしても彼女の存在が引っ掛かり、人の多い街中では力を押さえる他が無かったのである。
「でしたら一つ、シキさんに伝えたい情報があります」
「エリーゼ、何だ?」
「これも聞いた話ではありますが、最近エーテルコアが国庫から売りに出されたらしいのです。その結果、話を聞いた商人達がエーテル結晶を取り扱うようになり、それをあたかも流れたコアであるかように売り出しているとかなんとか……」
エリーゼは何も、何でも屋の店主と世間話をしていた訳では無い。行方不明となった兄や両親の行方だけではなく、旅に関わる情報は一通り聞き出していたのである。
エーテルコアは記憶を取り戻すために追い求めていた。だが今はそれだけではない。コアが宿す力の一つとして、転移魔術の存在が上がっていたのだ。エリーゼから思わぬ掘り出し情報を聞いたシキは立ち上がり、言葉を確認するように彼女の前へと乗り出す。
「それは本当か!? では私達は明日、そのコアについて追ってみよう。この国のコアであれば何か別の効力があるかもしれない。オームギ達もそれでいいな?」
「ええ。それじゃあ明日は別々に行動と言う事で。また日が暮れたら、今日入国した辺りにでも集まりましょう」
一行はお互いの顔を見合わせると、小さく頷き同意した。
敵の住処へと続く通路を今一度調べるオームギとレンリ。
売り出されたというエーテルコアを追うシキとエリーゼにネオン。
あらゆる物が手に入ると言われるナルギットの中で、存在するかも分からないものを探すため、一行は再び金と欲の吹き荒れる大国を踏み歩く。




