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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第3章 : 裏切り合いの終着点(デルニエアレ)
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89. 深傷

樹音(みきと)に近づくと、その死んだ様な目で見つめ、告げる。


「ゆっくりはできないけど、楽しませてもらうよ。そうだなぁ、まずは、、手から、いや、もっと楽しめる様に指から行こうか」


が、刹那。物音1つ立てず、刀が空を空振る音だけが響く。


「っ」


不意を突いた一撃だったというのに、いとも簡単に避けられる。が、避けた事で生まれたその隙を狙って、樹音は距離を取る。


「ほう、切られてもそんなに動けるとはな、、っ!」


呟くと同時に、先程爪を刺した横腹へと目をやると、彼の腹からは血は愚か、目立った傷すら見受けられなかった。


「一体、どうやって、、まさかっ!?」


それに気づいたのか、将太(しょうた)は視線を上げて樹音の目を見る。


「防いだのか。生成して」


「はぁ、はぁ」


荒れた息遣いで頷く。


ーあの爪を伸ばしてこいつの横腹を突き刺した時、その場所に刃を生成しそれで防いだ、か。大量のナイフの生成で既に力は無いと予想していたが、思ったよりも瞬発力のある奴の様だー


そう心中で気持ちを改めると、将太は笑みを作る。


「でも悪いな。お前が生きてんなら、時間が少し足りなさそうだ。少し本気を出させてもらうよ」


「はぁ、望む、ところ、はっ、だっ」


樹音が弱々しく声にした瞬間。目の前、数十メートルと距離を取ったはずが、1秒も経たずに目の前に将太が現れる。


「っ!」


慌てて剣で彼の爪を防ぐ。その後、まじまじとそれを見ると、15センチ近く伸びきった爪を、指を合わせる事で1本の剣の様にして樹音に突き立てていた。


「クッ!」


いつまでも耐久できそうに無いと悟った樹音はそれを弾く。だが、その瞬間。まるで肉食動物の様に見えないようしまっておいたのか、彼の反対の手から鉤爪(かぎづめ)が飛び出し、それで切りつけようとする。ならばこちらも、と言わんばかりに左手に剣を生成し握ると、それで弾く。しかし、それがフェイクだったのか、真下から爪が突き出す。

だが、樹音はそれを避ける様に跳び上がると、器用に避けた爪に壁を蹴るような感覚で、足を着いて蹴り飛ばし、将太に続けて攻撃に入る。


「ハッ!」


ーっ!?笑ってー


彼の笑いに動揺する樹音。すると、指の爪で樹音の攻撃を防いだかと思いきや、素早く両手で弾くと、右と左を交互に突き立てて切りつける。その突然の攻めの体勢にも驚いたが、それよりも


ーはっ、やすぎっ!ー


剣の様に長い物を操るわけでは無く、自分の手の一部だからか、目で捉えるのがやっとといった速度で引っ掻き始める。だが、ただ速いというだけではない。樹音の剣で防ぐ方向、体のバランス、体力。全てを先読みし、上手く場所を変えているのだ。ただでさえその速度に対応するので精一杯だというのに、そこに心理戦を組み込むなんて事は、今の樹音には不可能に近かった。


「どうしたぁっ!?」


彼の形相とその戦闘スタイルで悟る。


ーこ、これ、完全に、僕を本気で殺すつもりだー


そう口の中で呟いたその時。目の前の爪を防いだ事により、ガラ空きになっていた樹音の腹を目掛けて将太は蹴りを入れる。


「ごはっ!?」


その威力に吹き飛ばされる。が、受け身を取り、直ぐに起き上がると目の前に将太の姿が現れる。その距離、1メートルも無い。


ーっ!?はやっ!ー


慌てて向かって来た爪を剣で防ぐ。だが、直ぐに将太は両手を使っての攻撃へと移り、樹音は体勢を崩す。それに気づいた将太は、足を引っ掛け樹音を後ろに転倒させる。その倒れる瞬間。身動きが取れないその一瞬を狙って、樹音の倒れる着地点になるだろう地面から爪を出す。


「クッ」


それに気づいた樹音は体が地に着くより前に手で地面を着き、体を持ち上げ背後へと回転しながら跳躍する。が、一瞬の油断も許されない。そう現実を突きつける様に、爪が地へと戻って死角となっていた場所が露わになる。と、その死角だった場所から将太が跳び上がって現れる。重力と体重を加算し、オオアルマジロの様な爪で引っ掻きにくる。樹音は両方の剣でそれを防ぐが、その威力に、先程とは違って地に足がついた状態のままではあったものの、またもや背後へ弾き飛ばされる。


その後、樹音は衝撃に耐えるため強く瞑った瞳を、今ゆっくりと開く。





そこに将太の姿は無かった。


「っ!?」


その事実に目を剥くと、その瞬間。気配を感じる。背後。いや、真後ろ。熱を感じる程、近く。


「おあっ!」「っ」


それと同時に剣と爪を交える。


「流石に気付くか」


「隠せてないよ。その殺気」


低い声音で呟く。だが、その樹音の全て理解したといった顔に、将太は少し口角を上げる。


「殺気が強すぎて、"もう1つ"に気づかなかったろ?」


「っ!?」


まさか、と。樹音は振り向く。いつものように気を取らせておいて背後からくるのか。そう考察した樹音だったが。


「攻撃がワンパターンなわけないだろ」


呟くと同時。思わず視線を背けてしまった樹音に、爪を突き立て将太自身が向かう。荒い息を漏らし、既のところで爪を剣で防ぐ。だが


将太と樹音の、その数センチという間の地面が少し盛り上がる。


「マズいッ!」


樹音は思わず声を発し、互いに後退する。その後、先程我々が居た場所を見るとそこには、今までよりも太い爪が壁の様に隔てられていた。そう、足の爪10本。全ての爪を敷き詰めた巨大な爪を、地面から突き出したのだ。


ーあ、危なかったぁ、、これ食らったら、ひとたまりもなかった、、ー


突然の事に取り乱した樹音だったが、その「大技」を受けずに済んだことにホッと胸を撫で下ろす。が、しかし。


「おいおい、まさか避けられた、とか思ってんじゃねーだろうな?」


「っ!?」


攻撃はこれからだと言い放つと、将太は。手の爪を刃物のように伸ばし、それで先程地から突き出した、壁の様な、巨大な爪の集合体(10ぽん)を切りつける。


「えっ」


思わず声が漏れる。自ら自分の爪を傷つけるなんて、と。おそらく相当な痛みだろう。前の戦闘では、剣で爪を切っただけで痛みを訴える様な顔をしていた。それなのにどうしてだろうか。一撃で切り刻まれた爪の破片が、宙に散らばる様子に目をやりながら、理解に苦しむこの行動に寧ろ心配すら感じた。その次の瞬間。


「シュート」


まるでゴミを掃除するかのような腐った目で、樹音を見つめる。すると、突如として将太は空を何度も華麗に蹴りつける。


いや、空に舞った爪の破片を、だ。


「!?」


樹音に、蹴りつけられた爪の破片が速度を上げて向かう。集中力が切れかけていた樹音は慌てて気を引き締める。相変わらずの反射神経の良さを見せつけ、剣で1つずつ弾き返していく。そんな樹音だったが、それを弾くことにより疑問が浮かぶ。爪が、(はがね)の様に硬いのである。当たったらひとたまりも無いのは勿論承知の上ではあるが、それよりも。どうしてこんな強度の爪を、指の爪で切ることが出来たのか、と。


ーまさか、切り取った後も能力が適応されてる、、ってこと、?ー


ゴクリと生唾を飲む。弱めた爪を切り、その後散った爪を頑丈にしたのなら理解は出来る。だが、それをわざわざ足で蹴ってこちらに放っているのだから、切り取ったものを操る事は出来ないという事だろうか。と、まるで碧斗(あいと)の様に観察し、考察をする。だが、それと同時に細かな爪の遠距離攻撃が止みハッと意識を戻す。


「やばッ」


単調な作業に、またもや気を緩めてしまった様で、目の前に将太の爪が現れ急いで防ごうとするも、時すでに遅し。勢い良く向かってきたのもあり樹音は弾き飛ばされる。同じく受け身を取り、体勢を整えて冷静を装う樹音。だったが



「ぐはっ!?」


あんな攻撃を食らって無傷なわけがなかったのだ。先程の攻撃から時間を置き、突如として胸の傷が開く。強烈な痛みに思わず倒れ込みそうになると、それを見越して将太は更に追い込みに入る。両手の爪を器用に活用して樹音を切りつける。


だが、それを許す程、まだガタはきていない。と目つきを変えて剣で防ぐ。


「はははっ!どーしたぁ!?このまま続けたら、傷口開いちまうぞぉ!まっ、どっちみち俺が悪化させるけどなっ」


掛け声の様に言い放つと更に速度を上げる。冷や汗をかき樹音は悟る。


ーこのままだと、確実に殺されるー


ならば、こちらも殺す気で戦わなければ。その前にこちらが殺されてしまう、と。目つきを変える。それに気づいたのか将太もまた、同じく目つきを変える。すると、次の瞬間。


不意に、樹音は左に握った剣を離した。


「っ?」


一瞬視線を落としたが、それ以上のリアクションは見せない。だが、彼に隙を作るための作戦では無いのだ。そう目線で伝えると、樹音は新たに左手に先程より短めな剣を生成する。


ーなるほど。攻撃方法が体と一体化している俺と、正面から張り合うのは流石に分が悪いと理解したか。出来るだけ剣を短くする事で扱いやすくしたつもりかもしれないがー


樹音の作戦はお見通しだと言わんばかりに、将太は笑みを浮かべる。すると、樹音は予想通り、短剣の方をクナイの様に構えて爪を1撃ずつ弾く。確かに素早い将太の攻撃に追いつけてはいる。が、それはあくまでこのまま同じ戦法で攻め続けた場合である。お互い同時にそれを思った、その時


樹音の足元の左側から爪が飛び出し足を狙う。当たり前だが、手の爪は顔に近い位置で向かって来ているため、足元が確実に留守になる。かといってそれに気づいても、止めるためには体勢を崩さなくてはならなくなり、必ず隙が生まれる。その為の追撃だったのだが。


「うっ!」


小さく掛け声を漏らすと、先程離して地に転がる剣の柄の部分を足で踏み付ける。勢い良く踏み付けた事により、(つば)が軸となり、剣が勢いによって宙へと跳び上がる。それが偶然か否か、足へと向かった爪を上手く弾く。


「っ!」


その異常な光景に気付いた将太は、一瞬ではあったものの、表情を歪める。樹音はその一瞬で、今度は現在左手に握っている短剣の方を離し、屈んで先程足で弾いて飛び上がった剣の方を握ると"足には当たらない様"につま先のギリギリを掠る場所目掛けて力強く、勢いよく大きく斬り付ける。


「っ!?ぐぁっ!?」


そう、彼の能力で1番厄介である、「足の爪」を切ったのだ。いくら前の彼とは違うとはいえ、根元から切られた爪を復元するのは難しいだろう。地から足を離した今、背後からの攻撃も無い。このチャンスを逃さないために、樹音はバランスを崩した将太を今度こそ取り押さえるべく、彼の体の形を型どるように短剣を生成しては突き刺し、固定しようと試みる。


が。


「っっ!?!?」


視界が大きく歪む。目が眩み、思わず頭を押さえて後退る。


「あーあーあぁー。馬鹿だねぇ、だから言ったのに」


将太は地に倒れ、そのまま真顔で声を上げると、小さく、だがはっきりと続ける。


「もう諦めな。円城寺(えんじょうじ)樹音」


「っ!」


刹那、将太が手を伸ばすと、そこから直に爪が伸びて樹音の腹の両側を大きく抉る。


「ゴアッッハッ!?」


緩んだ口からは赤い液体が溢れ出す。全身に電撃が走った様に激痛が響き渡る。だが、それと同時に頭が、頭蓋が、脳内が大きく揺れ、将太に負わされた傷が和らぐ程に大きな痛みが樹音を襲う。それにより、足から崩れ落ちる。既に、どこが痛いのかも分からない現在の体を無理矢理維持させようと必死に踏ん張る。こめかみを覆うようにして手で押さえる。2つの傷口からはドクンと、脈打ちながら大量の赤い液体が滴り落ちる。


「ヒュー、ヒュー」


歪む視界を睨む様に、必死に目を見開いて彼を見つめる。荒い息を漏らす樹音に、将太はどこか笑っている様に見えた。


「なぁ?お前にこうしてる理由、分かるか?」


「ぇ、」


息の様な声を漏らすと、将太は突然笑い出す。


「はっはっはっ!はははははははははははははぁぁぁぁーーーーっ!」


1度大声で笑うと、落ち着いたのか、一呼吸をしてほんのり薄ら笑いながら樹音を見つめる。


「ゆっくり楽しみたいからだよ」


「っ!」


そう。彼は既に、急いで美里(みさと)達の方に向かおうなんて事は考えていなかったのだ。そうだ、確かによく考えれば、殺すタイミングなんて沢山あった筈だ。それなのに、あえて急所を外していた。それは、殺しを堪能するため。そう、彼はずっと、樹音の時間稼ぎに、わざと乗っかっていたのだ。


体から反射的に、様々な意味の冷や汗が伝う。


「それじゃあ、もう少し楽しもうか。円城寺樹音」


対する将太の顔は、幸せに満ち溢れた、そんな幸福な表情(かお)をしていた。

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