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33.

 この人は覚えているのだろうか。いや、きっと覚えていないだろう。俺は弓音さんの頭の上でくるりと捻じれた前髪とそれを挿している細いシャープペンの頭についた小さな窓のHBという文字のくっきりと細い文字を思い出していた。それは、俺が弓音さんに初めて出会った日のことだ。高校に入学してひと月、ふた月もたった頃だったろうか。


 中学も同じだった部活の先輩は教室の真ん中くらいの席に座っていた。椅子を後ろ向きにして頬杖をついている。その席に座っている女の先輩は紺色の制服のリボンを蛇腹折に畳んでいた。


 俺は先輩の名前を呼びながら三年生の教室に入っていった。いつもならそんなことはしない。だけどその日はその先輩と先輩の後ろの席の女の先輩の他に、やはり女の先輩が2、3人、窓からグラウンドを眺めているだけだった。席の横に立った俺を見上げながら先輩は蛇腹折をつまみながら結び目を作っている女の先輩に「なんでそんなことすんのさ」と尋ねていた。制服のリボンに結び目を作っている理由を聞いているらしい。「あ、それ、俺も思ってた」と俺はついつぶやいて、女子がよくそうやって制服のリボンに結び目を作っている理由を初めて知った。


 「このままだとリボンが大きすぎるんだもん、バカみたいじゃん」と言ってリボンをくるりと首に回し丁寧にリボンを結んだ。その人の頭にはシャープペンが乗っていた。小さな手が蝶の羽のようにリボンを開いていく。頭をかしげているのになんでこのシャープペンは落ちないんだろう、と俺はそれが気になって仕方がない。先輩は、リボンよりもその頭の方がバカみたいだ、というようなことを言って立ち上がり俺に行こうぜと言った。


 教室のドアから振り向くと、その女の先輩は少し口をとがらせて俺たちを見送っていた。とても、優しい顔をしていた。


 次の日だったと思う。赤ボールペンのインクがとうとう書けなくなったので購買部へ行った。芯の細さの違う赤ボールペンと、青ボールペンが並んでいてその上の方に何種類かのマルチカラーのボールペンやシャープペンがならんでいた。そこに見覚えのあるシャープペンが並んでいた。シャープペンのノックの部分に小さな窓がついていて回すと入っている芯が分かるようになっている。HBという文字がこちらを向いていた。あの女の先輩が頭にのせていたシャープペンだ。自分が使っているシャープペンの芯くらいこんな風にしなくたって覚えていると思うんだけど、と俺はそのシャープペンを手に取った。プラスチックの陳列棚に文具メーカー名と「製図用」という文字が見えた。なるほど、製図用か、と俺は思った。


 購買のおばちゃんに「OO円よ」と言われて俺はその製図用のシャープペンを買って教室に戻った。教室に戻ってから赤ボールペンを買い忘れたことに気づいた。



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