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16.

 しばらくそのまま見合った。

 航は少し眩しそうに目を細めているように見えた。西に傾きかけた太陽が、弓音の背の方向から射していたからだ。ふたりともしばらく何も言わなかった。先に口を開いたのは弓音で、弓音はなんとなく、

 「おす」

 と、航まで聞こえるか聞こえないか位の大きさで言った。

 航は、聞こえたのか、聞こえなかったのか、それからゆっくりとまた歩き出した。弓音はそれを確認してから航に背を向けて元来た道を戻っていった。背後で、航が少し足を速めたのが分かった。


 「遅いじゃん。」

 「ちゃんとメールしたじゃん。」

 「化粧しなくていいって言ったのに。それで時間くったんでしょ?」

 「・・・・。」

 「無視するな。」

 「馬鹿はほっとくの。」

 「焼きそば食わない?」

 「いいね。」


 どこだかのサークルは、代々秘伝の作り方があって美味しい。確かそんな話を聞いたことがあった。どこのサークルだったかもう忘れてしまったけれど。そんなことを考えていると、同じことを考えていたらしい航が、

 「どこのサークルだったっけ?ミス研?」

 と、肩を並べた。

 「同じこと考えてた。ミステリーだったっけ?漫研じゃなかった?」

 「落研な気もしてきた。」

 「落研だとすれば、どこの落研だろう。」

 「なになに研、だったことは確かだよな。ミス研じゃなかったかな。作り方もミステリーとか言ってた気がする。」

 「馬鹿だね、ほんと。」

 「どこが?こんなに記憶力が良いのにどこが馬鹿なのか説明して。20文字以内で。」

 「あんたと話してると本当にイライラする。」

 「『あんたと はな、して…』18文字!さぁすがぁ!!でもそれ、どうして馬鹿なのかの説明じゃないじゃん。ゆみさん、腹が減ってるからイライラするんだよ。はやいとこ食おうぜ?」


 中指でブリッジを押して、口の右側を持ち上げて笑った。スーツではなくてこんな格好をしていると、航はまだ学生に見えた。自分の姿が見えないからなのか、今がまるでまだ学生時代のように思えてしまう。それでも、歩くたびに弓音の右足の薬指が少しあたって、コツコツと鳴らす自分のパンプスが、たった数年前の「あの頃」を遠く隔ててしまうのだった。






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