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02.猫の足取り

 ヴァーミリオンの居る研究所を目指していたシキ一行は、森を抜け目的地へと辿り着いていた。


「……ここは?」


 目前の光景を見て、シキは一行を先導してたレンリに対し疑問を投げ掛ける。

 レンリは至って当然のように、シキの返答した。



「四大国家が内の一つ。黄の国、ナルギットだ」



 入国を果たした一行を待っていたのは、大通りを埋め尽くすほどにあちこちで開かれた商店の数々。

 鎧や武具といった戦闘の道具から食料や布などの日用品、眩く輝くエーテル結晶におどろおどろしい用途不明の逸品まで、世界を凝縮したような物の数々がそこへ並んでいた。


 ありとあらゆる手で財布も心も紐解こうとする景色を前に、エルフの生き残りは慌てた様子でとんがり帽子を深く被り、尖った両耳を広がるつばで覆い隠す。


「私達が追っているのは赤の国の刺客でしょ!? それがどうして黄の国に立ち入る事になっちゃってる訳!? 人の数も凄いし……私、あまり人目に付きたくないんだけど」


「おいレンリ、お前敵の居場所なら俺に任せろと言っていたよな? それがどうして黄の国への入国になっている?」


 数百年砂漠に引きこもっていたエルフと記憶を失った男は、仲間に言われるがまま着いて来ていた。故に砂漠以降どういったルートを通って旅をしているかはあまり気にせず、ひたすらに目的地を目指していたのだ。


 一方で商人として各地を回っていた少女は理由があって違うルートを選んでいるのだと理解しており、敵の手駒として着き歩いていた褐色の青年のまた、あえて標的の所属する国と違う国を目的地として選出していた。


「レンリさん。何故あえてここへ来訪したのか、説明して頂けますでしょうか」


「何故も何も、俺は奴らと共にこの国を通って、あの砂漠へと向かったからだ」


 何、とシキとオームギは目を細めて驚く。話を聞く気になった二人を見て、レンリは説明を続ける。


「砂漠からこの国までの道のりはそのまま、俺がヴァーミリオン達と通ったルートだ。つまり奴の住処へ突入するなら赤の国グラナートではなく、黄の国ナルギットからが正解となる。そしてこの国でやる事はただ一つ、別国家から続く経路を割り出し入り口をこじ開けて……おい、聞いているのか?」


「ん、どうした。私は聞いているぞ」


「…………」


 事細かく説明をしている最中、レンリは周りの反応がやけに薄い事が気にかかった。ふと視線を前へ戻し辺りを見渡すと、そこに居たのはシキとネオンのみで、オームギとエリーゼの姿が見えない。


 さらに辺りを探すと、視界の奥の露店で買い物に夢中になっている二人の姿が目に映った。


「なっ、説明中に何をしている! 俺の話はまだ終わっていないのだぞ……!」


 レンリはずかずかと買い物をする二人の元へ歩いて行く。呼び戻しに行ったのかと思えば、露店の商品らしきエーテルの結晶を持ち、先に居た二人と言い合いをしていた。


「何をやっているのだ、全く」


「…………」


 シキは呆れ、ネオンと共に露店の前で言い合いをする三人を追いかける。近づきながら耳を傾けてみると、何やら支離滅裂な物言いでレンリは腹を立てていた。


「だから俺が話をしていた最中だっただろう! 何故あえて黄の国ナルギットへ来たか。それは奴が通ったこの道を歩いて、この露店で売っている良質なエーテル結晶を購入するためだと、何度言わせれば気が済むんだ!?」


「レンリ貴方は何を言ってるの!? こんな所で寄り道をしている暇なんてないわ! 一刻も早くあいつの住処へ行ってコアを取り戻すの。そのためには、この結晶を買って戦いに備えないとダメなんじゃない!」


「もう、二人ともお店の前で騒いでは迷惑ですよ。すみません店主さん。すぐに退けますのでこちらの商品の値段を伺ってもいいでしょうか? あ、良ければどうやって入荷しているかも聞いても良いです? もし興味があれば私の実家とお取引でも……」


 三者三様に戸惑いを見せながら、先を急ぐと言いつつ何故か露店の商品を買おうとしている。

 異様な光景を見てシキが後ろから露店を覗くと、そこには目の細い華奢な少年が店主として座っていた。目の前には布の上にいくつかのエーテル結晶が並べられ、そしてそのすぐ横には三毛色の猫が一匹。


 三毛猫は、前足を上げ暗示のように手招きをしていた。


「…………」


「……ネオン、こいつらに触れてやれ」


「…………」


 ネオン小さく頷くと、言い合いをする三人に触れる。

 ハッと何かを思い出したかのように、レンリ達は落ち着きと冷静さを取り戻した。


「あれ、私何で結晶を買おうとしていたんだっけ?」


「おかしいですねぇ。さっきまでレンリさんの話を聞いていたはずですが」


「……そこのお前。その毛玉は貴様の仲間で間違いないか?」


 レンリは頬をヒクヒクとさせながら、手招きを辞めプイっとそっぽを向いた三毛猫を指差す。

 店主の少年はレンリに問われ、屈託のない笑顔で返事をした。


「はいっ。この子はカムカム、うちの看板猫をやってもらっています。あ、私はルックと申します。皆さんは旅の途中でナルギットへ立ち寄られたので? よければこちらの結晶を一ついかがでしょう?」


「いらん。お前はいつも、こんなやり方で商売をしているのか?」


「え? はい、そうですが……。あ、この場所で商売をする認可はしっかり取っていますよ? それにこの商品も、私が日々採掘し仕入れている天然物です! お安くしますので、是非お一つでも購入してみませんか?」


「…………毛玉」


「……?? カムカムがどうかされましたか?」


 まるで汚れを忘れた宝石のように、純粋無垢な表情でレンリを見つめる露店の主ルック。

 どうやらこの店の手綱を握っているのは、少年の側で白を切っている三毛猫カムカムのようだ。


「仲間なら。こいつが何をやっているかぐらい、知っておけ」


 レンリはそれ以上何も言わず、ただ虫の居所が悪そうにその場を去る。

 シキ達は不思議に思いながらも、彼の後を追いかけるのであった。


「なんだったのでしょうか、今の方々は。カムカム、何か知っています?」


「…………ミャーウ」


 三毛猫はそっぽを向いたまま、何も知らない少年に鳴き声を上げた。

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