表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

120/169

40.焚き火の光

 夢を見ていた。


 失われし過去の夢を。


「お兄様、少し聞きたい事があるんだけど、少し良いかい?」


 澄んだ川の側で水汲みをしていた男の元へ、一人の少女が現れる。


「ん、何だ。何が聞きたい? この前やって見せた水の浄化か?」


「いいや、違うよ」


「ふむ。では火の点け方か? それとも空気の浄化、いや植物の栽培か? 何でも聞くといいさ。全て教えてやるぞ」


「違うんだ、お兄様」


「……?」


 少女は表情一つ変えずに、男の言葉を聞いていた。そして、彼女の聞きたい本当の内容を口にする。


「どうしてお兄様は、こんな活動をしているんだい?」


 少女が聞きたかったのは、男が活動を続ける意味であった。

 火、水、風、土。あらゆる策と技術を駆使して人々の生活を豊かにして来たその男は、どうしてそんな大変な活動を続けて来たのか。


「……なぜ、そんな事が聞きたい?」


「うん、そうだね。例えばお兄様がここへ訪れなければ、僕達は未だに水不足に苦しんでいただろうさ。でも、そんな事はお兄様にとってどっちだって良かったはず。なぜなら、僕達の生活なんて外の人間には何も関係の無い事だもの。ねぇお兄様。お兄様は僕達を助けて、何がしたいの?」


 どんな惨状であろうが、その存在を見も聞きもしなければ何も知る事無く過ごしていれただろう。仮に知ってしまったとしても、自分には関係の無い事だと無視しておけば生活には何の影響もない。


 それでも、その男が現れた意味とは。一見無駄に思えるような男の不可解な行動に、少女は強く興味を惹かれていたのだ。


 男は考える。人々を助けたいという願いこそあれど、それは何から来る衝動であったのか。


「何がしたい、か。そうだな。それを可能とする技術を持っているからそうした。それではダメか?」


「うん。ダメ」


「……そうか。では別の答えを考えよう。そうだな……目の前に困っている人がいたら力になりたい。それだけだ」


「答えになっていないよ。そんなもの知らんぷりすればいいじゃないか。それでも首を突っ込んでしまうのがお兄様なのでしょう。その理由を、教えてよ」


 少女は一歩も引かない。もっともな理由を述べようが、綺麗ごとを口にしようが、それだけでは納得してくれない。男の中で眠る真の衝動。人助けなどという活動を繰り返す、本当の目的。


「何故、何の利益にもならない事にまで首を突っ込んでしまうのか。それは…………」



 ……………………。



 …………。



「私がそうしたいと思ったから。それだけの事なのだ」



 ぼんやりとした意識の中。目を覚ましたシキはポツリと呟いた。


 次の目的地までの道中。野営をしていたシキは、木陰のほとりで眠りに就いていた。


「あれ……。シキも目が覚めちゃった訳? 私もよ」


「オームギ……眠れないのか?」


 日の光はまだまだ上らず、空は暗闇に包まれたままであった。夜空の月と星の輝きに加え、パチパチと燃え盛る焚き火が二人の表情を照らし出す。


「正直、まだ怖いのよ。外の世界って。ずっと砂漠から出なかったからじゃない。しばらく人と話してなかったでもない。百年以上の時が過ぎた世界で、私みたいな取り残された存在が馴染めるのか。この世界にはまだ私の居場所はあるのか。私にはそれが分からないの」


 オームギは心情を吐露する。これから待ち受ける世界がどんな場所なのか。知っていたもののほとんどは滅び、次なる世代が世界を彩っている。そんな世界へ過去の存在が立ち入ろうとする。賢人と呼ばれた者でも、まったくの無知の世界は恐ろしくて仕方がなかったのだ。


 しかしシキは、そんな彼女の心情を受け入れ、今までの自身と重ね合わせる。


「別に心配など要らないさ」


「……どうして?」


「以前にも言ったように、私は記憶喪失だ。目を覚ましてからまだ、思い出せるぐらいしかこの世界で過ごしていない。それでも、この世界は受け入れてくれている。私達のように眠りから目を覚ました存在でも、同じ仲間として扱ってくれている。こいつらの存在が、その証拠だろう」


 シキは焚火の側で眠る、仲間達へと目をやる。

 ネオン、エリーゼ、レンリ、ハロエリとハルウェル、そしてオームギの助けた白蛇。姿も形も出で立ちも違う者同士が、こうして身を寄せ眠っているのだ。

 そしてシキとオームギも、その一人としてここで身を寄せている。答えなんてものは、それ以上必要なかった。


 シキの言葉を聞いたオームギは、思い出したかのように目を閉じ眠りに就く。


「……そ。私もう寝るわ。貴方も早く寝なさいよ。明日もまた早いんだから」


「ああ」


「小腹でも空いて寝れないなら、適当に荷物を漁りなさい。つまむ程度のものならいくらか入っているはずよ」


「ああ」


「…………シキ、ありがと」


「……ああ」


 シキもまた、目を深く閉じ眠りに就く。


 一同を照らす焚き火の光は、パチパチと小気味良い音を立て、寄り添い眠る者達を包み込んでいた。



 焚き火の光 終わり。

この度はお読み頂きありがとうございました。

シキ達の旅は新たな仲間を連れ、より世界の真相へと迫って行きます。

次章はいよいよ刺客達の本拠地へ。良ければ次の章もお付き合い頂けると嬉しいです。


一章から話題に出し続けたサンドイッチの伏線も、今回で回収されたのではないでしょうか。

他にも赤の国や大罪武具、始まりの魔術師など、今まで出て来ていたワードも複数触れられたと思います。次章からは張り巡らされた伏線の回収も多くなると思いますので、引き続きお楽しみ頂ければ幸いです。


少しでも面白い、期待出来ると感じたら、評価☆やブックマーク、感想やレビューなどを頂けると励みになります。最後にもう一度、お読み頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ