表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/39

37.

「会社の先輩でね、すぐに人間を二通りに分ける人がいるの」

「人間を二通りに分ける人間と、そうじゃない人間」

「そうそうそう、それ、私もいつもそれ言うの!だよね?」

「あと、女の前で泣ける男と、泣けない男」

「それだと男を二通りに分けてるから四分の一になっちゃうじゃん。バカだねえ、ダイモン」

他人ひとに向かって平気でバカっていえる人間とそんなこと言わない人間」

「そうだね、その通り。私たちはふたりとも前者だね」


弓音はくつくつと肩を揺らしてとても楽しそうに笑っている。泣きたかった航の涙は胸の奥底のどこかに沈んだ。でも一度波だった胸の中の水面はいつまでも揺れている。


「そうやってすぐ笑う人間と、」

「笑うのはいいことだよ。楽しかったら笑う、楽しくなかったら笑わない。素直なだけだよ」

「じゃぁ、素直じゃない人間。俺みたいに」

「ダイモンは素直じゃん。じゃなきゃ今も会社員を続けていたでしょ」

「素直な訳じゃないよ、ただ」

「ただ、何?」

「記憶力が人より良すぎたんだ」

「じゃ、記憶力がいい人間と忘れっぽい人間」

「ゆみさんは、どっち?」

「どうだろうな、記憶力はいい方だよ。でも大人になったら忘れたほうがいいことは多いじゃない?」

「シャープペンを、頭に乗せる人間と乗せない人間」

「んん?なにそれ?」

「ゆみさん、高校生の頃、頭にシャープペン乗せてたじゃん。忘れちゃったの?」

「どうして知ってるの?」

「見たからだよ」

「そっか、同じ高校だったよね。そっか、なんだ、知らなかった」

「言わなかったから」

「どうして、言ってくれなかったの?」

「どうしても。」

「どうしても、か。どうしても、って言う理由を使う人間と、・・・」

「どうしても、分からないんだよ。どうしてあの時、ゆみさんのこと、高校の時から知ってましたって言わなかったのかな。どうしてあの時、野上先輩と付き合ったりしないでよって言わなかったのかな。どうしてあの時、風邪ひいちゃうから俺の部屋に行こうって言わなかったのかな。もしもたった一言何か言っていたら何かが違っていたのかな。そして、どうして、俺は、いつまでもいつまでも、そんなことを考えてしまうのかな。」


胸の奥に滴り続けている雫が細い細い糸になって航の胸はその糸にぐるぐる巻きにされて締め付けられるみたいに痛んだ。もう立派な大人になったのにこんな風に胸が痛むなんて。あまりに胸が痛くて今自分が紡いだ言葉の意味を理解できないほどだった。


沈黙が続いた。人差し指のささくれを撫ぜていた弓音が頬杖をついて大きく息を吐いた。


「バカだなぁ、ダイモン。やっぱり素直じゃないんだね。」


航は顔を上げて答えた。

「やっとわかったんだ、バカだね、ゆみさん」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ