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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第3章 : 裏切り合いの終着点(デルニエアレ)
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97.理由

大翔(ひろと)の様子も相まって、碧斗(あいと)美里(みさと)は手に持った本を棚に戻すと、慌てて書斎を後にする。


「く、うぅ、はぁ、ううっ!」


「お、おいジジイ!大丈夫なのかよ、樹音(みきと)は」


「おう、今頑張っとるところじゃぞ。ここが勝負所じゃ」


3人で駆け寄ると、グラムと沙耶(さや)に見守られながら、呻き声と共にバタバタと揺れる樹音の姿があった。


「し、勝負所って?」


「治癒魔法が効くか効かないかはここで決まるって事じゃ。ヒロトの様に傷だけで済んでいるなら魔法で沈静させれば終わるんじゃが、ミキトの場合致命傷だからの。ミキトは今、戦っとるんじゃよ」


表情を曇らせながらも、僅かに彼を信じている様子で呟く。


「お、俺達は何も出来ないんですか!?」


碧斗が、樹音の苦しむ姿に思わず声を上げる。が、グラムは少し間を開けたのち小声で零す。


「...残念じゃが」


「チッ」


悔しさから、舌打ちをする大翔。それと同時に歯嚙みする碧斗と美里。これでは、現実の治療と変わらないでは無いか、と。碧斗は頭を悩ませる。いや、まだ手術などを行わずに出来る点があるため、幾分マシなのかもしれないが。


すると、その時


「み、みんなっ、わ、私達にも出来る事、、あるよっ!」


沙耶の声に、碧斗達は我に帰る。


「「「え、?」」」


円城寺(えんじょうじ)君の手、ギュって握ってるの、、直接的な事は何も、、出来ない、かもしれないけど、でも、きっと届いてくれると、、思うから、」


声を掠めながら、いつ涙が溢れてもおかしくない様子で呟く沙耶に、目の奥が熱くなりながら碧斗達は頷く。


「ああ!当たりめぇだろ!起きなかったら、俺がぶん殴ってやっからな、樹音!」


「きっと、届くよ。大丈夫」


大翔と碧斗が呟き、美里は無言のまま、樹音の手を強く握ったのだった。


           ☆


あれから30分程経ち、樹音の嗚咽と身体は大人しくなる。30分、とは言ったが、体感的には1時間を超えるものに感じた。


「ど、どうなったんだ、?」


「円城寺君は、大丈夫なのか、?」


「円城寺君、、」


大翔、碧斗、沙耶が口々に不安を露わにする。


「ふむ。終わった様じゃな」


「なっ、それってどういう意味ですか!?まさか、駄目だったとか、そんなんじゃーー」


「違う違う。そう焦るんじゃ無い」


「この状況で焦らねぇ方が無理だろ!?」


碧斗と大翔に詰め寄られ、グラムは動揺を露わにしたが、直ぐに目つきを変えて樹音に視線を移す。


「山は越えたという事じゃ。その結果は、まぁ、明日になるかのぉ」


「あ、明日?」


「どういう、こと、?」


「どーいうことだよ!?」


「言った通りじゃ。直ぐに起き上がるわけなかろう」


ーなるほど、今彼の中で行われていた戦いの結果は、明日円城寺君が起き上がるかどうかで決まるって事かー


それまでは気を抜けない。という事だろう。


「ここからはもうなるようにしかならん。ミキトを信じるしかないのぉ」


グラムはそう告げると、徐に立ち上がり息を吐く。


「それじゃあ、一区切りついた事じゃしそろそろ儂は行くとするかの」


「行くって、、何処にですか?」


碧斗もまた立ち上がり、疑問を投げかける。


「魔力補給をしに、ちとな。人1人の生死を決める程の治癒魔法を使ってしまったからの」


グラムはニカッと笑って振り返る。魔力補給とは、先程説明された魔力を分け与えに行くというものの事だろうか。元々循環の流れが悪くなっていた治癒の力を、グラムがとどめを指すかの如く使ってしまったのだろう。樹音の傷を考えると、その魔力の量は計り知れない。碧斗がそう脳内で思考を巡らしたのち、グラムは上着を着ると玄関へと向かう。


「じゃ、ミキトの事は頼んじゃぞ」


「「はい」」


沙耶と碧斗は同時に返し、美里と大翔は無言で頷く。その姿を確認したグラムは、安心した様に笑みを浮かべ家を出て行った。





ドアが閉まる音と共に、部屋には沈黙が訪れる。樹音の側で座る沙耶。隣の椅子に座って不安そうに着替えを畳む美里。ソファでソワソワと貧乏ゆすりをする大翔。そんな皆の中、静寂を破るように碧斗は口を開く。


「円城寺君、大丈夫だといいけど、」


そう口にしたのち、声を漏らしていた事に気づく碧斗。樹音を信じていない訳ではない。だが、不安は拭えなかった。


「大丈夫だって自分で言ったんだろ。ジジイも言ってたが、なるようにしかならねぇんだから、今は信じて待つしかねーんじゃねぇか?」


「そう、だよな。悪い、」


大翔が珍しく、冷静な言葉で碧斗を悟す。だが、大翔の頰には冷や汗が流れ、足の貧乏ゆすりは増すばかりである。どうやら、自分にも向けた言葉だった様だ。


ーそうだよな、俺だけじゃない。みんな心配なんだ。それなら、いつまでもこんな事言っていられないな。話題を変えなきゃー


よし、と。気持ちを切り替え目つきを変える碧斗。

「みんな、円城寺君の事は大翔君の言う通り、信じるしかない。だから、とにかく俺達は今出来る事を考えておくべきじゃないかな?」


「そう、だね、」


碧斗の提案に、沙耶は答えてくれたものの、皆賛同しかねていた。それはそうだ。今現在、我々は何も出来ないのである。不用意に出歩けばすぐにやられるという事もあり得る。現に樹音は致命傷を食らっているというのに。だが、と。碧斗は告げる。


「確かに外は危険だし、何かすればまた死にかけるかもしれない。でも、俺達はグラムさんの農業を手伝わなきゃいけない。このまま、何もしてないのに泊めてもらう訳にもいかないんだ」


皆の表情に釣られ、碧斗の声も小さくなる。そう、碧斗が気にしているのは、何もせずに関係の無い人に泊めてもらうという事実。それは皆も同じ様で、表情を曇らせていた。皆の言う通り、外の危険というものは大きい。だが、碧斗には1つの可能性が見え始めていた。今まで恐れてきた、我々を標的にしていた者達。パニッシュメント。彼らの全貌が明らかになり、智也(ともや)達とは分かり合える可能性が見え始めたのだ。ここで動かなければ、きっとこの争いは平行線だ。と、その思いもあり提案した結果なのだが。やはり、そう簡単には納得出来ない様だ。


「でもよ、今外に出るのはマズいだろ」


「あ、ああ。だから、今じゃ無くていい。とりあえずいつ出るかくらいは考えておかなきゃなと、思って」


「それもそうだけど、それよりもまず」


大翔と碧斗が会話を交わす中、それに割って入る美里。


「まず、私達の状況。あの人に話すべきじゃない?」


美里の言葉に舌を巻く碧斗。つまり、美里はグラムに我々の置かれている状況を告げるべきだと、そう言っているのだ。


そう。未だ、グラムに素性を話していないのだ。ただ、察してくれている様であり、わざと深く聞いてこない様子も見て取れる。だが、樹音が血塗れで帰った日には、流石のグラムも動揺し、事情を聞こうとしていたのだが、ゆっくりと説明出来る状況でも無かったため結局言わずじまいになってしまっていた。


「状況を話す?って、どういう事、?」


「グラムさんに、俺らが何者で、何をしてきたか、俺らに何が起こってるのか、話した方がいいって事だと思うよ」


「「っ!」」


碧斗に要約され、ようやっと意味を理解した2人は、一瞬の驚きののち目線を逸らす。


「そうだよね、既に俺達がここに居座ってる時点で巻き込んじゃってる訳だし、そんな中途半端に教えない方が失礼だよね」


うんうんと頷きながら、皆に促す様に大きめの独り言を呟く。と、神妙な面持ちをしながらも、皆も同じ思いだった様で渋々頷く。


本当に告げていいのだろうか。


そんな考えが見え隠れしたが、それを無理矢理振り払って、時計の針の音だけが鳴り響くこの部屋で、何を言うでもなくグラムを待つ碧斗達だった。


           ☆


あれから1、2時間をした後、玄関のドアが開く音と共にグラムが帰宅する。その長い時間の間、碧斗達は書斎の本に目を通したり、文字を軽くおさらいする程度で、大した事は行っていなかった。皆、「その後」の事を考えると、気が気でなかったのかもしれない。だが、もう決めた事だと意を決して、グラムに今まで黙っていた事を全て伝えた。


意味も分からず転生され、その転生された勇者同士で争いが起こっていたこと。その元凶を作った男に肩入れしている沙耶を守るため、奇跡的に協力をしてくれたマーストのお陰で、我々は逃げ続けているということ。



そして、



それが国王の命令に背いている。という事。



これが1番の問題点である。グラムはこの国の国民であり、国王は最も地位の高い人とされている。当然、我々勇者よりもだ。つまり、碧斗達を居座らせるという行為は、国王に歯向かう事となり、バレた場合罰則が下される事となるだろう。それは、死刑もあり得る。という事だ。


それなのにも関わらず


「そうか、、それなら国王様に歯向かってしまったことになるのぉ。ふ、フフフ、こりゃ有名になってしまうわい」


「「「「.......え、?」」」」


一瞬意味が汲み取れず、声を漏らす一同。そこから続く言葉があるのかもしれないと期待し、それ以上は何も発さなかった碧斗達だったが。

沈黙。と、言うよりグラムは笑って


「バレないよう頑張らんとなぁ。なんだか冒険しとる様でドキドキするわい」


と言い放つ様である。その反応に、思わず碧斗は身を乗り出す。


「何、言ってるん、、ですか、?」


「およ?」


「何言ってるんですか!?俺達を追い出さないんですか!?まだ、まだなんとかなります。今ならまだ、俺達に騙されて泊めていたという事にすれば、重い刑は逃れられるはずです!?」


碧斗の言葉に異論は無いようで、皆も同じくグラムを見つめる。が、その姿に、グラムは思わず口元を緩ませる。


「ふ、ふふ、本当、お主らは優しいのぉ」


「や、優しいとかの話じゃ、」


「大丈夫じゃよ!儂は。1度農作業をやってくれた人達を、見捨てる事はせんよ」


「どうして、、なんで貴方はそこまでして俺達の味方をしてくれるんですか!?ずっと、ずっと失礼だと思って言ってませんでしたが、貴方が俺達をここまで良くしてくれる理由ってなんなんですか!?おかしいですよ。普通、赤の他人を家に置かないし、その1人の友達全員も招き入れるなんて、そんな事普通はしませんよ!?」


ずっと疑問に思っていた事が破裂する様に口から溢れる。善意でやってくれているのなら失礼極まりない物言いではあるが、これは善意だけでは説明がつかない状況なのだ。そんな思いを込めて、必死に言い放った碧斗だったが、グラムは優しく微笑んで言い返す。


「なら、なんでお主らはそこまでして儂の心配をしてくれるんじゃ?」


「っ!そ、それは、」


「その理由と一緒じゃよ。ま、強いて言うなら、ある人の影響、と言ったらいいんだろうかの」


ーある人、?ー


遠い目をして呟いたグラムは、それ以上、何かを言う事はしなかった。

「じゃっ!お主らの事情は分かったから、話はここまでとしようかの」


「あ、その」


手を伸ばしたが、説得する事は出来なかった。美里と沙耶も同じく罪悪感を感じているのだろう。小さく縮こまりながら、沙耶はバツが悪そうに目を逸らし、美里は唇を噛んだ。対する大翔は、何かを考えている様子だったが、碧斗と同じく声をかける事が出来ずにいた。


その後も、幾度と無く話を持ち出したが、上手く交わされ、今日という日が終わりを迎えた。


それから碧斗達は何も出来ずに、樹音の生死の決まる


運命の日を迎える事となった。

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