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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第3章 : 裏切り合いの終着点(デルニエアレ)
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93.救助

「ここにいるお前ら、1人残らず全員殺してやるよ。精々恐怖に怯えて過ごすんだな」


「「「「っ!?」」」」


修也(しゅうや)の放った脅迫まがいの言葉に一同は息を飲む。だが、怯えているわけにはいかない。我々には対抗することの出来る能力を持ち合わせているのだ、と。智也(ともや)愛梨(あいり)だけでなく、大翔(ひろと)達にもそう目配りする。まるで、これからも怯えて暮らすのなんてごめんだ、と言うかの様に。


ーここで終わらせるって事か、ー


大翔はその意味を察し冷や汗が頰を伝う。相手はたったの1人。こちらは4人。負傷しているものの、普通ならば負ける事は無い、はずだ。だがしかし、それなのにも関わらず威圧感に圧倒される。それにより大翔と美里(みさと)は、本能的に体が震える。それでも、やるしか無いのだ。ここで彼を抑える事さえ出来れば、全てが終わる。覚悟を決めた2人は智也に同じく視線でそれを伝えると、修也に向き直す。


「いくぞ」


小さく溢し体勢を整えた、瞬間。


「あ?なんだ、やるつもりか?俺は戦う気ねぇんだけど」


「は、」


大翔が思わず声を漏らす。すると、智也が目線のみをこちらに移して言う。


「奴の口車に乗るな。気を抜くとやられるぞ」


「はぁ、だからっ、何を言おうと俺は戦う気はねぇって。こんな大勢と戦うメリットがどこにあるんだ」


「生憎っ、俺らにはメリットしかないんでねっ!」


智也が掛け声の如く言い放つと、人差し指を向け電撃を放つ。が、その光の速度に対応したのか否か、修也はそれを宙に氷の塊を生み出し防ぐ。


「っ!」


「はぁ、お前ら、折角俺が長く生かしてやろうっつってんのに」


頭を掻きながらため息を吐くと、やる気無さげに顔を上げ指を鳴らす。それと同時に修也の前には先程と同じ氷の塊が、先端を尖らせて4つ生成される。


その数は、この場の人数と一致する。と、次の瞬間。


「これで大人しくしてろ」


小さく告げるとそれが一斉にそれぞれに向かう。



彼らにそれが届くより数メートル前で全ての氷が溶かされる。


「?」


「「えっ」」


その場に居た皆。修也でさえその現状に驚きを露わにする。すると、美里が足を踏み出し、冷や汗を流しながらも笑みを無理矢理作って口を開く。


「あんたの能力と私の能力。あんたにとって、正直相性悪いんじゃない?」


そう言う彼女の顔が瞬間、歪む。それは彼女の顔が、ではない。そう、空間が歪んでいるのだ。


「はっ、そういえば、お前の能力は炎、だったな」


余裕ぶっているのか、修也は少し口角を上げる。と、その直後


「なら、今日はおあずけだな」


「「「「っ!」」」」


予想外の言葉に目を見開く。どうしてそこまで我々と戦う事を拒むのだろうか。彼は、人を殺めるのを楽しむ快楽殺人者、のはず。それならばこの状況を楽しみ、寧ろ向こうから勝負を仕掛けてくるはずだと。それを前提として戦闘を試みた4人は、その真逆の対応に動揺する。やはり、自分が殺される事には恐れをなしているのだろうか。だが、だとしたら余計にそんな事を考えている暇は無い。そう悟り、皆は同時に能力を発動させる。


美里、智也、愛梨は遠距離攻撃を放ち、大翔は身構える。こちらは、1名能力の把握が出来ていない人物がいるものの、基本的に遠距離に特化している。それ故に、美里が高温な膜を我々と修也の間に隔てる事により、彼の遠距離攻撃を通さずにこちらの攻撃を通すことの出来る構図が完成する。そして、彼がそれに耐え兼ねて近距離戦に持ち越したら最後。こちら側で待機している大翔が応戦し、周りの皆はサポートへと回る。


彼がどんな行動をとるかは不明だが、計画としては完璧であった。が、しかし。修也はふと右の(てのひら)を上に向けて前に出すと、人差し指を立てて上に上げる。刹那、彼の目の前の地面から巨大な氷山が現れ、皆の遠距離攻撃を防ぐ様にして隔てる。


「なっ!」


「あぁっ!?」


「っ!」


「ん」


驚愕の光景に皆は口を開ける。そう、完全なる氷山が、そこにはあった。美里の炎すら通らせないことから、相当な厚さがあると理解できる。


「こっ、こんなでっけぇの、すぐに作れんのかよ!?」


「こっちからは熱気を発してた筈なんだけどっ」


大翔と智也が動揺を見せながら口々に言うと、美里は唇を噛んで1歩前へ踏み出す。


「多分、さっき話してる間、最初っからずっと周りに冷気を限界まで放出し続けてたんだと思う。シャルルの法則。温度が低下すると密度は増える。それによって私の熱気、つまり密度の小さいこちら側は低温に押されて大気の上空に移動したと考えられる、から。"地面の下"から生える氷山を作り出すには十分な温度を実現出来た、って事、、?にしても、流石に無理があるような、」


今の現象について美里は考えられる理屈を捏ねる。その呟きに、全くと言っていいほどついていけていない大翔と智也は首を傾げる。と、ふと愛梨が口を開く。


「早く追わないと、逃げられる」


淡々とした物言いに、ハッと我に帰った一同はマズいと焦り氷山に向かう。美里が炎の塊を放ち、1度全体に熱を通した瞬間大翔が殴ると粉々に砕け破壊される。


がしかし。そこには既に修也の姿は無かった。


「クソッ!」


「逃げられた?」


「ご、ごめん、なさい」


「まだ遠くには行ってない筈だ」


舌打ちをする大翔に美里は小さく謝る。と、こんな事している場合では無いと智也が声を上げ、皆に振り返って続ける。


(たちばな)大翔と相原(あいはら)美里はここでじっとしてろ。今は桐ヶ谷(きりがや)修也を優先する」


「うん、了解」


それに愛梨は小さく相槌を打ち2人で修也の逃げたであろう方向へ足を早める。


「なんか、よくわかんねぇけど、俺たちは助かったのか?」


「はぁ、多分、、ね、」


「でもなんか腹立つな」


「なんか、ごめんなさい、」


「あ、謝るなよ!なんか、お前が謝ると調子狂うだろうが。で、どうすんだ?ここから」


大翔がツッコミを入れたのち、息を吐いて冷静さを取り戻す。それに「あんた私にどんなイメージ持ってんの?」と小さくぼやいて1度睨むと、周りを見渡す。


「でも、言われた通りここでじっと待ってるわけにもいかないし」


「だよなぁ、じゃっ。今は向こうの速度に追いつける自信ねぇし、碧斗(あいと)のとこ戻るか。気になるし」


大翔の提案に無言で頷く美里。残された2人は、そう意思を固めるとお互いに足を引きずりながら来た道を戻ったのだった。


            ☆


「はぁ、はぁっ」


「はっ、はっ」


2人で息を切らし走る事数分。先程樹音(みきと)が戦闘を行なっていた場所に到着したものの、彼の姿が見えず辺りに目をやる、が。


「こちらも、」


「そうか、ご苦労。こっちにもいないか、」


「っ!」


遠くからの声に碧斗は目を剥く。聞いたことのある声だ。碧斗は慌てて息を殺し沙耶(さや)を連れて陰に身を潜める。これは忘れるはずもない、転生初日に聞いたあの声。


「国王だ、」


「えっ!そんな、ど、どうして、、ここに、?」


「分からないけど、多分この騒動だ。気づかない訳もないよ」


「そ、そうだよね、」


このまま国王達の目を盗みこの場を去ろうと試みる碧斗。"あの時"に1度、国王が快く迎え入れようとしてくれたというのに、断ってしまったのだ。ここで見つかったらどんな処罰が下る事だろう。更には王城に強制的に返されたらたまったものじゃない。考えるでもなく、冷や汗が頰を伝う。そんな事にはさせまいと立ち上がったその時。


「っ!」




王城の角。陰になっていて全く気がつかなかった。




「ど、どうしたの?伊賀橋(いがはし)君、」


「み、水篠(みずしの)さん、あれって」


沙耶が何かを目撃し呆然とする碧斗に、恐る恐る聞くと、ゆっくりとそちらを指差し振り返る。すると、沙耶も気づいた様であっと声を漏らす。そこには、陰で倒れる円城寺(えんじょうじ)樹音の姿があった。来る道の途中だっただけに、用心して探そうともしていなかった場所だ。どうして激戦を繰り広げた場所から離れた、更には陰になり人目につかない様なこんな場所に横たわっているのだろうか。と、碧斗は疑問に思うがしかし、それどころでは無いと無意識に体が樹音の方へ向かう。



すると、先程まで陰になっていて気がつかなかった"それ"が目に飛び込む。



「なっ!?」


「えっ、、うそっ、、」


赤黒く染まった腹と、地に広がるその液体。その夥しい量に2人は力無く呟く。少し放心したのち、碧斗はハッと意識を戻す。


「ま、マズい!とりあえず、血を、いや、知識の無い俺たちがそんな事、、と、とにかく早く運ばないと!」


「っ!そ、そう、だねっ!」


沙耶もまた、その光景にショックを受け呆然としていたが、声をかけられた事により冷や汗をかきながらも頷く。


その後、2人で顔を見合わせゆっくりと、傷が広がらないよう細心の注意を払い持ち上げようと、しゃがんで肩を持つ。



「クッ!う、うぅぅっ!くああああああっ!」


「んっ!うう!んんーーーーーーっ!」


「はぁ、はぁ、だ、駄目だ」


「ご、ごめんね、、私が、力、無いから、」


「いや、そんな事無いよ。それに、多分ほぼ俺のせいだ」


沙耶の時もそうだったが、意識の無い人を運ぶのは普段2Lペットボトルを2本両手に持つので精一杯な碧斗と、小柄で華奢な沙耶には厳しいものがあった。更には普通に持ち上げるのも厳禁な状態である。


「ど、どうしよ」


「マズいな、、早くしないと、」


その出血量を目の当たりにしながら碧斗は焦りを覚える。マズいと。その言葉が脳内を埋め尽くし、辺りを見渡しながら打開策を考える。


「わ、私に、出来る事が、あれば」


どうにかして役に立とうとモジモジとしながら小さく伝える。


と、瞬間。


「っ!そうだっ」


「な、何か、思いついたの!?」


期待と不安が入り混じった表情と声色で、疑問を投げかける沙耶に、真剣な眼差しを向けて碧斗は告げる。


「水篠さん、体の方、大丈夫?」


「うん!大丈夫!私に出来る事なら何でも言って!」


沙耶が同じく力強く返すと、碧斗は立ち上がる。


「ありがとう。そしたら、円城寺君の真下に体全体を乗せられる板みたいな石を出す事って、出来る?」


「う、うんっ!やってみる!」


そう言うと沙耶は立ち上がって踏ん張るように力を込める。と、樹音の真下から、体を持ち上げる様にして板状の石が出現する。


「でっ、出来たっ!」


「おおっ!よく頑張ったね!まさか、こんなことも出来るのか、、ほんと強力な能力だな」


思わず感心を口にしたが、直ぐに目を見て続ける。


「今のでだいぶ疲れちゃったかもしれないけど、その板のさらに下に丸い、丸太みたいな円柱の石を横に倒した状態で出す事は出来る?って、、流石に厳しいか、」


話す途中で無理なお願いだということを実感し、碧斗は声をくぐもらせる。が


「う、うぅーーーーっ!」


沙耶がそれを聞かずに力を込めると、瞬間。


「っっ!!でっ、出来たよっ!伊賀橋君!」


「ええっ!?ほんとに!?」


予想外の光景が広がり碧斗は大声を上げる。そこには碧斗の伝えた通り、樹音を乗せた板状の石の下に、頭の下と足元にバランス良く円柱の岩が置かれていた。そう、これこそ、岩のストレッチャーという訳だ。


「これで運べるね!」


「うん!ありがとう。水篠さんのおかげで運べそうだ」


笑顔を送り感謝を述べると、樹音の乗った板を押す。が、その板の様な石と下の岩は固定されているわけでは無いため、樹音を乗せた石のみが動き、思うように動かせない。すると沙耶は、少し考えたのち、ハッとし口を開く。


「あっ!じゃあこれならっ」


沙耶が苦戦する碧斗を見かねて、押した板の進む先に円柱の岩を(つら)ならせて出現させる。そう。まるで、線路の様に。


「えっ、でも、そしたら、、水篠さんに凄い負担がかかる事になる、けど」


確かに、簡単に運べる画期的な策ではあるが、これをグラムの家までとなると沙耶への負担は計り知れない。


と、いうのに。


「ううんっ!大丈夫!円城寺君がこんなにボロボロになって、命懸けで戦ってたんだから。私だって頑張るよ!」


沙耶が両手でガッツポーズの様なものをして力強く言い放つ。その姿に、碧斗は自分の不甲斐なさに憤りを覚える。どうして皆がこんなにもなって必死に戦っているのに、樹音を乗せた石を押す事しか出来ないのだろう、と。


だがそれでも、そんな事しか出来ずとも、今はそうするしかないのだ。そう自分を無理矢理納得させて、碧斗は表情を曇らせながら言い放つ。


「そっか、ごめんね。俺は、何も出来なくて」


「えっ!ちがっ、そんな事ーー」


「でも」


無力な自分を惜しむ気持ちをバツが悪そうに呟く碧斗に、沙耶は否定を投げかける。が、それを遮る様に言い換える。


「それなら俺も、出来る事、頑張んなきゃな」


苦笑いを浮かべ優しく言い放つ。それに沙耶は笑みを浮かべて頷くと、彼女が円柱型の岩を地面から生やして碧斗は押し始める。人1人を乗せた石を押すのは、やはり碧斗にとって容易なことではなかった。それでもそんな事は問題ではないと、歯軋りして力を込める。


ー絶対に、死なせないー


2人のその想いが重なり、息を合わせて走り出した。





樹音の乗った石を押す事数分。遠くから見慣れた2人の姿が薄っすらと現れ、碧斗は安堵の息を吐く。


「碧斗!樹音はどうだったんだ!?」


「はぁ、はぁ」


息を切らす美里と不安の声を上げる大翔。その姿に碧斗は力が抜けるのを感じる。いくら智也達が理解者であろうとも、我々を狙ったパニッシュメントのメンバーである事には変わりないのだ。


「無事で、、良かった、」


「あ?なんだよ今更。...って、樹音!?お前っ!樹音全然無事じゃねぇじゃねーか!?」


「えっ、う、う、そ、、っ!うっ、」


碧斗が安心から思わず言葉を零すと同時、大翔は沙耶の陰になっていた樹音に気づき焦りを見せる。対する美里は、今まで見たことの無い程の血の量と、その生々しい光景と匂いに思わず吐き気を催す。


「クソッ!こうしてらんねぇ、早く帰らねーと手遅れになるぞ」


そう呟き袖をまくると、大翔はゆっくりと樹音を持ち上げ、おんぶする。


「えっ、だ、駄目だ!大翔君!確かに円城寺君は一刻を争う状態だが、その足で」


「足の傷くらいじゃ俺は死なねぇ!でも、樹音は死んじまうかもしれないんだぞ!?」


「っ!で、でも」


碧斗と沙耶が大翔を心配し答えを渋っている間に、樹音をおんぶしたまま走り出す。


「なっ、ちょっ!ちょっと待って!」


「たっ、橘君!」


そんな彼の背中に声をかける2人だが、躊躇も無く前へと進む。残された碧斗は沙耶を見て1度頷くと、彼女も同じく頷き返す。すると、2人は後ろを向き、しゃがみこむ美里に声をかける。


「気分悪くなっちゃったよね、ごめん。でも、今は円城寺君を助けなきゃいけないから、その、えと」


「行こ!相原さん!」


碧斗が言葉に困っていると、助け舟を出す様に沙耶は美里に笑いかける。


「そんな事、わかってる。それに、別にあんたが謝ることじゃ無いでしょ、」


今にも泣きそうな顔と掠れた声で呟くと、小さく頷いて立ち上がる。その姿を見届けたのち、遠くで1人走りする大翔に振り返って、3人は足を踏み出した。


            ☆


「そっちにはいたか?」


「申し訳ございません。こっちにも勇者様の姿は、」


「そうか」


国王は小さく呟くと背後の王城に開けられた穴と、破られた窓。そして壁に突き刺さった剣をそれぞれ見回し歯嚙みする。


「そろそろ、なんとかしなければならない様ですね」


「「こ、国王様、?」」


国王を囲む様にして集まる数十人の騎士達に向かって、彼は口を開く。


「いくら勇者様であろうと。能力者であろうとも、彼らの行動には目に余るものがある。このまま好きに動かれてしまっては、こちらとしても問題だろう。皆の者。直ちに逃げ出した勇者様を見つけ出し、連れて来るのだ。能力を使われたら1度私の元に戻り、報告する様に!」


「「「はっ!かしこまりました!」」」


国王の命令に、一同は力強い返事を態度と共に放つと、パラパラと捜索にあたった。


「はぁ、、こんな事になるとは、、勇者様であるという理由で、少し甘くしすぎたか」


残された国王は、王城を眺めながらそう眉を潜めるのだった。

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