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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第3章 : 裏切り合いの終着点(デルニエアレ)
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95.書斎

「ほれ、ここが(わし)の書斎じゃ」


グラムに案内されて彼の寝室の奥にある、古びた本が陳列されて敷き詰められた本棚が、1面に広がった1部屋に足を踏み入れる碧斗(あいと)美里(みさと)。そして、それに続いて後ろから縮こまって付いてきた沙耶(さや)。1面、と言われるとファンタジーにありがちな大きな部屋を連想するかもしれないが、現実世界にある様な小さめの個室である。現実味がある。と言えばいいのだろうか。


「グラムさんのお宅にこんな場所があったなんて」


「凄い、」


碧斗が驚きを露わにしながら声を漏らすと、沙耶も同じく感情を口にする。対する美里も、小さく「へぇ」と口にし、興味津々な様子だ。そんな皆の反応に気を良くしたグラムは笑って口を開く。


「確かに図書館と比べるとちと少ないかもしれんが、調べるのには十分じゃろ!」


「はい!読ませて、くれるんですか?」


「なぁに。読ませんと思っとったら、最初から案内なんてやらんじゃろうに」


碧斗の質問に豪快にグラムは笑う。そんなグラムに美里は本棚の本を物色すると、彼に顔を向け疑問を投げかける。


「本、好きなんですか?」


それにグラムは手を頭にやって返す。


「ん?ああ、いやぁ。実はというと、そん中のほとんどが借り物でのぉ。みんな何かと本を貸してくれるんじゃが、時間が無くていつも読めんのじゃ。夜読むにしても直ぐに睡魔に襲われるんじゃよ」


そう笑うグラムに「そうなんですか」と笑って返す碧斗と沙耶。すると、美里は少し驚いた様子で口を開く。


「え、借り物なのに、いいんですか?」


「はっは!問題ないじゃろ!別に、お主らからすれば、儂の私物であろうが他の人だろうが、どちらも借り物じゃろ?」


ニカっと笑うグラムに、でも、と負に落ちない様子の美里。


「そう言ってくれてるんだし、いいんじゃないかな?」


碧斗が優しく微笑んで告げると、グラムはよし。と仕切り直し言い放つ。


「それじゃあそろそろ、儂は向こうに戻るとしようかの!ミキトが心配じゃからな」


そう言い残すと、グラムは部屋を後にする。


「す、凄いお部屋があったんだね!」


「そうだねっ」


ーこの中にヒントになる情報はあるのか、?見たところ、そんな凄いものがあるようにはー


そう心中で呟くと同時に周りを見渡し気づく。そう、ここには女子2人と自分のみの空間である、と。


「ーーっ!?」


「ど、どうしたの?大丈夫?」


思わず動揺を表に出してしまい、沙耶に心配される。だが、バクバクと動き始める鼓動を抑え、碧斗は本棚の本へ手を伸ばす。


「だ、大丈夫だよ。それにしても、久しぶりだね、本で勉強なんて」


慌てて話題を逸らす碧斗に美里が隣でジト目を向けながらも、沙耶は笑顔を返す。


「うんっ!久しぶりだね!その、、だから、前覚えた文字の読み方、少し忘れちゃってるかも、しれないけど」


声の音量がだんだんと下がっていき、それに比例して頭も下がる。そんな彼女の頭に笑みを浮かべ語りかける。


「はは、心配しなくていいよ。絶対に覚えなきゃいけないわけじゃないし、今からでもゆっくり勉強していけば全く問題無いよ」


碧斗の微笑みに、沙耶も釣られてパァッと笑顔を取り戻す。


「うんっ!そうだね、私頑張るねっ!」


それに碧斗は笑いながら


「無理はしなくていいからね」


とだけ呟くと、手元の本に目をやる。この数ある書物の中からこれを選んだのには理由がある。パッと見たところ、雑誌のような明るいものが多い印象を受ける本棚ではあるが、これだけ、雰囲気が違かったのだ。表紙の色合いといい、分厚さ、威圧感。どれもこれも他の本とは違うものを感じるが、それよりも。

随分と使い古された様な見た目をしているのだ。この本だけでは無い。この本棚、借り物が多いからか、数冊ほどボロボロになっている本が存在している。更にそのボロボロになった本は、背表紙がどれもこれも難しい字で書かれているため、他の本と違うのは一目瞭然だ。その中の1つ、手に取った本を碧斗は真剣な顔持ちでパラパラとページをめくる。が、勿論それだけで読める程簡単な本では無い。碧斗の習得した文字は、現世の平仮名程度でしか無いのだ。


目を凝らして解読を試みるものの、虚しく諦める碧斗。と、隣で考え込みながら本に目をやる美里に気づく。


「あっ!そうだよね、相原(あいはら)さんは文字読めないのに、ごめん。1人で集中して話にも置いていっちゃって、」


美里があの頃はまだ我々と行動を共にしていなかった事を思い出し、慌てて謝罪を述べる。が


「え?あ、うん、平気。それよりも、この文字はキリル文字っぽいけど、そのまま読むとここはちゃんとした文にならないから、ラテン文字に置き換える。でもそうすると、こっちが辻褄が合わなくなるんだよね。これってどういう理屈なの?」


本に記された文字を指差して美里は頭を悩ませる。が、対する碧斗は美里の疑問を聞き流してしまうほどに驚愕する。いや、そんな事はないと、碧斗は慌てて問う。


「え、えと、相原さんって、この世界の文字について勉強してたの、?」


「え?するわけないじゃん。そんな時間無いし」


「そ、そう、だよね、」


美里にさらっと流され、動揺を露わにする。碧斗の背後で聞いていた沙耶も考えている事は同じようで、開いた口が塞がらない様子である。そう、誰も教えていないのだ。碧斗でさえ、マーストに教えて貰ってここまで理解したというのに、美里は1人で理系なのにも関わらず、この1つも規則性の分からない異国語を解読しようとしているのだ。そんな美里に少しの恐怖すら抱きながら、碧斗は提案する。


「そ、そしたら、相原さんも一緒に勉強しない?水篠(みずしの)さんも、円城寺(えんじょうじ)君も少しではあるけど、だいぶ成果が現れてきてるし、相原さんならきっと直ぐに」


「相原さんも一緒にしよっ!」


碧斗の提案に乗っかるようにして、沙耶も同じく割って入る。がしかし。


「いや、別に嫌では無いけど、、正直1人の方が捗ると思うんだけど、」


美里は苦笑いで返事を口にした(のち)、小声でそう呟いた。と、その瞬間。


「あっちぃっ!」


「「「!」」」


リビングの方からガヤガヤと声が聞こえ、3人は部屋のドアに振り返ると、1度お互いの顔を見合ってから声の方向へと足を踏み出す。


と、そこには


「おおっ、起きたか!」


「くあぁぁあっ。暑くて寝れたもんじゃねーぜ、クーラーつけてくれよ」


「まだクーラーを使うには早いじゃろうに。ヒロトはまだ若いんじゃから、もう少し我慢せい」


部屋から出てきた大翔(ひろと)が、笑うグラムと話していた。


ーさっきあんなに快適そうに寝てただろー


あくびと共に、暑くて眠れないと主張をする大翔に、碧斗は思わず脳内でツッコミを入れるが、直ぐに笑顔を作る。


「大翔君、元気そうで良かった」


「はぁ、普通に歩けてるみたいだし、問題なさそうね」


「よ、良かった〜」


碧斗、美里、沙耶は口々に安堵の言葉を放つ。


「ああ!お陰様でな!」


完治している。とは言えなかったが、大翔の笑う姿を見ると、随分と傷が治っている事が窺える。恐らくグラムが、樹音(みきと)の時と同じく治癒魔法を使用してくれたのだろう。


「てか、樹音はどうした?大丈夫なのか!?」


「ミキトなら向こうで寝とるよ。良くなってはきとるが、まだ起きれそうにはないのぉ。まっ、でも時期に普段の調子が戻ってくると思うからそれまで寝かせてやろう」


「そっ、そうかぁぁっ、生きてるかぁ。良かったぁ」


今まで力んでいた体が、一気に解放されたように大翔は息を吐く。考えるより前に樹音を運んだ時から。いや、もっと前から分かっていたが、やはりなんだかんだ大翔はみんなを大切に思ってくれているのだ。こうして自分よりも心配をしている姿を見ると、改めてそれを感じる。さっきまで快適そうに寝てはいたが。と、碧斗は心中で付け足す。


すると、大翔は安心したからか「自分の姿」を見直し理解する。


「って!なんじゃこりゃ!?ちょ、何やって、てか、なんでみんなそんな普通にしてんだ!」


そう、大翔はパンツ一丁という姿を晒していたのだ。彼が無事だった事に気を取られ、我々も大して気に留めていなかったのだが、改めて理解し、沙耶は少し頬を赤らめる。すると、突如美里が先程まで座っていた台所の方を一瞥し、何かを思い出した様に動き出す。


「あ、そういえばまだ途中だった、」


そう呟き、裁縫道具に手をやると、またもや衣服に向き合う美里。恐らく大翔の服もまた、先程の激戦の末破けていたりしたのだろう。とその時、大翔は美里の手元にある自分のものであろう服に気づき、声を上げる。


「なっ、お前何勝手に俺の服とってんだよ!?」


「は?破けてたから縫ってあげてんの。何その言い方」


大翔の物言いに眉間にシワを寄せる美里。それに碧斗は、心であまり余計な事を言わないでくれと祈るが、しかし、大翔は尚も続ける。


「そしたら俺ずっとこのままで居ろって事かよ?」


「少しくらい待ってよ、今やってるんだから。見て分からない?」


大翔の問いに、美里はぶっきらぼうに吐き捨てる。その返答に何か言いたげな大翔だったが、これ以上2人を会話させると危ない事になりかねないと思い、碧斗は空気を変えるためにも割って入る。


「ま、まあまあ、俺達服は1着しか無いんだし、仕方ないよ」


大翔に向かって碧斗が無理矢理笑みを作って告げると、隣で沙耶も同じくブンブンと頷く。と、大翔は納得出来ない様な顔をしたが、ふと何か思い立ったのか疑問を投げかける。


「てか、前から思ってるが。これ本当に洗えてるのか?」


「いや、本当に今更だな」


「で、でも、、凄く綺麗、、だよ?」


碧斗が笑ってツッコむと、沙耶は着ている服を確認するように手元を見たり、全身を見ようと自身がくるくると回って確認する。対する美里も、疑問に思っていた様で、無言ではあったものの、こちらに視線を向ける。


そう、今までよく考えもせずに着ていたが、いつも同じ服を着ているのだ。風呂に関しては気にしていたが、着替えに関しては、倉庫内での生活時以外は我々が風呂に入っている間に、マーストやグラムが交換してくれていたため気には留めていなかった。それは皆同じだった様で、同じく首を傾げる。その様子にグラムは目を丸くして放つ。


「はて、お主らそんな事も知らんのか?治癒魔法の事も分からなかったし、もしや大した説明をされて無いんじゃな?」


皆は息を合わせた様にグラムの質問に頷く。やはり、異世界の人からしてもこの情報量の少なさは異常なようだ。それを理解したグラムは、改めるように1度咳払いをすると、笑って告げる。


「それじゃあ改めて、この世界の事をちっとばかし話させてもらうとするかの」


そう前置きすると、グラムはこの世界の「魔力」について、語り始めた。

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