侯爵家次男の心痛
やあ、僕はヨハン。侯爵家次男なんだ。最近、バーバラが恋をして周りが大いに盛り上がっているんだけど、何故か僕は胃が痛いんだ。その話聞きたい?聞きたいよね?勿論話してあげるよ。語るも涙聞くも涙だよ。どうしてこうなったんだろう。
僕はねバーバラがあまり上手に恋ができないのがとても心配だったんだ。だってあの性格だからね?特別な嗜好を持つ人じゃないと面倒でやっていけないと思うんだ。僕は妹だから可愛くて仕方ないんだけど、恋人や婚約者、妻となるのであるなら話は違うと思うんだ。三度の婚約破棄もそれを物語っていると思わないか?バーバラが自分を守る術を持っていたならと悔やまれてならないよ。
家族も皆そう思っていたのかな?だからなのかな。バーバラに気になる人ができたって話が、使用人からもたらされた時の家族の喜びよう。すごかったんだ。本当に。頭狂ったんじゃないかなって思ったよ。侯爵家終わったって。僕が継ぐのかなって思ったけど、皆戻ってきてくれたんだ。ちょっと泣いたよね。でもそこから僕の受難の始まりだよ。
僕の父上と母上は本当に素晴らしく尊敬できる人達だったんだ。ここ過去系だから大切なことだよ。領民にも慕われ仕事も卒なくこなし、嫌がらせには倍返し以上でお返しする。その仕返しも絶妙なものでさ、是非その技を教えてほしいって父上に話をしてみたんだけど、見て覚えろってさ。いつの時代の職人なんだよ!それは!っていう感じさ。まあ、教える時間がないから見学してもいいよって意訳を母上から聞かされた時には、バーバラの性格は方向性が違うけども、この父上からのものなんだなって思ったよね。この父上のフォローを母上がするっていう夫婦愛だけではなく、尊敬してお互いを支え合う姿、こんな夫婦になりたいって思っていたんだよ。例え政略的なものであってもね。あ、ここも過去形だよ。
そう、それでね。バーバラの慕っている人が平民って聞いて、諜報部全員、総力で情報集めるように命令を下したら2、3日で情報を集めてきたんだ。バーバラって不思議なことに侍女や従僕達からの好感度がすごく高くてね。ある日調べてみたらいらなくなったドレスや装飾品類、作ったお菓子をあげたり、小さい子ども達の面倒みたりしていたみたいだね。僕なんてそんなこと考えたりもしなかったんだけど……。バーバラに聞いてみたんだ。なんでそんなことしているのかってね。そしたら、ただ捨てるのがもったいなくなったんだって。自分が捨てられたからかも……って話を聞いて、泣いたよね。泣いてもいいよね?バーバラはなんてかわいい妹なんだって思うよね。その後にいつもの調子で、もう忘れましてよ!お兄様なんていって高笑いしてたけど……。呪いのようにずっとバーバラの心を苛むんだろうなって……。……………っ、あー、もう。泣けるなあ、本当に。バーバラを守ってあげないといけないって、思うよね。本当に。
……だからあいつには痛い目にあってもらわないと困るんだよね。バーバラの友人達も素敵な贈り物や手紙を渡していたみたいだったから、僕もマンドレイクの断末魔を閉じ込めたっていう手紙を送ってあげたんだ。効果の程はわからないけど、開いたことは確実みたいだね。業者のサービスで開封確認付きだったからね。実際の場面を見たかったけど、それはやめといたほうがいいっていわれたからやめといたんだ。今あいつは呪いを撒き散らす災害扱いになっているみたいだから、ほんと、いい気味だよ。
そうそう、バーバラはね、ようやく恋ができるようになったんだ。その時のことはね、僕もたまたま見ていたんだけどね。バーバラに振られたあいつがうちにまでやってきたんだ。婚約破棄した直後でどさくさに紛れてうちに忍び込んだんだよ。バーバラを連れ去ろうとしていたみたいで、バーバラは抵抗していたけど女の子の力では男には勝てないからね。そこをたまたま通りかかったクリフが腕を一捻りして追い出してくれたんだよ。いやあ、僕の目から見ても格好よかったね。あの時のバーバラは彼に見惚れていてね。我にかえった途端に、ガタガタに震えながら高笑いしていたんだ。……あー、健気すぎて涙がでてきそう。弱みをみせないようにしている姿、健気だと思わないかい?僕はね慌てて駆け寄ろうと思ったんだけど、クリフが抱き上げて屋敷の中まで連れて行ってくれたんだ。バーバラはあわあわしていて、見ていて面白かったんだけど本人はそれどころじゃなかったみたいだね。それからバーバラが、自分を助けてくれたクリフを探しだして、それを使用人経由で僕たちも知ったんだ。
僕は最初、兄弟姉妹達力を合わせてバーバラを支えようって考えていたんだ。健気で可憐な弱虫なバーバラだからね。兄弟姉妹みんなで、家族みんなで助け合おうって思っていたら、家族皆個人プレイなんだよ。ねえ、協力したほうがいいよって何度も言ったんだけどね。父上や母上にだっていったさ。皆暴走気味だからなんとかまとめて、協力して事にあたろうって何度も何度も言ったんだよ。でも皆ね、大丈夫、大丈夫!お前は考えすぎだ、って頭を叩くんだ。大丈夫じゃないんだよ!僕が皆の尻拭いしてるんだよ!わかってるの!?って何度も言ったんだ。そう、何度も……何度も………。ううっ僕、なんで周りの目とか耳とか、顔色とか常識とかに縛られてるんだろう。兄さんや姉さん達みたいにぶっ飛んだ頭を持ちたかった。僕もう疲れたんだよ。皆好き勝手やって、尻拭いは僕がして………………。なんで僕ばっかり…………。
***
「ちょっと、ジョセフお兄様。またヨハンが何か言ってるわ」
「んー、大丈夫じゃないか?」
「ジョセフお兄様はヨハンとバーバラに甘いのね」
「僕はみんなに優しくしているつもりだよ?勿論、オーガスタもね」
「まあ、どの口が言っているのかしら!いつもお土産ヨハンとバーバラにだけお土産買ってくるじゃない」
「それはオーガスタが要らないっていったからだろ?」
「だってあんな怖い顔の人形なんて……。夜中に起きたらびっくりするじゃない!」
「異国の可愛い人形なんだけどなあ」
「ニコラもあの人形は怖がっていたじゃない!」
「じゃあ焼き菓子がいい?」
「………可愛い小物でもいいですわ、ジョセフお兄様」
「可愛い妹の頼みだから仕方ないな。おーい、ヨハン!人形いらないかい?」




