06.内と外と胸の内
路地裏から通ずるとされる、敵の住処への入り口発見に難航していた一行。
一度食事を取る前にエリーゼに案内され、一行は彼女の知り合いが居るという店を目指し歩いていた。
「ありました。ここです」
ナルギット入国時とはまた違った、ほどほどの人通りとそれなりの賑わいのある通りにて。エリーゼが指を差したのは、店と呼べるほど目立った装飾の無い、街並みに溶け込むような極々ありふれた建物の一つであった。
「ん、看板が出ていないではないか。ここは何屋だ?」
「私の実家と同じく、魔道具を中心に価値のありそうな物は何でも扱う、言わば何でも屋ですね。看板を出していないのは、基本的に紹介のあった方のみと取引しているかららしいです」
「待った。私ここ入らないわ」
店先で話をしていると、突然オームギが右の手の平を突き出し、入店を拒否しだした。
不明瞭な物言いに疑問を持ちながら、シキは彼女の理由を聞く。
「どうした急に、それほど空腹が耐えられないのか?」
「違うから。この建物、防犯用の結界を張ってあるみたいなの」
「確かにそういったお店は多いですね。でも私、知り合いなので入店しても問題ありませんよ?」
「だからそうじゃないって! 入ると記録がばっちり残っちゃうじゃない」
オームギは立ち入った記録が残る事を恐れ、入店を拒否していた。あまり痕跡を残したくないオームギにとっては、防犯とはいえくっきりと存在の残る場所には立ち入りたくなかったのだ。
彼女の事情を知っている一同は、その言葉を聞いて二手に分かれる事を提案した。
「ではオームギさんとレンリさんは、先に飲食店街へ行ってお店を選んでおいて下さい。私達は後から追いかけますね」
「助かるわ。ちなみに食べたいものは?」
「一番美味そうなやつで頼む」
「…………!」
「りょーかい。んじゃ行くわよレンリ」
「分かっているから引っ張るな。俺から一つ注文があるのだが、料理は鶏肉以外でお願いした……」
「…………では入りましょうか」
「……そうだな」
話半ばで連れ去られたレンリを見送り、エリーゼ達も自分達の目的を果たそうとする。
エリーゼは扉に取り付けられた装飾を叩き、店主から伝えらえれた入店の合図をし扉を開く。その後ろへ続くようにシキも入店したが、扉を跨いだ瞬間ふとシキはオームギの言っていた事を思い出す。
「む、そういえばネオンはこの店に入って大丈夫なのか? 防犯の結界とやらは壊れないか?」
「あっ、確かにここの結界は危ないかもです」
「仕方ない、私達は外で待っているから手短にな」
「分かりました」
店内にエリーゼを残し、シキは折り返してネオンと二人、店先で待つ事に。
魔術の形式にはいくつか種類があり、その仕組みによってエーテルを吸収するネオンの体質との相性が生まれていた。
オームギの認識阻害やヴァーミリオンの洗脳魔術の場合、エーテルが対象を覆う形で作用するため、吸収されると効果が消えるのみで終わる。
一方で今回の防犯魔術は結界という空間そのものが意味を持つため、その一部が吸収されると形が不安定になり、魔術で生成された物質や魔道具のように破壊されてしまうのだ。
「全く、そのような体質でこれまでどうやって生きて来たのだ。記憶喪失の私が言うのもなんだがな」
「…………?」
「なんでもないさ。弁償はもうコリゴリだという話だ」
「…………」
何一つ喋らない少女との会話は、今一つ盛り上がりに欠ける事も多い。しかし何一つ喋らないからこそ、言葉でも伝わらない事が伝わっているのかもしれない。
「……先に気付いていれば、ここで待たなくてもよかったのでは」
無論言葉で教えてほしい事の方が多いのは、言うまでもないのであった。




